テニスの王子様
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『う~~~、寒い』
4月、暦の上ではもう春だと言うのに名無しはそんな言葉を零してはテニスコートの片隅で立っては震えていた。
陽は出ているものの、それほど暖かくないのはまだ風が冷たいせいだろうか?
ひんやりとした冷たい風が、名無しの頬を撫でる。
その瞬間ぶるりと身体を震わせては名無しは手に持っているボールペンとスコアブックをぎゅっと握りしめた。
パコン、パコンと目の前のテニスコートではテニスボールがリズムよくラケットで撃ち返されているが鳴り響く。
本日の氷帝学園テニス部は部内試合が行われていた。
名無しもマネージャーとして、スコア付けを行っているが…ただ立っているだけのせいかひんやりとした冷たい風に体温を奪われている。
少しでも温もりを求めようと陽が照っている場所に居るものの、それほどの温もりを得られる事は出来ずにいた。
そもそも寒いと言葉にした名無しは、上半身は氷帝学園テニス部のマネージャー用の半袖のユニフォームジャージを着ているのだ。
その恰好をどうにかしたいと名無しだって思っているが…どうする事も出来ずただただ震える事しか出来ない。
『あー…寒い』
「アーン、何震えてんだ名無し」
『……景吾』
ふと、声のする方へと視線を向ければそこにはテニス部部長である跡部の姿が名無しの目に映る。
ラケットを手に持ち、温かそうな長袖のジャージを着ているのを名無しはほんの少し羨ましく思ってしまう。
「つか、なんちゅう格好してんだお前は…」
跡部は怪訝そうな表情でスコア付けをしている名無しの姿を改めて見る。
“寒い”と言葉にし震えている名無しの上半身は氷帝学園テニス部のマネージャー用のユニフォームジャージを着ているが半袖だった。
下は学校指定のタータンチェック柄のスカートと膝下までの長さの靴下を履いている。
どっちつかずの恰好に跡部は首を傾げながら「そういや名無し制服で登校してなかったか?」と問いかけた。
跡部の言う様に、名無しは制服で学校に来ていた。
春休み中だ。
制服でわざわざ来る理由もなく、本来であれば部活で動きやすいジャージ姿で春休み中名無しは登校していた。
だが今日に限って委員会の仕事が1時間程入っていたため仕方なく名無しは学校指定の制服で登校する羽目になったのだ。
『そりゃ委員会が合ったからね。なかったら制服なんて着てこなかったし』
「寒いならブレザー着りゃあいいじゃねえか?」
『……委員会中に花壇の水やりしてたら後輩に水かけられたから濡れたんだよね』
あははと乾いた声で笑うものの、名無しはつい30分ほど前の事を思い出す。
本日の美化委員の仕事は花壇の手入れと水やりだった。
花壇の手入れ、草むしりをしていた名無しは誤って水やりをしていた後輩に存在を気づかれず水を被ってしまったのだ。
幸いスカートは濡れずに済んだのが唯一の救いだろう。
タオルは部活の為に持って来ていた物があり、部室のロッカーにはマネージャー用ユニフォームの半袖を置いていたので事なきを得たのだ。
「上着はどうした?」
『そんなの持って来てるわけないじゃん。そもそも部活動も制服で参加しようと思ってたんだしさ…』
はぁ、っと深い溜息を付いては名無しは空を見上げる。
そもそも春だと言うのにこんなにも寒いのがおかしいと名無しは思った。
先週までは本当に春の様に暖かかった…否、下手をしたら春を通り越して夏のような暑さを感じるほどだった。
だが、昨日からまた一気に冷え込み冬のような気温に逆戻りになっている。
日本の四季はどうした!仕事しろ!と名無しは思うが、こればかりは名無しがどう騒ごうがどうする事も出来ない。
1日の温度差だって朝晩は冷えるのに昼は温かい時もあるため温度調節すら難しいのだ。
それが1日のうちではなく週によっても変わるのだからどう対処しろと?と文句の1つも言いたくなる。
こうも寒暖差が激しすぎては体調を崩しかねないなと誰もが思ってしまうのだから。
