不器用な恋
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※【ディーノside】
「フィネスさんが俺を呼んだって本当かマリア?」
黄昏時、ディーノは自分の仕事を終えてからマリアの家に来ていた。
昨夜急にマリアから電話が入り、『明日ディーノって何か予定ある?』と聞かれたのが事の始まりだった。
マリア自身何故ディーノを呼んだのか養親であるフィネスの考えが分からず『本当よ…何でディーノの事呼んだのか分かんないけど』と、言葉を漏らす。
扉を数回ノックし、『お義父さん、ディーノ来たよ』とマリアが声をかけ部屋の中に入れば、ベッドの上にフィネスが上半身を起こして待っていた。
出会った頃と変わらない白色の髪に、紫色の瞳。
不愛想な表情で、ディーノを見ると眉間に皺を寄せては睨みつけている。
(相変わらず睨まれてるな…俺)
病気のせいか身体は細くやせ細り、誰かが軽く手を握ったりすればそれこそ折れてしまうのではないかと思う程だ。
そんなマリアの養親であるフィネスを見つめていると、フィネスが自分のベッドの傍にある椅子に座るようにとディーノを促す。
どうやら直ぐには帰してくれないようだ。
促されるままディーノはベッドの傍にある椅子に腰かけると、見計らったかのようにフィネスはマリアの方へと小さく折りたたんだ紙をマリアに差し出す。
何だろうとマリアは思いつつも、養親であるフィネスからそれを受け取る。
「マリア、すまないがこれを買ってきてくれないか?」
『いいけど…今から?』
「あぁ」
どうやらフィネスはマリアに買い物を頼んだようだ。
黄昏時と言っても辺りは既に暗くなりつつある。
「マリアだけじゃ危ないし俺も…」
そう言いながら一緒に着いて行こうかと言葉を紡ごうとすれば、「お前は残れ小僧」と、フィネスに睨まれる。
(一体、何だって言うんだ…)
このタイミングでマリアに買い物を頼むフィネスに違和感を感じながらも、ディーノは立ち上がろうとした腰を椅子に下ろした。
マリアは渡されたメモを一度見て、ディーノの方へ視線を向ける。
『ディーノ今日夕飯食べてく?』
「ん、あぁ…マリアが作るの面倒じゃなかったら」
『一人増えようが二人増えようが作るの苦じゃないから面倒にもならないわよ』
そう言い残して、マリアは部屋から出て行った。
パタパタと急ぎ足ではあるものの、財布を持って部屋から出る音を聞けば静寂が広がる。
マリアがフィネスの部屋を…否、家を出てどれくらい経っただろうか。
その間どちらも言葉を発する事はない。
居心地の悪さに、ディーノは息が詰まる。
(早く帰ってこねぇーかな…マリアのやつ)
先程出て行ったばかりなのだ、そんなすぐ帰ってこないことは分かっているのだが…どうもディーノはそう望んでしまう。
ディーノ自身フィネスと二人きりになる事等ほとんどなかったのだ。
二人きりになったとしてもそれは本当に数分の事だろう。
だからこそこの静寂が耐え切れずマリアの事を考えてしまう。
だがそんなディーノに対し、フィネスはようやく口を開き言葉を発する。
「小僧…お前に一つだけ頼みたい事が有る」
「頼みたい事?」
フィネスの言葉に珍しいなとディーノは思い、思わず首を傾げる。
これまでフィネスに頼まれ事などされた事が無いのだ。
一体なんだろうと思い、ついディーノはフィネスを凝視する。
「…もしマリアに何かあったら…あの子を助けてやってくれ」
養親であると同時に、フィネスは父親としての言葉を紡いだ。
ディーノが知っているマリアの…名ばかりの父親とは違う…まるで本当の父親のような言葉。
拾ったマリアとフィネスの間には血が繋がっていないにも関わらず、本当に我が子を思うその言葉をディーノは黙って聞く。
「私に出来る限りの事はしてきた、つもりだ…。だが、私にはもう…あの子のこの先を見る時間は残されていない」
