不器用な恋
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『はぁ…』
ホテルに帰ってきてから、何度目か分からない溜息をマリアは付く。
コインランドリーに入れていた衣類はアベーレが時間になった時に先に回収してくれていたおかげで、そのまま滞在しているホテルまで直行した。
先程までの可愛らしい服装ではなく、イタリアから日本に着て来た服を身に纏いベッドの上でシーツで身を包み三角座りをしている。
髪も両サイドで三つ編みをしていたものをほどき、普段の髪型…ではなく、下ろされたままだ。
三つ編みをしていかせいか跡が付き、ほんの少しだけだがゆるく髪が波打つ。
手にはプライベート用の赤い携帯が握られており、先ほどから何度も開いては閉じ、開いては閉じと言う動作を繰り返す。
『どうやってディーノに顔合わせればいいんだろ…』
あの出来事から時間が経ち、混乱していたマリアの頭も落ち着けば今度は助けてくれたお礼と殴ってしまった謝罪をしなければと思う。
…思うのだが、流石に直接言いに行く事は出来ずなら電話かメールをしようと考えるもなかなかボタンを押せずにいた。
―――「なぁ、俺の女に何してるんだ?」
―――「っつ…可愛いなマリア…」
先程公園で助けてもらった時に言われた言葉が、不意に頭を過る。
意識してしまえばこれまで通りディーノと接する事が出来るだろうかと、マリアは不安な気持ちになってしまう。
今まで“幼馴染”としてしか見られていないと、マリア自身思っていた。
幼馴染だからこそ、一人暮らしをしているからこそ気にかけ妹のように構ってくれているのだと。
自分の気持ちも、想いを伝える事すら出来ないのなら、幼馴染としてディーノの側に居れたらそれだけで良かった。
素直に言えない、言って関係が壊れてしまうなら幼馴染のままでいい。
自分の気持ちを隠してでも傍に居られるなら―――…
科学者として趣味も相まって研究や実験に没頭して自分の事を疎かにするマリアを、ディーノが心配している事位マリアだって知っている。
幼馴染と言う関係がなければ…マリアとディーノは関りすらないのだ。
それはディーノと離れていた四年間を思い出せば…嫌でも気づいてしまった。
マリアはマフィアの人間でも裏社会の人間でもない。
自分はただの一般人、片やマフィアのキャバッローネ・ファミリー十代目ボス。
幼馴染で無ければ、隣に居る事すら許されない…手の届かない存在なのだ。
『…好きだよ、ディーノ』
誰も居ない部屋の中でマリアは一人、静かに呟いた。
「お嬢、居るか?」
『ロマーリオ…?』
不意にロマーリオの声が聞こえ、マリアはベッドから立ち上がり恐る恐る部屋のドアの方へと歩み寄る。
シーツを被ったまま歩くせいかズルズルとシーツは引きづられる。
ドアを開ければ、そこには何やら箱を持っているロマーリオの姿がマリアの目に映った。
シーツで自分を覆っているマリアをロマーリオが見れば、ロマーリオに苦笑されてしまう。
『どうしたの…ロマーリオ?』
「ん、なぁにお嬢の腕の具合見とこうと思ってな」
そう言いながら持っている箱をマリアの目の前に出せば、どうやら箱は救急箱のようだ。
ホテルの従業員から借りたのだろう、救急箱には現在滞在しているホテルの名前が隅の方に書かれている。
「結構強めに掴まれてただろ?念のため…な」
『それ位大丈夫よ?』
ディーノの事で頭がいっぱいだったため、マリアはそう言えばそんな事もあったなと思い出す。
今まで忘れていたこともあり、シーツを被ったまま腕を擦ろうとすればズキッと鈍い痛みが走る。
『っつ…』
「言わんこっちゃねーな…取りあえず部屋の中に入っていいか?」
ロマーリオの気遣いを無碍に出来る事もなく、マリアはロマーリオを室内へと招き入れた。
招き入れればソファーに座り、マリアのパソコンが置かれている机の上に救急箱を置きマリアに腕を出すように促す。
観念したかのように腕を差し出せば、掴まれていた部分が青紫色になっている。
男性からすればマリアの腕はほんの少し力を入れれば折れてしまいそうなほど細い。
着替えた時には気づかなかったのか、マリアも自身の腕を見れば嫌そうに顔を歪めた。
