不器用な恋
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※【ディーノside】
ロマーリオとアベーレがマリアを探しに行った数十分後、ロマーリオとアベーレは再び沢田家のツナの部屋に戻っていた。
戻って来た二人の腕には、子供たちが抱きかかえられている。
ロマーリオの腕の中にはフゥ太が、アベーレの腕にはランボとイーピンがそれぞれ抱きかかえられていた。
泣くのを未だ必死に耐えながらも、フゥ太の瞳には溢れんばかりに涙を溜めていたが、醤油の入ったビニール袋を落とさないように持つ。
ランボに至っては泣きつかれたのか眠っていた。
「…子供達を見つけた時にはもう、お嬢はその場に居ませんでした」
アベーレの言葉に、ディーノはただ「そうか…」と呟く事しか出来なかった。
先程からしていた嫌な予感が現実のものになってしまったのだ…それ以上言葉が出ないがそれでも平静を装おうと必死に自分を落ち着かせる。
何よりロマーリオの腕に抱えられているフゥ太が「ごめんなさい…」と瞳いっぱいに涙を溜め謝っている姿を見れば、今は自分の事よりもフゥ太のケアが最優先だとディーノは思った。
マリアの事で責任を感じているのだろう、泣くのを我慢して必死に言葉を紡ごうとしているのだ。
「僕たちが居たから…だからマリア姉、僕たちの事庇って…自分から行っちゃった…」
「フゥ太達のせいじゃねぇーよ、だから泣くな」
「で、でもっ…」
「悪いのはどう考えてもマリアを連れて行った奴らじゃねぇーか?そんな中…よく頑張ったな、フゥ太」
「う…んっ…」
ディーノはそう言ってロマーリオの腕に抱きかかえられているフゥ太の頭をそっと撫でた。
マリアの様に上手く撫でれているのかはディーノには分からない。
それでもディーノはフゥ太を安心させるために頭を撫でる。
自分たちのせいでマリアが連れて行かれたと、この様子では責任感のあるフゥ太は思っているに違いない。
だが、マリアは連れて行かれたのは決してフゥ太達のせいではないのだ。
かと言って連れて行かれる前に合流できなかったロマーリオ達が悪いわけでもない。
(俺が油断したミス…だな)
連れて行った奴らが悪い事位ディーノだって理解している、だが油断した自分も悪いと思うのだ。
マリアに口酸っぱく言っていれば…「どこか行く時はちゃんと言えよ?」と、一言言っていればきっとこんな状況にはならなかったかもしれない。
過ぎた事を悔やんでも仕方ないのだ。
分かってはいても気持ちの整理をするのは今のディーノにとっては難しい物だった。
「取りあえず…フゥ太はマリアとお使い行ってたんだろ?ツナの母ちゃんに醤油届けなきゃな、ツナ達が美味いご飯食べれなくなっちまう」
「…うん」
「気にすんな、マリアなら絶対大丈夫だから」
にかっと笑えば、フゥ太もつられて涙をこぼしながらへにゃりと笑う。
ロマーリオに下ろしてもらえば、フゥ太はランボを背負い、イーピンがフゥ太の代わりに醤油を持てばとたとたと足音を立てながら一階へと降りて行く。
遠のく足音を聞きながら、ディーノは早々に口を開く。
「で、ロマーリオマリアを連れて行った連中の事は何か分かったのか?」
「あぁ…ついでにお嬢の家の周辺をうろついて奴らについても、トマゾから報告が上がってるぜボス」
「ゔお゙ぉい!!どこのどいつがマリアを連れて行ったんだ!!??」
「そうよ!勿体ぶらないで早く教えて頂戴?!」
スクアーロやルッスーリアもマリアの事が心配なため誰が連れて行ったのかと、ロマーリオの言葉を急かす。
リボーンは急かした所で仕方ないと思っているのか無言のまま、ロマーリオの言葉を待った。
静寂の中、ロマーリオは重い口を開く。
「お嬢は…ヴァルッセファミリーの連中に連れて行かれちまったようだ」
