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温かい日差しがぽかぽかと降り注ぐ4月のある日。
名無しと日向は庭園のある場所に敷物をしき、腰を下ろしていた。
以前日向が名無しを連れて息抜きに連れて行った場所に、二人はしばしば訪れるようになった。
誰の目も気にせずに、二人で居られる特別な場所。
以前と違って青々しかった木々ではなく、淡い桜色の木々がいくつも並んでいた。
時折風が吹き、淡い桜の花弁はひらり、ひらりと空を舞う。
「今日は思った以上に花見日和だな」
「はい。よく晴れていますし桜も満開に咲いていますしね」
「ああ、こういう日は公務を忘れてのんびりするのが一番だな」
身体を伸ばし澄んだ空気を吸う。
昨日までの多忙な公務の事を全て忘れられそうなほど、今二人でいる時間は癒しでしかない。
名無しは懐から包を取り出し、今朝作ったばかりの菓子を日向の前へ差し出した。
包みを開くと、何かの花の形をかたどった練切と、桃の様な形をしたこなし菓子があった。
「あまり時間がなくて二つしか作れませんでしたけど…よかったら日向様に食べていただこうと思って。…日向様はどちらがいいですか?」
「そうだな…練切は以前食べたから、今度はこなし菓子の方にする」
「はい、分かりました」
日向の選んだこなし菓子を器に載せ、黒文字をつけて日向に渡す。
「いただきます」
器を受け取り、早速黒文字を使って一口だいに切り、自分の口の中へと運ぶ。
こしあんのちょうどいい甘味が口の中いっぱいに広がる。
「ん、ちょうどいいこしあんの甘さだな。硬さも柔らかく食べやすい」
「久々でしたからちょっと柔らかすぎたような気もしたんですが…そう言っていただけてよかった」
安心した表情で名無しは言い、残っている練切を器に乗せて切り、口の中へと運んだ。
なかなか菓子を作る機会がなかったので少々不安ではあったが、美味しそうに食べる日向を見ていると、自分もついつられて食べたくなる。
口へ運び食べていると、じーっと、隣に座っている日向が千影を見つめる。
「ってん日向様?」
「あー…その、名無しが作った菓子は全部食べたいと思ってな…一口だけもらってもいいか…?」
「それは構いませんよ?」
「…出来ればだな…その、…食べさせて欲しいんだが…」
照れくさそうに名無しから目を逸らしながら日向はぽつりと呟く。
名無しはその言葉を聞き驚くものの、頬を赤く染め「…はい」と頷いた。
自分の器に乗っている練切を一口だいに切ってさし、日向の口元へゆっくりと持っていく。
緊張しているせいか、黒文字が微かに震えていた。
「…日向様、…あーん…」
「あー…」
差し出された物に口を近づけ、日向は一口で練切を食べた。
甘い白餡の味が口いっぱいに広がり、自然と頬が緩む。
「…んっ…やはり名無しが作った菓子が一番美味いな」
「そう言っていただけて嬉しいです、日向様」
日向の感想を聞き、名無しも恥ずかしそうだった表情から笑みが溢れた。
いつも名無しの作った菓子を食べる時に、日向は自然と菓子の感想を言う。
その言葉を聞くたびに、名無しは嬉しくなり、もっと食べていただきたいと思う気持ちがより一層強くなる。
幸せな気持ちでいっぱいな名無しの前に、日向は名無しが先ほどしたのと同じように自分の前にあるこなし菓子を一口だいに切り名無しの口元に持っていく。
「次は俺が名無しに食べさせてやるから…口を開けろ」
おずおずと「あー…んっ」と、顔を真っ赤にしながら口を開ける。
開いた口にとっと黒文字を近づけると、ぱくっと食べ、口元を両手で覆い隠す。
ただ小さな声で「…日向様に食べさせていただいたせいか、何時もより美味しいです…」と恥ずかしそうに呟いた。
口をもぐもぐさせている名無しの姿は何処か小動物のようにも見える。
そんな名無しを見ながら、日向の頬は自然と赤くなり、名無しを愛でたい気持ちが次々と募る。
(あー…いちいち名無しが可愛すぎてどうしたらいいんだ俺は…)
そんな事を思いながら、日向はこなし菓子をまた一口切り、自分の口の中へと入れた。
美味しそうにまだ口をもぐもぐと動かす名無しを見ながら――…
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