テニスの王子様
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※跡部先生×生徒
12月、冬休みももう目と鼻の先まで来ている時期に、氷帝学園に通う名無しは自身の教室の前に立っていた。
名無しの左手首に付けている時計を見れば、時刻は既に9時5分。
一時限目が9時からだと言う事を考えれば、名無しは完全に遅刻をしていた。
(ヤバイ…怒られる…)
寒さと眠気に負け二度寝をしてしまったが故の遅刻。
どう言い訳しようが弁解のしようがない事位は名無しだって分かり切っているのだが、どうしても冬の寒さと布団の中の温もりには抗えないのだ。
布団から出るのすら億劫で、布団の中の温もりは名無しを二度寝へと誘う事は容易事でしかなかった。
それ故の遅刻なのだから怒られてしまうのも当然の事ではあるが、出来れば怒られる事は避けたい。
(どうか先生がまだ来ていませんように…)
来て居ない事は100%ないだろうとは思うものの、ほんの少しの望みを胸に名無しは恐る恐る教室の扉を開き中を覗き込む。
だが教卓の方を見れば一時限目担当の教師の姿は何処にもなかったのだ。
ガラリと音を立てほんの少ししか開けていなかった扉を開けば、クラスメイトが一斉に名無しの方へと視線を向けた。
仲のいい男女の友達は「名無し遅刻じゃん」と揶揄いながら「おはよう」と挨拶し、それに対し名無しも『おはよう~』と返す。
だが仲のいい女子生徒でもなければ先生が来たと勘違いした女子生徒には露骨に嫌そうな目で見られてしまう。
(悪かったな…お目当ての先生じゃなくて)
名無し自身分かり切っている事ではあるものの、そんな風に見られたら誰だって傷つくのだ。
心の中で溜息を付けば、教室の扉の席に座る親友に名無しは問うた。
『先生まだ来てない感じ?』
「さっき担任の先生が少し所用で送れるって言ってたわよ」
『え?じゃあもしかして、ギリギリセーフって事?』
「セーフなわけあるか」
パコンと後ろから声がするとともに、名無しの頭を誰かが軽く叩く。
思いっきり叩いたわけではなく軽く叩かれたと言えど、思わず名無しの口からは『痛い…』と言葉が自然と漏れる。
先程から男子生徒は口を噤み、冷や汗を流しているのを見れば後ろに居るのが誰なのか…名無しには容易に分かってしまった。
女子に関しては「「「キャー!!!」」」っと、黄色い声を上げているのだ。
間違いなく名無しが思っている人物が名無しの背後に立っている事は間違いない。
分かってはいても恐る恐る振り向いてしまうのはきっとこれから言われるであろう言葉を耳にしたくないからだと思いながらも振り向いた。
『げ……あ、跡部先生』
「“げ”とは何だ“げ”とは」
そこには一時限目のギリシャ語担当の教師…跡部景吾の姿が名無しの瞳に映った。
ダークグレーの上質なスーツを身に纏い、ネクタイをキッチリと締めているのは言うまでもない。
手には教材を抱えているのを見れば、今しがた3年A組に到着したようだった。
「お前…昨日も一時限目遅刻してただろ」
『な、何故それを…』
跡部の言葉に名無しは思わず冷や汗を流す。
昨日の一時限目はギリシャ語の授業ではなかったため跡部が知る由もないはずなのにどうして…と名無しは思ってしまう。
だが昨日の一時限目は確か音楽の授業だ。
音楽教師である榊と跡部は知り合いの為、それで昨日も名無しが遅刻した事を聞いたに違いない。
(まずい…昨日も遅刻したのバレてる…)
内心名無しは焦るもののどうしようもないのだ。
何も言えず口を噤んでいる名無しに「昼休みにギリシャ語準備室まで来るように」と跡部は言った。
勿論名無しに拒否権などない。
