不器用な恋
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あの後スクアーロとルッスーリアと別れたマリアは、アベーレに言われた通り連絡し迎えに来てもらうのを待っていた。
カフェから少し離れた場所にある公園。
そこがアベーレとの待ち合わせ場所であり、アベーレに拾ってもらう場所でもある。
平日のせいかはたまた時間帯のせいなのか…公園内には誰一人として人が居なかった。
(どうしようかなぁ~…)
マリアだけが居る公園内でベンチに座ったままマリアは携帯の画面をぼんやりと眺めながら悩んでいた。
修行があるため「行けない」と残念そうにしていた昨夜のディーノの姿が脳裏を過る。
先程のカフェメニューにはディーノの好きな物でもあるピザの取り扱いが合った。
今日ディーノは来れなかったが、きっと来て居たら真っ先にピザを注文していただろう。
マリア自身パンケーキしか食べなかったが、それでも物凄く美味しかった。
他のメニューも気になるが、やはりディーノとも…キャバッローネ・ファミリーの皆ともここに一度食べに来たいと思ってしまう。
そんな事を考えているマリアに、「そこのお嬢さん」と誰かが声をかけた。
無論マリアはその声に聞き覚えもなく自分ではなく誰かに言っているのだろうと思い無視する。
先程公園内には自分しかいなかった事を確認しているが、いつの間にか来た人が居るのだろうと自分に言い聞かせる。
「そこのお嬢さん」
『……』
「そこの可愛い服着たお嬢さんってば」
『……』
「ねぇ、無視しないでよお嬢さん~!」
しつこいなと思い携帯の画面から視線を上げれば、いつの間にかマリアの目の前には知らない男が立っていた。
平日だと言うのに何処かチャラついてる、歳はマリアと同い年か…少し上の年齢かは分からないが青年がマリアを見下ろしていた。
服装は大人っぽくシンプルかつ清潔感溢れるコーデではあるものの、如何せん中身がチャラい。
ツーブロックをいれたショートレイヤーの髪、後ろの方は刈り上げられており明るすぎないダークブラウン色の髪色が青年に合っている。
胡散臭そうな笑みを浮かべ、マリアの顔を覗き込んでいたが「やっとこっち向いた、こんにちは」とこれまた胡散臭そうに話しかける。
『……何?』
「あ、日本語通じて良かったし声まで可愛いじゃん!お嬢さん一人でしょ?ちょっと俺とお茶しない?」
『あちらにカフェがあるのでお一人でどーぞ』
「やだな~、一人でお茶するなんて寂しいじゃん。あれ、もしかして俺がお嬢さんの事ナンパしてるって気づいてない?」
青年はショックと言わんばかりにあざとく眉を八の字に下げる。
(ナンパねぇ…)
イタリア人であるマリアからしたら、男性の方から声をかけると言うナンパは正直違和感を感じてしまう。
それはマリアがモテるモテない以前の問題でイタリア人男性が道端で女性を口説く事をしないからだ。
イタリア内でナンパをされたとしてもそれはイタリア人ではなく、あくまで別の国から来た人間がナンパをしているからである。
まともなイタリア人男性はナンパをしなくても女性の方から寄ってくるからだ。
そもそも出掛けたとしてもマリア自身ナンパに合った事が無いのだから今の状況がナンパだと言う事自体気付いて居なかった。
『…ナンパならあたし以外の人にどーぞ、人待ってるから』
「そんな事言わずにさ?一杯だけでいいから俺とのお茶に付き合ってよ、勿論奢るからさ」
『そう言う問題じゃないわよ』
「良いじゃん良いじゃん、さっきから見てたけど人待ってるなんて嘘だよね?」
『嘘じゃなくて本当だし、まだ来てないだけよ』
「え、と言う事は時間があるって事だよね?じゃあ早速君が言ってたカフェでお茶しようじゃないか」
『ちょっと…!?』
青年はマリアの話に耳を傾けることなく強引に話を進め、マリアの腕を掴みベンチに座っていたマリアを無理やり立ち上がらせる。
人の話を聞けとバッグに忍ばせていた愛銃に手をかけようと思ったが、利き手は青年に腕を掴まれ愛銃を取り出す事すら出来ない。
自分の身を守るためにとリボーンにそれこそ銃についての手捌きは教えてもらったものの、如何せん銃を使わないとなるとマリアにはどうする事も出来ない。
武器を使わない護身術と言うものを、マリアはした事が無いからだ。
元々マリア自身戦う事や身体を使っての護身術は不向きであり、だからこそ銃に頼りっぱなしだった。
相手はただの一般人、それでも男と女とでは力の差だって歴然としている。
『離して、離してってば…!』
振り払う事すらできず、ぎゅっと掴まれた腕に痛みを感じる。
嫌がるマリアを気にせずに「照れてるの?可愛いね」なんて青年はマリアに向かって話していると、ドンっと誰かにぶつかり足を止めた。
「痛っ…な、何だ?」
前を見ていなかった青年はぶつかった痛みにに吃驚するものの、ぶつかった誰かへとマリアから目を離し視線を向ける。
勿論マリアもつられて青年と同じように視線を向けた。
「なぁ、俺の女に何してるんだ?」
「な、何だお前っ…」
『ディー…ノ…っ?』
視線を向けると、マリアのよく知る人物…ディーノがそこに立っていた。
ほんの少し息を切らしてはいるものの、その表情は今までマリアが見た事のない表情をしている。
へなちょこ時代でも、学生時代でも、キャバッローネ・ファミリーのボスとしての表情でもない…見た事のないその表情に、マリアは目を奪われる。
