テニスの王子様
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※中学2年生設定
10月4日、土曜日。
めっきり秋らしくなり朝も涼しく過ごしやすくなってきた午前10時。
勉強机に置いてあるスマホのアラームが音が響けば、名無しは学校から出された宿題をする手を止めてはうんと背伸びをする。
鳴り響くアラームの音を聞いては、ゆっくりと手を伸ばしアラームを切れば名無しはそのままスマホをいじる。
普段であればSNSを開き友達の呟きを眺めるのだが…今日の名無しはそんな事をする余裕はもっていなかった。
Lineを開き名無しはトーク一覧から“跡部 景吾”と登録しているトークを探しては入力欄に手慣れた手つきでフリック入力しては文字を打ち込む。
なんせ今日10月4日は跡部 景吾の誕生日だ。
本当は日付が変わってすぐにお祝いメッセージを送ろうと思ったのだが、名無しは眠気に勝てずあえなく断念した。
それならば起きてすぐにメッセージを送ろうとも考えたがなんだか味っ気がないなぁーと思い、名無しは敢えて跡部の生まれた日の10月4日を時間帯に変えた10時4分にお祝いメッセージを送ろうと考えた。
我ながらいい考えだと名無し自身自画自賛したが、それはちゃんとメッセージを送れたらの話だ。
『こんな感じでいいかな?』
打ち終わった文字を見ては、名無しは打ち間違いをしていないか確認する。
―――Happy birthday跡部!
メッセージを入力する画面にはそんなシンプルな文字が打ち込まれていた。
正直仲のいい同性の友達にならもう少し文章を打ち込んだりするのだが、相手は跡部だ。
ごちゃごちゃした文章よりもシンプルな文字だけの方が相手にも何故メッセージを送ったのかと言う意図がはっきりと伝わる。
スマホの時刻が丁度4分に代わると同時に、名無しは送信ボタンを勢いよく押した。
トーク画面の送ったメッセージの隣には丁度【10:04】と言う数字が刻まれている。
これが何を意味するのか跡部は気にしないかもしれないが、名無しだけが分かっていればいいのだ。
所謂自己満足なのだからと、名無しは頬を緩めては笑みを浮かべる。
『メッセージも終わったし、宿題の続きでもしようかな~』
満足したのかそう呟いて名無しはスマホを先ほどと同じように伏せた。
画面を上向きにしていたらどうしても通知が気になったりして勉強に集中できないせいかなるべく伏せては画面を見えないようにする。
通知をオフにすればいいだけの話かもしれないが、ついつい気になってしまうのだ。
(あと少しで出された宿題終わるし、ちゃちゃっとやってダラダラしよっと)
再びシャーペンを手に取ろうとしたその瞬間。
机の上に伏せて置いたスマホがけたたましく音を立てては振動する。
(やっぱりこの曲いいな~、ずっと聞いてられる…)
名無しのお気に入りのアイドルグループが歌う新作の曲を着信音設定にしているせいかサビの部分を全部聞きたいなぁ…なんて、着信が来たのを知らせる音のはずなのにずっと聞いていたいと思ってしまう程だ。
丁度サビの部分が終えても尚スマホはけたたましくサビをループし出す。
『…って、呑気に聴いてる場合じゃないや』
思わず聴き入ってしまったがこれはただのメールの通知音じゃなく着信音だという事を思い出す。
好きだからと着信音にしたのに一体何のために設定したのだと言われかねない上に、本来の目的からしては本末転倒でしかない。
はっと我に返り慌てて名無しはスマホを手に取れば、スマホ画面に映っていたのは先ほどメッセージを送った相手、跡部景吾の名前が表示されている。
まさか電話がかかってくるとは思っても居なかったため名無しは通話ボタンを指先で押してはスマホを耳にあてた。
