不器用な恋
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「困ったわねぇ…」
『あれ、どうしたの?ツナのママン?』
お茶を貰いに台所を覗けば、奈々がどうしようと言わんばかりに目の前の鍋を見ていた。
奈々の後ろから鍋を覗き込めば、そこにはに人参やじゃがいも、玉ねぎに牛肉が鍋の中で煮込まれている。
具材からしてカレーやシチューだろうかと想像するがこの段階では味付けさえ変えてしまえばいろいろな料理に化けるためマリアは確信が持てずに鍋の中身を見る。
少し早いが、どうやら奈々はお昼ご飯の準備をしている真っ最中の様だ。
「あら、マリアちゃんどうしたの?」
『お茶貰おうと思って…』
そうマリアが言えば奈々は「ちょっと待っててね~」と言い、コップを取り出せば冷蔵庫に入っている麦茶を注いでマリアに渡す。
『ありがとうございます』と、言いながらコップを受け取ればひんやりとした冷たさがマリアの手に伝わる。
一口飲めば冷たい麦茶がマリアの喉を潤し、普段飲まない麦茶を味わいながらもう一度奈々に言葉を紡いだ。
『で、どうしたの?さっきから悩んでるみたいだけど?』
「実はお昼ご飯に肉じゃが作ろうと思ったんだけどお醤油切らしちゃってるみたいで…」
どうやら奈々はマリアが予想したシチューでもカレーでもなく、日本の煮込み料理である肉じゃがを作るようだ。
料理の本で昔読んだことがあるマリアは、肉じゃがとは「おふくろの味」と書かれていた事を思い出す。
レシピ自体は知っているのだが、如何せんマリアは作った事も食べた事もない日本料理だ。
『あたし買ってこようか?』
「え、でも…」
『どうせツナ達帰ってくるまでに時間があるし、ツナのママンはまだご飯の準備中…でしょ?』
そう言いながら鍋以外に目を向ければ肉じゃが以外にもまだ何か作る予定なのだろう。
肉じゃがに使わない食材が置かれているのを見ればマリアからすれば一目瞭然だ。
頻繁に料理をするわけではないのだが、マリアも昔はよく料理をしていたのだ。
出されている材料を見ればマリアにだって分かる。
ツナ達が帰ってくる時間帯に合わせて奈々の美味しいお昼ご飯の準備をしているのだ。
奈々が醤油を買いに行けば…その分時間のロスになってしまう。
養親であるフィネスとのご飯を作っている最中、たまに調味料を切らす事がマリアにもあった。
その時はフィネスが「散歩のついでに買って来る」と、よくマリアに言っていたのをマリアは思い出す。
食事の準備をしている人が買いに行くよりも、それ以外の人が買いに行く方が効率だっていいのだ。
だからこそマリアは自分が行こうかと奈々に提案する。
奈々はちらっと台所に出している食材を見てもう一度マリアの方に視線を向ければ「お願いしても良い…?」とマリアに問う。
『勿論』
奈々にはご飯を作ってもらったり勉強中の差し入れなどお世話になっていたのだ。
何か恩返しでも出来れば…と思っていたマリアにとっては好都合である。
奈々から財布を渡され、「お願いね~、マリアちゃん」と言われればマリアも笑顔で台所を出て玄関に向かう。
向かう最中に階段を見ればディーノ達には醤油を買いに行く事を言っていない事を思い出し、足を止める。
普段ならマリアも言うのだが、今回は醤油だけ買いに行くのだ、それほど時間はかからないだろう。
(ディーノ達には別に言わなくてもいっか、どうせお醤油買ったらすぐ戻るし)
玄関で靴を履き、そんな事を思っていると不意にマリアの白衣の裾を誰かが引っ張る。
振り向いてみるがマリアの視線の先には誰も居ないが、未だに誰かが裾を引っ張っている。
視線を下ろしてみれば、そこには沢田家に居候しているフゥ太の姿がマリアの瞳に写る。
あくまでもツナの家庭教師としてツナの家に訪れていたが、時折時間があればフゥ太とも遊んでいたのだ。
長くは遊んでいなかったが何故か懐かれてしまい「マリア姉!」と言ってはよくマリアに甘えてくれる。
そんなフゥ太がマリアには、地元の食堂で分からない所を聞いてくる子供達と重なるのでついつい甘やかしてしまう。
『?どうしたのフゥ太?』
「ねぇ、僕もマリア姉と一緒に行っても良い…?」
子犬のような潤んだ瞳でマリアを上目遣いで見上げている。
確信犯なのか、それとも素でやっているのかマリアには判断が難しいが一緒に行きたいと言われればマリアが拒否する理由もない。
それに明日には並盛科学博物館に行ってその帰りに沢田家に挨拶をすればマリアはイタリアに帰る予定だ。
折角フゥ太とも仲良くなったのだ、フゥ太と一緒にお買い物に行くのもマリアにとっていい思い出になる。
『いいよ、フゥ太。一緒にいこっかお買い物』
その言葉を聞くとフゥ太は嬉しそうにマリアに抱き着き「ありがとうマリア姉!」と甘える。
