不器用な恋
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『甘い物が食べたい…』
ツナの家庭教師を始めて三日目の夜、マリアはホテルの一室でパソコンの画面を見ながらそう呟いた。
パソコンの画面には各科目事に問題が作られており、それはツナの分とは別に山本と獄寺の二人に向けて作られたものだった。
初日はツナだけだったが二日目からは獄寺や初顔合わせをした山本もツナの部屋でテスト勉強に参戦している。
マリアは基本ツナメインに教えているのだが、それでも問われれば主に山本の質問にも答えている。
最初こそ敵と認識していた獄寺も、得意分野以外でどうしても分からない所はマリアに渋々聞いてくるほどの仲にはなった。
警戒していた猫がちょっとずつ懐く感覚に似てるなと思ったのは口が裂けても獄寺には言えないが…。
いつの間にかわいわいとしたテスト勉強期間になっており、ツナのついでにと思いマリアは獄寺と山本のテストに向けての問題を作った。
内容も獄寺と山本、それぞれ二人の理解度に合わせた物であり苦手箇所を集めて作った問題だ。
無論リボーンに言われたからしているのではない、完全にマリアのお節介で今しがた作り終えた問題を上書き保存をする。
作り終えて真っ先に思い浮かんだものは甘い物だった。
マリア自身甘い物は好きだが、ここまで脳内が甘い物を欲するのは糖分が足りないからだろう。
『甘い物…パンケーキ…』
無意識のうちに呟いた言葉に、マリアの脳内はパンケーキに支配される。
分厚くふわふわの生地にたっぷりのメープルシロップに生クリーム。
厚みのあるバターが添えられている物も捨てがたい。
季節の果物が添えられている物でもアイスクリームが乗っている物でも、兎に角甘いパンケーキが食べたい…とマリアは思う。
だがしかし、パソコンの画面を見れば時刻は既に二十三時だ。
コンビニ位なら開いて居るだろうが、マリアが求めるパンケーキはそこにはない。
冷たいパンケーキが食べたいわけでも大量生産されたパンケーキが食べたいわけでもない、出来立てでふわふわのパンケーキが食べたいのだ。
かと言って自分で作るとなるとそれこそスーパーは既に閉まっているし、何より作る場所が無い。
(パンケーキ…ダメだ、パンケーキ…食べたい…)
今日は我慢して明日の朝にでも食べに行こうと、マリアは思いパソコンをシャットダウンしてから急いで携帯とルームキーを持ち部屋から出て行った。
『パンケーキ食べたい』
「…もう流石に店閉まってるだろ…」
マリアが泊っている部屋の上の階に泊っているディーノの元を訪れれば、開口一番にマリアはディーノに欲望をぶつけた。
開口一番の言葉にディーノは苦笑するが、はてさてどうしたものかと思いながらマリアを部屋の中に招き入れる。
部屋の中にはロマーリオが居り、恐らくスケジュール調整をしている最中だったのだろう。
ディーノが座っていたソファーの反対側に座っていたロマーリオはマリアの存在に気付くと物珍しそうにマリアを見た。
普段なら珍しくないのだがここ数日夜は泊っている部屋からマリアが夜間出る事がなかったため、どうしたのだろうとマリアを見る。
ロマーリオにもマリアは『パンケーキ食べたい』と言えば、ディーノと同じように「今日は流石に難しいと思うぞお嬢…」とマリアを諭す。
『分かってる、今日は無理でも明日があるでしょ?明日の朝ごはんパンケーキ食べたいのっ!』
「朝ごはんの要望かよ?!」
そう言いながらマリアもディーノもロマーリオが座る反対側のソファーに腰掛ける。
そこが定位置だと言わんばかりに自然な流れで座った。
「お嬢がわざわざ言いに来るのも分かるが…此処の朝食じゃあパンケーキはないからな」
顎を手で擦りながら、ロマーリオはここ数日の事を思い出す。
朝食付きのホテルではあるものの、ここ数日食べた中でパンケーキなどと言う洒落た物は出た事が無い。
いくら朝食バイキングをしているからと言っても、基本的にメインで出ているのは白米にパンだ。
それに合うおかずやサラダ、デザートにちょっとしたヨーグルトや果物はあれどパンケーキは流石にない。
