不器用な恋
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
マリアとディーノが遊んでいれば、楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。
夕方になりアリーチェがマリアを迎えに来れば、マリアもディーノも毎回別れを惜しむ。
何時も遊んでいるのに、間が空いたとしても例え数日。
それでもマリアとディーノは離れるのを嫌がるのだ。
もっと遊びたい、まだ遊びたいと駄々をこねてはよく迎えに来たアリーチェやロマーリオを困らせている。
「マリアもうかえっちゃうのか?」
『やだやだ、マリアまだディーノとあそびたい…』
離れたくないと言わんばかりにディーノに抱き着きマリアは駄々をこねた。
時にはディーノの寝室のベットシーツを剥ぎ取っては帰りたくないと駄々をこねる事もしばしばある。
毎回飽きないなと思いながらもロマーリオはそんな二人を見ては苦笑を浮かべ、アリーチェに至っては「マリア~~~~」と盛大に溜息を付く。
これで何度目だとアリーチェは思うものの、マリアの気持ちも分かるのだ。
アリーチェに連れて帰られ、アレッシオがアリーチェの元を訪れればマリアは強制的に勉強させられる。
アレッシオが訪れなくても、正妻からの嫌がらだったりお小言が飛んでくる場合もある。
マリアにとっては嫌な思いしかしない事をアリーチェだって分かっている…分かっているがどうしようも出来ないのだ。
「マリア…良い子だから、ね?明日もディーノ君と遊ばせてあげるから…」
『…ほんと?』
「本当よ」
アリーチェの言葉を聞けば、マリアは嬉しそうに喜び『ディーノまたあしたもあそべるって!』とディーノに嬉しそうに話す。
勿論ディーノもその場に居たのだからアリーチェの言葉が嬉しくて「やったな、マリア!」とはにかむ。
「あしたもマリアちゃんとこいよ!」
『うん!』
お互い嬉しそうにぎゅ~っと抱き合えば別れ際、いつも言う言葉を口にする。
『ディーノ、だいすき!またあしたもマリアとあそんでね?』
「おれだってマリアのことだいすきだから、ちゃんとあしたもこいよ!」
約束だと言わんばかりに毎回のように口にする言葉。
そんなマリアとディーノを見て、アリーチェは微笑む。
本当は頻繁にキャバッローネ・ファミリーに預けるのは迷惑になる事くらいアリーチェだって分かっている。
アリーチェとディーノの母親は確かに親友同士ではあるが…半年前にディーノの母親は既に亡くなっているのだ。
亡くなる前に「マリアちゃんといつでも来てね…?」と事情を知って言ってくれた親友の言葉に、アリーチェは甘えっぱなしだと言う事位自分でも分かっていた。
分かっていて、申し訳ない気持ちではあるが頼ってしまうのだ…。
そうしなければマリアの笑顔は見られない、マリアの自由はないのだから―――…
「こんな感じでうちのディーノ坊ちゃんもお嬢が来るの楽しみにしているので…いつでも来てください」
「…ありがとう、ロマーリオさん」
アリーチェの心情を知ってか知らずか、ロマーリオはそうアリーチェに言う。
何時までもディーノに抱き着いているマリアに「そろそろ帰るわよ、マリア」と声をかけては来た時と同じようにマリアの手を引く。
来た時と同じように、外は雪がしんしんと降る。
「あしたもトランプしような、マリア!」
『うん、ディーノちゃんとマリアにかってね?』
「おまっ…!」
「…ディーノ坊ちゃんそろそろお嬢に勝たないとお嬢の全勝記録がずっと更新されっぱなしだぞ」
「う…」
ロマーリオの言葉がディーノに突き刺さる。
此処一週間程、マリアとディーノはずっとトランプをしているのだ。
ババ抜きを始めスピード、ページワン、ドボン、その他二人で遊べるトランプを使った遊びをしているが一向にディーノはマリアに勝てなかった。
勝てないのが悔しいのか「もういっかい!」とディーノが言うものだからマリアもそれに付き合い何度もトランプで遊ぶ。
一週間もトランプで遊んでいるのだからそろそろ飽きるだろうと思っていたが飽きる所かディーノはトランプに熱が入るばかりだ。
ロマーリオがマリアに「お嬢はそろそろ別の遊びだってしたいだろ?」と問うと、マリアは『ディーノとあそべるならトランプでもなんでもいい!』と嬉しそうに言うのだからそれ以上ロマーリオが口を出す事はなかった。
『バイバイ、ディーノ!』
「またな、マリア!」
大きく手を振りまた明日と、そうマリアもディーノも思っていた。
何一つ変わる事のない日常、当たり前に二人で遊ぶ日々。
だが、その明日が二人に来る事は決してなかった。
マリアが住むヴァルメリオファミリーの離れの屋敷に戻ればぷるぷると首を横に振り、髪にかかっている雪をマリアは払う。
それでも取れていない雪を、アリーチェは屈みマリアに視線を合わせながら温かい手で払っていく。
「マリアちょっと待っててね、温かい飲み物入れるから」
『ママン、マリアココアがいい』
