不器用な恋
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『出来た、っと』
エンターキーをタンっと音を立てて押し、ノートパソコン画面に開いているWordに上書きすればマリアはソファーの上で背伸びをした。
昨夜、ディーノ達と食事を終えたマリアはホテルに戻るなり早々、リボーンから頼まれたツナの期間限定家庭教師として勉強を見るべく借りてきた教科書とノート、問題集…そして赤点だらけのテストを元に問題を作り、今その作業を終えたのだ。
勿論問題だけでなく、教科書を見て大事な所を抜き出しまとめた資料もツナに分かりやすい解説付きで準備している。
流石に五科目全てをその日のうちに作るのには骨が折れたが、徹夜したおかげでなんとかなりそうだ。
後は印刷だけだの状態まで持ってきたが…流石にマリアも徹夜したせいか眠い。
カーテンの隙間から朝陽が差し込んでいるが、正確な時間が分からず携帯のディスプレイで確認する。
時刻は午前七時。
ツナが授業から帰ってくる頃にツナの家に行けばいいだろうと思うと睡眠時間は何とか確保出来そうだと、マリアは思った。
(今からシャワー浴びて寝るってなると、八時頃には寝れるかしら?)
そんな事を考えていると控えめにコンコンっと、ドアを叩く音が聞こえる。
小さく欠伸をかみ締めながらマリアはソファーから立上がりドアの方へと歩いた。
こんな朝早くに誰だろう?と思いドアスコープから覗くと、そこには見慣れたロマーリオの姿がありマリアはゆっくりとドアを開けた。
『おはよう~、ロマーリオ』
「おう、おはようお嬢」
ガチャリと音を立てながらドアを開けばロマーリオが立っていた。
何時もの様にキッチリと黒いスーツを見に包んでいる。
一方マリアと言えば昨日の服装のままだったのを見れば、ロマーリオは徹夜したんだろうなと安易に想像できたため苦笑する。
昨日マリアにリボーンから渡された着替え一式が入っている紙袋を渡していたのも勿論知っているのだ。
それに着替えていないと言う事はつまり徹夜した、その結果にどう考えてもたどり着いてしまう。
(ボスが知ったら説教するだろうなこりゃあ…)
『朝早いわね?』
「目が覚めちまってな…。所で、ボス見てねぇ―か?」
『ディーノ?』
「あぁ、朝部屋に様子見に行ったら居なかったんだが…」
マリアの部屋を訊ねた本来の目的を思い出し、ロマーリオは頭を搔く。
昨日ディーノとスケジュール調整をした際に、今朝になって追加の仕事が発生したためその調整をしようと朝早くからディーノの泊る部屋訪れたのだが反応が無かった。
仕方なくスペアキーで開けてみるものの部屋の中には姿はなく、何処を探しても見当たらない。
携帯は繋がらず…否、繋がるには繋がったのだが部屋の中に忘れてしまっていたらしく連絡がつかないのだ。
何か知らないかと思いマリアの所を訪ねたのだが、マリアは『ディーノなら部屋に居るけど?』と平然と答える。
「は…?」
マリアの発言に、ロマーリオは一瞬気の抜けた声を発した。
それもそのはずだ。
マリアもディーノもそれぞれが部屋を取っている。
それなのに何故ディーノがマリアの部屋に居るんだと、訳が分からずロマーリオは困惑しながらマリアに言葉をかけた。
「何でボスがお嬢の部屋に居るんだ…?」
『何でって言われても昨日急にディーノが訪ねてきたから?』
そう言いながらマリアは昨日の事を思い出す。
二十三時を回った頃だっただろうか?
ホテルに帰って来てからは早々にノートパソコンを開き、マリアはひたすら教科書やノート、問題集にテストを見ながら作業をしていたのだ。
その頃になれば五科目のうち二科目は作業を終えた状態だった。
科学者としての実験や研究はどんなにキリが良くても夢中で作業し続けてしまうのだが、今回は科目事に区切りがいいためマリア自身途中休憩を挟みながら進めていた。
(この調子でいけば三時位には終わるかな…?)