『も、もしもし?』
「俺様を待たせるとはいい度胸だな、名無し」
思わず何時もよりも低い声色に名無しは『ごめんて』と平謝りをする。
名無しと跡部は普段から砕けた口調で話す仲なのでお互い気にはしていない。
最初は名無し自身こんな喋り方をしていればいずれ跡部ファンクラブの人間から背後から刺されないかと考えたこともあるが、今の所その心配はないのでこのままの口調で話しているのは言うまでもなかった。
『それよりも、どうしたの跡部…?部活中じゃないの?』
話を逸らすように名無しは言葉を紡いだ。
跡部に誕生日のお祝いメッセージを送ってから、まだそれほど時間は経っていない。
サビを聞くのに夢中になっていたがそれでも5分も経っていたいのだ。
そして今日は土曜日、まだ部活の時間ではないのだろうか?それともたまたま休憩時間だったのだろうか?と思いながら無意識に首を傾げる。
「アーン?土曜日は基本的に部活はオフだ。大会が近い時は別だがな」
『え、そうなの?知らなかった…』
跡部の言葉に名無しは目を丸くしては瞬きをする。
親の都合で神奈川から東京に名無しはこの春転校してきたばかりなのだ。
以前通っていた立海大附属中のテニス部は土日も練習が合ったためてっきり強豪校でもある氷帝学園のテニス部も同じように土日も練習があるものだとばかり名無しは思っていた。
立海大付属中のテニス部の練習風景を見たことはないが、テニス部マネージャーである友達が「土日も休みがないっ!」って嘆いていたのだ。
帰宅部であった名無しは勿論他人事のように当時聞き流していたのを覚えている。
『だって立海が土曜日も練習してたんだもん』
「…そういや名無し立海から来たんだったな」
『そうそう。友達がテニス部のマネしてたからよく嘆いてたなーって思って』
そんな雑談をしていると、名無しは宿題そっちのけで跡部と雑談をし始める。
学校内でもそうだが跡部と話しているのはとても楽しく、時間はあっという間に過ぎていく。
宿題の話や今何をしているだとか、月曜日の小テストが面倒等。
毎日学校で顔を合わせているのに、それでも話題が尽きることはなかった。
丁度話がひと段落し、雑談から30分が経てば跡部はふと思い出したかのように名無しに問いかける。
「……で、名無しは俺様に何をくれるんだ?」
『?何って?』
跡部の言葉の意味を理解できず、名無しは首を傾げてはきょとんとした表情を浮かべる。
「アーン?プレゼントに決まってんだろ」
『プレ…ゼン、ト…?』
跡部の言葉に名無しはまるで初めて聞く言葉のように思わず言葉を繰り返す。
プレゼントとは何だろう?と何度も頭の中で反芻しては名無しの頭は理解が未だに追い付かずはてなマークを浮かべてしまう。
まるでSNSで流行っていた宇宙猫のようにぽかんと口を開けてはアホ面をしてしまう。
そんな名無しをその場にいないのに名無しが理解できていないのを察した跡部は「誕生日プレゼントの話だ」と名無しに分かりやすく言葉で説明した。
『……跡部誕生日プレゼント欲しいの…?』
「アーン?まさか用意してねえのか?」
『えー…だって跡部にあげれるような大層な物買えないもん、あたし』
名無しと違い、跡部は跡部財閥の御曹司であり、所謂金持ちだ。
噂では家が宮殿だったり数々の別荘を保持していると跡部は言っていた。
名無しが通う氷帝学園にも一流の環境を寄付した人物でもあり、それが所以で氷帝学園はお金持ち学校と定着しているらしい。
そんな大々的な事をする跡部相手に、一般庶民である名無しに一体何を望むのだろうと思ってしまう。
跡部が欲しがるようなものなど、名無しに言わずとも己自身で手に入れる事が出来るというのにだ。
それでも跡部は名無しにとって仲のいい友達だ。