「ヴァルッセファミリー?」
初めて聞くファミリー名にディーノは首を傾げた。
ディーノ自身そんなファミリーの名を聞いた事も無ければ、マリアに接点があるマフィアの連中とも思えない。
リボーンもそのファミリーの名を耳にした事が無いのか「何だそのファミリーは?」と口にする。
「子供達もお嬢をヴァルッセファミリーに連れて行くって聞いたらしいから間違いねぇ。…お嬢の家の周辺をうろついて奴らも…そいつらだ」
「最近出来たファミリーのようなので…そこまで名は知られてません」
ロマーリオの言葉に続き、アベーレが補足する。
最近出来たファミリーならリボーンやディーノが知らなくても無理はない。
昔から存在するファミリーではないのだ…だがそんな中、スクアーロとルッスーリアだけはそのファミリーの名に聞き覚えがあるのかピクリと肩を揺らした。
「ヴァルッセファミリー…ヤクに人身売買、非人道的な事しかやらねぇー組織だったな」
最近出来たファミリーと先ほどアベーレが補足したにも関わらず、スクアーロの口から紡がれた言葉はあまりにも酷い物だった。
「元々の組織がブラックリストに入ってた組織だから、やることなす事全て汚いけどね」
「元々の組織?」
「ヴァルッセファミリーって二つの組織が合併して出来た組織なのよ。だから合併して名前を変えようが、元々ブラックリスト入りしてた組織だからそのままブラックリスト入り状態なのよねぇ~」
「あ゙ぁ、確か“シャタンファミリー”と“ヴァルメリオファミリー”が合併してたはずだ」
「それなら俺も聞いた事が有るぞ。どっちもボンゴレと敵対していたファミリーの奴らじゃねぇーか…特にヴァルメリオファミリーに至っては十年以上前からブラックリスト入りしてたはずだな」
スクアーロの言葉を聞いた瞬間、ディーノは目を大きく見開く。
自分の聞き間違いだろうかと耳を疑うが、先ほどから出る組織の名にディーノは虚しく「何で…」と呟く。
ディーノ自身元の組織である名前には聞き覚えがあった。
否、聞き覚えがあるで終わらせられるわけがない。
忘れられない…ディーノにとって聞きたくもないファミリーの名前だ。
ロマーリオの方へと視線を向ければ、ロマーリオはその事を知っていたのかただただディーノを見ていた。
「おい、ディーノどうしたんだ?」
ディーノとロマーリオのやり取りに、リボーンは訝し気にディーノの方へと視線を向けた。
その瞬間――――…
「っつ、ふざけんな!!!何で…何で今更ヴァルメリオファミリーがマリアに関わってくるんだよ!!!」
感情のまま、ディーノは声を荒げた。
普段のディーノは取り乱す事はあれど声を荒げる事は滅多にない。
先程までディーノ自身も落ち着かずにいたが、子供たちの前で何とか自分を落ち着かせようと自分の事を後回しにしていたはずなのに。
…それなのにヴァルメリオファミリーの名を聞くだけで酷く声を荒げ、ぎゅっと拳を握りしめる。
元生徒と言えどディーノの反応にリボーンは眉を顰めた。
リボーンとてキャバッローネ・ファミリー九代目からディーノを生徒として託され数年共に過ごしたがここまでディーノが声を超えを荒げる事が有ったとすれば、キャバッローネ・ファミリー九代目ボスが死んだ時位だ。
キャバッローネ・ファミリーの一員であるアベーレですら…そんなディーノの姿を今まで見た事が無いため困惑している。
(やっぱりそうなっちまうよな…ボスも…)
ただ一人、事前にトマゾから聞いていたロマーリオだけはそんなディーノを落ち着かせようと動く。
こうなる事を、ロマーリオもトマゾも予想しいた。
だからこそトマゾはディーノに報告するよりも先にロマーリオに報告したのだ。
「ボス、気持ちは分かるが落ち着け」
「っつ、落ち着けるわけねぇーだろ…ロマーリオっ…」
