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「母上様!」
「どうしたの、右京?」
葵の間にて書簡を仕上げていた名無しは筆を置き、愛しい我が子の声をする方へと顔を向けた。
ぱたぱたと廊下に走る足音と共に勢い良く襖を開け、満面の笑みで母親である名無しに抱きつく。
父親譲りのさらさらとした深緑色の髪を揺らし、顔は名無しを思い浮かばせるような笑み。
見目はかっこいいというよりも可愛いという言葉がしっくりとくるだろう。
六年前に紫京との子を授かり、すくすくと元気に育っている姿が微笑ましいのか、名無しは自然と笑みを浮かべ、そっと右京の髪を手で梳いた。
擽ったいのか身をよじるものの、名無しに抱きつく腕には力がこもり「母上様の手は温かくて僕大好きです」と名無しの顔を見ながら笑う。
「右京…それで、何かあったの?」
「あ…そうでした、見てください母上様!」
そう言って自分の懐から掛軸を一軸取り出し、それを広げた。
広げられた掛軸にはそれは美しい鶴が二羽、翼を羽ばたかせ飛んでいる姿が描かれている。
二羽の鶴の周りは薄らと白い雲が浮かんでおり、富士の山がひっそりと雲の隙間から姿を覗かせていた。
可愛い見目のはずなのに…趣味は何故か掛軸集めの右京。
我が子ながらどうしてこんな趣味になってしまったんだろうと思いながら、大半の原因は分かっているため「綺麗だね、その掛軸」と言葉を紡ぐ。
「母上様にも分かりますか!この鶴の翼の部分の繊細な筆裁きに色使い!素朴な雲に威厳のあるこの富士の山。これほど美しい掛軸に僕は生まれて初めてあいました!もう家宝です、我が家の家宝にしましょう母上様!!!…あ、これじいが買ってきてくれたんですよ、旅行のお土産で。じいも使えないやつかと思っていましたが目は確かですね…それから…」
名無しを見上げきらきらと輝く眼差しを向け、右京は掛軸の美しさに魅入られ興奮しながらも言葉を紡ぐ。
じいが旅行で買ってきた掛軸は先ほど見せてもらった鶴の掛軸だけではなく、もう二、三軸あり、次々と掛軸を広げてはその美しさを止まることなく話し始める。
可愛い容姿のせいか、傍から見れば誰しもが「目の保養になる」と言うだろう。
ただし、話している言葉さえ聞かなければの話だが…。
(やっぱり趣味は紫京に似ちゃったのかな…壺じゃないないけど…)
内心そんな事を思いながら、名無しは苦笑を浮かべる。
否、掛軸ではなく趣味が壺集めだったら仲のいい父子でいられたのかもしれない。
何時頃から掛軸の魅力を知ったのかはわからないが、気がつけば既に右京は掛軸の虜になっていた。
どんなに幼い頃から紫京が壺の魅力を話そうが興味なさげに聞き流していた右京。
趣味が出来たのはいい事ではあるが、壺の魅力と掛軸の魅力の口論でほぼ毎日のごとく喧嘩が勃発する。
止める側の身にもなって欲しいと思うが…なければないで違和感を感じてしまうのだろうなと、慣れてって恐ろしいと改めて思う名無しであった。
「此処にいたのか右京!!!」
「げっ…父上…」
そんな事を右京の話を右から左へ聞き流していると、急に葵の間の襖が開き、眉に皺を寄せ怒りをあらわにする右京の親であり、名無しと契を交わした紫京の姿がそこにあった。
腕には趣味で集めているうちの壺が抱えられている。
「ど、どうしたの紫京…?」
「どうしたのじゃないよ名無しちゃん、見てくださいこの壺を!!!」
そう言って抱えていた壺を名無しの目の前に出す。
鶯色のどこにでもありそうな壺、以前百万両で買ったと話していたなと…忘れかけていた記憶が蘇る。
だが記憶の中にある鶯色の壺とはだいぶ違い、壺にはお世辞にも上手いとは言えない文字で“馬鹿”やら“掛軸最高”と書かれていた。
字から…いや、書かれている“掛軸最高”という文字からして誰が書いたのかは一目瞭然である。
「右京がまた僕の壺に酷いことをしたんですよ?!」
「父上だって僕が大切にしていた掛軸に水を零したじゃないですか!」
「あれはわざとじゃないと言ってるだろう右京!」
「信じられませんそんな事!それにこの間だってそんなこと言ってわざと零してましたよね父上!!!」
そう言ってまた懐から右京は掛軸を一軸出し無造作に広げた。
広げられた掛軸には染みが出来ており、紙はふやけてしまっているせいか何が描かれていたのかすら分からない。
「せっかく僕の誕生日に母上様が買ってくれたのに…」
「右京だって僕の誕生日の日に名無しちゃんが贈ってくれた壺を割ったくせに…!」
「父上の方こそ…!!」
「右京だって…!!」
名無しが居るにもかかわらず、紫京と右京は喧嘩をし始めた。
「壺の良さを知れこのばか息子!!!」や「掛軸の良さを知ろうとしない父上に言われたくない等と叫びながら、互いの頬や髪の毛を引っ張りながら暴れる。
葵の間でドタバタと暴れようが、大奥の者は「また何時もの喧嘩が始まった」のだと思い、誰も来ようとはしない。
寧ろ関わりたくない上に壺のよさや掛軸のよさを聞かされるという精神的苦痛が付くため、誰も止めに入る者はいない。
「はぁ…今日中に書簡仕上げないといけないんだけどな…」
机の上に置いてある書簡を見ながら、名無しはため息をつきつつ今日も今日とて喧嘩をする夫と子を止めるために立ち上がった。
