不器用な恋
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『アンタは一体“ルーナ”に何を求めるのよ?』
マリアがそうカモラに問いかければ、カモラは嬉しそうに口を開く。
まるで待ってましたと言わんばかりの笑みを向けるが…正直何を求めるのかを聞いただけなのだ。
それなのに嬉しそうに口を開くのだからマリアは訝し気にカモラを見る。
「私はね、人を生き返らせてみたいんだよ。死んだ人間がある日突然蘇ったら周りは驚くだろう?今まで人間を生き返らせることは不可能だと言われていたがそう言われると可能にしたくなるじゃないか?だが、どれだけ研究を重ねようが試した所でどうしても人を生き返らせる事は出来なかった」
「随分犠牲は払ったけどね」と、仕方ないとでも言わんばかりの表情でマリアに笑いかける。
「部下に子供を誘拐させて何十人…否、何百人と実験に研究に付き合ってもらったが…それでもダメだった」
『…惨い事するわね』
「仕方ないだろう?研究に犠牲は付き物だ。お嬢さんだって人に試す前にまず動物実験をするだろう?それと一緒だと思うよ」
カモラの言葉にマリアは黙る。
確かにカモラの言うように、マリアだって人で試す前に動物実験をする事だってある。
そうしなければ効果がどの程度のものか、どんな副作用が現れるか分からないのだ。
マリアだって仕方のない事位分かっている、分かっているがカモラと自分を同じ括りにされるのは抵抗がある。
「生きてたって価値のない人間なんて世の中わんさかいるじゃないか?子供もそう。親が居ない子は攫った所で誰も何も言わない、遅かれ早かれ死ぬんだ。それなら私の研究の役に立って死んだ方が名誉な事だろう」
『自分勝手な思考を、子供達に押し付けないで』
「成功すればその子達も生き返らせてあげるよ。だから…ねぇ、ルーナ、私の研究の手助けをしてくれないか?ルーナなら出来るだろう?今まで神の領域に何度も抵触してきた君なら…」
『…そんな事出来るわけないじゃない?いくらルーナが神の領域すら抵触すると言えど、そんな神様みたいな奇跡起こせるわけないでしょ?』
何を言っているのだ?と言わんばかりに、マリアはカモラに目を向ける。
どれだけ「神の領域」と言われる領域容易くに抵触出来ようが、死んだ人間を生き返らせることは不可能なのだから―――…
『過信しすぎないで、所詮ルーナもただの人間。出来る事と出来ない事がある事くらい分かるでしょ』
「あぁ…分かるよ?それでも君となら私は出来る気がしてならないんだ。夢物語ではなく、現実として…ね」
カモラは再びマリアに手を差し出す。
一緒に実現させようと言わんばかりの目でヘーゼル色の瞳がマリアを映す。
まるで拒否される事はないだろうと言わんばかりに自信満々に手を差し出すカモラの手をマリアは取ろうとはしない。
「人を蘇らせる事が出来たら…そうだな、お嬢さんの母親も蘇らせるのはどうだい?」
『…何を…言って…』
思わずカモラの言葉に耳を疑う。
何故この場で自分の母親の名前が出てくるのだろうとマリアは息を飲んだ。
「あぁ、知らないのかい?お嬢さんの母親…アリーチェ?だったかな?ご遺体は綺麗にこの屋敷に残っているよ」
『なんで…』
「アレッシオさんがアリーチェさんが死んだ当初ご遺体を持って来てね…腐敗しないようにしてくれと私に頼んだからかな」
『…っつ』
「どうだい?お嬢さんだって母親を生き返らせたいだろう?君が五歳の時に死んでしまったのだろう?十七年振りに再会したいと思わないかい?」
にこりと微笑みながら甘い誘惑でマリアを誘おうとする。
アリーチェの遺体はもう既にこの世にはないものだとマリアは思っていた。
幼い頃、毒殺され冷たくなった遺体をアレッシオがどう処理したのかマリアは知らないのだ。
既に埋葬されていると思っていた…否、最悪火葬されているだろうと思っていたがまさか未だに遺体があるとは思いもしなかった。
もし仮に、カモラの手を取りアリーチェを生き返らせる事になれば…きっとアリーチェは蘇るだろう。
だが…
(蘇らせたところで…ママンは戻ってこないんだよ…)
分かっているからこそマリアは否定の言葉を紡ごうとした。
その瞬間…
―――パァァンッ!