「ゔお゙ぉい!!跳ね馬、どういう事だぁ!」
だがそんなディーノとロマーリオの会話を遮るようにディーノの胸倉を掴み、スクアーロは吠える。
先程の会話で理解したのはディーノとロマーリオの二人だけなのだ。
何がどうなっているのか分からない状況。
ディーノの反応にスクアーロですら声をかけるのを躊躇した、だが事は一刻を争うのだ。
“何で今更ヴァルメリオファミリーがマリアに関わってくるんだよ”と言う言葉に、スクアーロはその言葉の意味に引っ掛かっているのだ。
その言葉はまるでマリアとブラックリスト入りしていたヴァルメリオファミリーとの間に何らかの関係があると言っているようにしか聞こえない。
「何でマリアがブラックリスト入りしているファミリーと関りがあるんだぁ!!!」
「――――…だからだよ…」
「ゔお゙ぉい!!跳ね馬!はっきり言いやがれ!!!」
ディーノの胸倉を掴んだまま、ディーノと距離が近いはずなのにそれでも聞き取れないほどぼそりと紡いだ言葉が分からず、スクアーロはけたたましい声を上げる。
青い瞳と鳶色の瞳が互いを写し視線が交われば、ディーノは再度言葉を紡いだ。
「…マリアが…ヴァルメリオファミリーのボス、アレッシオの…子供だからだよ…」
「…は?何言ってんだ跳ね馬…マリアは…一般人だろ…っ」
再度紡がれたディーノの言葉に、スクアーロは困惑する。
否、スクアーロだけではない。
その場に居たリボーンもルッスーリアも、アベーレもディーノの言葉に耳を疑った。
ただ一人、ロマーリオだけは知っているのか目を伏せていた。
「じゃあ何でマリアちゃんは一般人って言ってるのよ?それに…貴方達だってそれを認めてるじゃない?」
「正確には…アレッシオとマリアの間に血の繋がりはねぇーんだ…ただ、ヴァルメリオファミリーでマリアは生まれ育った」
「血の繋がりがねぇーのか…?」
「ちょっと複雑でな、マリアの母親…アリーチェさんは元々別の人と結婚する予定だったんだ。けど、アリーチェさんを見初めたアレッシオが自分の愛人にしたんだ…アリーチェさんの両親に金を払って、な」
だからこそディーノはスクアーロの疑問に対して「お前等だって知ってるだろ?」と言葉を続ける。
マフィアの子供は正妻以外は認められない、それ所かアレッシオとの血の繋がりもない。
ディーノの話からしてマリアはアリーチェと、もともと結婚する予定だった人との子供だろうと推測する。
アリーチェ自身もマフィアの人間ではない事を遠回しに言っているのだ。
その事を踏まえてマリアをマフィアと言う枠に当てはめる事が出来るかと言われれば、答えはノーでしかない。
「血が繋がってないのは勿論だが、アレッシオはアリーチェさん以外どうでも良かったんだ」
昔の事を思い出しながら、言葉を紡いでいく。
「一応マリアにも教育は受けさせていたみたいだが…部屋に閉じ込めて何十時間も勉強させてた、内容も子供が受けるレベルの教育じゃなかったしな…それでも間違えたり機嫌が悪かったら躾と称してマリアを叩く暴力をふるう事だってあった」
マリアと再会した後にマリア本人から聞いた話だ。
その時はショックだった。
マリアがそんな目に合っているとは知らずに…ディーノはただマリアと遊ぶ時間の事しか考えた事が無かったから。
幼かったのだ、仕方ないと言われても…それでもディーノはそんな自分が嫌だった。
何も知らなかった自分が、知ろうとしなかった無知な自分が―――…
「だから、アリーチェさんはそれが嫌でよくうちに…キャバッローネ・ファミリーにマリアを預けてたんだ。たまに頬を赤くしてうちに来る事もあったしな…マリアは転んだって嘘ついてたが、間違いなくアレッシオに叩かれた跡だった」
どうして嘘を付くのだろうと幼いディーノは思った。
