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「今日は本当にありがとうね、名無しちゃん」
「ううん、私達も楽しかったし…また機会があれば言ってね」
「またね、お姉ちゃんにお兄ちゃん!」
「はい、また遊びましょうね」
夕暮れ時、家の前で名無しと稲葉は小さな子供とその母に手を振りながら二人を見送っていた。
今日は珍しく非番だった稲葉と2人で過ごすはずだったのだが、行きつけの八百屋のおばさんが用事で隣町まで行くことになり、おばさんの子供を今日一日預かることになった。
勿論名無しも稲葉も子供が好きだったので、快く子守を引き受け、今の今まで子供の子守をしていたのだった。
「今日は非番だったのにごめんね…稲葉…」
子と母の姿が見えなくなってから、名無しは申し訳なさそうにぽつりと呟いた。
本当は今日一日稲葉にゆっくりしてもらうはずだった。
ここ最近稲葉は務めが忙しく帰ってくるのも遅かったはずなのに、率先して子供の相手をしてくれた。
申し訳ない気持ちでいっぱいな名無しに、稲葉を首を横に振る。
「いいえ、私も楽しかったですしね」
そう言いながら、稲葉は名無しに笑顔を向けそっと名無しの髪を撫でる。
照れながらも「くすぐったいよ、稲葉」と、嬉しそうに名無しは稲葉を見上げた。
「稲葉は…子供欲しいの?」
つい数刻前の子供と遊んでいた稲葉の姿を思い浮かべながら、名無しは稲葉に問う。
まるで本当の我が子のように接している稲葉の姿が名無しの脳裏に過った。
「出来れば欲しいですが…名無し様は、子供が欲しいですか…?」
聞き返した稲葉の言葉に、名無しは思わず口を噤む。
先ほどまで笑顔だった顔が曇り、言いづらそうに言葉を発した。
「子供は欲しいけど…今はいいかな…」
「……そう…ですか…」
「ち、違うよ?!稲葉との子供が欲しくないって事じゃなくて…」
これでもかというくらい、名無しは首を横に振り言葉を紡ごうとする。
だが、名無しは言葉がうまく見つからないのか先程から「そうじゃなくて…だから…」と、中々言葉に出せずに居る。
「えっと…その…」
「…名無し様?」
稲葉は名無しの方を向きただ首を傾げる。
子供が好きか嫌いかと言われれば子供が好きだと、名無しを見ていた稲葉も分かっている。
名無しとの婚礼も済み、二人の仲は恋人から夫婦へとなりなんら問題はないはずだが…。
不安になりつつ名無しを見るが、俯いたままで顔が見えない。
「だって子供がいたら…稲葉を取られちゃうから…」
「…っつ」
「だからまだ、稲葉と…稲葉と二人で過ごしたいなって」
ぎゅっと稲葉に抱きつき、消え入りそうな声で名無しは答えた。
顔は見えないが、耳の先まで真っ赤になっている。
名無しに対する、愛おしいと言う想いが次から次へと稲葉の胸に溢れ出る。
「私も…私も今は名無し様とたくさんの時を一緒に過ごしたいです…」
名無しの言葉を聞き、稲葉も同じように頬を赤く染め、ぽつりと呟き、抱きついている名無しの背に自分の腕を回し抱きしめた。
(名無し様には…敵いませんね)
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