不器用な恋
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『全く、アベーレどんだけデートって連呼するのよ…』
カタカタカタとリズミカルにキーボードを叩き、落ち付かせようとするがマリアの頬は赤く染まったままだった。
アベーレにデートだと指摘され、ただのお出掛けと言う認識からデートと認識を改められればマリアだって意識する。
(多分…どこかでデートだなんて考えないように無意識にしてたのかな…)
幼馴染でありどこかに連れて行ってもらうと言う事は、マリアにとってそれはデートよりもお出掛けと言う認識なのだ。
それこそ行き先が自分の興味のある場所なのだ、意識も認識もそれ以前に自分の抑えきれない好奇心がある意味弊害なのだろう。
『お出掛けじゃなくて…デート…』
今更お出掛けと言う認識に戻す事が出来ず、マリアは恥ずかしそうに唇を噛み締める。
そうしなければ自然と緩んでしまうのだ、口元が。
どれだけ集中しようがアベーレの言葉が頭から離れず、気が付けば緩みっぱなしだった。
粗方作り終えていたせいか、一時間もしないうちにツナの明日の勉強用の問題を作り終えてしまう。
念入りに見直し打ち間違いなど、文章のおかしな所はないだろうかと改めてチェックをし直す。
無論、打ち間違いもしておらずこんな状況でも誤字脱字のない見事な仕上げっぷりに自分自身を褒めたくなる。
データは何時もの様に明日の朝、アベーレに渡し印刷してもらえばいいかと思えばパソコンをシャットダウンし机に項垂れる。
『…デートかぁ…』
改めて自分の口からそんな言葉が出れば、マリアだって分かっているのだ。
デートの定義は確かに難しいが、それでも付き合っているいない問わず、異性と出掛けるならそれをデートと呼ぶ事だって分かっている。
では何故デートと言う認識ではなく単なるお出掛けと言う認識だったのは場所も関連しているからだろう。
プラネタリウムがあるにしろ科学メインの博物館だ。
そんな色気もない場所でデートなんて言葉を使っていいのかとすら思うし、何よりリボーンからのツナの家庭教師を務めた正当報酬なのだ。
マリアが好きな科学関連となれば自然とデートなんて認識は皆無になってしまう。
それよりも幼馴染でありたいがために幼馴染と言う予防線が邪魔をしていたのだろう、無意識に。
だが、イタリアに居る時よりも確実にマリアはディーノを異性として意識している。
否、日本での出来事のせいで色濃く自覚してしまったのだ。
―――「なぁ、俺の女に何してるんだ?」
―――「っつ…可愛いなマリア…」
公園で初めて言われた言葉に、嬉しかったり恥ずかしかったりとマリア自身くすぐったかった気持ちが蘇る。
マリアにとって初めて褒められた言葉だったのだ。
普段の服装ではなく、珍しい恰好のせいかもしれないがディーノはマリアを助けた際に「可愛いな」と言葉にしてくれたのだ。
ディーノの言葉に浮かれ、己惚れていいのかと思った事を今でもよく覚えている。
手当をしに来てくれたロマーリオが「少なくともボスは…ただの幼馴染にんな言葉は言わねーよ」と言った言葉にも、マリアは期待してしまう。
幼馴染じゃなくて、ちゃんと異性として認識されているのかもしれないと…もしかしたら大なり小なり好意があるのではないかと。
―――「そうそう、やっぱ理解が早いな京子にハルも」
―――「ディーノさんの教え方が上手いからですよ!」
―――「ははっ、おだてたってなんもでねぇーからな」
日曜日の勉強会で、ディーノが京子やハルに笑顔を向けるのを見てマリアは嫉妬してしまったのもそうだ。
ただ勉強を教えていただけなのは分かっているのだが、それでもマリアの胸がぎゅっと締め付けられて痛んだ。
自分にだけその笑顔を向けて欲しいと、自分以外の異性にそんな風に接して欲しくないと。
まるで子供のような独占欲だなとマリアは思った。
小さい頃はそれこそ自分に独占欲があるだなんて思いもしなかったのだ。
マリアにとってディーノは一緒に居て当たり前の幼馴染だった。
四年間離れていても、再会した後も、ディーノはずっとマリアの側に居てくれたのだ。
キャバッローネ・ファミリーのボスに就いた後も、養親であるフィネスが亡くなりマリアが一人になった時も…変わらずディーノは傍に居てくれた。
それ位近く、幼馴染と言う関係も相まって長い時間ディーノはマリアと一緒に居てくれたのだ。
だからこそ…
『好きって…伝えなきゃ…かな…』
言葉にしなければきっと伝わらないだろう。
マリアの気持ちに、マリアの想いに。
この先も、ずっとずっとディーノがマリアの側に居てくれるとは限らない。
ディーノが誰かを好きになり付き合う事だって、改めて考えれば無きにしも非ずなのだ。
関わらなくなるのが、関係が無くなってしまうのが怖いとマリアは思っていた。
けれど関係が無くなってしまうよりも自分以外の誰かにディーノが取られてしまう方がよっぽど苦しいのだと今回身をもって知ったのだ。
勿論京子もハルもディーノに好意があるわけではない事位分かっているのだが…仮に好意が合った場合の事を考えてしまえばそれこそ苦しくてたまらない。
