不器用な恋
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『何を言ってるの…?』
カモラの言葉にマリアは肯定も否定もせずに聞き返す。
当然だ、カモラが言った言葉はどういう意味でマリアに言ったのかマリアには分からない。
じっと見つめたままのヘーゼル色の瞳を細め、カモラは言葉を続ける。
「何をとは…おかしな事を言うね、ルーナ・ブル…否ルーナ」
肯定も否定もしていないマリアに対し、カモラは確信を持っているのかマリアの事をルーナと呼ぶ。
ルーナと呼ばれたマリアはピクリとも動かず、ただただカモラのヘーゼル色の瞳を見つめる。
『そもそもルーナは二十年以上前から有名で、性別は男性よ?透き通るような肌に白青色の長い髪、月を思い浮かばせるような金色の瞳…あたしにはそのどれも当てはまらないわよ』
そう、ルーナの数少ない情報をマリアは述べる。
マフィア界だけではない、科学者の間でもルーナについての情報は全く一緒なのだ。
だからこそマリアは知っている情報を述べた。
その情報には全くマリアに当てはまらない。
髪の色も瞳の色も…ましてや性別すら違う。
だが性別を変える薬をマリア自身作れるし、髪の色も瞳の色も変えようと思えば変えれるだろう。
どれだけ容姿を、性別を変えることが出来ても二十年以上前からルーナの存在はマフィア界でも科学者の間でも有名だったと言う話に矛盾が生じる。
サバを読んでいるわけではない、正真正銘マリアは二十二歳だ。
カモラもまたそれについては理解しているのか「確かにお嬢さんにはどれも当てはまらないね」とマリアの容姿を見ては頷く。
「…けどそのルーナの情報は…本来のルーナ・ブルの情報だ。その人物はもう既に亡くなっている」
その言葉は正解だ。
現にマリアの養親でありルーナ・ブルと呼ばれたフィネスは五年前に亡くなっている。
流行り病だった。
元からマリア同様身体が強くなかった事や薬の副作用で免疫力が落ちていたため病にかかるのはあっという間だった。
それでもマリアが学校を卒業して、二年は共に時を過ごすことが出来たのだ。
亡くなるまでの間マリアの事をずっと心配していたフィネス。
それもそのはずだ、フィネス以外に身寄りがマリアにはない。
まだ成人すらしていない子を残して逝く事になるのだ。
自らの師であるヴェルデにマリアを託す話もマリアはフィネスの口から聞いた。
フィネスの気持ちを、マリアだって分かっている。
心の底から心配してくれている事を。
だがそれでもマリアにだって譲れない事があり、フィネスの考えをマリアは拒んだ。
『あたしは独りで大丈夫だよ、お義父さん』と言ってはフィネスに笑いかけたのだ。
物言いたげな視線でマリアを見てはいたが、最後は何も言わずマリアの言葉を受け入れてくれた。
そんなフィネスが死に、土葬ではなく火葬で弔い遺体は跡形もなく無くなっている。
それは万が一土葬をして遺体を掘り返されたら
だからこそフィネスが望んだ埋葬方法で、フィネスの死を…ルーナ・ブルの死をマリアは自ら見届けた―――…
「だが今も尚ルーナは自分が選んだマフィアの依頼をこなしている。おかしいだろう?既に亡くなっているはずなのにどうやって依頼をこなす事なんて出来るんだい?」
そう言いながらカモラはマリアに近づく。
一歩、また一歩と近づくカモラをただただマリアは見つめる。
「私も最初は驚いたよ、どれだけ血眼になって探したって見つからないわけだ…。その情報は本来のルーナ・ブルの情報だ。今の…生きているルーナとは違うんだからね。そしてその情報は…お嬢さんをマフィアから欺くためのもの」
カモラの言葉に、マリアの翡翠色の瞳が揺れる。
何時の時代も、ルーナ・ブルは狙われる。
マフィアからも科学者からも…金になると判断した汚い人間に。
ルーナ・ブルの才能を、医療薬、軍事武器、遺伝子操作、分野問わず“神の領域”とすら言われる領域にいとも容易く抵触する。
その才能が仮にマリアにあれば、それこそ簡単にそう言う輩に捕まるだろう。
「依頼をこなす者が…ルーナを引き継いだ者がいるからこそルーナ・ブルは生きているかのように依頼をこなす。言わば君は今代のルーナと言って過言ではない」
そう言いながらカモラはマリアの前に跪く。
そんなカモラにマリアはただ『…そう』と、一つ息を付きながら瞳を閉じた。
マリアにとってのルーナ・ブルは先生でもあり、養親である…フィネスただ一人だ。
けれど、周りからすればその認識は違う。
ルーナ・ブルに与えられた依頼をこなす人間がルーナ・ブルなのだ。
カモラが言った言葉もまた間違ってはいない。
先生との…ルーナ・ブルとの約束は“ルーナ・ブルについて聞かれたら昔から言われている情報を言え”、そして“ルーナ・ブルに関してそれ以上の事は知らないと言え”だ。
(…結局、辿り着ける人は辿り着けるって事か…先生)
答えに辿り着いた人間に、はぐらかしても仕方ない。
先程から向けられていたカモラの視線が物語っている、はぐらかした所で恐らくマリアが言葉ではぐらかそうとしても阻止できるほど…彼は知っているのだ。
今まで誰も辿り着く事が出来なかった答えに、その答えを否定できないほど彼は知り尽くしている。
意を決したのか閉じていた瞳を開けば、マリアは自分の目の前に跪くカモラへと視線を向ける。
“答えはどうかな?”と言わんばかりの目でマリアを見上げるカモラ。
そんなカモラに目を細め、マリアはようやく口を開いた。
『よく、分かったわね…』
「あぁ…やっぱり…!」
歓喜に満ちた声を上げ、カモラは笑顔を向ける。
ようやく、ようやく見つけたのだ。
ずっと探し求めていた人物を。
カモラの胸が高鳴り、早くと言わんばかりにマリアを見上げる。
『…
翡翠色の目を細め、マリアはそうカモラに告げた―――…
2024/11/02
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