「母上様!」
「どうしたの、右京?」
葵の間にて書簡を仕上げていた名無しは筆を置き、愛しい我が子の声をする方へと顔を向けた。
ぱたぱたと廊下に走る足音と共に勢い良く襖を開け、満面の笑みで母親である名無しに抱きつく。
父親譲りのさらさらとした深緑色の髪を揺らし、顔は名無しを思い浮かばせるような笑み。
見目はかっこいいというよりも可愛いという言葉がしっくりとくるだろう。
六年前に紫京との子を授かり、すくすくと元気に育っている姿が微笑ましいのか、名無しは自然と笑みを浮かべ、そっと右京の髪を手で梳いた。
擽ったいのか身をよじるものの、名無しに抱きつく腕には力がこもり「母上様の手は温かくて僕大好きです」と名無しの顔を見ながら笑う。
「右京…それで、何かあったの?」
「あ…そうでした、見てください母上様!」
そう言って自分の懐から掛軸を一軸取り出し、それを広げた。
広げられた掛軸にはそれは美しい鶴が二羽、翼を羽ばたかせ飛んでいる姿が描かれている。
二羽の鶴の周りは薄らと白い雲が浮かんでおり、富士の山がひっそりと雲の隙間から姿を覗かせていた。
可愛い見目のはずなのに…趣味は何故か掛軸集めの右京。
我が子ながらどうしてこんな趣味になってしまったんだろうと思いながら、大半の原因は分かっているため「綺麗だね、その掛軸」と言葉を紡ぐ。
「母上様にも分かりますか!この鶴の翼の部分の繊細な筆裁きに色使い!素朴な雲に威厳のあるこの富士の山。これほど美しい掛軸に僕は生まれて初めてあいました!もう家宝です、我が家の家宝にしましょう母上様!!!…あ、これじいが買ってきてくれたんですよ、旅行のお土産で。じいも使えないやつかと思っていましたが目は確かですね…それから…」
名無しを見上げきらきらと輝く眼差しを向け、右京は掛軸の美しさに魅入られ興奮しながらも言葉を紡ぐ。
じいが旅行で買ってきた掛軸は先ほど見せてもらった鶴の掛軸だけではなく、もう二、三軸あり、次々と掛軸を広げてはその美しさを止まることなく話し始める。
可愛い容姿のせいか、傍から見れば誰しもが「目の保養になる」と言うだろう。
ただし、話している言葉さえ聞かなければの話だが…。
(やっぱり趣味は紫京に似ちゃったのかな…壺じゃないないけど…)
内心そんな事を思いながら、名無しは苦笑を浮かべる。
否、掛軸ではなく趣味が壺集めだったら仲のいい父子でいられたのかもしれない。
何時頃から掛軸の魅力を知ったのかはわからないが、気がつけば既に右京は掛軸の虜になっていた。
どんなに幼い頃から紫京が壺の魅力を話そうが興味なさげに聞き流していた右京。
趣味が出来たのはいい事ではあるが、壺の魅力と掛軸の魅力の口論でほぼ毎日のごとく喧嘩が勃発する。
止める側の身にもなって欲しいと思うが…なければないで違和感を感じてしまうのだろうなと、慣れてって恐ろしいと改めて思う名無しであった。
「此処にいたのか右京!!!」
「げっ…父上…」
そんな事を右京の話を右から左へ聞き流していると、急に葵の間の襖が開き、眉に皺を寄せ怒りをあらわにする右京の親であり、名無しと契を交わした紫京の姿がそこにあった。
腕には趣味で集めているうちの壺が抱えられている。
「ど、どうしたの紫京…?」
「どうしたのじゃないよ名無しちゃん、見てくださいこの壺を!!!」
そう言って抱えていた壺を名無しの目の前に出す。
鶯色のどこにでもありそうな壺、以前百万両で買ったと話していたなと…忘れかけていた記憶が蘇る。
だが記憶の中にある鶯色の壺とはだいぶ違い、壺にはお世辞にも上手いとは言えない文字で“馬鹿”やら“掛軸最高”と書かれていた。
字から…いや、書かれている“掛軸最高”という文字からして誰が書いたのかは一目瞭然である。
「右京がまた僕の壺に酷いことをしたんですよ?!」
「父上だって僕が大切にしていた掛軸に水を零したじゃないですか!」
「あれはわざとじゃないと言ってるだろう右京!」
「信じられませんそんな事!それにこの間だってそんなこと言ってわざと零してましたよね父上!!!」
そう言ってまた懐から右京は掛軸を一軸出し無造作に広げた。
広げられた掛軸には染みが出来ており、紙はふやけてしまっているせいか何が描かれていたのかすら分からない。
「せっかく僕の誕生日に母上様が買ってくれたのに…」
「右京だって僕の誕生日の日に名無しちゃんが贈ってくれた壺を割ったくせに…!」
「父上の方こそ…!!」
「右京だって…!!」
名無しが居るにもかかわらず、紫京と右京は喧嘩をし始めた。
「壺の良さを知れこのばか息子!!!」や「掛軸の良さを知ろうとしない父上に言われたくない等と叫びながら、互いの頬や髪の毛を引っ張りながら暴れる。
葵の間でドタバタと暴れようが、大奥の者は「また何時もの喧嘩が始まった」のだと思い、誰も来ようとはしない。
寧ろ関わりたくない上に壺のよさや掛軸のよさを聞かされるという精神的苦痛が付くため、誰も止めに入る者はいない。
「はぁ…今日中に書簡仕上げないといけないんだけどな…」
机の上に置いてある書簡を見ながら、名無しはため息をつきつつ今日も今日とて喧嘩をする夫と子を止めるために立ち上がった。
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