不器用な恋
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『今から時間計って小テスト解いてもらうから準備して~』
そう言いながらマリアはツナのベッドの上に座り、自分の赤い携帯を白衣のポケットから取り出した。
時間を設定し、タイマーをかければ後はボタンを押すだけだ。
テスト初日を終え、残すは二日目にある数学と理科のみ。
マリアにとっても、これがツナに教える最後の家庭教師の日だ。
前半はツナに教えながら問題を解かしていたが、後半は本番と同じような形式でマリアが問題を作りそれを解いてもらう。
何時もの様に勉強机の方にツナ、ローテーブルの方には獄寺と山本、そしてディーノが座っている。
「なぁ、マリア」
不意にディーノに名前を呼ばれ、マリアはディーノの方へと視線を向ける。
視線の先にはディーノが目をぱちくりとさせながら“どういう事だ?”と言わんばかりの表情でマリアの方を見た。
『何よディーノ?』
「…何で俺もツナ達と一緒に問題解く側なんだ…?」
そう、ディーノの目の前にはマリアが作った数学と理科の問題用紙が置かれている。
ここ数日ディーノは教える側の立場としてツナ達の勉強会に参加していたが、何故今目の前にツナ達が解く予定の問題用紙があるのか不思議でならない。
勿論マリアはツナ達それぞれの理解度によって作った問題用紙を配ったのだ。
ディーノ向けに作られた問題でない事は十分承知理解している。
獄寺や山本の問題用紙の内容とは違っていたが、勉強机に座っているツナの問題用紙とは内容が全く一緒だった。
『だって今日やる科目は別にディーノが教える必要がないし?』
マリアはそう言って今日ツナの部屋で勉強しているメンバーを見渡した。
ツナに教えるのはマリアの役目だ、そこは相手がディーノだろうがリボーンから頼まれたため譲る気は更々ない。
かと言って獄寺と山本に教えると言う事も本日は厳しいだろう。
数学に関しては獄寺は得意科目であり、山本に関してもそれなりに点数は取れており、理科に関しては今回暗記科目なためディーノが教えると言う事は難しい。
「教える必要がないにしろ何で俺も問題解く事になってんだよ?!」
「昨日の国語が酷かったからな、俺がマリアに頼んでディーノにもツナと同じ問題でいいから用意してくれって頼んでおいたんだぞ」
ひょいっとマリアの膝の上に乗りながらリボーンはディーノににっと笑う。
「俺とマリアが教えた事位何年経っても勿論ディーノは覚えてるよな?」
「そ、そりゃ覚えてるぜ…多分」
「ディーノだけ解き間違えたらもれなくマリアがハリセンで叩く予定だから気を引き締めて取り掛かれよ」
「は?!お、おいリボーン?!そんな所まで再現しなくてもっ?!」
『はい、ディーノうるさい。じゃあ始め』
ディーノが物申そうとするのをマリアは遮り、セットしているボタンを押し時間を測り始めた。
数時間後、時間になれば問題用紙を集めマリアは採点をしていく。
獄寺と山本の二人は問題なく、多少間違っている箇所があれどそれでも九十点は取れていた。
ツナに関しては理科は七十五点を取れているが、数学に関してはやはりまだ低いと言えど、これまで受けて来たテストに比べればはるかにいいレベルだ。
一週間と言う付け焼刃な勉強だったと言えど、それでも最初の頃よりかは遥かに分かってきているなと問題用紙を見ながらマリアは口元をほころばす。
「ディーノの方はどうだ?」
『ん~…数学は満点だけど理科の方がちょっと惜しかったわね』
キュッと、音を立て赤ペンで採点をし終えればマリアはまじまじと問題用紙を見る。
普段マリアやリボーンからへなちょこと呼ばれる事はあれど、キャバッローネ・ファミリーの財務状況を立て直すほどの腕を持つのだ。
数学に関しては数字にだって強く、当然と言えば当然の結果だろう。
理科に関しても申し分ないと言えば申し分ないのだが、文章を何問かをややこしい言い回しにしていた所が見事に引っ掛かっている。
現役の学生時代から既に七年も経っており、問題を解く前に教科書を見るなどの行為をしていないのだ。
にもかかわらず間違えていると言えど、普通の言い回しをしていたら合っていたのだからマリアからすれば及第点である。
「くっそ~、引っ掛け問題ばっか間違ってるじゃねぇーか…」
「全くだ。まぁ、ツナにもそれは言えるけどな」
「うぅ…」
仲良く同じ所に引っ掛かったツナも、リボーンの言葉にダメージを受ける。
とんだ飛び火だ、とマリアは思うがある意味でリボーンの生徒同士仲が良いとも言えなくもない。
問題を解いた皆にマリアは問題を返していると、「皆~、ご飯で来たわよ~」と1階から奈々の声が聞こえた。
その声に嬉々として「飯だ飯だ」とマリアの膝の上から飛び降り、リボーンはいそいそと一階へ降りて行く。
「リボーン、自分で飲んだカップ位ついでに持って行けよ!」
「あ、待ってください十代目!」
「ツナの母ちゃんの飯美味いから何時も楽しみなんだよな」