そう言ってフィネスはシーツをぎゅっと握りしめながら目を伏せる。
本当はフィネス自身この先もマリアの事を見ていくつもりだった。
だが、フィネス自身に残された時間がもうほとんどない事を…自分で悟っているようだ。
フィネスの弱気な発言に、ディーノは驚くもののきっと自分の事は自分が一番わかっているからこその言葉なのだろう。
まだマリアは十七歳で、成人まで後数ヶ月ではあるがそれでもまだ未成年だ。
それは同じくディーノにも言える事ではあるが、ディーノの周りにはキャバッローネ・ファミリーに属する年上の部下がいる。
だがマリアにはそう言う意味で頼れる大人が居ないのだ。
マリアはアレッシオに捨てられフィネスに拾われた人生で…自分から頼れる大人も正直な話居ない。
師であるヴェルデにマリアを託そうともフィネスは考え話した事が有るが、どれだけ言ってもマリアは首を横に振る事はなかった。
決まって『あたしは独りで大丈夫だよ、お義父さん』と、マリアは笑ってフィネスに言うのだ。
大丈夫なわけあるか、とフィネスは何度もその言葉を聞いて思う。
マリアの大丈夫が大丈夫じゃない事位、何年マリアの養親として傍に居ると思っているのだと逆に問いただしたくなった。
問いただした所でシラを切るのは既に目に見えている。
こればかりは譲れないと言わんばかりに自分は大丈夫と主張するマリアに、フィネスは降参するしかなかった。
「小僧に頼るのは癪だが…マリアが一番信頼しているのはお前なのだ」
ゆっくりと伏せていた目をディーノの方に向け、フィネスの表情は出会った頃と変わらない不愛想な表情でじっとディーノの鳶色の瞳を見つめる。
フィネスの紫色の瞳はとても綺麗なのだが、ふとした瞬間にその色は紫ではなく別の色のようにディーノは感じてしまう。
「あの子は…誰に似たのか分からないが、不器用で誰かに頼る事が苦手だ。自分でどうにかしようと、自分だけで抱えようとしている」
フィネスの言葉に、ディーノ自身思い当たる事が有った。
ディーノの父親が亡くなった時、どういう手続きをしたのか等、分からない所を最近ディーノに訊ねて来たりしているのは記憶に新しい。
ロマーリオもその場に居たせいか「お嬢、流石にそう言うのは…まだ早いんじゃないか?」と言っていたがマリアからすれば『事前に分かる範囲で知っておきたい』と真剣な目でロマーリオに言っていたのだ。
早いも遅いも関係ない…と。
勿論そう言う意味ではディーノは自分の父親の時に手続きをした事が有るので少なからずマリアの助けにはなれると思っているが…どうもマリアは一人で全部しようとしていたのだ。
聞いて頼っているには頼っているのだが、最終的には一人で片づけようとしているのだからフィネスの言葉は間違っていない。
「だから…マリアに何かあったら…あの子を、助けてやってくれ」
フィネスの言葉に、ディーノは息を飲む。
この人が、フィネスがマリアの養親で良かったと心底思いながら、ディーノは自身の言葉をフィネスに紡ぐ。
「んなもんフィネスさんに言われなくても…俺はマリアを助けるし、マリアが嫌がろうが俺だけはずっとあいつの味方で居るつもりだ」
嘘偽りのないディーノの言葉。
紡がれたその言葉に、フィネスは思わず目を見開く。
それは自分が思っていた以上の言葉を、ディーノが紡いだからだ。
何処の馬の骨とも分からない輩に託すくらいなら、それこそフィネスはまだ知っている人物に託すほうがいいと思った。
フィネス自身ディーノと知り合ってから八年と言う月日が流れた。
無論、その八年と言う月日の中でディーノ自身と関わった時間を言えばそれこそ八年にも満たないかもしれない。
それでもマリアとディーノの二人を見ていれば嫌でも気づいてしまうのだ。
マリアが、ディーノを好きな事を…言葉にしなくても態度が、表情が物語っている。
