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春光うららかなとある午後。
江戸城での務めを終え、名無しが待っている家へと向かう稲葉の手には紙袋があった。
紙袋の中には帰り道、お店を回っていると牡丹餅を見つけ、気がつけば甘いものが好きな名無しのために稲葉が買った牡丹餅が入っている。
「ただいま戻りました名無し様」
家に着き、稲葉は少し大きな声でそう言いながら戸を開けた。
何時もなら稲葉の声に対して「お帰りなさい、稲葉」と言う声が聞こえるのだが…その声に対する返事はなく、ただ静寂だけが広がっていた。
稲葉が午後で帰ることは名無しももちろん知っている。
昨夜「じゃあ明日は二人でのんびりできるね」と、夕餉の時に嬉しそうに話していたのだから。
(…もしかしたら買い付けの店に何かを買いに行っているのかもしれませんね)
家に居ない名無しがもしかしたら買い付けに行ってるかもしれないと思い、稲葉は台所へ向かい牡丹餅が入っている紙袋を置き、寝室へと足を運んだ。
「名無し様?」
寝室に入ると稲葉の目には眠っている名無しの姿が目に入る。
どうやら買い付けに行ったのではなく、稲葉の帰りを待っている間に眠ってしまったのだろう。
今日はぽかぽかと暖かかったせいか眠気を誘われてしまったようだ。
気持ちよさそうな表情で眠る名無しを見ながら、稲葉は頬を緩めた。
「風邪を引いてしまわれますよ…名無し様」
小さくそう呟き、稲葉は畳んでしまっていた少し薄手の掛ふとんを出しそっと名無しに掛けようとする。
「んっ…稲葉…?」
「すみません名無し様、起こしてしまいましたか…?」
「…ううん、大丈夫…」
まだ眠たそうに目を擦りながら、名無しは稲葉を見あげ微笑む。
つられて稲葉も微笑みながら、名無しの隣に横たわり抱き寄せる。
「稲葉…?」
「もう少し眠っていても構いませんよ、名無し様。時間はたくさんありますので」
「でも…せっかく稲葉が早く帰ってこれたのに…」
名無しが紡ぐ言葉に、くすりと笑いながら稲葉は名無しの髪を梳く。
「目が覚めましたら…一緒に牡丹餅食べましょうね、名無し様」
「え…稲葉…甘いもの苦手…なんじゃあ…?」
「名無し様と一緒に食べるなら…平気ですよ」
気持ち良さそうに目を細め、名無しは子猫のように稲葉の胸元に擦り寄る。
「…うん…なら…一緒に、食べようね…」
擦り寄りながら微かに頷き、名無しは瞼をゆっくりと閉じまた寝息をたて始める。
稲葉は名無しの瞼に口づけを落とし、そっと頭を撫でながら稲葉も同じように瞼を閉じた。
暖かな日差しがふたりを包込む、そんなうららかなとあるひと時。
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