転ぶことに関してはマリアよりもディーノの方がよくやらかしていたのだ、一目見てそれが転んで出来た跡でない事位幼いディーノですら気づく。
「何よそれ…」
「胸糞悪いな」
ディーノがぽつり、ぽつりと昔を思い出しながら話した言葉に、ルッスーリアもリボーンもマリアの生い立ちを知れば思わず思った言葉が口から紡がれる。
「…おい、マリアが一般人なのもヴァルメリオファミリーと関係があるのも分かった。けどよ、何で“今更”って言ったんだ?」
最後に残った疑問を、スクアーロはディーノに問う。
マリアがマフィアではなく一般人だと言う生い立ちは理解出来た。
だが血が繋がってなくても、表面上は親子と言う扱いであるならば“今更”と言う言葉はおかしい。
親子である以上、いくらマリアが独り立ちしていようが親子なら関わる事が有っても不思議ではないのだ。
その問いにディーノは言葉を続けようとするが、喉元に言葉がつっかかるのかなかなか言葉にすることが出来ない。
否、言葉にすることが出来ないよりも言葉にしたくないのだ。
(ごめんな…マリア…)
その場にマリアが居るわけではないのに、ディーノは心の中でマリアに謝った。
マリアが自分自身で言うのならまだしも、本人の許可なく言葉にする事にディーノは罪悪感を覚える。
状況が状況なのだ、仕方のない事ではあるがそれでも言葉にする事にディーノの胸は微かに痛む。
一度深く呼吸し、ディーノはゆっくりと口を開いた。
「…捨てたんだよ」
「…は?」
数分してようやくディーノはポツリと呟いた。
その言葉が酷く重く、やはり自分で発した言葉ではあるものの言葉にしただけで反吐が出る。
アベーレはその言葉に息をのむ。
スクアーロですらその言葉に目を見開いているのだ。
「あいつは…アレッシオはアリーチェさんが死んだ時に、マリアを捨てたんだ…」
ディーノの声だけが静寂の中に消えて行った――――…
2024/10/12
ロマーリオとアベーレがマリアを探しに行った数十分後、ロマーリオとアベーレは再び沢田家のツナの部屋に戻っていた。
戻って来た二人の腕には、子供たちが抱きかかえられている。
ロマーリオの腕の中にはフゥ太が、アベーレの腕にはランボとイーピンがそれぞれ抱きかかえられていた。
泣くのを未だ必死に耐えながらも、フゥ太の瞳には溢れんばかりに涙を溜めていたが、醤油の入ったビニール袋を落とさないように持つ。
ランボに至っては泣きつかれたのか眠っていた。
「…子供達を見つけた時にはもう、お嬢はその場に居ませんでした」
アベーレの言葉に、ディーノはただ「そうか…」と呟く事しか出来なかった。
先程からしていた嫌な予感が現実のものになってしまったのだ…それ以上言葉が出ないがそれでも平静を装おうと必死に自分を落ち着かせる。
何よりロマーリオの腕に抱えられているフゥ太が「ごめんなさい…」と瞳いっぱいに涙を溜め謝っている姿を見れば、今は自分の事よりもフゥ太のケアが最優先だとディーノは思った。
マリアの事で責任を感じているのだろう、泣くのを我慢して必死に言葉を紡ごうとしているのだ。
「僕たちが居たから…だからマリア姉、僕たちの事庇って…自分から行っちゃった…」
「フゥ太達のせいじゃねぇーよ、だから泣くな」
「で、でもっ…」
「悪いのはどう考えてもマリアを連れて行った奴らじゃねぇーか?そんな中…よく頑張ったな、フゥ太」
「う…んっ…」
ディーノはそう言ってロマーリオの腕に抱きかかえられているフゥ太の頭をそっと撫でた。
マリアの様に上手く撫でれているのかはディーノには分からない。
それでもディーノはフゥ太を安心させるために頭を撫でる。
自分たちのせいでマリアが連れて行かれたと、この様子では責任感のあるフゥ太は思っているに違いない。