先週の事も合って、念のためにとロッカーの中に置いてあった夏物の半袖を置いていたのが名無しにとって唯一の救いではあったが…。
『へくちっ』
身体を小さく震わせて、名無しは1つくしゃみをする。
半袖で居るせいか身体が冷えたのだろう。
陽が出ていると言ってもやはり風の冷たさに抗う事は出来なかった。
「…ったく、仕方ねえな」
跡部はそう言いながら今着ている上着のユニフォームジャージを脱いではバサリと名無しの頭に被せた。
ふんわりと石鹸のいい香りが、名無しの鼻孔を擽る。
一瞬何が被せられたのか名無しは分からなかったが、先ほどまで来ていた上着はなく、跡部の服装は半袖のユニフォームジャージになっていた。
『え、ちょ…景吾これ…』
「寒いならそれでも羽織っとけ名無し」
『いやいやいや、景吾だって寒いでしょ?』
頭に被せられたジャージを跡部に付き返そうとするものの、跡部は受け取ろうとはしなかった。
陽が出ているにしろ風は冷たいのだ。
それは名無しが身をもって1番良く知っている。
マネージャーである自分が風邪を引いた所で困る…には困るだろうがそれでも代わりはいるのだ。
だが、選手の代わりは誰も出来ない。
特に跡部のような存在になれば尚更代わりを務める人間なんてこの氷帝学園に存在するはずがないのだから…。
だがそんな名無しの言葉など、跡部は無視をする。
「俺様は今から忍足と試合なんだよ。上着なんて合っても邪魔でしかねえからな」
そう言って跡部はラケットを持ったままテニスコートの中へと入っていく。
それでも名無しは納得がいかないのか『景吾!』と声をかけるが跡部が名無しの方を見る事はない。
『景吾が風邪ひいちゃうから返すって!』
「アーン?素直にそれ着てろ名無し」
くくくっと、喉を鳴らしはラケットを肩に乗せ、ゆっくりと振り返っては名無しに言葉を紡ぐ。
まるで自分の言う事は絶対だと言わんばかりにアイスブルーの瞳が名無しの姿を映し込む。
「俺様はそんなやわじゃねえよ…それに名無しに風邪でも引かれたら俺様が困るからな」
『困るって…困る事別にないじゃん…』
「アーン?俺様の“好きな奴”が風邪でも引いちまったら俺様が困るだろ」
(え…“好きな奴”?って…)
跡部の言った言葉を頭の中で反芻するものの、あまりにも突然の言葉に名無しの脳はなかなか理解出来ずに同じ言葉を何度も繰り返す。
今までそんな素振りを見せた事が無かったのだ。
それなのに急にそんな風に想われていると言われてしまえば、誰だって驚く。
そしてあまりにも突然すぎる言葉に、上手く呑み込めなかった。
(好きな奴…え、私?え、えっ??!!)
数秒後、ようやく脳が上手く処理が出来理解すれば、名無しの顔は見る見る赤く染まっていく。
2人きりの時に言われているわけではないのだ。
テニスコートの片隅ではあるものの、名無しと跡部の会話が聞こえていないと言うわけではない。
(なん、で…え、此処で言わなくてもっ…)
跡部に言われた言葉も、現在言われた状況も相まって名無しは耳先まで真っ赤に染まり、自分の体温すら上昇したかのように身体が熱い。
名無しの混乱など知りもしない跡部は何も言わない名無しに対し口角を上げたは笑う。
「それ着て俺様が勝つところを余すことなく見てろ名無し」
あまりにも綺麗に笑った跡部に、名無しは一瞬見惚れてしまった。
絶対的な王様の…キングの言葉に普段は何も思わないはずなのに名無しの心臓は五月蠅いくらいに高鳴る。
ドクン、ドクンっと脈を打ち名無しの身体は熱を帯びた―――…
有無を言わさない彼のジャージ
(ちゃんと俺様が勝つところその目でみたんだろうな名無し?)
(え?!あ…う、ん…それはちゃんと見たけど…)
(けどなんだ?)
(な、何でもないっ!跡部、これありがとうっ)
(いい、そのまま名無しが着てろ。俺様は動いて熱いから今は不要だ)
(っつ~~~、分かった)
2025/04/06
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