跡部がわざわざ言うのだから名無しだって叶えられる範囲でなら応えたいと思っている。
一応お小遣いをもらっているがそれこそ跡部からすればはした金にしかならないだろうが…。
『言っとくけど、そんな高いもの買えないからね?これでも一般中学生の平均金額しかお小遣い貰ってないんだから』
分かっているとは思うが念のため名無しは自分のお小遣い事情を言葉にする。
念のためだ、皆が皆跡部のようなお金持ちではないことに釘を指す。
スマホ越しに言う名無しに、跡部は「…別に買って欲しいわけじゃねえよ」と呆れた声で溜息をついた。
跡部だって一応それくらいは理解しているつもりだ。
寧ろそれこそ己の力で手に入れるに決まっているだろうと言いたくなったが、跡部は出かけた言葉を飲み込む。
(俺様の事を一体何だと思ってやがるんだ名無しは…)
言葉の代わりに深いため息をついては「安心しろ、んな高いもんじゃねえよ」と続けた。
『じゃあ何がいいの…?』
名無しが問いかければ跡部は一瞬黙る。
普段であればすぐに言葉が返ってくるはずなのに、数分の無言を貫いてから掠れた声で「……と…う」と呟く。
掠れた声のせいか、名無しは上手く聞き取れず思わず聞き返してしまう。
『ごめん跡部、聞こえなかった…。もう一回言って…?』
「だから………弁当」
『弁当?』
跡部の意外な言葉に名無しは本日何度目か分からないほどに目を大きく見開いては瞬きを繰り返す。
あまりにも唐突かつ意外過ぎる言葉に名無しは再び理解をするのに時間がかかってしまう。
『弁当って…あの弁当、だよね?持ち運びができる一人分の食事って言うか…』
「それ以外に何があんだよ?」
『……だよねー』
思わず弁当って本当にそれで合ってる?と言ってしまったのが間違いだった。
だが意外過ぎるのだ。
跡部の口からそんな言葉が出てくることにぽかんと開いた口がふさがらない。
『…で、弁当って…どこで売ってるやつ?』
「アーン?何言ってんだ名無し。…名無しが何時も昼に食ってる弁当…あるだろ?」
『……あるっちゃあるけど…』
その言葉に思わず口を噤んでしまう。
跡部の言う弁当と言うのは、名無しが学校がある日は毎日作っているお弁当の事だ。
母親に「学校の日は自分で弁当を作りなさい!」と、中学に上がった時に言われたため名無しは自分で昼食の弁当を作っている。
名無し自身正直毎日作るのはめんどくさいと思っていたが、作らなければ自分の昼食がないだけでなくお小遣いも減らされてしまうのだ。
よっぽどの事情を除き、名無しは自分でお弁当を作る。
母親曰く花嫁修業らしいが…単に母親がお弁当を作るのが面倒なだけでは?と思うがそれは流石に口が裂けても親に面と向かって言う事は出来なかった。
共働きで仕事終わりには毎日美味しいご飯や朝ごはんをきちんと用意してくれているのだから。
理由はどうであれ、自分で昼食のお弁当を作り始めて早2年。
1年目の時は流石に失敗が多かったが、2年目となった今ではお弁当を作る事すら習慣づいている。
味も自分好みにしているからこそ本当にそれでいいのかと首を捻るが、スマホ越しの跡部はそれがいいのか「月曜日に作ってこい」とわざわざ指定してくる。
『…本当にそんなのでいいの?』
「さっきから言ってるだろうが、俺様は名無しの作る弁当が食いてえんだよ」
以前『毎日お弁当自分で作ってるんだ~』と跡部に言ったことはある。
故にそのお弁当が名無しが作っている事も跡部は理解しているはずだ。
正直一流のシェフの料理を食べなれた跡部の舌に名無しの手料理のお弁当なんて不釣り合いではないのだろうか?と思ってしまう。
どうしたものかと考えては黙ったままの名無し。
お弁当を作るのは別に苦ではないし嫌ではないのだが…はたしてそんなものでいいのだろうかとやはり思ってしまうのだ。