自分の気持ちを言わずに隠し通したまま、仮にディーノが誰かと付き合い始めたなんて知ればそれこそマリアの心は苦しむのだ。
言えなかった後悔とともに、何故言わなかったのだろうとずっと苦しむ姿が容易に想像できる。
だからこそ伝えなければと…マリアは改めて思った。
『玉砕覚悟で…ディーノに伝えよう』
イタリアに戻ってすぐに気持ちを伝えよう…と。
流石に日本で言う勇気もなければ、仮に言って玉砕してしまったら帰りの機内が気まずくなってしまうのだ…それだけは避けたい。
先延ばしにしているわけじゃない…これが最適解だと自分に言い聞かせながら、マリアは目を瞑った。
目を瞑りなんとなくそのままの状態で居ると、白衣の懐に入れている青色の携帯が振動する。
短い振動でなく、その振動は間隔をあけほんの少し長い。
短い振動はメールの受信振動だが、長い振動の場合は電話だ。
滅多にかかって来る事のない青色の携帯を懐から取り出しディスプレイを見ればマリアは驚きながらも電話に出る。
『師匠?』
「久しぶりだな、マリア」
電話越しに聞くその声に懐かしいと思いながらマリアは電話越しにはにかむ。
ダヴィンチの再来と謳われ科学者としての技術や知識はトップクラス、周囲からはマッドサイエンティストと呼ばれることも多々あると言われている人物。
電話の相手は緑色のおしゃぶりを持つアルコバレーノ…ヴェルデだ。
マリアにとって先生の先生であるから、ヴェルデの事をマリアは師匠と呼ぶ。
『珍しいわね、師匠が電話してくるなんて?』
「…マリアの事となれば私だって電話位する」
普段研究にしか興味のないヴェルデだ。
実験に支障がなければ外見にすら拘る事もない彼が珍しくマリアと連絡を取る。
昼間“大丈夫か?”とメールが届いた時にマリアは驚いたのもだ。
マリア自身そこまでヴェルデと関りはないのだが、それでも時折連絡をよこしてはマリアの事を気にかけてくれる。
ルーナ・ブルと共に会った事は両手で数えられる程度だが、会う度に可愛がってもらったのはマリアの記憶に鮮明に残っていた。
『師匠が電話を掛けてくるほど今までと違うのかしら?』
「あぁ、今回は別だ…何時もとは違う動きをしているからな」
『まぁ…ボンゴレですらルーナの事探してるみたいだからね』
スクアーロの任務を思い出すが探している理由までマリアは知れなかった。
深入りしては怪しまれる上にマリアは一般人だ、マフィアの面倒事に関わり合う気もない。
勿論、これまでもルーナ・ブルを探す人達はいたのだ。
ルーナ・ブルに依頼をしたい者が、科学者が…マフィアが…それこそ誰彼構わずルーナを求めた。
だが、皆どれだけ探してもルーナ・ブルを見つける事は出来ず何の情報も得られずに探すのを止めた人間が後を絶たない。
何年経とうが、そう言う輩は度々現れる。
見つかるはずもないルーナをそれでも探す人は探すのだ、ルーナの才能を求めて―――…
「ほう、ボンゴレが動くとは珍しいな」
『理由までは分からなかったけど…師匠は何か知ってるの?』
「…ブラックリスト入りしているマフィアが、ルーナ・ブルを探して動いて居るみたいだ」
その言葉にマリアは首を傾げる。
選ばれたマフィアの依頼しかルーナは受けないのだ、その中にブラックリスト入りしているマフィアが居る事はまずないだろう。
そしてブラックリスト入りしているマフィアが動いて居るとなると、それこそマリアは大丈夫だろうと踏んだ。
『ルーナは大丈夫だよ、見つかりはしないからね』
「あいつも私に並ぶ天才だが…マリア、お前も私達と同様なのだから気を付けたまえ」
ヴェルデの言葉にマリアは『言いすぎだよ、師匠』と言葉を浮かべる。
自らを天才と自負しているヴェルデにそこまで言われるほど、マリアは自分の事を天才とは思っていない。
科学者として研究しどれだけ良い物を生み出しても、自分を天才だと思う事は出来ない。
なぜならマリアはただ自分の、興味がある事への欲求を追及しているだけなのだ。
分野問わず興味があれば自分が納得するまで研究し、作りたい、試したい物があればそれを試す…ただそれだけなのだ。
科学者になりたいと思ったきっかけは、本当は単純な物だったけれど。
『あたしは大丈夫だよ。師匠も知ってるでしょ?知名度が高いわけでもない…ただのしがない科学者だって事』
ヴェルデの言葉にマリアはそう自分を卑下する。
否…卑下と言うよりも事実を述べた。
高すぎる知名度は自分の身を滅ぼす、マリアの場合それ以外にも勿論理由があるのだ。
知名度を上げないように、マリアが紅白衣だと知られないように…ただのしがない科学者だと装う。
マリアの言葉に、ヴェルデも勿論理解している。
理解しているからこそ、気を付けろとマリアに言うのだ。
何が起こるかなんて分からない、予想だってつかないのだから…。
「…だといいがな」
珍しくため息をつくヴェルデにマリアは再度『大丈夫』と答えた。
2024/10/01
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