親としては寂しいがいつかはマリアだってフィネスの元を離れ誰かに嫁いでいく。
そしてディーノに関してもそれこそ見れば誰だって分かるのだ。
マリアに好意を抱いている事も、マリアを大事に思っている事も。
だからこそ…フィネスはディーノの鳶色の瞳を再度見て頭を下げた。
「頼んだぞ、ディーノ」
普段ディーノの事を小僧と呼ぶのに、この時だけはディーノの事を名前で呼んだ。
勿論ディーノの事を名前で呼んだのは、この時が最初で最後だった。
「…なぁ、その代わりと言っちゃなんだが…一つだけ教えてくれねえか?」
「何だ…?」
「何で、フィネスさんは俺の事をよく睨んでたんだ?」
ディーノは昔から不思議に思っていた事をフィネスに問う。
別に答えてくれなければディーノ自身それでも良かった。
フィネスが答えなくてもディーノがマリアを助ける気持ちも、味方で居るのも変わらないのだ。
ただマリアがこの街に戻ってきて、その養親としてフィネスを紹介された頃からディーノはフィネスによく睨まれていた。
幼いながらにもフィネスの機嫌を損ねる何かをしてしまったのだろうかと何度も思ったが、ディーノ自身心当たりがなかった。
ロマーリオにも何処かいけない所があったのだろうかと問うた事が有るが、ロマーリオから見てもディーノがフィネスの機嫌を損なう事をしたとは思えなかったため、マリアの言うように元からだろうと言う結論に至った。
だがディーノだけはその言葉で納得がいかず、かれこれ何年もの間ずっと疑問に思っていたのだ。
その事を言葉にすれば、フィネスが罰が悪そうな顔を浮かべる。
長い長い沈黙の後、観念したかのようにフィネスは閉じていた口を開く。
「別に…お前の事が嫌いで睨んでるわけじゃない」
「じゃあ何でだ?」
「お前の…肩書が気に食わないだけだ」
「肩書?」
フィネスの言葉にディーノは首を傾げる。
肩書と言うのはディーノがキャバッローネ・ファミリーのボスである事が気に食わないのだろうかと思ったが、出会った頃はまだボスではなくただのディーノだったはずだ。
「…お前がマフィアだからだ」
「…っつ」
一般人からしたら確かにマフィアなんて良い印象ははないだろう。
いくらキャバッローネ・ファミリーが民を大事にするファミリーであっても、マフィアである事実は変わらない。
だからこそフィネスはマフィアであるディーノの事を睨んでいたのかと考えたが…それならロマーリオや他の部下も睨みつけているはずだ。
正直睨まれているのは何時だってディーノだけだと思い返すと、マフィアだからと言う言葉は合っているようで合っていない。
「マフィアは何時だって…私の大事な者を奪っていくからな…」
窓の外を見ながら、フィネスはポツリと呟いた。
今フィネスがどんな表情をしているかは、ディーノには分からない。
だがそう呟いた声色が何処か寂しそうだった事だけは、ディーノには理解出来た。
(あぁ…そうか…この人は自分の大事な人を奪うマフィアが嫌いなのか…)
マフィア全員が嫌いと言うわけではない、それならばロマーリオや他の部下が睨まれていない事に納得がいく。
フィネスの呟いた言葉は…それこそ以前にも大事な者を奪われたと読み取れる。
ディーノがマリアを好きな事を、フィネスは分かっているのだろう。
否、周りからしたらバレバレなのだ。
知らないのは想いを寄せられているマリア位だろう。
だからこそフィネスはディーノの事を出会った当初から睨んでいたのだ。
その時から既にディーノがマリアへ向ける恋愛感情を察していた…そう考えると全ての辻褄が合う。
フィネスの大事な人が、またマフィアに奪われるかもしれないと予感していたに違いない。
何も言わないディーノに対して、「お前と言う人間が嫌いと言うわけではない、勘違いするな」とだけフィネスは釘を指した。