「こっちは今からこの子とお茶する予定なんだよ…!」
「その予定はなかった事にしてもらえねぇーか?…さっきも言ったが、その子は俺の女なんだ」
そう言って「返してもらうぜ」と、ディーノは青年の腕を振り払いマリアの手を引き自分の方へと抱き寄せた。
されるがまま抱き寄せられたマリアの頬は赤くなり、無言のままディーノの胸板に顔を埋める。
―――ドクン、ドクン、ドクン
ディーノの心音なのかはたまたマリア自身の心音なのかは分からないが、心臓が早く動悸する。
自分で分かるほどの心音だ、ディーノの心音ではなくマリア自身の心音だと気づくとその音がいやに大きくマリア自身に聞こえた。
そんなマリアを知ってか知らずか…ディーノはマリアを抱き寄せた腕に力を入れる。
先程の青年が腕を掴んだ痛みとは違う…優しくマリアを包み抱きしめるディーノの腕にマリアは擦り寄った。
「とっとと失せな、俺が手を出す前に」
「…チッ」
悔しそうに舌打ちを残し、青年は逃げ帰るようにその場を去った。
その間もマリアを抱き締め守る態勢のまま、ディーノは青年を睨みつけていた。
数秒、否、数分…。
ディーノとマリアの間に沈黙が走る。
青年が去るのを確認するとディーノはふぅっと、一息吐き抱き寄せていたマリアをそっと離す。
「大丈夫か、マリア?」
『…え、あ…う、うんっ…』
俯いたままディーノの顔が見れずに、マリアは答える。
今顔を見られたらまずいと思いマリアは顔を上げる事が出来ない。
自分でも分かるほどマリアの顔は熱く、赤く染まっている。
未だ心臓は早く動悸し、顔を見られないようにと必死の抵抗をするもののそれは無意味へと終わってしまった。
「おいマリア、こっち見ろよ?」
『…ぁ』
くいっとマリアの顎を持ち上げ、ディーノは自分自身へとマリアの顔を向けさせる。
ディーノの心配そうにマリアを見詰める鳶色の瞳と、マリアの翡翠色の瞳が自然とぶつかった。
互いの視線がぶつかった瞬間、ディーノの瞳は大きく見開かれる。
先程までマリアを助ける事に意識が行き過ぎたせいか、マリアの顔を見てようやくディーノはマリアの恰好が普段とは違う事に気づいた。
普段から見慣れている、白衣を纏い動きやすいシンプルな服装とは全く違う可愛らしい服装。
無意識に、ディーノの口が、マリアに向けて言葉を紡いだ―――…
「っつ…可愛いなマリア…」
『…へっ…?』
ディーノの紡がれた言葉に、マリアは思わず間の抜けた返事が口から零れる。
(可愛い…?え、誰が…?え、…あたしの…事っ?)
言われた言葉のせいでマリアの思考は停止する。
そんなマリアとは逆にディーノは我に返り、まずいと思いながら動いていない脳を回転させ言葉を紡ごうとする。
無意識に呟いた本音を、どうにかしなければと思うものの「あ…いや、その…あの」と言葉にならない言葉しか出ない。
「その、なんだ…あれだ、馬子にも衣装…あー…いや、その…違うくて…その…に、似合ってるな、マリア」
自分の言葉を取り繕おうと必死に言葉を紡ごうとするものの、上手い言葉が出てこず思い浮かんだ言葉をぽつりぽつりと呟く。
だがディーノがいくら上手い言葉が出てこず思い浮かんだ言葉は、マリアの耳には届いていない。
否、それどころではないのだ、今のマリアには。
「あ、悪いマリア、俺の女とか言っちまって」
『~~~~~っつ!』
ディーノの言葉に耐え切れず、マリアは自分に触れているディーノの手を薙ぎ払い、次の瞬間マリアはディーノの鳩尾を1発無言で殴った。
綺麗に決まったディーノの鳩尾への1発。
鳩尾を殴られたディーノはその場にしゃがみ込み声にならない声を上げるが、マリアはそんなディーノの声が聞こえておらず俯きスタスタと歩き出した。
先程よりも顔を真っ赤に染め、緩む唇を無理やり噛み締める。
そうしなければ…マリアの頬が緩みニヤケてしまうからだ。
(何なの?何なの!何なのよっ?!)
スタスタと歩きながら、マリアは内心混乱していた。
嬉しい、恥ずかしい、そんな感情がマリアの中で渦巻く。
―――「なぁ、俺の女に何してるんだ?」
―――「っつ…可愛いなマリア…」
ディーノに言われた言葉が、マリアの脳内で再度繰り返される。
(初めてディーノから言われた言葉、嬉しかった)
幼馴染としての期間が長いせいか“幼馴染”以外の言葉なんて出てこないだろうとマリアは思っていた。
異性として見られるわけがないと…精々兄妹として…妹位にディーノは思っているからだろうと勝手にマリアは思っていた。
(恥ずかしかった、そんな言葉をディーノの口から聞いた事が無かったから)
普段売り言葉に買い言葉。
お互い褒める事はしない、マリアの場合褒めても自分の心の中か…ディーノが居ない所でしか本音を言葉にすることが出来ない。
ディーノも基本マリアを褒める事はない、実際そう思っていないのだろうとマリアは思っていた。
そんなディーノから紡がれた可愛いなと言う純粋な言葉は嬉しい反面恥ずかしく、くすぐったく感じてしまう。
(ディーノのくせに、ディーノのくせに…ディーノのくせにぃぃぃいいいいいい!!!)
思い出すだけでマリアの心臓はうるさい位に動悸し体温が上がったような錯覚さえ起こす。
2024/09/13
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