不器用な恋
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「何でとはおかしなことを言うな?私はただ娘を迎えに来ただけだ」
『娘…ね。一度もあたしの事そんな風に見てなかったくせに、どの口が言ってるのよ』
深呼吸をし、フゥ太達を隠すようにマリアはアレッシオの前に立つ。
先程の困惑したような表情ではなく、ただ無表情でマリアはアレッシオを見た。
狙いはマリアだと言う事は一目瞭然だ、関係のないフゥ太達を巻き込むわけにはいかない。
だが泣きじゃくるランボの声が耳障りだったのだろう。
懐から銃を取り出せば「うるさい」と言わんばかりにランボの居る足元を狙って撃つ。
地面に食い込む弾丸を目の当たりにすれば…ランボはぐっと唇を噛み締め泣くのを我慢する。
『…関係ない子供達にまで手を出さないで貰える?』
「うるさいのだから仕方がないだろう」
子供相手だと言うのにアレッシオは手加減もせず銃を撃つ。
女だろうが子供だろうが、アレッシオは容赦はしない。
自分の都合で動き、自分が良ければそれでいい人間なのだ。
『アンタは…何時だってそう、何時だって自分の事し考えてなくて…最後の最後まで、ママンの事しか見えてなかったわよね…』
「……」
無言は肯定だ。
マリアが言ったように、アレッシオはマリアの母親であるアリーチェしかその目に写していなかった。
幼いながらにも、アレッシオと言う人間が歪んだ人間だと言う事をマリアは言葉にはしなかったが思っていた。
幼い頃から溜め込んでいたアレッシオに対する言葉が、アレッシオを目の前にすると止まらずマリアは言葉を続ける。
『…ママンが死んだのだって、元をただせばアンタが…』
“原因じゃない”と言葉を紡ごうとした瞬間。
―――バシッ
「口のきき方には気を付けたまえ」
乾いた音と共にマリアの頬に痛みが走る。
銃を持っていない反対側の手で、マリアはアレッシオに叩かれたのだ。
そっと叩かれた頬に手を添えれば、マリアは無表情のままアレッシオを見る。
娘とその口で言えど、ピクリとも表情が動かずただただマリアを無表情で見るアレッシオ。
(そう言えば昔もこんな風に叩かれたっけ…)
頬に走る痛みと共に、幼い頃の記憶が蘇る。
勉強も出来ず、身体も弱く、直ぐに体調を崩してしまうそんなマリアを何時も鬱陶しそうにアレッシオはマリアを見下ろしていた。
その度に母親であるアリーチェがマリアを庇い、親友であるディーノの母親に預けていたのだ。
家に居ればマリアはアリーチェが居ない部屋で家庭教師に罵られながら何十時間と問題をただひたすら解かされる。
まだ幼いマリアが解く問題のレベルではない、大人が解く事ですら頭を悩ますような問題を解き間違えれば何度も使えないと言われていた。
家庭教師からマリアの勉強の出来の悪さを聞けば「使えんな」と吐き捨ててはマリアの自尊心を奪っていく。
機嫌が悪ければマリアの頬を叩き躾だと言わんばかりに振舞い、先程の様に気に食わなければ手をあげる所も全く変わっていない。
あの頃はまだ何も知らず、ただただそんなダメダメな自分だからこそアレッシオはそんな風にマリアに接するのだと思っていた。
父親らしいことなんて何一つされた事はない、名ばかりの父親と言う認識だったがそれでも…何処かでアレッシオが望むマリアになればマリアの事を認めてくれると…心の何処かで思っていた。
どれだけ罵られようが、躾と言う暴力を振るわれようが…ちゃんといい子に出来たらマリアを娘と認めて貰えるに違いないと―――…
「マリア、お前にはヴァルッセファミリーに戻ってきてもらうよ」
『…ヴァルッセファミリー…?』
聞き覚えのないマフィアのファミリー名に、マリアはじっとアレッシオを睨んだまま呟いた。
初めて聞くマフィアのファミリー名であり、アレッシオのファミリー名は別の名だったはずなのにと…マリアは疑念を抱く。
そんなマリアを無視して、アレッシオは言葉を続けた。
「幸いにも、お前に言う事をきかせる方法ならいくらでもあるからな」
そう言ってアレッシオはマリアの後ろに居る子供達へと視線を向ける。
言う事をきかなければ手段を選ばない…昔からアレッシオがそんな人間だと言う事をマリアは身をもって知っているのだ。
だからこそアレッシオが子供達に手を出さないように、こうしてマリアが立ちはばかっている。
『子供達には手を出さないって、アンタが約束を守ってくれるなら…アンタの迎えに乗ってあげる』
「ふん、ガキ共に興味などないのだよ」
吐き捨てるように言えばアレッシオは冷たい目でマリアを見る。
その言葉が肯定であるとそうマリアが理解するのに時間はかからなかった。
ゆっくりと振り向きフゥ太の近くまで歩けば、マリアはしゃがみ込む。
察しのいいフゥ太はマリアが言わんとしている事が分かってしまったが、それでも不安そうに潤んだ瞳でマリアを自身の瞳に写す。
心配そうに「マリア姉…頬大丈夫…?」と問うフゥ太の優しさに、マリアは微笑んだ。
フゥ太と同じ目線に合わせては持っていた醤油が入っているビニール袋をフゥ太に渡す。
『大丈夫よ…いい、フゥ太?お醤油ツナのママンに届けてくれる?』
「で、でも…」
『これが無いとツナ達ママンの美味しいご飯食べれないからね?後この携帯も…ディーノに渡しておいてもらっていい?』
マリアはそう言って白衣の懐にしまっていた青色の携帯を取り出してフゥ太の目の前に差し出す。
普段使っている携帯の色は赤だったと記憶しているフゥ太は差し出された携帯をおずおずと受け取りながら「う…うんっ…」と頷く。
『いい子ね、約束よ?』
「僕ちゃんとディーノ兄にこの携帯渡すね」
ぎゅっとマリアの青色の携帯を握りしめ、醤油が入っているビニール袋がガサリと音を立てた。
フゥ太のその言葉を聞き、マリアは泣くのを必死に耐えるランボとそのランボの頭を撫でるイーピンを見てぎゅっと唇を噛みしめ立ち上がる。
「別れはすんだか?」
『見れば分かるでしょ』
反抗的な発言をするものの、アレッシオはそんなマリアの発言を気にせず変わらず冷たい目でマリアを見る。
何を考えているのかも分からないその瞳をマリアは臆する事無くじっと睨みつけた。
「行くぞ」
一台の黒塗りの車がアレッシオの前に止まればゆっくりと後部座席のリヤドアが開かれる。
促されるままマリアが後部座席に乗れば続いてアレッシオも後部座席へと乗り込んだ。
その場に取り残された子供達にアレッシオは見向きもせず、無慈悲にもドアの閉まり車が去って行く音だけが辺りに響いた――――…
2024/10/09
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