不器用な恋
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『おらぁぁぁあああディーノ!!!』
「な、何だよマリア…って、普通に入れよ馬鹿!」
イタリア、キャバッローネ・ファミリーの屋敷にてマリアは勢い良くディーノが居る書斎の扉を蹴破り中に突っ込んだ。
バンッと言う音が室内に響き、部屋の中に居たディーノは吃驚した表情でマリアを凝視する。
ディーノはと言えば何時ものラフな格好ではあるものの、手には仕事の書類を持っていた。
机の上には大量の書類の山。
その紙の山は終わっているのかはたまた手付かずのままなのか…マリアは一つため息をつきながら言葉を紡ぐ。
『相変わらず仕事の山で大変そうね』
「なら空気読んで来るなよ、KYかお前は」
『あたしの時間が空いてるから遊びに来たまでよ』
「余計質が悪いじゃねぇーかよ!」
勢いよくディーノが椅子から立ち上がればよろけて机の上に勢いよく頭をぶつけた。
それと同時に机の上に積み上げられていた書類の山が一気に崩れ、ディーノへと降りかかる。
たかが紙切れ、されど紙切れの山。
一枚ではなんとも思わない紙切れも、山となればそれこそ重みが生じる。
バサバサと書類がディーノを襲い、マリアはその光景を他人事のように見ていた。
「っつ…いってー…」
『いつまで経ってもへなちょこなのは変わらないわね』
「うるせー…それより、今日は何の用だよマリア?」
そう言いながらディーノは床に散らばっている書類を一枚一枚拾う。
『あ~…そう言えばディーノに聞きたい事が有って来たんだった。忘れてたわ』
「おいこら忘れるなよ?!」
『うるさい黙れへなちょこ!』
懐から護身用にいつも持ち歩いている銃をマリアはディーノに突きつける。
ガチャリとした鉄の音が、静かに室内に響き渡った。
勿論ディーノはマリアが本気で撃つとは思っていないものの、幼馴染から銃を向けられれば冷や汗の一つくらいは流す。
マリアに気づかれないようにため息をつき「で、何だよ聞きたい事って…?」と、マリアに聞きながら、ディーノは床に散らばった書類を拾っていく。
そんなディーノから銃を下ろし、マリアは言葉を紡いだ。
『ディーノってさ、近々日本に行く用事ってある?』
「ジャッポーネにか?」
マリアの言葉に、また一枚、一枚と拾うディーノの手が止まり、不思議そうにマリアを見た。
幼馴染である以上ある程度お互いの行動範囲は知っている。
ディーノはキャバッローネ・ファミリーのボスでありまた同盟ファミリーであるボンゴレの兼ね合いもありイタリアのみならず国外に行く事も多々ある。
勿論マリアには仕事内容までは言えないため、何処に行った位は仕事に差し支えない範囲であれば答えている。
片やマリアはマフィアでもなんでもない、一般市民かと言われればそのカテゴリーに含んで良いのかは怪しい部類ではあるものの、基本マリアがイタリアから国外に出る事はないに等しい。
仕事の兼ね合いでディーノの知らない間に行ってる可能性も考えたが何となくそんな事はないとディーノは思う。
それを踏まえても今回のマリアの言葉には“何故?”と疑問が生じるばかりだ。
「…な、何か用でもあるのか…?」
『ん…まぁ、そんなとこ。で、あるのないの?』
ガチャリと金属音と共に、マリアはもう一度ディーノに銃を向ける。
ディーノは慌ただしく両手を振り、「言うから銃を向けるな!!!」っと叫んだ。
「この書類の山を終わらせたら行くつもりなんだけど…この量だし…」
『あ?ちゃっちゃと終わらせろ』
マリアの言葉にディーノは(命令系かよ)と心の中で思う。
「否だからこの量だしそんなすぐ終わらせられねーからさ」
『さっさと終わらせろ』
「はいっつ!!」
マリアの言葉に、ディーノは書類を素早く集め机に向かい仕事を始める。