2024/10/26
「フィネスさんが俺を呼んだって本当かマリア?」
黄昏時、ディーノは自分の仕事を終えてからマリアの家に来ていた。
昨夜急にマリアから電話が入り、『明日ディーノって何か予定ある?』と聞かれたのが事の始まりだった。
マリア自身何故ディーノを呼んだのか養親であるフィネスの考えが分からず『本当よ…何でディーノの事呼んだのか分かんないけど』と、言葉を漏らす。
扉を数回ノックし、『お義父さん、ディーノ来たよ』とマリアが声をかけ部屋の中に入れば、ベッドの上にフィネスが上半身を起こして待っていた。
出会った頃と変わらない白色の髪に、紫色の瞳。
不愛想な表情で、ディーノを見ると眉間に皺を寄せては睨みつけている。
(相変わらず睨まれてるな…俺)
病気のせいか身体は細くやせ細り、誰かが軽く手を握ったりすればそれこそ折れてしまうのではないかと思う程だ。
そんなマリアの養親であるフィネスを見つめていると、フィネスが自分のベッドの傍にある椅子に座るようにとディーノを促す。
どうやら直ぐには帰してくれないようだ。
促されるままディーノはベッドの傍にある椅子に腰かけると、見計らったかのようにフィネスはマリアの方へと小さく折りたたんだ紙をマリアに差し出す。
何だろうとマリアは思いつつも、養親であるフィネスからそれを受け取る。
「マリア、すまないがこれを買ってきてくれないか?」
『いいけど…今から?』
「あぁ」
どうやらフィネスはマリアに買い物を頼んだようだ。
黄昏時と言っても辺りは既に暗くなりつつある。
「マリアだけじゃ危ないし俺も…」
そう言いながら一緒に着いて行こうかと言葉を紡ごうとすれば、「お前は残れ小僧」と、フィネスに睨まれる。
(一体、何だって言うんだ…)
このタイミングでマリアに買い物を頼むフィネスに違和感を感じながらも、ディーノは立ち上がろうとした腰を椅子に下ろした。
マリアは渡されたメモを一度見て、ディーノの方へ視線を向ける。
『ディーノ今日夕飯食べてく?』
「ん、あぁ…マリアが作るの面倒じゃなかったら」
『一人増えようが二人増えようが作るの苦じゃないから面倒にもならないわよ』
そう言い残して、マリアは部屋から出て行った。
パタパタと急ぎ足ではあるものの、財布を持って部屋から出る音を聞けば静寂が広がる。
マリアがフィネスの部屋を…否、家を出てどれくらい経っただろうか。
その間どちらも言葉を発する事はない。
居心地の悪さに、ディーノは息が詰まる。
(早く帰ってこねぇーかな…マリアのやつ)
先程出て行ったばかりなのだ、そんなすぐ帰ってこないことは分かっているのだが…どうもディーノはそう望んでしまう。
ディーノ自身フィネスと二人きりになる事等ほとんどなかったのだ。
二人きりになったとしてもそれは本当に数分の事だろう。
だからこそこの静寂が耐え切れずマリアの事を考えてしまう。
だがそんなディーノに対し、フィネスはようやく口を開き言葉を発する。
「小僧…お前に一つだけ頼みたい事が有る」
「頼みたい事?」
フィネスの言葉に珍しいなとディーノは思い、思わず首を傾げる。
これまでフィネスに頼まれ事などされた事が無いのだ。
一体なんだろうと思い、ついディーノはフィネスを凝視する。
「…もしマリアに何かあったら…あの子を助けてやってくれ」
養親であると同時に、フィネスは父親としての言葉を紡いだ。
ディーノが知っているマリアの…名ばかりの父親とは違う…まるで本当の父親のような言葉。
拾ったマリアとフィネスの間には血が繋がっていないにも関わらず、本当に我が子を思うその言葉をディーノは黙って聞く。
「私に出来る限りの事はしてきた、つもりだ…。だが、私にはもう…あの子のこの先を見る時間は残されていない」
そう言ってフィネスはシーツをぎゅっと握りしめながら目を伏せる。
