不器用な恋
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『…これはリボーンも苦労するわけだわ』
リボーンに用意してもらった滞在場所のホテルの一室にて、マリアは数時間前に受けとったツナのテストの答案用紙を見ながら呟いた。
物の見事に五科目全て赤点レベル、丸があればまだいい方なのでは?と思うほどにバツだらけの答案ばかりだ。
小テスト等を見てもほぼほぼゼロに等しい。
リボーンが言っていた「俺が教えようにも理解能力がまず伴ってねぇー」と言う言葉も、あながち間違っていないのだろう。
教科書も折り目はついており授業中きちんと開いているだろうが、それでも授業についていけているかどうか怪しいレベルかもしれない。
『さて…どうやって進めようかなぁ…』
中間テストの範囲と睨めっこしながら、マリアはどのように勉強を教えるか考え込む。
テストの結果があれではまず基礎から叩き込まなければならない。
そうなると五科目と言えどそれなりに広い範囲がテスト範囲となっているのだ、どう考えても時間が足りない。
かと言って詰め込み過ぎるのも返って裏目に出る。
ツナの力量がどれほどなのかテストやノートを見ても憶測でしか過ぎないのと、飲み込み具合が分からないのでどう動けばいいのかすら悩んでしまう。
ディーノやスクアーロの時はある程度二人の事を知っていたため教え方など考えた事もなく、食堂で子供に教えている時も「此処が分からない!」と明確に表示されたうえで教えていた。
だが今回は全く違う。
知り合って間もない上に本人からどこが分からないとも聞いていない状態でのスタートだ。
(今回はちょっと苦戦しそうね…)
持っていた答案用紙を目の前にあるテーブルの上に置きどうしようかとそう思いながらソファーにもたれかかる。
ソファーはそれなりに柔らかく、マリアが倒れれば優しく包み込んだ。
すると見計らかったかのようにコンコンと扉をノックする音がマリアの耳に聞こえる。
『どーぞ?』
「マリアお前な…ちょっとは警戒しろよ」
そう言いながら部屋の中にディーノが呆れながら入って来た。
手にはいくつか紙袋を下げて、重そうにしている。
珍しく部下を連れていない所を見れば多分部屋の前で待っているのだろうとマリアは思う。
『別にあたしの部屋に来るのなんてディーノかロマーリオ位なんだし警戒も何もいらないわよ』
「そう言う意味じゃなくてだな…」
『ディーノみたいにマフィアのボスしてるわけでもないしね』
「はぁ…」
マリアの言葉にディーノはため息をつきながらソファーの近くに持っていた紙袋を下ろし、マリアの隣に座った。
『それ何?』
「何って、マリアの着替えとかいろいろ…」
『へー…ディーノが用意したの?着替えも…あたしの下着も?』
「馬鹿、俺じゃねぇーよ?!リボーンが用意したやつ持ってきただけだ!!」
ディーノは顔を赤くしながら首を横に思いっきり振る。
ほんの少しからかっただけのはずなのに、ディーノの動揺っぷりにマリアはくすりと笑いながら紙袋を一つ手に取り、中身を確認する。
紙袋の中を見れば何着か着替えが入っていた。
ガサリと適当に紙袋の中に入った物を取り出せばシンプルなデザインの服装もあれば、普段マリアが絶対に手を付けないような可愛らしいデザインの服が入っている。
リボーンが選んだのかは謎だが、センスだけで言えば良い。
マリアにそれが似合うかどうかは謎ではあるが…。
着替えの服に対するコメントを差し控え、マリアは再度紙袋の中に着替えを戻す。
まるで見なかったことにしようと言わんばかりに目を逸らしながら。
「それツナのテスト用紙か?」
そんなマリアから目を逸らし、ディーノはテーブルの上に置かれている答案用紙を見た。
カサリと数枚答案用紙を見ながら「お~…」と苦笑交じりに声を漏らす。
「こりゃあリボーンにしごかれる点数ばかりだな」
『ディーノもディーノで似たような感じだったじゃない、特に苦手科目なんて』
「う、それは…そうだけどよ…」
痛い所を突かれたと言わんばかりにディーノは俯く。
流石にツナほど全教科点数が悪いと言うわけではなかったが、苦手科目に対しては五十歩百歩だった。
スクアーロはそれでもまだ点数を取れている方と言えば取れているのだが…他の科目を見れば一目で苦手だと分かるくらいには点数が違っていた。
もう何年も前の事なのに、学生時代を思い出すとつい自然と頬が緩む。
「…なぁ、マリア」
『ん?』
「何でリボーンの頼み事引き受けたんだ?」
ディーノの言葉にマリアはきょとんと首を傾げる。
今回リボーンが頼んだツナへの家庭教師。
マリアはマフィアでもなければディーノと違ってボンゴレと繋がりがあるわけでもない。
完全にリボーンの個人的なマリアへの頼み事だった。
事前に頼まれたわけではなく今日告げられた事だ、いくらリボーンでもマリアが断れば流石に深追いはしないだろう。
だがマリアは今回のリボーンの頼みごとを引き受けた。
マリアの中には科学博物館と言うご褒美につられたのも勿論ある。
それも引き受けた理由の一つではあるのだが…
『そうね、別に引き受けなくても良かったんだけど…』
「けど?」
―――「こんな問題も解けないのか?いい家庭教師もつけてやってると言うのに全く…使えんな」
―――「マリアはちゃんと解けてるではないか?ふん、今まで教えていた奴の教え方が悪かっただけだな」
ふと脳裏を過ったのは二つの言葉。
もう何十年も前に言われたはずの言葉が、鮮明にマリアの中に蘇る。
前者は思い出したくもない言葉でしかない、何なら吐き気すら感じてしまう。
だが後者は…言葉は少し悪いがマリアを救ってくれた大事な言葉だった。
その言葉のおかげでマリアは救われた、自分と同じ可能性があるのなら、その可能性を拾い上げる手助けをしたいと思ってしまうのだ。
『伸びる可能性があるなら、それは捨てたもんじゃないからね』
何処か寂しく、儚く、消えてしまいそうな声で言葉を紡ぐマリアに、ディーノはただただ「そうか」と頷いた。
2024/09/02
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