不器用な恋
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『あー、美味しかった』
パンケーキを食べ終えれば、マリアは満足そうに笑みを浮かべる。
昨夜からずっと待ち焦がれていたパンケーキへの欲求、それが今満たされたのだ。
「マリア幸せそうにパンケーキ食ってたがそんなに美味かったのか?」
『そりゃあもう。ここ最近ずっと頭使ってたから糖分不足も相まっていつも以上に美味しかったわよ』
そう言いながら、マリアはカフェラテを一口また口に運ぶ。
普段から頭を使う事も多いので定期的に糖分を摂取しているが、日本に来てからは糖分を取る機会が少なかった。
こうして食べに来なければそれこそ糖分不足で苛立つに違いない。
カフェラテを飲めばそう言えばと…『で、スクアーロは何で日本に居るのよ?』とスクアーロに再度問う。
食べるのに夢中になり忘れていたが、どうしてスクアーロが日本に居るのかその理由を聞くのを思い出した。
問われたスクアーロも忘れていたのか「あぁ…」と言いながらアイスコーヒーを飲む。
「…人探しだ」
『人探し?』
紡がれた言葉にマリアは思わず首を傾げる。
てっきりスクアーロは仕事で日本に来ているとマリアは思っていた。
スクアーロは暗殺部隊ヴァリアーの幹部だ、そんな幹部が人探しで日本に来るのか?という疑問を抱きながらもマリアはスクアーロの言葉を待つ。
「なぁマリア、お前ルーナ・ブルって知ってるか?」
『そりゃあ…あたしも科学者だから名前位は知ってるわよ』
スクアーロの言葉に、マリアは飲んでいたカフェラテのカップをトレーの上に置いた。
ルーナ・ブルとはイタリア語で“青い月”を意味する言葉であり、ある科学者の通り名でもある。
透き通るような肌に白青色の長い髪、月を思い浮かばせるような金色の瞳。
まるで女性のような容姿も相まって彼を…ルーナ・ブルとそう呼ぶようになったらしい。
『マフィア界では超が付くほど有名な科学者で…選ばれたマフィアのファミリーの依頼しか受けない科学者でしょ?』
二十年以上前からルーナの存在はマフィア界隈では有名だった。
否、マフィア界隈だけではない。
科学者の間でも彼の存在は有名だった、彼の才能は天からの賜りものだと。
人間が何百年経っても辿り着けない物を、彼はいとも容易く生み出す。
医療薬、軍事武器、遺伝子操作、分野問わず「神の領域」と言われる領域にすらいとも簡単に抵触する。
だが彼は受けた依頼はこなすものの表舞台には出てこない。
今でも依頼を受けているようだが誰も彼の姿を目にする者はいなかった。
一度の依頼で億単位のお金が動くがそれほどの…否それ以上に価値のある物をルーナは作り生み出す。
勿論その才能を独り占めしようといくつかのファミリーが彼に交渉をした事が有るのだが、その話が出た途端にルーナから依頼を打ち切られ相手にされなくなる。
どれだけお金を落とそうが貢ごうが容赦なく、だ。
依頼以外での繋がりがある者など居ないのではないか?と言われるほどに、それほど彼についての詳細は不明である。
「あぁ、そうだ。俺はそいつを探しに日本に来ている」
『日本に居るの?』
「さぁな…ある程度の国は探し終えたが見つからねぇー…残す所はこの日本だけだ」
『…探して、どうするのよ?』
スクアーロの言葉に、マリアは疑問に思い問う。
暗殺部隊ヴァリアーに属するスクアーロはいわばイタリアの最大手マフィア・ボンゴレファミリーの一員だ。
伝統・格式・規模・勢力全てにおいて別格と言われるボンゴレが何故ルーナ・ブルを探し何がしたいのかマリアには分からなかった。
全てにおいて別格と言われるほどのボンゴレファミリーだ。
ルーナ・ブルに頼らずともそれこそファミリー内に優秀な科学者の1人や2人は居るはずだ。
幾らルーナ・ブルの才能が凄いと言えど、探す理由にはならないだろう。
「それは…まぁ、なんだ。いろいろとあるんだよこっちにも」
『ふ~ん』
言葉を濁した所を見れば、あまり深く聞かれたくないのだろうと思いマリアはそれ以上踏み込むのを辞めた。
マリア自身も自ら面倒事には出来れば関わりたくない。
一般人であるマリアがマフィアと関わった所で何も出来ない事ぐらい充分知っているからだ。
スクアーロの任務の内容を知った所で、マリアは何も出来ないのだから。
『あんまり深くは聞かないけど…見つかるといいわね』
「…あぁ」
そう話し終えると、二人の間には沈黙が流れた。
気まずい訳ではない、ただ先程の会話が尾を引いて次の会話が出てこないのだ。
マリアは気にせずに残っているカフェラテを飲もうと手を伸ばし、スクアーロもまだ残っている飲みかけのアイスコーヒーが入っているコップを手に取る。
―――pipipi…
が、マリアとスクアーロの沈黙を破るように携帯が鳴った。
それはマリアが持っている携帯からではなく、目の前に座っているスクアーロのポケットから鳴っていた。
携帯を取り出しディスプレイを見た瞬間、スクアーロは眉を顰める。
「悪い、ちょっと電話出てくるぜ…」
『はーい、行ってらっしゃい』
そう言い残し、スクアーロは席を外した。
スクアーロが席を外した後、テラス席にはマリアしか居なかった。
席に着いた時、それこそ周りに数名ほど食事をしている人達が確かに居たが今は誰も居ない。
心地よい風が吹き、テラス席近くの木々が騒めく。
(まさかスクアーロの口からその名前が出るとは思ってなかったなぁ…)
先程のスクアーロとの話を思い出し、マリアは空を見上げた。
雲一つない晴れ晴れとした空。
そう言えばあの日も…こんな風に雲一つない晴れ晴れとした空だったような気がするなと思いながら、マリアは無意識に呟いた。
『…何年経ってもルーナは有名だね…先生』
マリアはそう呟きながら、そっと翡翠色の瞳を閉じる。
脳裏を過るのはもう何十年も前の幼い、マリアがただの子供だった頃の記憶。
白青色の長い髪、金色の瞳。
大きな掌でそっとマリアの頭を撫で不器用に笑う先生の姿だった―――…
2024/09/09
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