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「遅かったじゃねぇか名無し」
『あれ、跡部何してるの?』
陽も落ち、辺りは既に暗くなっている10月。
帰ろうと校門を出ようとしたところで、珍しく仏頂面な表情の跡部に呼び止められた。
現在の時刻は午後7時、生徒は名無しのみしかいないと思っていたのだが…まだ自分以外にも生徒が残っていた様だ。
本来の下校時刻であれば、生徒は皆下校している時刻。
では何故跡部が今現在校門の前に居るかと考えるも名無しには理由が分からなかった。
全国大会を終え、3年生は既に部活動を引退している。
無論それは跡部にも言える事だ。
テニス部の新部長として2年生の日吉若が部長をしている事も、跡部が部活動を引退してからは校内に広まったのは記憶に新しい。
それなのにどうして跡部が校門で一人いる理由が分からずに、名無しは首を傾げた。
部活動ではなく生徒会長として何か仕事が残っていたのだろうか?とも考えたがこの時期だ。
中間考査に運動会、修学旅行を控えてはいるが特段生徒会長としての仕事に影響はないはずである。
『と言うか話すのも久しぶりだね、跡部』
「アーン…まぁな」
跡部とは1、2年時クラスが一緒だったのだが3年生になった時にクラスが別れてしまった。
だからと言って全く喋らないと言うわけではない。
お互い連絡先を交換しているが、頻繁にメールや電話のやり取りをする事は極端に減っただけでありちまちまとしたやり取りは行っている。。
部活や生徒会長としての務めが忙しい跡部、名無しも同じように勉強や家でのやるべきことが忙しくなりお互い連絡を取る事は少なくなってしまったのはある意味仕方ない事だろう。
話す頻度が減ったと言えど跡部の活躍は校内に居ればすぐに耳に届くため、跡部の活躍を聞くと名無しはそれだけで嬉しい気持ちになる。
仲のいい友達が頑張っているのだ。
そんな跡部の活躍を聞くと自分も頑張ろうと自然と名無しの気を引き締めてくれる。
『もしかして跡部誰かと待ち合わせしてるの?』
「待ち合わせはしてねぇーが…さっき言っただろ?遅かったじゃねぇかって」
そう言われれば名無しは先程の言葉を思い返す。
確かに跡部が言うように開口一言目が「遅かったじゃねぇか名無し」だった。
まだ帰っていない待ち合わせ生徒でも待ったいるのかと思ったが、どうやら跡部が待っていたのは名無しだったようだ。
『珍しいね?跡部私に何か用事でもあった…?』
そう跡部に問えば、跡部は不機嫌そうに顔を歪め眉間に皺が寄る。
跡部が名無しに対してそんな表情をするのは珍しく、初めて見る表情に名無しは思わず困惑する。
名無しは覚えてないだけで何か跡部にしてしまったのかと思い返すが心当たりがない。
記憶にはないが今日呼び出して置いて跡部との用事をすっぽかしたのかと、名無しは内心ヒヤヒヤする。
此処最近忙しすぎてあまり覚えていないのだ。
忙しい理由も特待生制度に関する内容の把握だったり準備物だったりと…この一週間その書類の準備をするのに名無しは時間を費やしていた。
もしかしたら名無し自身記憶にはないが寝落ちする前に送ったメールで跡部を呼び出してすっぽかしたとか、そんな事をしてしまったのかと考えてしまう。
頭を捻る名無しに、跡部は言葉を紡ぐ。
「名無し…お前今日が何の日か忘れてるのか?」
『何の日…って?今日何かあるっけ…?』
「はぁ…名無し、今日は何月何日だ?」
忙しくても今日が平日の金曜日であることは名無しだって分かっている。
だが日付となれば話は別だ、如何せんここ最近忙しすぎて日付感覚がないのだ。
あっという間に1日が過ぎて行く日々を此処最近送っているのだ、日付を気にしている余裕すら名無しにはなかった。
しかし帰る前に忙しかった理由である特待生制度についての書類を全て出し終えて、ようやく名無しは普段の日常に戻れるのだ。
跡部の言葉に鞄の中にしまっているスマホを取り出して、電源を付ければディスプレイには10月4日と表示されいる。
『えっと…10月4日…って、跡部誕生日じゃん?!』
名無しはようやく今日が何の日かを思い出し、名無しは慌てる。
10月4日…その日は現在名無しの目の前に居る跡部の誕生日なのだ。
跡部が言いたかったのはとどのつまりそう言う事だろう。
言いたいことがわかれば名無しは顔を真っ青にし跡部の顔を見る。
青色の瞳に名無しの姿がくっきりと映し出されているが映し出されている名無しの表情はやはり真っ青だった。
『わ…わー…ごめん跡部、何も用意出来てない…』
毎年のように名無しは手作りクッキーのプレゼントを用意していたのだが、今年は忙しくてそれ所ではなかった。
失念していた自分に嫌気がさすが、跡部の仏頂面な表情は変わらない。
「アーン?別に謝る事でもねぇーだろ」
『え、でも毎年プレゼントでクッキー作ったら一人で食べてたじゃん?忍足が食べたいって言っても全力で阻止してたし…それ位跡部ってクッキーが好きなのかと思って…』
「俺様を何だと思ってるんだ…」
名無しからしたらクッキー大好き跡部とでも思われているのだろうかと、跡部は何度目か分からない溜息を付く。
普段の跡部ならクッキーの1つや2つ誰かに取られても何とも思わない。
クッキーは1つしかないわけではないのだ、毎年10個ほど丁寧にラッピングされ名無しから渡される。
なら何故全力で阻止しているのか、その理由を察して欲しいが名無しは察するよりも言葉で言わなければ伝わらない事を跡部はよく理解している。
(名無しが作るクッキーだから他の誰にも渡したくねぇだけだ)
だがそんな言葉を口にしようとするがそれは今ではないと思い、跡部は別の言葉を口にする。
「別に俺様はプレゼントをたかりに来たわけじゃねぇー…プレゼントが無くても名無しには言える言葉があるだろ?」
『あ…』
その言葉を聞き、ようやく名無しは跡部がどうして校門に居た理由を理解出来た。
プレゼントと一緒に毎年のように言っている言葉。
今年はプレゼントを用意できなかったがそれでも跡部はその言葉を名無しから直接聞きたくて待っていたのだろう。
氷帝学園内で有名な彼の誕生日だ、きっとこの時間帯までにたくさんの人からその言葉を言われたはずだ。
それなのに名無しにその言葉を催促するのだ、思わず名無しは顔を綻ばせようやく笑顔で跡部に言葉を紡ぐ。
『お誕生日おめでとう、跡部!』
「言うのがおせぇーぞ名無し」
名無しからようやく聞きたかった言葉を聞き、跡部は仏頂面から笑顔を見せた。
おめでとう、君が生まれた日
(じゃあもう遅いし今日は帰ろっか)
(アーン?何帰ろうとしてるんだ名無し)
(え…?だってもう遅いし)
(俺様の誕生日はまだ終わってねえんだ。誕生日プレゼントが用意出来てないなら…名無しの今日の残りの時間、俺様に全部寄越せ)
(横暴が過ぎるよ跡部!!?ち、因みに拒否権は…?)
(あるわけねぇーだろ)
(ですよね~)
2024/10/04
お題提供:子猫恋様
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