『…っつ!!!』
と何処からともなく音が鳴り、マリアの左足に痛みが走る。
衝動で立っている事が出来ず倒れる様に床に身体を打つ。
何が起こったのかマリア自身分からないが、ただただ感じる痛みに顔を歪める。
ゆっくりと上半身を起こし、痛みのある左足へと視線を向けると…血が出ていた。
致命傷ではないにしろ、それでも血が出ているのだ。
早めに止血しなければ致命傷になりかねないと思うが、痛みのせいで上手く動くことが出来ない。
目の前で倒れたマリアに目もくれず、カモラはどこか一点から目を逸らさずに「な、なにをするんですかアレッシオさん?!」と叫ぶ。
話に夢中になっていたせいか、マリアもカモラもアレッシオが再びこの場所に赴いていた事に気づかなかった。
カモラがアレッシオの名を呼べば、煩わしそうにアレッシオは「黙れ」と言葉を言ってはカモラの頭目がけて銃の引き金を引く。
―――パァァンッ!
盛大な音と共に、銃口から撃たれた弾はカモラの頭部目がけて飛ぶ。
カモラもマリア同様科学者なのだ。
マフィアと言えど避ける事も反撃する事も出来ずにただただ後頭部を弾が貫き赤い血が辺りに飛び散る。
(…コイツ…)
合併したシャタンファミリーのボスすらも殺すアレッシオに、マリアの眉間に皺が寄る。
カモラを殺したのだ、次はマリアの番だと言う事位目に見えて分かる。
「マリアのせいか…」
『え…?』
急に話を振られればマリアは訳も分からずじっとマリアを見た。
低い、唸るような声でマリアの名を呼べばアレッシオは勢いよくマリアに近寄ってくる。
逃げようにも足を撃たれたせいで立ち上がる事が出来ないマリアは、ただただその場に居る事しか出来ない。
そんなマリアの元へカツカツと靴を鳴らし近づけば、アレッシオは思いっきりマリアの頬を叩く。
―――パシッツ!
乾いた音共に、マリアの頬は叩かれ赤く染まる。
頬を叩かれる痛みよりも今は足を撃たれた方の痛みの方が強い。
それでも『っつ…いたっ…』っと口にしては自分の頬を手で押さえる。
「お前が、キャバッローネの人間とヴァリアーと関りがあるなんて聞いてないぞ!」
『…聞いてないじゃなくて、知らなかった…だけでしょ…?』
アレッシオの言葉の意味を理解すると、マリアは挑発するように鼻で笑う。
腐ってもマフィアなのだ、ターゲットの情報収集を怠るなんて馬鹿のする事なのだ。
マフィアの人間でないしろ、マリアだって一応マフィアの生徒が通う学校に通っていた。
実技関係は授業を受けなかったが、それでも基礎中の基礎だ、当たり前でしかない。
「マリアっ…!」
マリアの挑発にヒステリックになりながら、アレッシオは再びマリアの頬を叩こうと腕を上げる。
咄嗟に目を瞑り俯くマリアに、アレッシオはお構いなしにマリア目がけて手を振り下ろす。
再度パシッツと、乾いた音が室内に響き渡る…はずだった。
だが一向に叩かれる音も、頬にあるはずの痛みもマリアには来ない。
恐る恐る目を開けアレッシオの方を見れば、マリアに向けて振り上げられていた手を何か黒い紐のようなものが巻き叩こうとする手を止めている。
マリアは知っている、その黒い紐のようなものが鞭である事を。
見かける機会はマリア自身少ないが、それでも知っているのだ。
その鞭が誰が扱っているのかを―――…
「ったく、女の子に手をあげるもんじゃねぇーぜ」
聞き覚えのある声に、マリアはゆっくりと声のする方を見る。
その瞬間、マリアの目は大きく見開かれた。
見慣れているはずの太陽の様にキラキラとした金色の色の髪、まだ一日も日が経っていないはずなのにどこか懐かしさすらマリアは感じてしまう。
「何処までほっつき歩いてんだよマリア」
ディーノはマリアに笑いかけた。
普段から見慣れたディーノの笑顔、その笑顔をマリアはじっと見つめるだけだった。
会いたくて、会いたくて仕方がなかった相手。
離れ離れに二度となりたくないと、マリアが心の底から思う相手だ。
言葉を出したい、ちゃんとディーノの名前を呼びたいと思えど、マリアの口は思うように動かない。
「道に迷ったって言ってたから、言われた通り迎えに来てやったぜ」
(…ディーノだ…)
マリアの翡翠色の瞳には、幼馴染であり会いたいとマリアが望んだディーノの姿が映っていた―――…
2024/11/05
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