だが、マリアは連れて行かれたのは決してフゥ太達のせいではないのだ。
かと言って連れて行かれる前に合流できなかったロマーリオ達が悪いわけでもない。
(俺が油断したミス…だな)
連れて行った奴らが悪い事位ディーノだって理解している、だが油断した自分も悪いと思うのだ。
マリアに口酸っぱく言っていれば…「どこか行く時はちゃんと言えよ?」と、一言言っていればきっとこんな状況にはならなかったかもしれない。
過ぎた事を悔やんでも仕方ないのだ。
分かってはいても気持ちの整理をするのは今のディーノにとっては難しい物だった。
「取りあえず…フゥ太はマリアとお使い行ってたんだろ?ツナの母ちゃんに醤油届けなきゃな、ツナ達が美味いご飯食べれなくなっちまう」
「…うん」
「気にすんな、マリアなら絶対大丈夫だから」
にかっと笑えば、フゥ太もつられて涙をこぼしながらへにゃりと笑う。
ロマーリオに下ろしてもらえば、フゥ太はランボを背負い、イーピンがフゥ太の代わりに醤油を持てばとたとたと足音を立てながら一階へと降りて行く。
遠のく足音を聞きながら、ディーノは早々に口を開く。
「で、ロマーリオマリアを連れて行った連中の事は何か分かったのか?」
「あぁ…ついでにお嬢の家の周辺をうろついて奴らについても、トマゾから報告が上がってるぜボス」
「ゔお゙ぉい!!どこのどいつがマリアを連れて行ったんだ!!??」
「そうよ!勿体ぶらないで早く教えて頂戴?!」
スクアーロやルッスーリアもマリアの事が心配なため誰が連れて行ったのかと、ロマーリオの言葉を急かす。
リボーンは急かした所で仕方ないと思っているのか無言のまま、ロマーリオの言葉を待った。
静寂の中、ロマーリオは重い口を開く。
「お嬢は…ヴァルッセファミリーの連中に連れて行かれちまったようだ」
「ヴァルッセファミリー?」
初めて聞くファミリー名にディーノは首を傾げた。
ディーノ自身そんなファミリーの名を聞いた事も無ければ、マリアに接点があるマフィアの連中とも思えない。
リボーンもそのファミリーの名を耳にした事が無いのか「何だそのファミリーは?」と口にする。
「子供達もお嬢をヴァルッセファミリーに連れて行くって聞いたらしいから間違いねぇ。…お嬢の家の周辺をうろついて奴らも…そいつらだ」
「最近出来たファミリーのようなので…そこまで名は知られてません」
ロマーリオの言葉に続き、アベーレが補足する。
最近出来たファミリーならリボーンやディーノが知らなくても無理はない。
昔から存在するファミリーではないのだ…だがそんな中、スクアーロとルッスーリアだけはそのファミリーの名に聞き覚えがあるのかピクリと肩を揺らした。
「ヴァルッセファミリー…ヤクに人身売買、非人道的な事しかやらねぇー組織だったな」
最近出来たファミリーと先ほどアベーレが補足したにも関わらず、スクアーロの口から紡がれた言葉はあまりにも酷い物だった。
「元々の組織がブラックリストに入ってた組織だから、やることなす事全て汚いけどね」
「元々の組織?」
「ヴァルッセファミリーって二つの組織が合併して出来た組織なのよ。だから合併して名前を変えようが、元々ブラックリスト入りしてた組織だからそのままブラックリスト入り状態なのよねぇ~」
「あ゙ぁ、確か“シャタンファミリー”と“ヴァルメリオファミリー”が合併してたはずだ」
「それなら俺も聞いた事が有るぞ。どっちもボンゴレと敵対していたファミリーの奴らじゃねぇーか…特にヴァルメリオファミリーに至っては十年以上前からブラックリスト入りしてたはずだな」
スクアーロの言葉を聞いた瞬間、ディーノは目を大きく見開く。
自分の聞き間違いだろうかと耳を疑うが、先ほどから出る組織の名にディーノは虚しく「何で…」と呟く。
ディーノ自身元の組織である名前には聞き覚えがあった。
