過去LOG
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「すみません名無し様…」
「稲葉が謝ることじゃないよ?」
「…ですが…」
名無しは目の前で正座をし、しょんぼりと稲葉は肩を落とした。
今日も稲葉は影武者である名無しの着物の着付けをするために葵の間に訪れていた。
何時もなら容易に名無しの着物を一刻も経たないうちに着付けを済ませているのだが…。
今日に限って稲葉は名無しの着物を着付けることが出来なかった。
そもそも今の稲葉の身長では着物を着付けることも名無しが倒れた時に支えることも出来ない。
今の稲葉は何故か名無しの身長よりも背が低く、外見は五つ、六つ程の子供に戻っていた。
「昨夜あんな事が起きたなんて誰も予想出来なかったしね…」
「そう…ですね…」
名無しの言葉に、稲葉は渋々頷き、昨夜の出来事を思い出した。
昨夜、朝廷と幕府との謁見を終えそのままもてなす形で宴を開く事になった。
犬猿の仲にも等しいのだが昨夜ばかりは何故か朝廷も幕府も意気投合して酒を酌み交わしていた。
重臣達以外に大奥の男共も呼び、宴はとても賑やかなものになった。
勿論名無しも一緒に酒を飲んでいたのだが…誰かが誤って御門に酒を飲ませすぎた挙句酔っ払った御門が何やら妖しい呪文のような物を唱えた瞬間、名無し以外の人間が皆幼くなってしまったのだ。
年の頃は今の稲葉同様平均五つ、六つ程。
身長が低くなっただけで、中身が幼くなる事がなかったのが幸いの助けなのかもしれないが…。
「…数刻で元に戻ると思っていましたが…どうやら無理そうですね…」
「だね。さっき外に出てみたら鷹司も永光さんもまだ元の身長に戻ってなかったから」
「春日局様も火影も、元の身長には戻っていませんでしたね…」
何処か遠い目で稲葉は言葉を紡いだ。
流石にこの身長では普段通りの生活が難しく、何をするにも不便で仕方がない。
いつもとの身長に戻れるかも検討がつかず…後先の事を考えて稲葉は深いため息をついた…こればかりは自分の力ではどうすることもできないためか稲葉は「今日も天気がいいですね…名無し様」と、明後日の方向へ目を向けた。
稲葉は気づいていないが、今にも泣きそうな表情をしており…その表情が名無しの母性本能をくすぐる。
「…あ、あの稲葉…」
「…はい?」
「っつ…稲葉可愛い!」
「ち、名無し様っつ?!」
叫ぶと同時に、いきなり抱きついてきた名無しに驚き稲葉は目を大きく見開いた。
稲葉から抱きしめる事は多々あれど、名無しから抱きしめられたことはなかったため稲葉は思わず頬を赤く染める。
そんな稲葉を気にせずに、名無しは「稲葉温かいね…」と呑気に稲葉の耳元で囁いた。
子供体温のせいか稲葉の身体は何時も以上に温かく、名無しにとって抱きしめやすい大きさのため自然と名無しに抱き上げられ膝の上に座らせられる。
稲葉の頬に自分の頬を擦り寄せ、「稲葉のほっぺ柔らかい」と頬ずりをしながら満足そうに稲葉に触れる。
「っ、名無し様あのっつ…」
「どうかした、稲葉?」
きょとんと首を傾げ稲葉の顔を覗き込むが、稲葉は何故か顔を真っ赤にし「…いえ…何でも…ございませんっつ」っと恥ずかしそうに答えた。
一体どうしたのだろう?と思う反面顔を赤く染めている稲葉が可愛く、名無しはぎゅっと稲葉を抱きしめる腕に力を入れた。
(…っつ…名無し様の胸が当たっているなんて…口が裂けても言えませんね…)
名無しに力強く抱きしめられている稲葉はそんな事を思いながら、己の欲を抑えるのに精一杯だった。
37/44ページ