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「ふぅ…いい湯だった」
梅雨も明け、本格的に夏を迎えた中旬。
夜風に当たりながら名無しは手拭で髪を拭いながら葵の間へと歩いていた。
先程まで湯殿にて湯に浸かっていたためか髪はまだ濡れており、頬が赤く染まっている。
今日は朝の早い時間帯から広間にて名無しは家光のふりをしていたせいか、何時もより長湯をしてしまった。
何でも今日、七月十七日は家光の誕生日であり大奥の者総出で祝うという一年のうちでもっとも重要な行事を終えたのだ。
広間では大奥の者皆にこやかな笑顔で「おめでとうございます、上様」と家光の誕生日を祝われた。
正室候補である鷹司は嫌々ながらではあるが上質な帯を、永光からは茶器、蔵之丞からは簪、紫京からは自分の持っているうちの壺を。
他にも大奥の者だけではなく重臣達や朝廷側からの贈り物も数え切れないほどこの広間に持ち込まれ、広間はあっという間に贈り物でいっぱいになってしまった。
今までに見たことのないほどの贈り物の量に、その時名無しは唖然としてしまったが…。
(誕生日…か…)
髪から滴る雫を拭いながら、名無しはふと自分の誕生日を思い出した。
春日局に今日が家光の誕生日だと言われたと同時に、名無し自身も今日が自分の誕生日だということを―――…
(まさか家光様と誕生日まで一緒だったなんて、思ってもみなかったな…)
そう思いながら名無しはくすりっと小さく笑みを浮かべた。
容姿が似ているからという理由でこの江戸城に連れてこられただけで、性格は春日局や火影、稲葉に聞けば名無しとは正反対だった。
だが容姿以外に誕生日まで一緒だったとは…偶然とは恐ろしいものだと思いながら葵の間の襖を開ける。
「…随分と長湯をしていたのだな、貴方は」
「か、春日局様っつ?!」
葵の間の襖を開けると、丁度そこには書物を読み終えたのかパタンッと音を立てて閉じる…恋人である春日局の姿がそこにはあった。
何時もの着物ではなく、白い着物に黒い羽織を羽織っており、普段は見慣れない寝巻き姿。
見慣れない寝巻き姿故か、名無しは思わうず春日局に見とれてしまうが「何をしている?早くこっちに来い」と言われ、慌てて春日局が座っている傍へと駆け寄った。
「…まだ髪が濡れているな」
「あ…はい、まだちゃんと拭けてなくて…」
「それくらい見れば分かる」
そう言いながら名無しの髪にかかっていた手拭を取り、そっと名無しの髪から滴る雫を拭い始めた。
「か、春日局様っつ?!あの、自分で拭けますので…」
「遠慮するな、私が拭いてやると言っているのだ…貴方は黙って私に拭かれていればいい」
「…は、はいっ…」
春日局の言葉に身を固くしながら名無しは口をつぐんだ。
春日局は手慣れた手つきで、一つ一つ丁寧に名無しの髪から滴る雫を拭い拭いていく。
気持ちがいいのか時折目を細め「擽ったいです、春日局」様と笑みをこぼす。
そんな名無しの笑みを見ながら、春日局も釣られて薄い笑みを浮かべたまま優しい手つきで雫を拭い続ける。
一刻後、ようやく春日局は手拭を名無しの頭から離した。
春日局によって丁寧に拭かれた名無しの髪からは雫が滴ることはなく、綺麗に乾かされている。
「ありがとうございます、春日局様」
「礼など不要だ、名無しに風邪をひかれては困るからな」
素っ気なく言いつつも春日局は優しい眼差しで名無しを見た。
「あの…何かご用でもあったのですか春日局様?」
ふと春日局が何故葵の間に居るのかと不思議に思いながら春日局に問う。
いくら恋仲であるとは言え、夜になんの断りもなく春日局が名無しの元へ訪れたことは一度もなかった。
来るときは何時も教えてくれているのだが…
名無しの問いに春日局は何故自分が葵の間に来たのかを思い出したかのように言葉を紡ぐ。
「ああ…これを貴女に渡していなかったと思ってな」
そう言って春日局は懐から小さな木箱を取り出し、名無しの前に木箱を置いた。
差し出された小さな木箱を手に取りに、一体何だろうと首をかしげつつ木箱の蓋を開ける。
木箱の中には一つの簪が入っており、薄い紫色の昼顔の花が付いおりキラキラと光る硝子が散りばめられていた。
「これは…?」
「これは私から貴女にだ」
「私に…ですか?」
「ああ…今日は名無しの誕生日でもあるのだろう?」
「…知っていらっしゃったんですか…?」
思わず手元にある箱から春日局の方へり視線を向ければ、春日局はふっと名無しに妖笑を見せる。
「私が知らないとでも思っていたのか?貴女の事で知らないことなど何一つないのだがな」
そっと名無しの腰を抱き寄せ、名無しの額に自身の唇を優しく押し当て、春日局は自身の瞳に名無しの姿を映し出す。
瞳に映る名無しの頬は赤く染まっており、まっすぐと春日局の方へと視線は向けられている。
そんな名無しが愛おしく、気がつけば春日局は名無しの唇に自身の唇を当てていた。
「…ん、んっつ…」
啄む様な口付けを何度も何度も交わしながら、ゆっくりと畳の上に名無しの体を身体を押し倒した。
先ほどよりも頬が赤く染まり、甘い吐息が名無しの唇から溢れる。
「か、すがの…っつ、つぼ、ね…さま…っつ」
「今夜は何時もより貴女を可愛がって差し上げよう」
そう呟きながら春日局は再び口付けを落とす。
先ほどの啄む様な口付けとは違い、互の舌を絡めピチャピチャと淫らな水音を奏でながら、春日局は名無しの帯を解き始めた。
そして 重なる 二つの影――――…
タイトル提供:確かに恋だった様
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