否、聞き覚えがあるで終わらせられるわけがない。
忘れられない…ディーノにとって聞きたくもないファミリーの名前だ。
ロマーリオの方へと視線を向ければ、ロマーリオはその事を知っていたのかただただディーノを見ていた。
「おい、ディーノどうしたんだ?」
ディーノとロマーリオのやり取りに、リボーンは訝し気にディーノの方へと視線を向けた。
その瞬間――――…
「っつ、ふざけんな!!!何で…何で今更ヴァルメリオファミリーがマリアに関わってくるんだよ!!!」
感情のまま、ディーノは声を荒げた。
普段のディーノは取り乱す事はあれど声を荒げる事は滅多にない。
先程までディーノ自身も落ち着かずにいたが、子供たちの前で何とか自分を落ち着かせようと自分の事を後回しにしていたはずなのに。
…それなのにヴァルメリオファミリーの名を聞くだけで酷く声を荒げ、ぎゅっと拳を握りしめる。
元生徒と言えどディーノの反応にリボーンは眉を顰めた。
リボーンとてキャバッローネ・ファミリー九代目からディーノを生徒として託され数年共に過ごしたがここまでディーノが声を超えを荒げる事が有ったとすれば、キャバッローネ・ファミリー九代目ボスが死んだ時位だ。
キャバッローネ・ファミリーの一員であるアベーレですら…そんなディーノの姿を今まで見た事が無いため困惑している。
(やっぱりそうなっちまうよな…ボスも…)
ただ一人、事前にトマゾから聞いていたロマーリオだけはそんなディーノを落ち着かせようと動く。
こうなる事を、ロマーリオもトマゾも予想しいた。
だからこそトマゾはディーノに報告するよりも先にロマーリオに報告したのだ。
「ボス、気持ちは分かるが落ち着け」
「っつ、落ち着けるわけねぇーだろ…ロマーリオっ…」
「ゔお゙ぉい!!跳ね馬、どういう事だぁ!」
だがそんなディーノとロマーリオの会話を遮るようにディーノの胸倉を掴み、スクアーロは吠える。
先程の会話で理解したのはディーノとロマーリオの二人だけなのだ。
何がどうなっているのか分からない状況。
ディーノの反応にスクアーロですら声をかけるのを躊躇した、だが事は一刻を争うのだ。
“何で今更ヴァルメリオファミリーがマリアに関わってくるんだよ”と言う言葉に、スクアーロはその言葉の意味に引っ掛かっているのだ。
その言葉はまるでマリアとブラックリスト入りしていたヴァルメリオファミリーとの間に何らかの関係があると言っているようにしか聞こえない。
「何でマリアがブラックリスト入りしているファミリーと関りがあるんだぁ!!!」
「――――…だからだよ…」
「ゔお゙ぉい!!跳ね馬!はっきり言いやがれ!!!」
ディーノの胸倉を掴んだまま、ディーノと距離が近いはずなのにそれでも聞き取れないほどぼそりと紡いだ言葉が分からず、スクアーロはけたたましい声を上げる。
青い瞳と鳶色の瞳が互いを写し視線が交われば、ディーノは再度言葉を紡いだ。
「…マリアが…ヴァルメリオファミリーのボス、アレッシオの…子供だからだよ…」
「…は?何言ってんだ跳ね馬…マリアは…一般人だろ…っ」
再度紡がれたディーノの言葉に、スクアーロは困惑する。
否、スクアーロだけではない。
その場に居たリボーンもルッスーリアも、アベーレもディーノの言葉に耳を疑った。
ただ一人、ロマーリオだけは知っているのか目を伏せていた。
「じゃあ何でマリアちゃんは一般人って言ってるのよ?それに…貴方達だってそれを認めてるじゃない?」
「正確には…アレッシオとマリアの間に血の繋がりはねぇーんだ…ただ、ヴァルメリオファミリーでマリアは生まれ育った」
「血の繋がりがねぇーのか…?」
「ちょっと複雑でな、マリアの母親…アリーチェさんは元々別の人と結婚する予定だったんだ。けど、アリーチェさんを見初めたアレッシオが自分の愛人にしたんだ…アリーチェさんの両親に金を払って、な」