『分かってるわよ…だから近くにパンケーキ食べれそうなお店ないかなって聞きたくて…』
「流石に俺達に聞いてもな…ロマーリオ知ってるか?」
「いや…あー…そういやお嬢送る時にカフェみたいなの確か合ったな」
『じゃあそこ!そこ連れて行って!!』
「パンケーキ置いてあるかまでは分からねえぞお嬢?」
『いいの!そこ連れて行ってくれたら後は自分でお目当ての物頼むから!』
ロマーリオの言葉に、マリアは嬉しそうに『パンケーキ~』と目を輝かせる。
仮にパンケーキが置いてないにしてもカフェなのだから甘いものの一つや二つなら置いて居るだろうとマリアは思う。
ワッフルやケーキにタルト、パンケーキが無くても手作りの甘い物なら百歩譲って許せる。
『あ、ディーノ達はどうする?』
「そりゃ勿論マリアが行くなら…」
行くと答えようとしたその瞬間、ディーノはある事を思い出しバツが悪そうな表情で「行けない…」と言葉を紡いだ。
基本マリアが行くならディーノもロマーリオも行く事が多いのだが、ディーノの口からはっきりと「行けない」と言われてしまった事にマリアは少し驚いた。
『朝っぱらから仕事?』
「仕事じゃねぇーけど…俺とロマーリオ明日は朝から修行する予定があるんだよ」
『修行?』
ディーノの言葉に、マリアは首を傾げる。
修業とは何だろうと、不思議に思うマリアにディーノは苦笑しながら言葉を紡ぐ。
「ツナのファミリーに恭弥って奴がいてな、そいつの家庭教師たまにしてるんだよ」
『ディーノが家庭教師?』
「マリアみたいにちょっと事情があって前に家庭教師してたんだが…まぁ、今回は修行っつーかなんつーか…」
曖昧に答えるディーノに、マリアは『ふ~ん、ディーノでも家庭教師務まるのね』と返した。
ディーノが曖昧に答える場合、それは聞かれたくないからだとマリア自身理解している。
それはマリアだって同じく、仕事の事で答えられない事があれば曖昧にはぐらかすのと同じだ。
仕事の事かはたまた別の理由か…部外者であるマリアが知る必要も聞く必要もないのだ、だからこそ言葉は悪いがてっとり早く話題を終わらせるのだ。
――――pipipi…
すると、誰かの携帯の着信音が鳴る。
マリアが持っている携帯でもなければ、机の上に置かれているディーノの携帯でもない。
音のする方へ視線を向ければ、胸ポケットから携帯を取り出し画面を確認するロマーリオの携帯が鳴っていた様だ。
画面を見れば一瞬眉を顰めるものの、何時もと同じ表情で「悪いボス、お嬢。ちょっくら電話に出てくる」と立ち上がる。
「あぁ」
『行ってらっしゃーい、ロマーリオ』
そう言ってロマーリオが携帯を持ったまま外に出るのを見送れば、室内にはマリアとディーノの二人だけになってしまった。
途端にしんっとした静寂が広がり、マリアもディーノも何の言葉も発しない。
会話が無いが気まずいわけではく、ただただその空間が居心地良いのだ。
何かを話さないといけない空間ではなく、何も話さなくても許されるこの関係がマリアにもディーノにとっても心地がいいと改めて感じさせられる。
『…ディーノ』
「どうしたマリア?」
ディーノの名前を呼ぶと同時に、マリアはディーノの肩に寄り掛かる。
温かいディーノの体温に思わずマリアはうつらうつらと瞼が重たくなっていくなと…どこか他人事のように感じていた。
ここ数日の問題や資料作り、慣れない時差のせいか流石のマリアも疲労が溜まっている…否、はたまた安心しているせいか張りつめていた気が緩んでいく。
嫌がる事のないディーノの肩を借りたまま、マリアは『…眠い』と呟いた。
「部屋戻れそうか?」
『無理…限界…』
ディーノの言葉に流石に部屋に戻ると言う行動を出来ない事だけがマリアには分かった。
次第に身体が重くなり、ぼんやりと視界が歪んでいく。
眠気に抗う術などとうにないマリアは、ゆっくりと目を閉じディーノの肩に寄り掛かったまま意識を手放した―――…
2024/09/04
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