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「縁談…だと?」
公務の話でもあるのだろうかと思い、自室に招き入れた重臣の言葉に、日向は自分の耳を疑った。
妹でありこの江戸幕府の女将軍である家光に縁談の話が来るのならまだわからなくもない。
実質世継ぎはまだかと日々家光…否、今は影武者である名無しにしつこく申し立てているのだから。
実の妹がまさか城を抜け出し影武者と入れ替わっていた等と知ったときは勿論驚いた、だがそのおかげで名無しと出会うことができ、今まで知ることのできなかった恋を、今まで感じたことのなかった感情を…名無しと恋仲になり知ることができた。
だが、名無しが家光の影武者である事を知っているのはこの江戸城でもほんのひと握りの者だけ。
日向と名無しが恋仲であることを知っているのも、春日局と世話役の稲葉、護衛の火影くらいだろう。
無論目の前にいる重臣はこのことを知らず、ただ笑みを浮かべたまま日向の言葉に頷いた。
「はい、日向様ももう二十七。これまでは体調のご関係で諦めておりましたが…体調の方も大丈夫そうですし。そろそろ身を固めてはと、私共の間で話が上がっております。それにもし…日向様の縁談が成功すれば、家光様も日向様に見習って祝言を上げるかもしれません。つきましては…」
言葉を続ける重臣に、日向は何か硬い鈍器のようなもので頭を殴られた錯覚に陥る。
頭の中が真っ白になり、重臣の言葉など右から左へ筒抜ける形になりながら、日向は息を飲んだ。
悪気があるわけではなく良かれと思って重臣は縁談の話を切り出したのだろう。
それくらい日向自身も分かっている、わかっているのだが…
(縁談…?俺には名無しがいるのに何故縁談などと勝手な事を…)
頭では分かっているが苛立ちが収まる事はなかった。
ただ冷たい眼差しを向け、無心を装いながら日向はただただ、重臣を見つめた。
話は聞き流したまま、ただ名無しのことを考えて…。
そうでもしていないと、今すぐにでもこの目の前で喋っている者を殺してしまおう等と言う衝動に駆られてしまう。
嬉々と縁談相手候補の事を話している重心に、日向はただ黙ったまま重臣の話を一刻ほど聞いた―――…
「…っつ、名無し!!」
「日向様…?」
一刻ほど経ちやっと重臣から解放されるやいなや、日向はすぐさま名無しがいる葵の間へと足を運んだ。
葵の間へたどり着くと、日向は辺りを気にせずにただ愛しい恋人の名を呼びめいいっぱい抱きしめた。
抱きしめられた名無しは首を傾げながら驚く。
何時もなら安易に名前を呼ぶことも、襖を開けることもしない。
名無しだけがいる事を確認してその名を呼ぶのだが…
今の日向にとってはその事を考える余裕もなかったのだろう、葵の間には名無し以外に人が居ないのは幸いの事であるが。
「日向様?どうかされたのですか?」
「あー…いや、すまん…何でもない…。ただ名無しにこうしたいと思ってな…」
名無しの言葉に我に返り、日向は苦しそうに笑みを見せた。
先程までずっと名無しの事だけを考えていた日向は名無しを欲していた自分が恥ずかしく、俯く。
「あの、日向様」
「ん?」
名前を呼ばれ名無しの顔を覗き込めば、ちゅっと音を立てて温かく柔らかい名無しの唇が触れた。
すぐに離れてしまった名無しは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら「あの…私も、私も今日向様とこうしていたいなと思っていたんです…」っと蚊のなくような声で呟いた。
そんな名無しに日向は欲望を抑える事もなく腰を抱き寄せて口付けを落とした。
「んん……っ」
くぐもった声を漏らしながら、日向の首に腕を回しぎゅっと名無しは抱きつくいてくるが、押し当てていただけの唇を舌で器用に割り、強引に舌を絡ませる。
「あ、あっ……んんっ」
潤んだ瞳で、ぎゅっと日向の首にすがりつく名無しの口からは、艶めいた声が溢れる。
一度唇を離し、息をするものの、千影の「ひゅうが…さまっ…」と甘く誘う声が日向の耳に届き、再び深い口付けを繰り返す。
何度も何度も繰り返されていくうちにいつの間にか、名無しは日向に押し倒されていた。
まだ日が高いことも気にせずに…二人は求めるまま肌を重ね合った―――
「…俺は…俺には…お前しかいらない…」
隣で眠る名無しに言い聞かせるように、名無しの髪を梳きながら日向はぽつりと呟いた。
幼い頃から自分が初めて欲しいと思った名無し。
地位も名誉も…名無しのためなら捨てる覚悟すら出来ているというのに…何故今更ながら縁談などという話が上がってきたのだろうと…思い出す度に日向の胸が痛む。
地位も名誉も捨てる覚悟は出来ている、だが今は出来ない…家光が戻るまで名無しはこの江戸城の女将軍であり、この城から出ることはできない。
縁談の話が名無しの耳に入るのもそう時間はかからないだろう…。
勿論日向は縁談の話は勿論断るが…
(…縁談をする等と言って名無しを悲しませたくない…こいつには…笑っていて欲しいからな)
「お前だけがいてくれれば、俺はそれでいいんだ…」
願わくば、いつか来るその日がせめてできるだけ先になるように…と―――…
お題提供:確かに恋だった様
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