教師にそう言われてしまえば従わざる負えないのだから。
『……はい』
クラスメイトの前で呼び出しを喰らった名無しには逃げ道など何処にもなかった―――…
「で、仕方なく聞くが遅刻の理由は何だ?」
昼休み。
約束通り呼び出しを喰らった名無しはギリシャ語準備室…もとい跡部専用の部屋の中にあるソファーに座って居た。
目の前には同じくソファーに座るギリシャ語担当の跡部がアイスブルーの瞳に名無しの姿を映している。
その瞳に映る名無しの姿はきっと傍から見れば蛇に睨まれた蛙…否、王の目の前に何故か連れてこられた平民に違いないだろう。
身を縮めちらりと跡部の方を見れば一時限目の時とは違い、スーツのジャケットは脱がれキッチリ絞められていたネクタイも今は緩められていた。
(完全に目が怒ってるなぁ…これは…)
傍から見れば怒っている様に見えないかもしれないが、名無しにははっきりと跡部が怒っている事が分かってしまう。
それは長年彼の事を知っているからと言う理由も少なからずあるのだ。
今年から跡部 景吾は氷帝学園のギリシャ語担当の新任教師として赴任しているが、名無しはそれよりも以前から跡部景吾と言う人物を知っている。
氷帝学園の卒業生であり、氷帝学園に多大な寄付をしている事も合ったので彼に逆らう者はこの学園には居ないし理事長ですら言いなりだ。
勿論跡部が担当するギリシャ語の教科は分かりやすくかつ生徒の間では男女問わず人気を博している。
生徒だけではなく保護者からも人気なのだ。
跡部のカリスマ性は止まる事を知らないのではないかと思う程、誰もが一目置いている。
跡部財閥の御曹司でかなりの金持ちである彼が、何故父親の会社で働かず母校の学校で教師をしているのかと言うには理由があった。
『布団から出られなくて二度寝しました…』
「おい、俺様がモーニングコールしてやっただろ?」
『その後ついそのまま二度寝しちゃった』
てへぺろと悪びれもなく、名無しが言い放てば跡部の眉間に皺が寄る。
ほんの少しでも重苦しいこの雰囲気を緩和しようとしたものの、その行為は逆効果へと終わってしまった。
その証拠に今度は誰が見ても確実に怒っている雰囲気を跡部が醸し出しているのが分かってしまいう程だ。
怒らせてしまったのは名無し自身分かっている。
分かっているからこそ自分の非を認めるしかないと思い、名無しは肩を落としながら呟いた。
『けー君そんな怒らないでよ…』
「その呼び方は学園 では止めろと言ってるだろ名無し」
『だって…』
「だってじゃねぇー」
『…一応これでも私けー君の許嫁…だよ?』
「許嫁である前に学園 では教師と生徒だろ」
跡部にそう言われてしまえば、名無しは「ごめんなさい…」と素直に謝った。
先程名無し自身が言ったように、名無しと跡部は許嫁関係である。
双方の両親が決めた事であれど、跡部も名無しもお互いを好いているので反論する事もなかった。
名無しが中学生になってからは、花嫁修業だと言わんばかりに跡部が一人暮らししていたはずの家に放り込まれたのだ。
無論双方の両親はその事を知っているし、何より名無しの親が海外での仕事に専念するために一人日本に残す事になる名無しを心配しての事もある。
故に名無しと跡部は同じ家に住み同棲している状態だ。
『それはそうだけどさ…と言うか何でけー君はわざわざ氷帝学園の教師になったの?お義父さんの会社の仕事引き継ぐんじゃなかったの?』
「アーン?引き継ぐに決まってんだろ。…まぁ、教師としての仕事は社会経験みたいなもんだ」
フッと笑い、そう言って跡部は座って居たソファーから立ち上った。
跡部は氷帝学園の教師としての仕事もこなしつつ、空いた時間で父親の会社の仕事もしている。