『うわ…何これ…』
「こりゃまた酷く跡が残ってるな」
『…気づかなかった…』
「気づかなかったって…結構酷いぞこの色合い」
内出血を起こしているのか痣が出来ており、ロマーリオに触れれば痛みが走る。
着替えた際にも頭の中は混乱していたのだ、掴まれた腕の事等頭の中にはない。
触らなければ痛みもないのだから余計にマリアは気付いて居なかった。
「一週間か…もしかしたらもう少しかかるかもな、治まるのに」
痣の具合を見ながら、医学の心得のあるロマーリオは冷静に分析する。
青年が力強く握っていたのだろう。
マリアも強く握られていた感覚はあれどまさかここまで青紫色になっているとは思っていなかった。
救急箱の中から冷却スプレーを取り出し、「お嬢失礼」っと言いながらシューっとマリアの腕にかける。
『っつ…めたっ…』
分かっていても腕に当たる冷却スプレーの冷たさに、思わずマリアの顔が歪む。
冷却スプレー以外にも救急箱の中には勿論湿布も入っていた。
だが湿布はマリアの場合かぶれる可能性が高いと判断してロマーリオは使わなかった。
どちらも冷やす事により衝撃によって切れて内出血を起こしている皮膚の下の血管を収縮させ、出血を抑える。
また痛みを軽減する効果も期待できるが、冷やし過ぎるのもかえって凍傷になる場合もあるからロマーリオは冷やし過ぎないように見極める。
冷やし終えると迷わずロマーリオは救急箱の中に入っている包帯を取り出し、手慣れた手つきでマリアの腕に巻いていく。
「なぁ、お嬢」
『何?』
軽く圧迫しながら包帯を巻いていくロマーリオが不意にマリアに問う。
視線は包帯を巻く手から動かさずに聞いているためか、ロマーリオがどんな表情をしているのかマリアからは見えない。
「お嬢はボスが言った言葉嫌だったか?」
そう問われればマリアは首を横に振る。
嫌ではない、むしろその逆だ。
『…嫌じゃない…嬉しかった…嬉しかったけど』
「けど?」
『ディーノの言葉に…そんな風に言われたら、期待しちゃう…じゃん?』
期待していいだろうか?己惚れてても許されるだろうか?…そう思う反面幼馴染でなくなると言う事がマリアにブレーキをかける。
もう何年もブレーキを無意識のうちにかけているのだ、だからこそ見て見ぬふりをする。
気付かれないように隠そうと、気づかないでと目を逸らし幼馴染として接する。
異性として「マリアをそう言う風に見れない」と言われるのも、もし気持ちを伝え気まずくなり関わらないようになってしまうのが…たまらなく怖い。
本人も気づかないうちに不安そうな表情を浮かべるマリアに、ロマーリオは「いいんじゃないか?」と包帯を巻きながら呟く。
期待するのも、己惚れるのもマリアの自由だ。
ディーノやロマーリオが…周りが否定するものではないと。
「少なくともボスは…ただの幼馴染にんな言葉は言わねーよ」
『っつ…』
「なぁ、お嬢は…ボスの事が好きか?」
『…うん』
ロマーリオの言葉に、マリアは素直に頷く。
マリアもディーノに言えない、隠しているだけで気付いて居るロマーリオにはすんなりと白状した。
ロマーリオ自身マリアとの会話を、出来事を口軽くディーノに言う人ではない事を知っているから。
「好きなら好きでいいじゃねえか?期待しようが己惚れようが」
『…いいのかな、おこがましくない…?』
「おこがましいなんて何弱気になってんだ?お嬢はお嬢だろ?何時もみたいにどんと構えてりゃあいい」
にっとマリアにロマーリオは笑顔を向ける、「ちゃんとボスに礼と…殴った事詫びろよ?」なんて揶揄いつつマリアの腕に包帯を巻き終え止めた。
『…ねぇロマーリオ』
「どうしたお嬢?」
『…巻きすぎ…』
「あ…すまん」
話に夢中になっていたせいか、マリアの腕はロマーリオの手によって包帯でぐるぐる巻きにされていた。
男の治療と称して包帯をぐるぐる巻きにするロマーリオの姿を見た事が有るが…それでもマリアの腕にぐるぐると巻き過ぎだ。
自分の腕よりも包帯でぐるぐるにされていて重すぎる。
急いでほどき調整するロマーリオを見ながら、マリアも安心したようにくすりと笑った。
2024/09/14
27/78ページ