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「どうかしたのか名無し?先程から浮かない顔をしているが…」
公務の終了後、名無しは家光と共に家光の自室でお茶を飲んでいた。
だが名無しの湯呑の中のお茶は全く減ってはおらず、ただ湯呑に手を添えてじっと見つめていた。
何時も一緒にいるはずの春日局は、用事が出来たらしく、珍しく席を外している。
「いえ、たいしたことではないのですが…」
不意に家光に声をかけられ、思わず声が上ずってしまった。
家光はそんな事を気にせずにただ「私と名無しとの仲ではないか」と笑顔で名無しの傍に詰め寄る。
「何か悩み事か?春日局に飽きたのか?」
「いえ…って、家光様何て事言ってらっしゃるんですか?!」
「長い間傍に居れば互の事が見えすぎて嫌いになったり飽きたりすると倦怠期になると…聞いたが…違うのか?」
「ち、違いますよ…嫌いになるどころか…お傍に居れば居るほど…春日局様の事が好きになっていきますし…」
俯き、春日局の事を思いながら、名無しは顔を真っ赤にし、小さく呟いた。
その言葉を聞き、家光はにやにやと笑いながら名無しを見た。
自分のお世継ぎ問題は心底どうでもいいと思っているが、他人の恋情には興味があり話も聴きたくなる。
それも唯一の女友達である名無しの事であれば尚更だ。
「ほう…で、倦怠期でもないのに何をそんなに悩んでおるのだ?」
「…実は明日春日局様の誕生日なのですが…何を贈ろうかと悩んでいたら決まらなくて…」
「ああ…明日だったのか、奴の誕生日は」
言われて気づいたのか家光は一口お茶を呑む。
「家光様は去年何か春日局様の誕生日に贈り物はされたんですか…?」
「…去年は確か…書簡を山ほど渡したな」
「…それは家光様がしなければいけないものじゃあ…」
名無しがそう言うと、家光は視線を逸らしながら「このお茶は美味いな」と話を無理やり逸らす。
去年の春日局の誕生日に書簡を山ほど渡して家光は城下町へとお忍びに行った…が、翌日恐ろしい程の笑みで倍の書簡を突きつけられたことを思い出しながらお茶をすすった。
とても一日で出来る量ではないはずなのに、何故か期限はその日のうちで…
思い出すだけで顔色が悪くする。
が、次の瞬間何かを思い出したかのように愉しそうな表情で名無しを見た。
「名無し、思いついたぞ!春日局が喜びそうな贈り物をな!」
「ほ、本当ですか家光様?!」
「ああ、私に任せておけ」
にやっと笑みを浮かべ、家光は名無しに近寄り思いついたことを話し始めた。
その夜、春日局は家光に呼ばれ家光の部屋へと訪れた。
用事が済んだ後、自分自身の自室へ戻ってみると出迎えてくれる名無しの姿はなく、変わりに文が置かれていた。
文には“亥の刻に私の部屋まで来い”と書かれており、それまで名無しは家光が預かると書かれていた。
ただでさえ今日一日名無しの傍に居る時間が短かったと言うのに…春日局は無表情ではあったが内心苛立っていた。
「遅かったな、春日局」
「厄介な用事がありまして少々手こずってしまっていただけですよ…。それよりも、はやく名無しを返していただけますか、上様?」
「そう慌てるな春日局。名無しを返す前に言っておきたい事がある」
「言っておきたい事…?」
「ああ…春日局、お前に明日一日休みをくれてやる」
家光の言葉に、春日局は眉を寄せる。
休みなどないに等しい日々を過ごしてきた春日局に対し、家光から休みを貰えるとはおもったいなかった反面、何を企んでいるのかと家光の思考をさぐるように見る。
そんな春日局に気づいてか、家光はくくっ、喉を鳴らして笑う。
「…なに、明日お前の誕生日だと名無しに聞いてな…ささやかながら私からの祝いだ」
「そうでしたか…」
「公務の方は兄上や稲葉でどうにかするから安心しろ」
「…分かりました」
「それともう一つ贈りたいものがあってな…入れ」
「あ、はい」
ふと近くの襖が開き、名無しが家光の部屋の中へと足を入れる。
今朝着ていた着物とは違い、撩乱の振袖に濃紺の羽織をはおっていた。
髪には春日局が以前贈った撫子の髪飾りが付けられていた。
「家光様…これは…」
「名無しだが?」
「それくらい見れば分かります。私が言いたいのは何故名無しが家光様からの贈り物なのかと聞いているのですが…」
春日局の目つきが鋭くなるが、そんなもの知ったことではないと言いたげな表情で家光は言葉を返す。
「それは名無し自身を贈り物にしたらどうだと私が言ったのだが名無しが恥ずかしいというのでな…私から春日局に贈ろうと思いこのような結果になった」
愉快そうに笑う家三に、名無しは顔を真っ赤にし「い、家光様?!」っと、慌てて家光の方を向く。
だが、家光はそんな名無しを無視し、言葉を続けた。
「私から贈るのだからな…生涯大事にしろよ、春日局」
「言われなくても、生涯大事にしますよ」
春日局はそう言い、名無しの傍に近寄りそっと横抱きに名無しを持ち上げる。
横抱きに持ち上げられた名無しは「か、春日局様っ?!」と、慌てて声をかけるが、春日局はわざと聞こえない振りをし、家光の部屋を出て行った。
「明後日、名無しから話を聞くのが愉しみだな」
残された家光だけが、愉しげに笑い夜空に浮かぶ月を眺めた。
家光の部屋から一言も喋らずに、春日局は名無しを横抱きにしたまま自室へと戻り、そのまま名無しを畳の上に押し倒した。
押し倒された名無しは春日局を見上げその瞳に、春日局の姿を映し出す。
「まったく…こんな誕生日の前夜は初めてだ…」
「す、すみません…春日局様」
申し訳なさそうに謝る名無しに、春日局はため息をつく。
「名無しが悪いわけではない…が、まさか家光様の申し出にのるとはな…」
「春日局様に贈る、贈り物が決まらなくて…」
「贈り物など、貴方から頂けるものならなんでもよいのだがな…それに…」
「それに…?」
「家光様に言われなくとも…あなたの生涯は私のものだ」
そっと自分のかけている眼鏡を外し、邪魔にならない場所へと置く。
名無しは眼鏡を外した春日局に見惚れながらも、「お誕生日おめでとうございます、春日局様っ…」と、小さく呟いた。
「ああ…」
その言葉を聞き妖笑を浮かべながら、春日局は名無しの唇に貪るように何度も何度も口づけをし、静かに肌を重ねた…
タイトル提供:確かに恋だった様
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