母親が料理をする際に手伝う事もあれば、家族に作った時は普通に食べてもらえている。
不味いとは言われたことはないけれど、身内以外の人様にはたして出していいものなのだろうか…と考えてしまう。
(そう言ってくれるのは嬉しいけど…食べさせてお腹壊したりしないかな…)
ぐるぐると一人自問自答しながらも名無しは悩む。
普通に食べられるし、味は問題ないし…けれど人様に出すのは…とつい考え込んでは黙ってしまう。
ましてやこれが宍戸や向日ならなんの躊躇いもなくうなずけるのだが…相手が跡部なだけに余計に考えてしまった。
そんな名無しに、しびれを切らした跡部は「なんだ…ダメなのか?」と、まるで幼い子供が拗ねたような低い声。
『ダメじゃないけど…本当にそんなのでいいの…?』
念を押すように再び問いかければ跡部は言葉を紡いだ。
「良いに決まってるから言ってんだろうが。それとも俺様には食べさせたくねえのか?」
『そ、そんなんじゃないけど…味だったり、人に出して大丈夫かなとか…ましてや跡部の舌に合うのかなぁ~とか』
「あのな、俺様がそれがいいって言ってんだ。つべこべ言わずに月曜日に作ってこい」
跡部の言葉に、名無しは目を瞬かせながらも無意識に言葉を放つ。
『…不味くても怒らない…?』
「アーン?何時も美味そうに名無しが食ってんの見てんだから不味いわけがねえだろ。仮に不味かったとしても俺様が望んだんだ。全部食ってやるよ」
『…お腹壊しちゃうかもだよ?』
「フッ…そん時はそん時だ。例え腹壊したとしてもミカエルに薬の準備させとくから安心しろ」
名無しの不安を1つ1つ跡部が取り除いていく。
さっきまでいろいろ考えていた不安が、まるで嘘のように溶かされては何をそんな事を深く考えていたのだろうと…思わず名無しは笑ってしまった。
『…分かった。飛び切り美味しいお弁当、跡部に食べさせてあげるね!』
凛と、はっきりとようやく紡いだ名無し。
その言葉に、跡部は電話越しに頬を緩めた―――…
午前10時04分のメッセージ
(あ、ねぇねぇ跡部。お弁当のおかずのリクエストって何かある?)
(アーン?そんなもん名無しが何時も食ってるやつに決まってんだろ)
(…卵焼きとか肉じゃがとかたこさんウィンナーとか…跡部そんなのでいいの…?)
(何度も言わせんな…俺様はそれが食いてえんだよ)
2025/10/04
10月4日、土曜日。
めっきり秋らしくなり朝も涼しく過ごしやすくなってきた午前10時。
勉強机に置いてあるスマホのアラームが音が響けば、名無しは学校から出された宿題をする手を止めてはうんと背伸びをする。
鳴り響くアラームの音を聞いては、ゆっくりと手を伸ばしアラームを切れば名無しはそのままスマホをいじる。
普段であればSNSを開き友達の呟きを眺めるのだが…今日の名無しはそんな事をする余裕はもっていなかった。
Lineを開き名無しはトーク一覧から“跡部 景吾”と登録しているトークを探しては入力欄に手慣れた手つきでフリック入力しては文字を打ち込む。
なんせ今日10月4日は跡部 景吾の誕生日だ。
本当は日付が変わってすぐにお祝いメッセージを送ろうと思ったのだが、名無しは眠気に勝てずあえなく断念した。
それならば起きてすぐにメッセージを送ろうとも考えたがなんだか味っ気がないなぁーと思い、名無しは敢えて跡部の生まれた日の10月4日を時間帯に変えた10時4分にお祝いメッセージを送ろうと考えた。
我ながらいい考えだと名無し自身自画自賛したが、それはちゃんとメッセージを送れたらの話だ。
『こんな感じでいいかな?』
打ち終わった文字を見ては、名無しは打ち間違いをしていないか確認する。
―――Happy birthday跡部!