そう思いながらテーブルの上に置いてあるペットボトルに手を伸ばし取ったはいいものの、ペットボトルは軽く既に中身を飲み干していた。
部屋に常備されていた物は既に飲み干してしまったため、マリアは仕方ないと思い立ち上がる。
普段の作業と違い区切りが良すぎる場合どうしても水分が欲しくなってしまうのだ。
確かホテルの入り口付近に自動販売機が合ったのを思い出し、今から買いに行こうかとマリアは財布と部屋のキーを持ち歩く。
ガチャリと扉を開けると、今まさにノックをしようとしているディーノがそこに居た。
「よっ」
『あら、ディーノどうしたの?』
ホテル内のためかお気に入りのモッズコートは羽織っておらず、ラフなTシャツがマリアの目に映る。
手にはビニール袋を提げているが、こんな時間に一体どうしたのだろうと不思議そうにディーノの鳶色の瞳へと視線を向けた。
「そろそろ水分補給するんじゃねぇーかなって思って…ほら」
マリアにビニール袋を差し出せばそこには水やお茶などのペットボトルがいくつか入っていた。
中には炭酸系も入っているがマリアはあまり炭酸を飲まないためディーノが自分用に買ったのだろう。
差し出されたビニール袋を素直に受け取ると、結構な量が入っているのかビニール袋は重かった。
『ディーノ…あんた迷わず自販機まで行けたのね』
「俺だって一人でそれ位出来るわ!!」
むっとした表情でディーノはマリアに言う。
部下が居ないと極度の運動音痴や方向音痴になってしまうため、そう思うのは仕方ないとマリアは思った。
究極のボス体質なのだ、寧ろ部下が居ない状態で迷子にならなかっただけ褒めてあげたい。
ディーノの行動が嬉しい反面素直にありがとうとだけ言えばよかったのだが、ついつい余計なことまで言ってしまうのだ。
『まぁ…ありがとね、ディーノ』
そう言いながらディーノを部屋に招き入れ、先ほど座っていたソファーに座り直す。
ディーノも自然と流れるままマリアの隣に座り、飲み物を渡されれば受け取りキャップをひねり開けた。
プシュッと炭酸が抜ける音と共に、ディーノは炭酸飲料を一口飲む。
同じようにマリアもビニール袋から水を取り出し一口飲めば、渇いていた喉が潤う。
「進捗どうだ?」
『んー…国語と英語は作り終えたから残り三科目って感じ』
「相変わらず早えなぁ」
『そう?これでも遅い方よ』
そう言いながら先ほどまでにらめっこしていたノートパソコンの画面を見る。
問題を作るのは大したことではないのだが、問題は解説付きの資料の方だ。
印刷した時に大事な所はマーカーで印でもつけようと思うが…はたしてこれで理解できるかどうか多少の不安はある。
口頭で教える際に理解しやすいように考えてはいるつもだ。
隣からマリアの開いているノートパソコンをディーノが覗き込めば、「なぁ…」とポツリと呟く。
「…マリアまさかと思うが今日全部終わらせる気じゃねぇーだろうな?」
『そのつもりだけど?』
「お前なぁ…」
マリアの言葉に呆れながら、ディーノはマリアを見る。
分かっていた、分かっていたはずだがこうも予想通りに返答されると思っていなかった為ディーノは溜息を付いた。
目に見えて分かっていた事だが何の迷いもなく言われてしまったら、流石のディーノもマリアの行動を止めなければならない。
無理をしないかと言う心配もあるがまだ家庭教師として何一つ教えてないのだ、初日以前から頑張ってどうするのだと言いたくもなる。
「別に五科目一気に仕上げなくていいだろ?三科目目仕上げたら寝ろよ?」
『嫌よ、こういうのは最初に全部やっておきたいのよ』
どの教科からでも手を付けられるようにしておきたい、それがマリアの譲れない所だった。
明日五教科全て手を付けるわけではない。
マリア自身もそれは十分わかっているが性分としてきっちりと仕上げて終わらせておきたい。
お互い一歩も引かず譲らない沈黙の状態が数十分ほど続いた。
だが、不意にディーノはマリアの肩に寄り掛かる。
マリアがディーノの方を見てみれば、今すぐにでも寝てしまいそうな勢いだった。
フライト中にマリアに睡眠薬を盛られて眠ったと言えど、それでも疲れが取れていないのだろう。
『ディーノ眠いんでしょ?』
「眠く…ねぇ…」
『全く…ほら、ディーノ』
言葉ではそう言うものの、どう見てもディーノは今にも寝てしまいそうな勢いだ。
流石にソファーで寝られたらマリア自身作業が出来ない上にディーノの身体に負担が生じる。
(あたしもあたしでダメな自覚はあるけど、ディーノもディーノでこう言う所ダメダメね)
マリアはディーノの手を引き、ベッドの方までディーノを誘導する。
うつらうつらしているディーノは連れて行かれるまま、本来マリアが使うはずのベッドの所まで連れていかれればぽてっとこと切れたように眠り始めた。
すー…すー…っと、規則正しい寝息が聞こえればマリアはくすりと笑い、ディーノにそっと掛け布団を被せる。
『お休み、ディーノ…心配してくれてありがとね』
眠っているディーノには聞こえない言葉をかけ、マリアは再び自分の作業に戻ったのだ。
結果的に徹夜する嵌めになってしまったが、マリアはその事に関しては特に何も思わなかった。
マリア自身も途中いい息抜きになったしこうして作業をし終えているからだ。
その事をロマーリオに話し終えると、はぁっと溜息を付き、ちらりとマリアを見る。
「…で、何もなかったのか?」
『何もって何が?』
きょとんと首を傾げ、純粋無垢な眼差しでロマーリオを見る。
ロマーリオの言葉の意味が分からずマリアはどういう事?と言わんばかりに眉を顰める。
ロマーリオが言いたいのは未婚の独身男女が一夜を同じ部屋で明かしたのだ、何か合ってもおかしい事はないと言う事だ。
何ならお互い想いは伝えていないものの傍から見れば相思相愛なのも知っている、これを機にもしかしたらがあるかもしれないとロマーリオはほんの少し期待した。
…だがマリアの反応を見るなりそれは本当に言葉通り、何もなかったのだろう。
もし本当に何かあればロマーリオのその問いに、きっとマリアは平常心ではいられないのだから。
問われた意味が分からないままのマリアに対し、ロマーリオは「何でもない…」と諦めの表情でマリアを見るのだった。
2024/09/03
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