不器用な恋
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マリアはベッドの上にシーツを被ったまま座りじっと自分の携帯を眺めていた。
ツナの家庭教師の時間まで後一時間程時間の余裕がある。
昨夜山本と獄寺用に作った問題はデータをアベーレに渡してあるので印刷しておいてくれるはずだ。
先程ロマーリオに手当してもらった時に言われたように、マリアはディーノにお礼と謝罪をしようと携帯を手に取っていた。
かれこれ一時間近くマリアは自分の携帯を眺めているだけでなかなかその行動を移す事が出来ずにいる。
携帯の画面はアドレス帳を開いており、表示されているのはディーノの携帯番号。
下にはメールアドレスも載っているが、今はメールを作る予定はない。
一息ついてから意を決して、マリアはそっとディーノの携帯番号を押した。
(どうにでもなれっ…!)
迷っていたところで只々無駄に時間が流れるだけだ。
かれこれ一時間近く行動できずに居るのだからと、その時の自分任せにマリアは挑む。
無機質なコール音がマリアの滞在する室内に響く。
―――pipipi…
一コール目、反応なし。
―――pipipi…
二コール目も同様に反応がない。
続く三コール目に差し掛かろうとしたその瞬間。
「もしもし?」
と、聞き慣れた普段と変わらない声色のディーノの声が聞こえた。
声色からして怒ってはいないようだった。
仮に怒っているのであれば一言目から「おいこらマリア!!!」と盛大にディーノが叫んでいたに違いない。
薬を盛った時に大抵怒って居たらディーノは開口一番そう言うのをマリアは知っている。
それが無いと言う事は少なからず怒ってはいないと判断していいだろう。
意を決して通話ボタンは押したものの、ディーノの声を聞くとマリアの頭の中は真っ白になる。
助けてくれたお礼と殴った事に対する謝罪をする…それは分かっているのだがいざ本人が電話に出ると言葉を出したいのに言葉が出ない。
「マリア?」
(大丈夫、怒ってない…言うだけ、さっさと言って切ろう)
「おい、マリア?」
(言うだけ、さっき練習したじゃない。それだけ言えばいいの…!)
「おーい、マリア?」
『さっきは助けてくれてありがとうディーノ!後殴ってごめん』
そう息継ぎもせずマリアは電話越しに言い終えればブチっと勢いよく通話ボタンを切りシーツを被ったまま枕に顔を埋めた。
言いたい事は全て言い切った。
本当はもっと何か会話を、ディーノの言葉を聞くべきではあったのだろう。
だがそんな隙を与える事すらなくマリアは自分の言いたい事だけ伝え切った。
これではただの言い逃げだ、マリアの言いたい事だけ言って言い終えた途端電話を切る。
ある意味質が悪い…だがどれだけ時間が経とうが公園での出来事を思い出すと、未だマリアの心臓はうるさい位に動悸してしまう。
先程よりかは幾分もマシになったと言えど、やはりマリアにとっては恥ずかしく照れてしまう…いろんな感情が混ざりじぶんでもどうしたらいいのか分からなくなる出来事なのだ。
そんな状態でまともに会話が成り立つとマリア自身思ってもいない。
だからこそ言い逃げのように通話ボタンを切ってしまったのだ。
―――pipipi…
折り返すようにすぐ携帯が鳴り、マリアは通話ボタンを恐る恐る押し携帯を耳に当てた。
表示されているはずの電話をかけて来た相手の名前等見なくても、誰がかけてきたかなんて直ぐ分かる。
「も、…もしもし…」
「マリアお前な…言い逃げすんなよ」
ほらやっぱり…と、マリアは先程電話を掛けこちらの用件だけ言って切った相手…ディーノからだ。
電話越しでも分かるほど、ディーノの声は呆れていた。
『だって…』
「だってじゃねーよ…ったく」
『…怒った?』
恐る恐るそう問えば、ディーノは「怒る?」と不思議そうにマリアに問いかける。
まるで怒る原因が分かっていない口振りだ。
『助けてもらったのに殴っちゃったし…』
「マリアの一発は痛かったが怒るもんでもねえーからな」
『鳩尾殴ったのに?』
「マリアお前身体動かす事苦手なくせに的確に急所狙ってくるのはやり過ぎだろ…」
そう言いながらディーノは苦笑した。
マリア自身手を出す事が無いため、そんな綺麗に急所を殴った事に関しては吃驚してしまう。
人体の急所や何処を狙えば動きが怯むのかは大体頭の中に入っている。
だが頭の中に入っているだけであって実際問題行動に移すとなると身体が付いてこないのだ。
だからこそマリアは銃での護身をする、それが最大の理由である。