甘えるフゥ太が可愛くてマリアはついついフゥ太の頭を撫でると、フゥ太は笑顔のまま靴を履く。
「ランボさんも!ランボさんもお買い物行くもんね~!」
「#$%*+#@%$!」
フゥ太に続き、沢田家に居候している子供たちが自分もと言わんばかりにマリアに集まる。
先程のフゥ太と同様にマリアの白衣の裾を掴んでは「行きたい!行きたい!」とランボは特に駄々をこねていた。
こうなってしまったらフゥ太だけ連れて行くと言ってもランボやイーピンは納得しないだろう。
一人増えるのも二人増えるのも結局は一緒なのだ。
『はいはい、じゃあ皆で行くわよ』
「やったー!」
「&▼*#◇&#!」
先程スーパーにお菓子やジュースを買いに行っていたのだ、ポケットの中にはマリア自身の財布も入っている。
お買い物を手伝ってくれるのだからお菓子の一つくらいは買ってあげようと思いながら、マリアはフゥ太とランボ、イーピンと共に玄関を出ていった。
歩いて数十分の所にあるスーパーで奈々に頼まれたお醤油を買い帰路に着く。
「オレっちのお菓子が一番おいしいもんねー!」
「*#$×&〇#!」
フゥ太やランボ、イーピンの三人はマリアにお菓子を買ってもらったのか嬉しそうにはしゃぎながら歩いている。
そんな子供達を見ながら、マリアは微笑む。
手には醤油の入ったビニール袋が提げられ、マリアが歩く度に前後にビニール袋が揺れ動く。
反対の手はフゥ太と手を繋いでおり、フゥ太に歩幅を合わせながらマリアはゆっくりと歩いている。
「お菓子ありがとう、マリア姉!」
『お使い手伝ってくれたから気にしないで』
嬉しそうに笑うフゥ太にマリアもつられて笑いかける。
「こら、ランボ~!ちゃんと前見なきゃぶつかっちゃうよ!」
子供たちの中でフゥ太が一番年上なのだ。
兄的ポジションにいるせいか、発言もランボやイーピン達とは違いほんの少し大人びている。
「ランボさんそんなヘマしないもんね~!!!」
だがフゥ太の忠告など気にせず、前を向いて走っていたランボは曲がり角を曲がろうとした瞬間、「ぐぴゃあっ!」と何かにぶつかり尻もちをついた。
フゥ太は言わんこっちゃないとでも言いたそうな表情で「だから言ったのに」とマリアと手を繋いだまま呟く。
尻もちをついたランボに近寄ろうとするが、その瞬間ドガッと音を立てランボが蹴られたのが目に入る。
一瞬何が起きたのか分からないマリアとフゥ太。
イーピンは慌ててランボにかける寄るのを見れば、マリアも我に返りフゥ太の手を引いたままランボに近寄る。
『大丈夫?!ランボ……っつ!』
蹴られて横たわるランボを抱き起してみるものの、ランボは「が・ま・ん…うわぁぁぁぁああん!!!」と泣きじゃくる。
泣きじゃくるランボを撫で宥めようとするが「……これだからガキは好かん…」と言う誰かが発した言葉にその手は無意識のうちに動かない。
マリアにとって聞き覚えのある声のせいか、身体は反射的に強張る。
見たくないと自分に言い聞かせようとするが言葉とはうらはらに、マリアは恐る恐るランボを蹴った人物へと視線を向けた。
黒いスーツに身を包み、歳は四十後半だろうか?声色からして性別は男だ。
逆光のせいで顔までは見えなかったが、その男がゆったりとした足取りでマリアの居る方へと近づく。
カツン、カツンと男の靴が音を立てるがそれと同時に、マリアの脳は警鐘を鳴らす。
『…何で…』
男が近づく度に、マリアの心臓はうるさい位脈を打ち、“逃げろ”と言わんばかりに警鐘を鳴らしているのにマリアの身体はその場から動かない。
ゆっくり男が近づいてくれば、逆光で見えなかった男の顔がはっきりとマリアの目に映りだす。
「まさか、イタリアではなくこんな所に居たとはな」
前髪は短く、オールバックに整えられたスレートグレイ色の髪は所々白髪が目立つ。
無精髭…と言うわけではないのだが、それに近い形で顎鬚が整えられている。
記憶の中にある男とは違い、目元にも皺が刻まれおりそれだけ歳を重ねた事を実感する。
だが記憶の中に居る男と同じ所があるとすれば、マリアを見る目付きだけは何年経とうが変わっていない。
(嘘だ…嘘だっ…どうして、どうしてこんな所に…)
カツン、カツンと男が近づく。
青ざめた顔のままマリアは男から視線が離せず、ただ何度も『…何で…どうして…』と無意識に呟く。
心配そうにフゥ太が「…マリア姉?」と声をかけるも、今のマリアには聞こえなかった。
「やっと見つけたよ、マリア」
『何で…何でアンタが此処に居るのよ…アレッシオ』
喉から押し出すようにマリアは口に出したくもない名をマリアは紡いだ。
名ばかりの父親であり、マリアを捨てた男の名を―――…
2024/10/08
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