いずれは自身の父親から会社を引き継ぐのだから、当然と言えば当然だ。
事情を知っている理事長は勿論名無しと一緒に住んでいる事も勿論知っている。
理事長以外で知って居る者はこの学園には居ないため、他の教員や生徒には内緒ではある。
(社会経験なら教師じゃなくて普通の企業に勤める方が社会経験になるような気がするけどなぁ…)
跡部の言葉に名無しは首を傾げながら思うものの、その言葉を口にする事はなかった。
跡部の人生は跡部の物だ。
そこに口を出すのは許嫁である名無しであろうが違うのだから。
そんな事を思っていると、ソファーから立ち上がった跡部はゆっくりとした足取りで名無しの方に近づく。
コツコツと靴を鳴らし、名無しの座るソファーの前に立てばゆっくりと名無しの顎に手を手を添え自分の方へと顔を上げた。
「取りあえずちゃんと遅刻せずに学校に来い、名無し」
『はーい、ごめんなさい。と言う事でそろそろお昼ご飯食べてきていい?』
「はぁ…別に構わねぇーが…名無し」
『なぁに?』
名前を呼ばれると同時にゆっくりと跡部の顔が名無しに近づけた。
「帰ったらお仕置きだ、名無し」
跡部の艶のある声が耳元で囁かれれば、名無しの身体は知らずうちにビクッと跳ねる。
くすぐったい反面、許嫁とは言え名無しにとって好きな人には変わりない。
これだけ近くに来られれば囁かれれば、名無しの胸は高鳴ってしまう。
それに跡部の紡いだ“お仕置き”と言う言葉に、名無しは何故?と言わんばかりに目を見開き跡部を凝視する。
『ど、どういう事…けー君?』
「アーン、俺様直々にモーニングコールしたにも関わらず名無しは二度寝したんだ。それ相応の事されても仕方ないと思わねぇーか?」
『その事に関しては謝ったよ?!それに此処学校だってけー君だって言ってたでしょ?!』
「だから“帰ったら”って言っただろ」
慌てふためく名無しに対し、跡部はニヤリと笑いながら目を細める。
「どんだけ啼こうが…お仕置きだ」
“お仕置き”と言う跡部の言葉に、赤く染まった頬からは一気に血の気が引き今度は青ざめた。
名無し自身何度か跡部からお仕置きをされた事があるのだ。
今回の様に寝坊した時や宿題を忘れた時に、寝かせる事もなく夜通し跡部の気が済むまで名無しはお仕置きを受けた事があるのを思い出しては冬だというのにも関わらず冷や汗が流れる。
今思い出しても名無しにとってそのお仕置きは相当キツイものであり、何より明日は土曜日だ。
学校も無い上に夜通し跡部にお仕置きされる事は目に見えて予想が付く。
『け、けー君?!流石に教師の仕事も会社の仕事もしてしんどいんだから、夜位ゆっくりしようよ?!ね?』
「アーン?俺様がそんなやわじゃねぇー事位、名無しは知ってるだろ」
『し、知ってるけど?!知ってますけど?!私の身が持たないよ?!』
「お仕置きなんだから甘んじて受け入れろ、名無し」
跡部がそう言えば、名無しは絶望したような目で跡部に視線を向ける。
勿論跡部の表情を見れば本気なのが一目見て分かってしまう。
こうなった跡部は有言実行するのだ、名無しはがっくりと肩を落とし夜が来なければいいのにと…ひっそりと思うものの、そう思った所で夜は必ず来るのだ。
『…けー君のばか…』
「自業自得だろ、名無し」
くくくっと喉を鳴らし、目の前で真っ青になる名無しを見ては、跡部はただただ妖艶な笑みを浮かべた―――…
起きれず遅刻の一時限目
(今日は早く帰るから寄り道すんじゃねぇーぞ名無し)
(お買い物行くのは…)
(ダメだ、明日にしろ)
(で、でも晩御飯の準備とかいろいろと…)
(名無し)
(…うぅ…分かった、けー君の言う通りにします)