「怒ってねーよ、バカマリア。そっちより言い逃げした方が傷つく」
『…謝ったしお礼も言ったのに?』
「俺の話聞く気ねーだろ、それ。一方的に電話切りやがって」
『…ごめん?』
「疑問形で謝るなよな!」
そうツッコミを入れて、ディーノは笑った。
苦笑ではなく、ちゃんとした笑い声にマリアもつられて笑う。
先程まで頭が真っ白になりどう言葉を出せばいいのかすら分からなかったのに。
ディーノの声に、話にマリア自身安心する。
「腕…大丈夫なのか?」
『あー…それは大丈夫。ロマーリオがさっき手当てしてくれたから』
話を変えられれば、マリアは先程ロマーリオに手当してもらった腕を見る。
シーツで隠れてはいるが、きちんと包帯で手当てされている。
巻き過ぎていた包帯を適度にほどいてもらい、丁度いい具合に巻き直してもらったが医学を心得ているので手慣れた手つきで綺麗に巻いてもらっている。
幸いツナの所に行く際は白衣を羽織るから他の人の目に付く事はないだろう。
『青紫色になってたけど…そのうち治るでしょ』
「青紫色って…どんだけ強い力で握ってたんだよあいつ…」
そう言いながらマリアには聞こえづらい言葉をボソボソ言うので、『なんて?』と聞けば平然と「否、なんでもない」と返された。
「…とりあえずマリア、出て来いよ」
『え?』
「部屋の前に居るから」
その言葉にマリアはシーツを被ったまま慌ててドアの前の方へと歩く。
何時の間に来たのだろうと、恐る恐るドアを開ければ目の前にディーノが立っていた。
「マリア」
『ディーノ…?』
普段のラフなストリート風のファッションでもお気に入りのフードにファーの付いたモッズコートでもない。
黒いスーツに身を包みネクタイを緩めることなく締めている正装姿。
(かっこいいなぁ)
見慣れないディーノの正装姿に、マリアはディーノを凝視しながら思う。
マリア自身滅多に見る事はないが、決まってこういう恰好の時はきちんとした会合やパーティーがある時だ。
イタリアなら同盟ファミリーのパーティーもあるのだから然程珍しくもないだろうが、此処は日本。
仕事の兼ね合いにしては珍しいなと思い、普段とは違うディーノの姿にマリアは見惚れる。
片やまじまじと凝視されているディーノはぽかんとどこか気の抜けた表情で「マリアお前その恰好…」と呟いた。
それもそのはずだ。
先程ロマーリオが部屋を訪ねて来た時同様、マリアはベッドシーツを頭から被りディーノを見上げている。
子供の時ならまだしも、まさか大の大人がシーツを被って訪ねて来た人間に会うのだ。
そんなマリアがおかしかったのか、ディーノの口元が自然に緩みマリアへと言葉を紡ぐ。
「何子供みたいな事してんだよマリア、いじけてんのか?」
『…いじけてないし』
そう言いながらツンとした態度を取る。
あぁ、またやってしまった…と思うもののどうしても素直に言葉が出てこない。
何時からこんなにも素直になれずツンとした態度を取ってしまうのだろうと思ってしまう程だ。
「マリア」
『ん、なあに?』
「今朝来てた服…もう着ないのか?」
服の事を問われれば、マリアは眉を顰める。
正直普段の服装であればナンパなんてされなかったのだ。
もう少し動きやすければちゃんと愛銃を取り出す事も自衛も出来たはずだとマリアは思う。
服装も相まってあんな事が起きたのだと思うとマリア自身なかなか着る気は起きない。
そしてなにより…
『動きづらいし…似合ってないから着ないかな…』
自分には似合わないと、やはりそう思ってしまうのだ。
周りがどう思うかはマリアには関係ない、マリア自身が似合ってないと思えばそれは似合っていない。
そんなマリアに、ディーノはすかさず「何でだよ!似合ってたじゃねぇ―か」と言葉を放つ。
「それに…」
『…?』
「…っ、可愛かったし」
『っつ…』
「もう、着ないのか?」
残念そうに眉を八の字に下げ、マリアを見る。
その目は明らかに期待の眼差しだ、着て欲しいと言う目でマリアに訴えかける。
(…ずるい…)
ディーノの言葉に、マリアはぐっと唇を噛み締める。
そんな事を言われればその言葉に応えたいと思ってしまう…好きだから故にその言葉にころっとつられてしまう。
(チョロいな…あたしも…)
唇元が緩まないように、シーツで口元を隠しながら『気が向いたら…ね』と。
そう言ってマリアはそっぽを向きながら、マリアの頬は赤く染まっていた―――…
2024/09/15
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