「ふふ、マリアはココアが好きね」
『だってママンのいれてくれるココアがいちばんおいしいんだもん!』
そう言ってマリアは視線を合わせてくれているアリーチェに抱き着いた。
マリアとアリーチェだけの二人だけの時間に、マリアはアリーチェに甘える。
後数時間したらアレッシオが来てマリアは勉強をさせられるかもしれないのだ。
アリーチェは微笑みながらマリアを抱きしめ返す。
(…ごめんね、マリア…)
マリアを守るためと言えど、母親としてマリアに接する時間はアリーチェには限られていた。
アリーチェだって好きでアレッシオの相手をしているわけではないのだ、出来るならずっとマリアと一緒に居てあげたいと何度も思う。
だが、アレッシオの存在がそれを邪魔するのだ。
アリーチェがアレッシオの相手をしなければマリアに何をするか分からない。
アレッシオがマリアを生かしているのも、きっとアレッシオからしたらアリーチェをこの屋敷に縛り付けるだけの道具としか見ていないだろう。
大切な、アリーチェが本当に愛した人との間に生まれたのがマリアだ。
アレッシオからすればどうでもいい赤の他人であり、ある意味面白くない存在でしかない。
だからこそ何が合っても、マリアだけは守ると…アリーチェは何度も自分に言い聞かせる。
『ママン?どうしたの?』
「ごめんね、マリア。何でもないわ」
そう言ってアリーチェはマリアを離し、ソファーの上に座らせれば「とびっきり美味しいココア作って来るわね」と言い、ココアを作りにキッチンの方へと歩いて行った。
数分すればアリーチェの手にはマグカップを二つ持っていた。
熱々のココアに冷たい牛乳を入れ程よい温度になっているココア。
コトリとアリーチェ自身が飲むマグカップをテーブルの上に置けば、マリアのマグカップに入っているココアを一口飲む。
「っつ…!」
その瞬間、アリーチェは目を見開いた。
舌が痺れ喉が焼けるように痛い。
手も痺れだしたのか持っていたマグカップが床に落ちガシャンと音を立て、中に入っていたココアが床に飛び散る。
(あぁ…これは…)
『ママン…?』
マグカップを落としたアリーチェを不思議に思い、マリアは床に散らばったマグカップの破片を拾おうとする。
「駄目っマリア!!!!!」
が、その瞬間アリーチェは絞り出すように大きな声を上げマリアが破片を拾おうとするのを止める。
普段出す事のない声量に、マリアはピクリと身体が跳ねマグカップを拾おうとした手が止まった。
おそるおそるマリアはアリーチェの方を見上げるが、アリーチェは口元を押さえているせいかマリアは表情がよく読み取れない。
「マリアっ…、だ、だめっ…触っちゃ……」
口元を押さえマリアに触って駄目だと言葉を紡ごうとしたその瞬間、アリーチェはゴホッと音を立て口から血を吐く。
赤い、赤い綺麗な赤い血。
「っ…はぁ、…ぁ、毒…ゴホッ」
ヒュー…ヒュー…と呼吸が出来ず、アリーチェは床に倒れる。
苦しそうに顔を歪め、それでも口からは血がまた流れ出る。
幼いマリアは目の前で何が起こったのか理解できず、アリーチェの方に近づいてはアリーチェの顔を覗き込む。
『ママン…ママン…!』
ゆさゆさとマリアはアリーチェの身体を揺らす。
だがいくらマリアがアリーチェの身体を揺らそうが声をかけようが、アリーチェはピクリとも反応せず虚ろな瞳で見ているだけだった。
『ママン…』
涙を零しながら、マリアはアリーチェが何度も言い聞かせていた言葉の意味をこの時身をもって知った。
―――「最初の一口だけは絶対食べちゃだめよ?」
そう口酸っぱくマリアに言い聞かせていたのはこういう事だったのだ。
アリーチェが最後に言っていた“毒”と言う言葉。
幼いマリアを守るために何度も言った言葉は、こうなる事を予測していたのだろう。
予測していて…それでもマリアを守るためにアリーチェは自分から最初の一口に手を付けていたのだ。
毒を盛ろうとする人間なんて、いくら離れの屋敷ではあるものの数えるほどいるのだ。
この屋敷でマリアもアリーチェも最初から歓迎されていない事は初めから分かっていた。
アリーチェはヴァルメリオファミリーのボスであるアレッシオの愛人だ。
アリーチェから言い寄ったものでもなく、アレッシオに見初められ一方的に金で買われた愛人。
愛人になってからは執着するようにアレッシオはアリーチェを求め、アリーチェの元へ通いアリーチェにだけ愛を囁く。
アレッシオには正妻となる妻もいれば、アリーチェ以外にも数名愛人もいる。
他の人から見ればそんな状況は何一つ面白くもないのだ。
その事もありアリーチェとマリアはヴァルメリオファミリーに関係のある人間から嫌われていた。
『ママン、ママン…!』
冷たくなっていくアリーチェの身体を揺らし、マリアはただただ泣き続けた。
誰も助けてはくれない事位分かっている。
だが目の前の現実に、母の死が受け止めきれず、ただただ母の事を呼びマリアは泣いた。
2024/10/23
60/78ページ