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実家から戻って数日後、葵の間で休憩と取っている私と春日局様のもとにまた一通の文が届けられた。
家光様からの頼まれたと言って麻兎が持ってきてくれた文の表には“名無しへ”っと、また私宛のものだった。
字からしてお父さんではなくお母さんからで…急ぎの文じゃないと麻兎から聞かされたときはほっとした。
(今度はお父さんが倒れたなんて書かれてたらどうしようかと思った…)
ほっと息をつき、私はさっそく届けられた文に目を通す。
初めの内容は村を出るときにも言われたように体に気をつけてねとか頑張りすぎるのは駄目よ?っと言う内容だった。
(もう、何回も言わなくても分かってるのに…)
そう思いながらも、私は自然と口元が緩む。
何度も何度も同じことを言われるのはあれだけど…心のどこかで何度もその言葉を言ってもらえて安堵してしまう。
後は伝え忘れたことや私が帰った後の事が書かれていた。
村長さんが今日もお裾分けしてくれたとか、三太とお父さんが一緒にやけ酒したとか。
そして最後の一文に目を通すと―――――
「…っつ」
文に書かれていた一文に思わず目を見開き、私は手から文を落としてしまった。
私の隣で書物を読んでいた春日局様は、そんな私に気づいて書物から顔を上げる。
「名無し?」
「………」
名前を呼ばれても、私の頭の中は真っ白で、春日局様に返事をすることもできずにただただ、固まっていた。
春日局様は不思議に思い、私の手から落ちた文を拾い上げ目を通す。
初めの文章はさらさらと流し読みしていたけど、私と同じように最後の一文で目を止める。
「――――追伸、今度来る時はちゃんと紹介しなさいよ?…か」
拾い上げた文の最後の一文を読み上げながら、春日局様は唇の片端をあげる。
「貴方の母君は気づいていらっしゃったようだな」
「…私…一言も言ってませんよ…?」
「言わなくても分かるのではないのか?それか貴方の幼馴染に聞いたのかもしれないしな」
その言葉に私ははっと三太との事を思い出した。
伸ばされた手に触れられそうになった時、手を引いて春日局様の腕の中に引き寄せられた事を。
―――――悪いが…これは私のものだ
(三太の前で私のものだって…言ったんだよね…)
その時のことを思い出すと自然と頬が熱くなる。
「貴方がちゃんと紹介しなかったのが悪いと思うが?」
「それは…そうですけど…」
「…今度はちゃんと紹介してくれるのだろう?」
「…ぁ…っ…」
そう言いながら手を伸ばし、春日局様は私の右手首を掴んだ。
林の方へ連れて行かれた時に掴まれていた場所には、まだ少し掴まれた時の痕が残っている。
淡く淡い右手首の痕にそっと口付けを落とし、私の方を見上げた。
猫が獲物を狙うかのような射抜くような眼差し。
私はただ固まったまま、にやりと笑みを浮かべる春日局様を瞳に映すことしかできなかった――――…
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