2024/12/18
お題提供:子猫恋様
12月、冬休みももう目と鼻の先まで来ている時期に、氷帝学園に通う名無しは自身の教室の前に立っていた。
名無しの左手首に付けている時計を見れば、時刻は既に9時5分。
一時限目が9時からだと言う事を考えれば、名無しは完全に遅刻をしていた。
(ヤバイ…怒られる…)
寒さと眠気に負け二度寝をしてしまったが故の遅刻。
どう言い訳しようが弁解のしようがない事位は名無しだって分かり切っているのだが、どうしても冬の寒さと布団の中の温もりには抗えないのだ。
布団から出るのすら億劫で、布団の中の温もりは名無しを二度寝へと誘う事は容易事でしかなかった。
それ故の遅刻なのだから怒られてしまうのも当然の事ではあるが、出来れば怒られる事は避けたい。
(どうか先生がまだ来ていませんように…)
来て居ない事は100%ないだろうとは思うものの、ほんの少しの望みを胸に名無しは恐る恐る教室の扉を開き中を覗き込む。
だが教卓の方を見れば一時限目担当の教師の姿は何処にもなかったのだ。
ガラリと音を立てほんの少ししか開けていなかった扉を開けば、クラスメイトが一斉に名無しの方へと視線を向けた。
仲のいい男女の友達は「名無し遅刻じゃん」と揶揄いながら「おはよう」と挨拶し、それに対し名無しも『おはよう~』と返す。
だが仲のいい女子生徒でもなければ先生が来たと勘違いした女子生徒には露骨に嫌そうな目で見られてしまう。
(悪かったな…お目当ての先生じゃなくて)
名無し自身分かり切っている事ではあるものの、そんな風に見られたら誰だって傷つくのだ。
心の中で溜息を付けば、教室の扉の席に座る親友に名無しは問うた。
『先生まだ来てない感じ?』
「さっき担任の先生が少し所用で送れるって言ってたわよ」
『え?じゃあもしかして、ギリギリセーフって事?』
「セーフなわけあるか」
パコンと後ろから声がするとともに、名無しの頭を誰かが軽く叩く。
思いっきり叩いたわけではなく軽く叩かれたと言えど、思わず名無しの口からは『痛い…』と言葉が自然と漏れる。
先程から男子生徒は口を噤み、冷や汗を流しているのを見れば後ろに居るのが誰なのか…名無しには容易に分かってしまった。
女子に関しては「「「キャー!!!」」」っと、黄色い声を上げているのだ。
間違いなく名無しが思っている人物が名無しの背後に立っている事は間違いない。
分かってはいても恐る恐る振り向いてしまうのはきっとこれから言われるであろう言葉を耳にしたくないからだと思いながらも振り向いた。
『げ……あ、跡部先生』
「“げ”とは何だ“げ”とは」
そこには一時限目のギリシャ語担当の教師…跡部景吾の姿が名無しの瞳に映った。
ダークグレーの上質なスーツを身に纏い、ネクタイをキッチリと締めているのは言うまでもない。
手には教材を抱えているのを見れば、今しがた3年A組に到着したようだった。
「お前…昨日も一時限目遅刻してただろ」
『な、何故それを…』
跡部の言葉に名無しは思わず冷や汗を流す。
昨日の一時限目はギリシャ語の授業ではなかったため跡部が知る由もないはずなのにどうして…と名無しは思ってしまう。
だが昨日の一時限目は確か音楽の授業だ。
音楽教師である榊と跡部は知り合いの為、それで昨日も名無しが遅刻した事を聞いたに違いない。
(まずい…昨日も遅刻したのバレてる…)
内心名無しは焦るもののどうしようもないのだ。
何も言えず口を噤んでいる名無しに「昼休みにギリシャ語準備室まで来るように」と跡部は言った。
勿論名無しに拒否権などない。
教師にそう言われてしまえば従わざる負えないのだから。
『……はい』