メッセージを入力する画面にはそんなシンプルな文字が打ち込まれていた。
正直仲のいい同性の友達にならもう少し文章を打ち込んだりするのだが、相手は跡部だ。
ごちゃごちゃした文章よりもシンプルな文字だけの方が相手にも何故メッセージを送ったのかと言う意図がはっきりと伝わる。
スマホの時刻が丁度4分に代わると同時に、名無しは送信ボタンを勢いよく押した。
トーク画面の送ったメッセージの隣には丁度【10:04】と言う数字が刻まれている。
これが何を意味するのか跡部は気にしないかもしれないが、名無しだけが分かっていればいいのだ。
所謂自己満足なのだからと、名無しは頬を緩めては笑みを浮かべる。
『メッセージも終わったし、宿題の続きでもしようかな~』
満足したのかそう呟いて名無しはスマホを先ほどと同じように伏せた。
画面を上向きにしていたらどうしても通知が気になったりして勉強に集中できないせいかなるべく伏せては画面を見えないようにする。
通知をオフにすればいいだけの話かもしれないが、ついつい気になってしまうのだ。
(あと少しで出された宿題終わるし、ちゃちゃっとやってダラダラしよっと)
再びシャーペンを手に取ろうとしたその瞬間。
机の上に伏せて置いたスマホがけたたましく音を立てては振動する。
(やっぱりこの曲いいな~、ずっと聞いてられる…)
名無しのお気に入りのアイドルグループが歌う新作の曲を着信音設定にしているせいかサビの部分を全部聞きたいなぁ…なんて、着信が来たのを知らせる音のはずなのにずっと聞いていたいと思ってしまう程だ。
丁度サビの部分が終えても尚スマホはけたたましくサビをループし出す。
『…って、呑気に聴いてる場合じゃないや』
思わず聴き入ってしまったがこれはただのメールの通知音じゃなく着信音だという事を思い出す。
好きだからと着信音にしたのに一体何のために設定したのだと言われかねない上に、本来の目的からしては本末転倒でしかない。
はっと我に返り慌てて名無しはスマホを手に取れば、スマホ画面に映っていたのは先ほどメッセージを送った相手、跡部景吾の名前が表示されている。
まさか電話がかかってくるとは思っても居なかったため名無しは通話ボタンを指先で押してはスマホを耳にあてた。
『も、もしもし?』
「俺様を待たせるとはいい度胸だな、名無し」
思わず何時もよりも低い声色に名無しは『ごめんて』と平謝りをする。
名無しと跡部は普段から砕けた口調で話す仲なのでお互い気にはしていない。
最初は名無し自身こんな喋り方をしていればいずれ跡部ファンクラブの人間から背後から刺されないかと考えたこともあるが、今の所その心配はないのでこのままの口調で話しているのは言うまでもなかった。
『それよりも、どうしたの跡部…?部活中じゃないの?』
話を逸らすように名無しは言葉を紡いだ。
跡部に誕生日のお祝いメッセージを送ってから、まだそれほど時間は経っていない。
サビを聞くのに夢中になっていたがそれでも5分も経っていたいのだ。
そして今日は土曜日、まだ部活の時間ではないのだろうか?それともたまたま休憩時間だったのだろうか?と思いながら無意識に首を傾げる。
「アーン?土曜日は基本的に部活はオフだ。大会が近い時は別だがな」
『え、そうなの?知らなかった…』
跡部の言葉に名無しは目を丸くしては瞬きをする。
親の都合で神奈川から東京に名無しはこの春転校してきたばかりなのだ。
以前通っていた立海大附属中のテニス部は土日も練習が合ったためてっきり強豪校でもある氷帝学園のテニス部も同じように土日も練習があるものだとばかり名無しは思っていた。
立海大付属中のテニス部の練習風景を見たことはないが、テニス部マネージャーである友達が「土日も休みがないっ!」って嘆いていたのだ。
帰宅部であった名無しは勿論他人事のように当時聞き流していたのを覚えている。
『だって立海が土曜日も練習してたんだもん』
「…そういや名無し立海から来たんだったな」
『そうそう。友達がテニス部のマネしてたからよく嘆いてたなーって思って』