各々そんな事を言いながら四人が出て行けば、先ほどまで賑やかだった室内はしんと静まり返り、マリアとディーノだけが取り残される。
時刻を見ればいつの間にか十八時半だ。
お昼ご飯を食べ終わってから小休憩を挟んでいたとはいえほぼぶっ通しで勉強をしていたのだ、お腹も当然空く。
「…相変わらずだな、リボーンは」
『ツナのママンのご飯美味しいからしょうがないわよ』
苦笑しながらツナ達が出て行った部屋の扉を見ればマリアも立ち上がりゆったりとした足取りでディーノの傍まで歩く。
「まぁ、美味いのは同意するけど…俺は早くマリアの作ったご飯が食いてぇ」
『…帰ってからちゃんと作ってあげるわよ』
ディーノからの言葉に不意打ちを喰らい、思わずマリアは頬が赤く染まる。
そんな風に言ってもらえるのはマリアにとっても嬉しい。
嬉しいのだが、最近のディーノは昔と比べてマリアを喜ばす言葉をよく言うようになったなとマリアは感じる。
「可愛い」とか先程の様に「マリアの作ったご飯が食いてぇ」等、売り言葉に買い言葉だったはずの言葉ではなく、素直にディーノ自身の本音をぶつけられればマリアだって戸惑いながらも嬉しい気持ちが勝ってしまう。
『…あたし達も行くわよ、ディーノ』
「あぁ」
そう言いながら立ち上がろうとするディーノを、マリアは何か思い出したかのように『あ、ちょっと待って』と一旦制止する。
制止されれば立ち上がるのを止め、ディーノは不思議そうにマリアの方へと視線を向ける。
『ディーノ』
「ん、どうし――――…っつ」
ディーノの名が呼ばれ、マリアの方を見ているディーノの瞳にはゆっくりとマリアの手が伸ばされた。
何をされるのか分からず、ただじっとそんなマリアの手を見ていると、頭にマリアの手が置かれる。
マリアの温かい手が、ディーノの頭を数回優しくぽんぽんと叩き撫で始めた。
それは先程までマリアがツナや獄寺、山本にしていた時と同じ行為。
勉強会の時からツナ達が頭を撫でられているのを見てディーノ自身、羨ましいと思っていた事をされていると気づけばディーノは大きく瞳を開く。
「マリア…?」
『何よ…?』
自分が何をマリアにされているのかを理解するのに、そう時間はかからなかった。
だが、どうして頭を撫でるのだろう?と、疑問に思ってしまう。
「何で頭撫でてるんだ…?」
『あー…ディーノも何だかんだでちゃんと昔教えた事覚えてるから…』
恥ずかしそうに言いながらも、マリアは呟く。
日曜日の勉強会で指摘された事を実行するのはマリアにとって難しいのだ…相手が幼馴染であり、好きな人なら尚更だ。
スクアーロの時の様に勉強会を手伝ってくれたからと言う理由でディーノの頭を撫でられるほど、マリアは素直ではない。
寧ろ勉強会を手伝ってくれたお礼はイタリアに帰国してからディーノにご飯を振舞う事になっているのだ、きっかけすらなかったのだ。
だからこそ何かきっかけがあれば…と思っていた所に、リボーンが「ディーノにも問題を解かせろ」と言って来た時にはチャンスだとマリアは思い快く承諾した。
『学校卒業してもちゃんとあたしが教えた所覚えててくれたから…だから、ディーノも良く出来ました』
「っつ…」
間近でマリアの笑顔を見ながらそんな事を言われれば、ディーノの頬はほんの少し赤く染まる。
マリアがその事に気付いて居るかいないかはディーノ自身分からないが、それでも嬉しい事に変わりはない。
優しく暖かな手が心地よく、イタリアの食堂で子供達が勉強を教えてもらう際に「ちゃんと解けてたら頭撫でてマリア姉!」とマリアにせがんでいた光景をよく目にしていた理由をディーノは身をもって知る。
(…あいつらもこんな風に撫でられてたのか…)
お菓子やクッキーを強請るよりも確かに、頭を撫でられる方が癖になってしまいそうになる。
小さい頃父親や母親に頭を撫でられる事はよく合ったが、それと比べ物にならないほどマリアに撫でられるのは心地が良いのだ。
ツナや山本、ましてや獄寺が嫌がらなかった理由もこういう事かと憶測すれば無意識のうちにディーノの口からは「もっと…」と言葉がもれる。
『もっと?』
「…ツナ達の事沢山撫でてただろ?…俺もいっぱいマリアに撫でられたい」
言葉にしたのは子供じみた理由。
だがそう言わざる負えないほど、ディーノは羨ましかったのだ。
自分はこれまでマリアに撫でて貰った事が無いのだ、ならその分たくさん撫でて欲しいと。
撫でて貰ったら撫でてもらった分だけ、貪欲にせがんでしまう。
マリアに頭を撫でられるのはこんなにも心地よく、幸せな気持ちになるのだから―――…
『ぷっ…何その理由』
ディーノの言葉にくすくすと笑いながら、マリアは言われるがままにディーノの頭を撫でた。
その言葉が嬉しかったのもあるがマリアだって、まだディーノの頭を撫でていたかったのだ。
ディーノの様に素直に言葉には出来ない分、マリアはただただディーノの頭を優しく撫で続けた―――…
2024/10/06
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