不器用な恋
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翌日、マリアが目を覚ませばそこはここ数日泊っている部屋のベッドの上だった。
ベッドの近くにあるサイドテーブルの上に置かれていた自分の携帯を見れば時刻は午前7時半。
昨夜はディーノの部屋でうつらうつらしてそのまま意識を手放した記憶はあるが、何故自分が泊っている部屋のベッドの上で寝ていたのか不思議で仕方がない。
(ディーノが運んでくれたのかしら?)
んーっと、背伸びをしながらマリアはそんな事を考えながら部屋の扉の方まで歩く。
扉には鍵が掛かっておらず開いたままの状態だ。
マリアははぁっと溜息を一つつき、やってしまったと思いながらドアスコープを覗く。
ドアスコープを覗くと一人、ディーノの部下がマリアの部屋の前に立っていた。
マリアは申し訳ない気持ちになりながらもゆっくりと扉を開ければ、ガチャリと音がしたのを聞いて部屋の前に立っていたディーノの部下が振り返る。
部屋の前に立っていたのはディーノの部下であり、トマゾの後輩にあたるアベーレだ。
マリアよりも身長が高いがロマーリオほど身長は高くない。
キャバッローネ・ファミリーは基本的に先代から仕えている古参が多いが、アベーレは古参メンバーではなく二年前に入って来たばかりの言うなれば新人だ。
アッシュグレーのサラサラなマッシュヘア、スカイブルーのタレ目な瞳にマリアの姿を移せばニコリと微笑みかける。
「おはようございます、お嬢」
『…アベーレ…おはよう、ごめんね。立ちっぱなしにさせちゃって』
恐らくマリアが眠っていたせいで内側から鍵がかけられず一晩中見張りをさせられていたのだろう。
別に中で待っていてくれても良かったのにと思うものの、それを口に出せば貞操概念がないと怒られかねないので言葉を飲み込む。
「大丈夫ですよ、僕は先ほど交代したばかりなので」
『それでもごめん、あたしが寝ちゃったから』
申し訳ない気持ちで謝れば「気にしないでください」っと、先ほどと変わらぬ表情で微笑む。
『ディーノ達は?』
「修行に行かれましたよ。何時に帰って来るかは分かりかねるみたいだったのでお嬢が起きたらカフェに連れて行って欲しいと言付かっております」
『…別に場所さえ教えてくれたらあたし一人で行けるわよ?』
アベーレの言葉にマリアはそう返した。
ディーノやロマーリオがいるならまだしも、マリアはただの一般人だ。
いくら小さい頃からキャバッローネ・ファミリーにお世話になっているからと言って、ディーノの部下にそこまで甘えるわけにはいかない。
そして此処は日本だ。
イタリアのようにマフィアがそこら中にいるわけでもなく、平和な国だとマリア自身ここ数日そう感じた。
「ダメです、いくら日本だからと言って油断はできませんし…それに」
『それに?』
「それにお嬢に何かあったら僕がボスやロマーリオさんに…一番はトマゾ先輩や他の先輩方に殺されるんで…」
死んだ魚の目をしながら、アベーレは呟く。
別にマリアがキャバッローネ・ファミリーに属しているわけでもないのだからそんな大袈裟な事にはならないと思ったが、「いえ、殺されます…確実に」なんて瞳から光が消え失せた目をしながらアベーレはマリアに言うのだ。
流石に一人で行くとゴリ押しして言えるわけもなく『わ、分かったわよ…お願いしていい?』と問えば「喜んで!」と、アベーレは満面の笑みを浮かべる。
『あ、後申し訳ないんだけどカフェに行く途中にコインランドリーに寄ってもらってもいい…?』
「それは構いませんが、どうかされましたか?」
アベーレがそうマリアに問えば、マリアは『白衣そろそろ洗濯したくて』と呟いた。
着替えはリボーンが用意したものがまだあるが、白衣だけは今着ている物しか持って来ていない。
白衣位無くても良いとも考えたが、普段から着慣れているせいかなければ無いで落ち着かないのだ。
イタリアに帰れば何着かあるが、日本に滞在する予定など想定していなかったため、イタリアから日本に着てきた一着しか持ち合わせていない。
ついでに、白衣も洗濯するのならここ数日着ていた服も一緒に洗ってしまおうとマリアは思った。
シンプルで動きやすい服は既に着てしまい、残っているのセンスはいいがマリアが好んで着るかと問われたらノーな服装ばかりなのだ。
マリアの言葉に、ただただアベーレは頷く。
「では準備が出来次第行きましょうか?」
『はーい、それまで部屋で待ってる?』
「…いえ、お嬢が起きた事他の先輩方に伝えてくるので大丈夫ですよ」
そうアベーレはマリアに言い残し「では」と言いながら去って行った。
アベーレが去るのを見送ってからマリアは出掛ける準備をする。
シャワーを浴び髪を乾かし、紙袋の中から服を一着取り出した。
シンプルな服等残っておらず、紙袋の中にはマリアが普段着ない服しか残っていない。
『仕方ないか…これしか着る物ないし…』
はぁ…っと、溜息を付きながらマリアは諦め肝心と自分に言い聞かせ袖に腕を通した。
白を基調とした襟部分に黒いフリルが使われ、アイボリー色のブラウス。
胸元には黒色のリボン飾りがついている。
ふんわりと膝下までの長さの白いスカートの先には、黒色のフリルがふんだんに使われており、普段のマリアなら絶対に手を出さない服装だった。
鏡を見れば何処かのお嬢様に見えなくもないが…マリア自身似合ってないなと思いながらも器用に髪を纏める。
髪を何時ものハーフツインテールに結ばずに両サイドで三つ編みで、多少なりとも見えがいいだろうとしてみたもののし慣れない髪型のせいか違和感しかない。
(帰ってきたら絶対着替えよ…)
そう思いながらマリアは鞄に携帯とお財布、念のために愛銃といくつかの小瓶と小さめのスプレーボトルを忍ばせ、白衣とここ数日着ていた服が入った紙袋を持ち部屋を出た。
「……お嬢どうしたんですかその服装…?」
部屋を出ると既にアベーレは戻ってきており、普段とは違うマリアの姿に思わず瞳を大きく見開く。
普段シンプルな服装で居る事が多いマリアとは違い、アベーレから見ても今のマリアの恰好はまるで本物のお嬢様のように見えた。
『…こんな感じの服しか着る物が無いのよ…』
アベーレの言葉に、マリアはこれ以上何も言うなと言わんばかりに死んだ魚のような目でアベーレを見る。
マリアは触れて欲しくなさそうなのでアベーレは空気を読み合えて触れないようにするが、内心では(ボスや先輩方が見たら絶対喜ぶだろうな~)と思いながらマリアを凝視する。
だが先程から死んだ魚のような目をしたままのマリアのままだ。
「あ、そうそうお嬢」
『ん?』
「今から行くカフェ、お嬢が食べたがってたパンケーキの取り扱いありましたよ」
アベーレの言葉に、マリアは死んだ魚のような目から一遍し目を輝かせ『行くわよ、アベーレ!』と嬉々としてアベーレの手を取りホテルを後にした。
2024/09/05
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