本当はフィネス自身この先もマリアの事を見ていくつもりだった。
だが、フィネス自身に残された時間がもうほとんどない事を…自分で悟っているようだ。
フィネスの弱気な発言に、ディーノは驚くもののきっと自分の事は自分が一番わかっているからこその言葉なのだろう。
まだマリアは十七歳で、成人まで後数ヶ月ではあるがそれでもまだ未成年だ。
それは同じくディーノにも言える事ではあるが、ディーノの周りにはキャバッローネ・ファミリーに属する年上の部下がいる。
だがマリアにはそう言う意味で頼れる大人が居ないのだ。
マリアはアレッシオに捨てられフィネスに拾われた人生で…自分から頼れる大人も正直な話居ない。
師であるヴェルデにマリアを託そうともフィネスは考え話した事が有るが、どれだけ言ってもマリアは首を横に振る事はなかった。
決まって『あたしは独りで大丈夫だよ、お義父さん』と、マリアは笑ってフィネスに言うのだ。
大丈夫なわけあるか、とフィネスは何度もその言葉を聞いて思う。
マリアの大丈夫が大丈夫じゃない事位、何年マリアの養親として傍に居ると思っているのだと逆に問いただしたくなった。
問いただした所でシラを切るのは既に目に見えている。
こればかりは譲れないと言わんばかりに自分は大丈夫と主張するマリアに、フィネスは降参するしかなかった。
「小僧に頼るのは癪だが…マリアが一番信頼しているのはお前なのだ」
ゆっくりと伏せていた目をディーノの方に向け、フィネスの表情は出会った頃と変わらない不愛想な表情でじっとディーノの鳶色の瞳を見つめる。
フィネスの紫色の瞳はとても綺麗なのだが、ふとした瞬間にその色は紫ではなく別の色のようにディーノは感じてしまう。
「あの子は…誰に似たのか分からないが、不器用で誰かに頼る事が苦手だ。自分でどうにかしようと、自分だけで抱えようとしている」
フィネスの言葉に、ディーノ自身思い当たる事が有った。
ディーノの父親が亡くなった時、どういう手続きをしたのか等、分からない所を最近ディーノに訊ねて来たりしているのは記憶に新しい。
ロマーリオもその場に居たせいか「お嬢、流石にそう言うのは…まだ早いんじゃないか?」と言っていたがマリアからすれば『事前に分かる範囲で知っておきたい』と真剣な目でロマーリオに言っていたのだ。
早いも遅いも関係ない…と。
勿論そう言う意味ではディーノは自分の父親の時に手続きをした事が有るので少なからずマリアの助けにはなれると思っているが…どうもマリアは一人で全部しようとしていたのだ。
聞いて頼っているには頼っているのだが、最終的には一人で片づけようとしているのだからフィネスの言葉は間違っていない。
「だから…マリアに何かあったら…あの子を、助けてやってくれ」
フィネスの言葉に、ディーノは息を飲む。
この人が、フィネスがマリアの養親で良かったと心底思いながら、ディーノは自身の言葉をフィネスに紡ぐ。
「んなもんフィネスさんに言われなくても…俺はマリアを助けるし、マリアが嫌がろうが俺だけはずっとあいつの味方で居るつもりだ」
嘘偽りのないディーノの言葉。
紡がれたその言葉に、フィネスは思わず目を見開く。
それは自分が思っていた以上の言葉を、ディーノが紡いだからだ。
何処の馬の骨とも分からない輩に託すくらいなら、それこそフィネスはまだ知っている人物に託すほうがいいと思った。
フィネス自身ディーノと知り合ってから八年と言う月日が流れた。
無論、その八年と言う月日の中でディーノ自身と関わった時間を言えばそれこそ八年にも満たないかもしれない。
それでもマリアとディーノの二人を見ていれば嫌でも気づいてしまうのだ。
マリアが、ディーノを好きな事を…言葉にしなくても態度が、表情が物語っている。
親としては寂しいがいつかはマリアだってフィネスの元を離れ誰かに嫁いでいく。