そんな雑談をしていると、名無しは宿題そっちのけで跡部と雑談をし始める。
学校内でもそうだが跡部と話しているのはとても楽しく、時間はあっという間に過ぎていく。
宿題の話や今何をしているだとか、月曜日の小テストが面倒等。
毎日学校で顔を合わせているのに、それでも話題が尽きることはなかった。
丁度話がひと段落し、雑談から30分が経てば跡部はふと思い出したかのように名無しに問いかける。
「……で、名無しは俺様に何をくれるんだ?」
『?何って?』
跡部の言葉の意味を理解できず、名無しは首を傾げてはきょとんとした表情を浮かべる。
「アーン?プレゼントに決まってんだろ」
『プレ…ゼン、ト…?』
跡部の言葉に名無しはまるで初めて聞く言葉のように思わず言葉を繰り返す。
プレゼントとは何だろう?と何度も頭の中で反芻しては名無しの頭は理解が未だに追い付かずはてなマークを浮かべてしまう。
まるでSNSで流行っていた宇宙猫のようにぽかんと口を開けてはアホ面をしてしまう。
そんな名無しをその場にいないのに名無しが理解できていないのを察した跡部は「誕生日プレゼントの話だ」と名無しに分かりやすく言葉で説明した。
『……跡部誕生日プレゼント欲しいの…?』
「アーン?まさか用意してねえのか?」
『えー…だって跡部にあげれるような大層な物買えないもん、あたし』
名無しと違い、跡部は跡部財閥の御曹司であり、所謂金持ちだ。
噂では家が宮殿だったり数々の別荘を保持していると跡部は言っていた。
名無しが通う氷帝学園にも一流の環境を寄付した人物でもあり、それが所以で氷帝学園はお金持ち学校と定着しているらしい。
そんな大々的な事をする跡部相手に、一般庶民である名無しに一体何を望むのだろうと思ってしまう。
跡部が欲しがるようなものなど、名無しに言わずとも己自身で手に入れる事が出来るというのにだ。
それでも跡部は名無しにとって仲のいい友達だ。
跡部がわざわざ言うのだから名無しだって叶えられる範囲でなら応えたいと思っている。
一応お小遣いをもらっているがそれこそ跡部からすればはした金にしかならないだろうが…。
『言っとくけど、そんな高いもの買えないからね?これでも一般中学生の平均金額しかお小遣い貰ってないんだから』
分かっているとは思うが念のため名無しは自分のお小遣い事情を言葉にする。
念のためだ、皆が皆跡部のようなお金持ちではないことに釘を指す。
スマホ越しに言う名無しに、跡部は「…別に買って欲しいわけじゃねえよ」と呆れた声で溜息をついた。
跡部だって一応それくらいは理解しているつもりだ。
寧ろそれこそ己の力で手に入れるに決まっているだろうと言いたくなったが、跡部は出かけた言葉を飲み込む。
(俺様の事を一体何だと思ってやがるんだ名無しは…)
言葉の代わりに深いため息をついては「安心しろ、んな高いもんじゃねえよ」と続けた。
『じゃあ何がいいの…?』
名無しが問いかければ跡部は一瞬黙る。
普段であればすぐに言葉が返ってくるはずなのに、数分の無言を貫いてから掠れた声で「……と…う」と呟く。
掠れた声のせいか、名無しは上手く聞き取れず思わず聞き返してしまう。
『ごめん跡部、聞こえなかった…。もう一回言って…?』
「だから………弁当」
『弁当?』
跡部の意外な言葉に名無しは本日何度目か分からないほどに目を大きく見開いては瞬きを繰り返す。
あまりにも唐突かつ意外過ぎる言葉に名無しは再び理解をするのに時間がかかってしまう。
『弁当って…あの弁当、だよね?持ち運びができる一人分の食事って言うか…』
「それ以外に何があんだよ?」
『……だよねー』
思わず弁当って本当にそれで合ってる?と言ってしまったのが間違いだった。
だが意外過ぎるのだ。
跡部の口からそんな言葉が出てくることにぽかんと開いた口がふさがらない。
『…で、弁当って…どこで売ってるやつ?』
「アーン?何言ってんだ名無し。…名無しが何時も昼に食ってる弁当…あるだろ?」
『……あるっちゃあるけど…』
その言葉に思わず口を噤んでしまう。
跡部の言う弁当と言うのは、名無しが学校がある日は毎日作っているお弁当の事だ。