クラスメイトの前で呼び出しを喰らった名無しには逃げ道など何処にもなかった―――…
「で、仕方なく聞くが遅刻の理由は何だ?」
昼休み。
約束通り呼び出しを喰らった名無しはギリシャ語準備室…もとい跡部専用の部屋の中にあるソファーに座って居た。
目の前には同じくソファーに座るギリシャ語担当の跡部がアイスブルーの瞳に名無しの姿を映している。
その瞳に映る名無しの姿はきっと傍から見れば蛇に睨まれた蛙…否、王の目の前に何故か連れてこられた平民に違いないだろう。
身を縮めちらりと跡部の方を見れば一時限目の時とは違い、スーツのジャケットは脱がれキッチリ絞められていたネクタイも今は緩められていた。
(完全に目が怒ってるなぁ…これは…)
傍から見れば怒っている様に見えないかもしれないが、名無しにははっきりと跡部が怒っている事が分かってしまう。
それは長年彼の事を知っているからと言う理由も少なからずあるのだ。
今年から跡部 景吾は氷帝学園のギリシャ語担当の新任教師として赴任しているが、名無しはそれよりも以前から跡部景吾と言う人物を知っている。
氷帝学園の卒業生であり、氷帝学園に多大な寄付をしている事も合ったので彼に逆らう者はこの学園には居ないし理事長ですら言いなりだ。
勿論跡部が担当するギリシャ語の教科は分かりやすくかつ生徒の間では男女問わず人気を博している。
生徒だけではなく保護者からも人気なのだ。
跡部のカリスマ性は止まる事を知らないのではないかと思う程、誰もが一目置いている。
跡部財閥の御曹司でかなりの金持ちである彼が、何故父親の会社で働かず母校の学校で教師をしているのかと言うには理由があった。
『布団から出られなくて二度寝しました…』
「おい、俺様がモーニングコールしてやっただろ?」
『その後ついそのまま二度寝しちゃった』
てへぺろと悪びれもなく、名無しが言い放てば跡部の眉間に皺が寄る。
ほんの少しでも重苦しいこの雰囲気を緩和しようとしたものの、その行為は逆効果へと終わってしまった。
その証拠に今度は誰が見ても確実に怒っている雰囲気を跡部が醸し出しているのが分かってしまいう程だ。
怒らせてしまったのは名無し自身分かっている。
分かっているからこそ自分の非を認めるしかないと思い、名無しは肩を落としながら呟いた。
『けー君そんな怒らないでよ…』
「その呼び方は
『だって…』
「だってじゃねぇー」
『…一応これでも私けー君の許嫁…だよ?』
「許嫁である前に
跡部にそう言われてしまえば、名無しは「ごめんなさい…」と素直に謝った。
先程名無し自身が言ったように、名無しと跡部は許嫁関係である。
双方の両親が決めた事であれど、跡部も名無しもお互いを好いているので反論する事もなかった。
名無しが中学生になってからは、花嫁修業だと言わんばかりに跡部が一人暮らししていたはずの家に放り込まれたのだ。
無論双方の両親はその事を知っているし、何より名無しの親が海外での仕事に専念するために一人日本に残す事になる名無しを心配しての事もある。
故に名無しと跡部は同じ家に住み同棲している状態だ。
『それはそうだけどさ…と言うか何でけー君はわざわざ氷帝学園の教師になったの?お義父さんの会社の仕事引き継ぐんじゃなかったの?』
「アーン?引き継ぐに決まってんだろ。…まぁ、教師としての仕事は社会経験みたいなもんだ」
フッと笑い、そう言って跡部は座って居たソファーから立ち上った。
跡部は氷帝学園の教師としての仕事もこなしつつ、空いた時間で父親の会社の仕事もしている。
いずれは自身の父親から会社を引き継ぐのだから、当然と言えば当然だ。
事情を知っている理事長は勿論名無しと一緒に住んでいる事も勿論知っている。