そしてディーノに関してもそれこそ見れば誰だって分かるのだ。
マリアに好意を抱いている事も、マリアを大事に思っている事も。
だからこそ…フィネスはディーノの鳶色の瞳を再度見て頭を下げた。
「頼んだぞ、ディーノ」
普段ディーノの事を小僧と呼ぶのに、この時だけはディーノの事を名前で呼んだ。
勿論ディーノの事を名前で呼んだのは、この時が最初で最後だった。
「…なぁ、その代わりと言っちゃなんだが…一つだけ教えてくれねえか?」
「何だ…?」
「何で、フィネスさんは俺の事をよく睨んでたんだ?」
ディーノは昔から不思議に思っていた事をフィネスに問う。
別に答えてくれなければディーノ自身それでも良かった。
フィネスが答えなくてもディーノがマリアを助ける気持ちも、味方で居るのも変わらないのだ。
ただマリアがこの街に戻ってきて、その養親としてフィネスを紹介された頃からディーノはフィネスによく睨まれていた。
幼いながらにもフィネスの機嫌を損ねる何かをしてしまったのだろうかと何度も思ったが、ディーノ自身心当たりがなかった。
ロマーリオにも何処かいけない所があったのだろうかと問うた事が有るが、ロマーリオから見てもディーノがフィネスの機嫌を損なう事をしたとは思えなかったため、マリアの言うように元からだろうと言う結論に至った。
だがディーノだけはその言葉で納得がいかず、かれこれ何年もの間ずっと疑問に思っていたのだ。
その事を言葉にすれば、フィネスが罰が悪そうな顔を浮かべる。
長い長い沈黙の後、観念したかのようにフィネスは閉じていた口を開く。
「別に…お前の事が嫌いで睨んでるわけじゃない」
「じゃあ何でだ?」
「お前の…肩書が気に食わないだけだ」
「肩書?」
フィネスの言葉にディーノは首を傾げる。
肩書と言うのはディーノがキャバッローネ・ファミリーのボスである事が気に食わないのだろうかと思ったが、出会った頃はまだボスではなくただのディーノだったはずだ。
「…お前がマフィアだからだ」
「…っつ」
一般人からしたら確かにマフィアなんて良い印象ははないだろう。
いくらキャバッローネ・ファミリーが民を大事にするファミリーであっても、マフィアである事実は変わらない。
だからこそフィネスはマフィアであるディーノの事を睨んでいたのかと考えたが…それならロマーリオや他の部下も睨みつけているはずだ。
正直睨まれているのは何時だってディーノだけだと思い返すと、マフィアだからと言う言葉は合っているようで合っていない。
「マフィアは何時だって…私の大事な者を奪っていくからな…」
窓の外を見ながら、フィネスはポツリと呟いた。
今フィネスがどんな表情をしているかは、ディーノには分からない。
だがそう呟いた声色が何処か寂しそうだった事だけは、ディーノには理解出来た。
(あぁ…そうか…この人は自分の大事な人を奪うマフィアが嫌いなのか…)
マフィア全員が嫌いと言うわけではない、それならばロマーリオや他の部下が睨まれていない事に納得がいく。
フィネスの呟いた言葉は…それこそ以前にも大事な者を奪われたと読み取れる。
ディーノがマリアを好きな事を、フィネスは分かっているのだろう。
否、周りからしたらバレバレなのだ。
知らないのは想いを寄せられているマリア位だろう。
だからこそフィネスはディーノの事を出会った当初から睨んでいたのだ。
その時から既にディーノがマリアへ向ける恋愛感情を察していた…そう考えると全ての辻褄が合う。
フィネスの大事な人が、またマフィアに奪われるかもしれないと予感していたに違いない。
何も言わないディーノに対して、「お前と言う人間が嫌いと言うわけではない、勘違いするな」とだけフィネスは釘を指した。
2024/10/26
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