不器用な恋
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―――『道に迷ったから迎えに来い』
そんな短いメールを自分のプライベート用の携帯から仕事用の携帯に送れば、マリアは一息つく。
今、マリアはアレッシオ達ヴァルッセファミリーが所有するジェット機内の一室に居た。
部屋の前には見張りの男が何人かおり、部屋の鍵も外側から閉められている。
子供達を守るため自分からアレッシオの迎えに乗ったものの…どうしたものかとマリアは改めて思う。
白衣の懐には愛銃がしまわれており、ポケットの中には財布といくつかの薬品が入った小瓶があるだけだ。
正直携帯も愛銃も全て取り上げられるだろうと覚悟していたのだが、アレッシオはそれをしなかった。
マリアはマフィアでもなんでもないただの一般人であり、科学者にしかすぎない。
たかが小娘が銃を所持していようが痛くも痒くもない…と言う事だろうか?とマリアは思う。
舐められた物だなと思う反面、そもそもアレッシオはマリアに興味もなければ関心もない。
どうでもいいからこそ取り上げる事すらしなかったのではないかとも憶測してしまうのだ。
(本当は…ディーノを、頼っちゃダメなんだろうな…)
先程自分が送ったメール文を見ながら、我ながら可愛くないなとマリアは思う。
こんな所まで素直に“助けて”の文字を送れず、迷った挙句に送った言葉が迎えに来いなのだ。
勿論、迎えに来いと言う言葉も…正直マリアは送るのを躊躇した。
いくらディーノと幼馴染と言えど、こればかりはマリア自身の問題なのだ。
血が繋がっていなくても、マリアの事を捨てても…表向きは名ばかりの父親。
今更何の用だと、何故マリアを迎えに来たのだと問いたかったが問うた所で何も返ってこない。
マリアの問題に、キャバッローネ・ファミリーのボスであるディーノを巻き込んでしまっていいのだろうかとマリアは悩んだ。
だが…
『これで…良かったのかな、お義父さん…』
そう言いながらマリアは自分の送ったメールをもう一度見ながらポツリと呟いた。
頼ってはいけないと思っても、それでも助けて欲しいと望んでしまう…。
離れ離れになりたくないと、幼い頃に味わった想いを二度としたくないと望むマリアの我儘でしかない事は十分理解している。
それにマリアはまだディーノに、自分の気持ちすら伝えていないのだ。
こんな状況で、それこそ二度と会えなくなるなんて思いたくない。
―――「もし、どうしようもない状況になったら…あの小僧を頼れ、マリア」
養親であるフィネスがこの世を去る最後の時、マリアの頬を撫でながらフィネスはマリアにそう言い残した言葉が頭を過る。
本当はそんな状況にならないで欲しいと願ってか、はたまたディーノを頼りたくないのか…兎に角フィネスの表情は苦虫を嚙み潰したような表情だった。
病のせいで細くやせ細った指先の感触を、マリアは未だに覚えている。
フィネスの言う小僧と言うのは無論、ディーノの事だ。
ディーノを幼馴染だと紹介した頃からフィネスはディーノの事を名前で呼ばず、ずっと小僧と呼んでいた。
―――「小僧じゃねぇー!俺にはディーノって名前があるんだ!!!」
―――「フン、お前なんぞ小僧で充分だ」
そんなやり取りを良くしていたのを思い出せば、マリアの口元は自然に綻ぶ。
常に気難しそうな表情をしているのは普段の事だが、ディーノの事をよく睨んでいたのは強ち間違いではなかった。
ディーノには『お義父さんいつもあんな感じよ?』と、元からだとマリアは言ったが…マリアだってその事には気付いていた。
ディーノの事をある意味嫌っている様にも思ったが、人間として嫌ってはいないのだとマリアは理解している。
本当に、心の底から嫌っていたらフィネスはそもそもディーノが家に来る事すら許さないし、自分からつっかかる言葉を交わす事もしないのだ。
だからこそマリアは不思議に思いフィネスに聞いた事が有る。
『どうして嫌いじゃないのにディーノの事を睨むの?』と。
そうマリアに問われれば、眉間に皺を寄せながら「……波長が合わないからだ」と考えに考え抜いた言葉を…ヴェルデがリボーンに対して使う言葉を口にしていたがマリアはそれも違うと感じた。
『結局、お義父さんは何でディーノの事睨んでたんだろ…』
最後の最後まで、フィネスが何故ディーノを睨んでいたのかその理由をマリア自身知る事はなかった。
それでもディーノと言う人間が嫌いで睨んでいたわけではないと言う事だけは…マリアは知っている。
フィネスが亡くなる数日前に、何故かディーノを呼べと言って二人で話をしたみたいだが、その時も話した内容は教えてもらえなかったなとマリアは思い出す。
ディーノにその時の事を聞いたがフィネス同様何故か教えてもらえなかった。
そう思いながらつい懐にしまっている青い携帯へと手を伸ばそうとしたが…何処を探しても白衣の懐に携帯はなかった。
(そう言えばフゥ太に渡したんだっけ…あの携帯)
フゥ太に渡した事を思い出し、マリアは一人呆れる。
自分で渡したにも関わらず、珍しくマリアがその事を忘れているのはやはり今の状況に動揺しているからだろう。
スクアーロやヴェルデからの情報を元に気を付けてはいたが…まさか自分の名ばかりの父親が絡んでくるとは思わなかったのだ。
(…うまく釣れてくれたらいいけど…)
普段なら誰にも分からない…否、解く事すら難しいロックをかけているのだがそれはヴェルデから連絡が来た直後に解除してある。
仕事用の携帯ゆえに機密情報だったり依頼の個人情報まで入っている携帯だ。
絶対に誰かの目に付く場所で開く事はなかったし、あの青い携帯がマリアの携帯だなんて誰も思わないだろう。
元々はマリアの養親であるフィネスが使っていた物なのだ。
ロックを解除したと同時に大事な情報は全てパソコンの方にデータを移してある。
残っているのは必要最低限のマリア自身の携帯の情報と師の番号…そして待受に設定されている画像の一枚のみ。
きっとあの画像を見ればリボーンは勿論、後から来たスクアーロとルッスーリアはピンと来るだろうとマリアは踏んでいる。
何故なら世間一般的に与えられている情報が…それしかないのだ。
透き通るような肌に白青色の長い髪、月を思い浮かばせるような金色の瞳。
まるで女性のような容姿でありながら、性別は男性。
あの画像に写っている男性は間違いなくルーナ・ブルと呼ばれている科学者だ。
ディーノとロマーリオはきっと髪の色や瞳の色が違っていても見た事が有る人物なのだから気づくだろうとマリアは思う。
その人物がマリアの養親であるフィネスだと言う事を―――…
『いろいろ…あり過ぎたな…今日は…』
押し寄せてくる疲労にどっとマリアの身体は重くなり、マリアはゆっくりと目を閉じた。
このまま意識を手放してしまえば、きっと夢見は最悪だろうなと思いながらも…マリアは意識を手放した―――…
2024/10/21
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