そんなディーノを見ながらマリアは先ほどまで向けていた銃をしまい、近くにあるソファーに腰を下ろした。
まがいなりにもキャバッローネ・ファミリーのボスにあるソファーだ、座り心地がよくとてもふわふわしている。
そんな柔らかいソファーを堪能しているとガチャリと、小さく扉が開く音がしてマリアは自然と音のした方へと視線を向けた。
視線の先にはディーノの腹心の部下であるロマーリオがカップを二つトレーの上に乗せて室内へと入ってくる。
淹れたてのせいかカップからは温かい湯気がゆらゆらと上っていた。
『あ、ロマーリオ元気?』
「見ての通り元気だぜ。お嬢来てたのか?」
『…だからカップ二つあるんじゃないの?』
「まぁ…そうなんだがな」
マリアの言葉にロマーリオは苦笑を漏らし、「あんまうちのボスをいじめるなよ、マリアお嬢」と言いながらマリアにマグカップを差し出した。
マグカップは熱すぎる事はなく、丁度いい温度で甘ったるい匂いがマリアの鼻腔をくすぐる。
マリア仕様のお砂糖とミルクたっぷりの甘いカフェラテ。
ゆっくりと一口飲めばいつも通り飲み慣れたマリア好みの味が口の中に広がる。
『あたし好みのいつもの味ね』
「お嬢の好みは昔っから知ってるからな」
『それもそうね』
ディーノと幼馴染であるためか、キャバッローネ・ファミリーのメンバーには昔からお世話になっている。
マリアの好みも把握しているのは当たり前だが、そんな当たり前がマリアにとっては温かくて嬉しく思う。
また一口、一口と甘いカフェラテを口に含めば自然とマリアの頬が緩む。
そんなマリアを見ながら、ロマーリオはトレーに乗せていたもう一つのコーヒーカップをディーノに差し出す。
マリアの甘ったるいカフェオレとは違い、ディーノに差し出されたのは熱く濃い珈琲だ。
「ほら、ボスも」
「悪いな、ロマーリオ」
ロマーリオからコーヒーカップを受け取ればディーノは一口だけ飲み、書類に手を付けて行く。
先程とは打って変わって、ディーノが纏う空気が少し変わる。
部下がいる間は、ディーノは立派なキャバッローネ・ファミリーのボスなのだ。
ドジる事も、へまをする事もなく、ディーノは淡々と書類を一枚、また一枚と終わらせていく。
カフェラテを飲みながら、マリアはそっと書類仕事をするディーノの方へバレないように視線を向けた。
普段はドジでへなちょこでダメダメなディーノ。
だがしかし部下と共に仕事をしている時だけは立派なキャバッローネ・ファミリーのボスだ。
真剣な表情で書類を読む姿に、マリアはぎゅっとカフェラテの入っているマグカップを握りしめた。
(かっこいいなぁ…)
あまり見ない仕事時のディーノを見ながら、マリアははにかむ。
キャバッローネ・ファミリーのボスである彼も、普段のドジでへなちょこな彼も、マリアはどちらのディーノも好きなのだ。
幼馴染ではなく、一人の人間として、異性として…マリアはディーノの事が好きである。
(この想いを素直に言葉にできたら…どれだけ楽なんだろうなぁ?)
そう思うもののマリアはそれを言葉にしない。
否…出来ないのだ。
素直になれない部分も勿論あるが、マリアとディーノは女や男である以前に“幼馴染”である。
何十年も兄妹のように過ごしてきたのだ。
マリアがどれだけディーノの事を想おうと、ディーノにとってはマリアはきっと“幼馴染”でしかないのだ。
ディーノの口からはっきりと「マリアをそう言う風に見れない」と言われるのが怖くて…マリアはただただ逃げている。
自分の想いから、自分の気持ちから―――…
(十年以上も片思い中なんて…残念でしょあたし…)
カフェラテの甘い匂いだけがマリアの心を揺さぶった。
2024/08/27
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