だからこそディーノはスクアーロの疑問に対して「お前等だって知ってるだろ?」と言葉を続ける。
マフィアの子供は正妻以外は認められない、それ所かアレッシオとの血の繋がりもない。
ディーノの話からしてマリアはアリーチェと、もともと結婚する予定だった人との子供だろうと推測する。
アリーチェ自身もマフィアの人間ではない事を遠回しに言っているのだ。
その事を踏まえてマリアをマフィアと言う枠に当てはめる事が出来るかと言われれば、答えはノーでしかない。
「血が繋がってないのは勿論だが、アレッシオはアリーチェさん以外どうでも良かったんだ」
昔の事を思い出しながら、言葉を紡いでいく。
「一応マリアにも教育は受けさせていたみたいだが…部屋に閉じ込めて何十時間も勉強させてた、内容も子供が受けるレベルの教育じゃなかったしな…それでも間違えたり機嫌が悪かったら躾と称してマリアを叩く暴力をふるう事だってあった」
マリアと再会した後にマリア本人から聞いた話だ。
その時はショックだった。
マリアがそんな目に合っているとは知らずに…ディーノはただマリアと遊ぶ時間の事しか考えた事が無かったから。
幼かったのだ、仕方ないと言われても…それでもディーノはそんな自分が嫌だった。
何も知らなかった自分が、知ろうとしなかった無知な自分が―――…
「だから、アリーチェさんはそれが嫌でよくうちに…キャバッローネ・ファミリーにマリアを預けてたんだ。たまに頬を赤くしてうちに来る事もあったしな…マリアは転んだって嘘ついてたが、間違いなくアレッシオに叩かれた跡だった」
どうして嘘を付くのだろうと幼いディーノは思った。
転ぶことに関してはマリアよりもディーノの方がよくやらかしていたのだ、一目見てそれが転んで出来た跡でない事位幼いディーノですら気づく。
「何よそれ…」
「胸糞悪いな」
ディーノがぽつり、ぽつりと昔を思い出しながら話した言葉に、ルッスーリアもリボーンもマリアの生い立ちを知れば思わず思った言葉が口から紡がれる。
「…おい、マリアが一般人なのもヴァルメリオファミリーと関係があるのも分かった。けどよ、何で“今更”って言ったんだ?」
最後に残った疑問を、スクアーロはディーノに問う。
マリアがマフィアではなく一般人だと言う生い立ちは理解出来た。
だが血が繋がってなくても、表面上は親子と言う扱いであるならば“今更”と言う言葉はおかしい。
親子である以上、いくらマリアが独り立ちしていようが親子なら関わる事が有っても不思議ではないのだ。
その問いにディーノは言葉を続けようとするが、喉元に言葉がつっかかるのかなかなか言葉にすることが出来ない。
否、言葉にすることが出来ないよりも言葉にしたくないのだ。
(ごめんな…マリア…)
その場にマリアが居るわけではないのに、ディーノは心の中でマリアに謝った。
マリアが自分自身で言うのならまだしも、本人の許可なく言葉にする事にディーノは罪悪感を覚える。
状況が状況なのだ、仕方のない事ではあるがそれでも言葉にする事にディーノの胸は微かに痛む。
一度深く呼吸し、ディーノはゆっくりと口を開いた。
「…捨てたんだよ」
「…は?」
数分してようやくディーノはポツリと呟いた。
その言葉が酷く重く、やはり自分で発した言葉ではあるものの言葉にしただけで反吐が出る。
アベーレはその言葉に息をのむ。
スクアーロですらその言葉に目を見開いているのだ。
「あいつは…アレッシオはアリーチェさんが死んだ時に、マリアを捨てたんだ…」
ディーノの声だけが静寂の中に消えて行った――――…
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