母親に「学校の日は自分で弁当を作りなさい!」と、中学に上がった時に言われたため名無しは自分で昼食の弁当を作っている。
名無し自身正直毎日作るのはめんどくさいと思っていたが、作らなければ自分の昼食がないだけでなくお小遣いも減らされてしまうのだ。
よっぽどの事情を除き、名無しは自分でお弁当を作る。
母親曰く花嫁修業らしいが…単に母親がお弁当を作るのが面倒なだけでは?と思うがそれは流石に口が裂けても親に面と向かって言う事は出来なかった。
共働きで仕事終わりには毎日美味しいご飯や朝ごはんをきちんと用意してくれているのだから。
理由はどうであれ、自分で昼食のお弁当を作り始めて早2年。
1年目の時は流石に失敗が多かったが、2年目となった今ではお弁当を作る事すら習慣づいている。
味も自分好みにしているからこそ本当にそれでいいのかと首を捻るが、スマホ越しの跡部はそれがいいのか「月曜日に作ってこい」とわざわざ指定してくる。
『…本当にそんなのでいいの?』
「さっきから言ってるだろうが、俺様は名無しの作る弁当が食いてえんだよ」
以前『毎日お弁当自分で作ってるんだ~』と跡部に言ったことはある。
故にそのお弁当が名無しが作っている事も跡部は理解しているはずだ。
正直一流のシェフの料理を食べなれた跡部の舌に名無しの手料理のお弁当なんて不釣り合いではないのだろうか?と思ってしまう。
どうしたものかと考えては黙ったままの名無し。
お弁当を作るのは別に苦ではないし嫌ではないのだが…はたしてそんなものでいいのだろうかとやはり思ってしまうのだ。
母親が料理をする際に手伝う事もあれば、家族に作った時は普通に食べてもらえている。
不味いとは言われたことはないけれど、身内以外の人様にはたして出していいものなのだろうか…と考えてしまう。
(そう言ってくれるのは嬉しいけど…食べさせてお腹壊したりしないかな…)
ぐるぐると一人自問自答しながらも名無しは悩む。
普通に食べられるし、味は問題ないし…けれど人様に出すのは…とつい考え込んでは黙ってしまう。
ましてやこれが宍戸や向日ならなんの躊躇いもなくうなずけるのだが…相手が跡部なだけに余計に考えてしまった。
そんな名無しに、しびれを切らした跡部は「なんだ…ダメなのか?」と、まるで幼い子供が拗ねたような低い声。
『ダメじゃないけど…本当にそんなのでいいの…?』
念を押すように再び問いかければ跡部は言葉を紡いだ。
「良いに決まってるから言ってんだろうが。それとも俺様には食べさせたくねえのか?」
『そ、そんなんじゃないけど…味だったり、人に出して大丈夫かなとか…ましてや跡部の舌に合うのかなぁ~とか』
「あのな、俺様がそれがいいって言ってんだ。つべこべ言わずに月曜日に作ってこい」
跡部の言葉に、名無しは目を瞬かせながらも無意識に言葉を放つ。
『…不味くても怒らない…?』
「アーン?何時も美味そうに名無しが食ってんの見てんだから不味いわけがねえだろ。仮に不味かったとしても俺様が望んだんだ。全部食ってやるよ」
『…お腹壊しちゃうかもだよ?』
「フッ…そん時はそん時だ。例え腹壊したとしてもミカエルに薬の準備させとくから安心しろ」
名無しの不安を1つ1つ跡部が取り除いていく。
さっきまでいろいろ考えていた不安が、まるで嘘のように溶かされては何をそんな事を深く考えていたのだろうと…思わず名無しは笑ってしまった。
『…分かった。飛び切り美味しいお弁当、跡部に食べさせてあげるね!』
凛と、はっきりとようやく紡いだ名無し。
その言葉に、跡部は電話越しに頬を緩めた―――…
午前10時04分のメッセージ
(あ、ねぇねぇ跡部。お弁当のおかずのリクエストって何かある?)
(アーン?そんなもん名無しが何時も食ってるやつに決まってんだろ)
(…卵焼きとか肉じゃがとかたこさんウィンナーとか…跡部そんなのでいいの…?)
(何度も言わせんな…俺様はそれが食いてえんだよ)
2025/10/04
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