理事長以外で知って居る者はこの学園には居ないため、他の教員や生徒には内緒ではある。
(社会経験なら教師じゃなくて普通の企業に勤める方が社会経験になるような気がするけどなぁ…)
跡部の言葉に名無しは首を傾げながら思うものの、その言葉を口にする事はなかった。
跡部の人生は跡部の物だ。
そこに口を出すのは許嫁である名無しであろうが違うのだから。
そんな事を思っていると、ソファーから立ち上がった跡部はゆっくりとした足取りで名無しの方に近づく。
コツコツと靴を鳴らし、名無しの座るソファーの前に立てばゆっくりと名無しの顎に手を手を添え自分の方へと顔を上げた。
「取りあえずちゃんと遅刻せずに学校に来い、名無し」
『はーい、ごめんなさい。と言う事でそろそろお昼ご飯食べてきていい?』
「はぁ…別に構わねぇーが…名無し」
『なぁに?』
名前を呼ばれると同時にゆっくりと跡部の顔が名無しに近づけた。
「帰ったらお仕置きだ、名無し」
跡部の艶のある声が耳元で囁かれれば、名無しの身体は知らずうちにビクッと跳ねる。
くすぐったい反面、許嫁とは言え名無しにとって好きな人には変わりない。
これだけ近くに来られれば囁かれれば、名無しの胸は高鳴ってしまう。
それに跡部の紡いだ“お仕置き”と言う言葉に、名無しは何故?と言わんばかりに目を見開き跡部を凝視する。
『ど、どういう事…けー君?』
「アーン、俺様直々にモーニングコールしたにも関わらず名無しは二度寝したんだ。それ相応の事されても仕方ないと思わねぇーか?」
『その事に関しては謝ったよ?!それに此処学校だってけー君だって言ってたでしょ?!』
「だから“帰ったら”って言っただろ」
慌てふためく名無しに対し、跡部はニヤリと笑いながら目を細める。
「どんだけ啼こうが…お仕置きだ」
“お仕置き”と言う跡部の言葉に、赤く染まった頬からは一気に血の気が引き今度は青ざめた。
名無し自身何度か跡部からお仕置きをされた事があるのだ。
今回の様に寝坊した時や宿題を忘れた時に、寝かせる事もなく夜通し跡部の気が済むまで名無しはお仕置きを受けた事があるのを思い出しては冬だというのにも関わらず冷や汗が流れる。
今思い出しても名無しにとってそのお仕置きは相当キツイものであり、何より明日は土曜日だ。
学校も無い上に夜通し跡部にお仕置きされる事は目に見えて予想が付く。
『け、けー君?!流石に教師の仕事も会社の仕事もしてしんどいんだから、夜位ゆっくりしようよ?!ね?』
「アーン?俺様がそんなやわじゃねぇー事位、名無しは知ってるだろ」
『し、知ってるけど?!知ってますけど?!私の身が持たないよ?!』
「お仕置きなんだから甘んじて受け入れろ、名無し」
跡部がそう言えば、名無しは絶望したような目で跡部に視線を向ける。
勿論跡部の表情を見れば本気なのが一目見て分かってしまう。
こうなった跡部は有言実行するのだ、名無しはがっくりと肩を落とし夜が来なければいいのにと…ひっそりと思うものの、そう思った所で夜は必ず来るのだ。
『…けー君のばか…』
「自業自得だろ、名無し」
くくくっと喉を鳴らし、目の前で真っ青になる名無しを見ては、跡部はただただ妖艶な笑みを浮かべた―――…
起きれず遅刻の一時限目
(今日は早く帰るから寄り道すんじゃねぇーぞ名無し)
(お買い物行くのは…)
(ダメだ、明日にしろ)
(で、でも晩御飯の準備とかいろいろと…)
(名無し)
(…うぅ…分かった、けー君の言う通りにします)
2024/12/18
お題提供:子猫恋様
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