過去LOG
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※本編配信前による完全なる妄想話
「名無し様」
「名無しさん」
「…っつ」
優しい笑みを浮かべながら、稲葉と緒形は名無しに詰め寄った。
詰め寄られた名無しは後退りをしていたが背を壁に当ててしまい、ずるずるとその場にしゃがみこんだ。
つい一刻程前、名無しは大奥の者に襲われそうになっていた。
無論襲われる前に稲葉と緒形が助けに入り未遂で済んだのだが…稲葉によって押さえつけられていた大奥の男は「何故俺を見ずにただの世話役や御典医ばかりに目を向けるんだ!何故俺を見てはくれないのですか!?」と悲痛の声を上げていた。
今までにも数えられる程ではあるがこのような事が名無しが影武者になる前から時折あった。
そのせいか重臣達や春日局はあまり気にせずにその者を何処かに連れて行ってしまった。
稲葉と緒形だけは名無しの事が心配で、その場に残っていたのだが…ふと何かを思ったのか緒形は「もし私と稲葉さん…選ぶならどちらを選びますか名無しさん?」と名無しに問うたのだ。
稲葉も緒形の言葉に「それは私も一度聞いてみたいですね…名無し様」と名無しの方を見て微笑む。
名無しは思わず息を飲みただじっと緒方と稲葉の顔を黙って見つめたいた。
が、…一向に口を開くことのない千影にしびれを切らしたのか…冒頭に戻り稲葉と緒形は名無しに詰め寄ったのだ。
「名無し様」
「名無しさん」
優しい声色の問いかけに、名無しの胸がずきりと痛む。
江戸城に来て不安でいっぱいだった名無しにいつも優しく接し、分からない事を教えてくれた稲葉。
鈴成茶屋からの常連さんで仲が良く、この江戸城でも何時も気にかけてくれた緒形。
この江戸城へ来て半月、本当にいろいろなことが起きた。
町娘の時では出会う事も知ることもなかった稲葉の意外な一面も、緒形の闇も優しさも…
「選べません…私には…私にはどちらか一人を選ぶことなんて…出来ませんっつ…!」
そう叫ぶと同時に、名無しの瞳からは大粒の涙が零れる。
稲葉を想えば緒形を想う胸が痛み、緒形を想えば稲葉を想う胸が痛む。
ずっと自分の想いから目を背けてこの半月過ごしてきたのだから…この痛みはきっと別の何かだと…。
だが実際は名無しにとってどちらも大切で、どちらも同じくらい“好き”だった思い知らされてしまった。
(最低だ…私…稲葉も緒形さんも…同じくらい好きで…愛してしまったんだ…)
春日局との約束でもある「大奥の男達を決して好きになるな」という約束を破った挙句、名無しは人として最低な過ちを犯してしまった。
―――…一度に二人の人を愛してしまった事
いくら此処が江戸城で、大奥という場であっても…決して許されることのない過ち。
頭では分かっているはずなのに…二人を想う気持ちは溢れ出るばかりだった。
「わた…しっ、…稲葉も、緒形…さんもっ、大好きなんです…ひっく、同じくらい愛して…しまったんです…っつ!!」
胸に秘めていた想いを、たかが外れたように名無しは語り始めた。
泣きじゃくりながら…それでも溢れんばかりの想いを…
「…最低…ですね、…私、稲葉も…緒形さんも好きで…どちらか一人を選べないなんて…」
着物の裾で溢れ出る涙を拭うものの、次から次へと涙は頬を伝い流れ落ちる。
名無しの胸に秘めていた想いを聞いた稲葉と緒形は、互いに顔を見合わせ何かを悟ったかのように微笑みながら頷いた。
俯き泣きじゃくる名無しには、そんな二人の表情は見えておらず、ただただ「…ごめ…んなさ…いっつ…」と許しを請うように謝り続けた。
「…名無し様」
そんな名無しに最初に言の葉を紡いだのは稲葉だった。
名無しの名を呼ぶ声は怒っているわけでも呆れているわけでも悲しんでいるわけでもなく、いつも通りの優しい声色。
「名無し様、無理に私たちのうちのどちからを選ぶ必要なんてないんですよ」
「……えっ…?」
着物の裾で涙を拭っていた名無しは稲葉の言葉に思わず俯いていた顔をあげた。
「名無しさんが私たちを好きな事は分かっていました。勿論私たちも名無しさんの事が好きですし…愛しているんですよ?」
まるで最初から名無しの気持ちなど知っていたかのように緒形は名無しに微笑む。
「ですから緒形殿と以前から話していたんです…もし、名無し様がどちらも選べずにどちらも愛していると言った時は…三人で幸せにならないかと…」
「三人…で?」
稲葉の言葉に、名無しは思わず首を傾げた。
「ええ…三人で…ですよ、名無しさん」
「私たちは、名無し様を悲しませたくも苦しませたくもないのです」
「ただ名無しさんには…笑顔で居て欲しいんです」
しゃがんだままの名無しの左右に稲葉と緒形は座り、そっと名無しの頬に口付けを落とした。
「幸せになりましょう、名無し様」
「三人ででしたら…名無しさんを苦しませることなく幸せになれますよ」
三人で幸せになればいいと…苦しまずに、ただ幸せだけを感じていればいいと…それは魅力的な甘美な誘惑。
耳元で二人は名無しの名を囁き再度口づけを落とす。
そんな二人の行動に、名無しはくしゃりと顔を瞳に沢山の涙を浮かべて笑った。
嗚呼、なんて素敵な物語の結末なんだろう―――――…
「名無し様」
「名無しさん」
「…っつ」
優しい笑みを浮かべながら、稲葉と緒形は名無しに詰め寄った。
詰め寄られた名無しは後退りをしていたが背を壁に当ててしまい、ずるずるとその場にしゃがみこんだ。
つい一刻程前、名無しは大奥の者に襲われそうになっていた。
無論襲われる前に稲葉と緒形が助けに入り未遂で済んだのだが…稲葉によって押さえつけられていた大奥の男は「何故俺を見ずにただの世話役や御典医ばかりに目を向けるんだ!何故俺を見てはくれないのですか!?」と悲痛の声を上げていた。
今までにも数えられる程ではあるがこのような事が名無しが影武者になる前から時折あった。
そのせいか重臣達や春日局はあまり気にせずにその者を何処かに連れて行ってしまった。
稲葉と緒形だけは名無しの事が心配で、その場に残っていたのだが…ふと何かを思ったのか緒形は「もし私と稲葉さん…選ぶならどちらを選びますか名無しさん?」と名無しに問うたのだ。
稲葉も緒形の言葉に「それは私も一度聞いてみたいですね…名無し様」と名無しの方を見て微笑む。
名無しは思わず息を飲みただじっと緒方と稲葉の顔を黙って見つめたいた。
が、…一向に口を開くことのない千影にしびれを切らしたのか…冒頭に戻り稲葉と緒形は名無しに詰め寄ったのだ。
「名無し様」
「名無しさん」
優しい声色の問いかけに、名無しの胸がずきりと痛む。
江戸城に来て不安でいっぱいだった名無しにいつも優しく接し、分からない事を教えてくれた稲葉。
鈴成茶屋からの常連さんで仲が良く、この江戸城でも何時も気にかけてくれた緒形。
この江戸城へ来て半月、本当にいろいろなことが起きた。
町娘の時では出会う事も知ることもなかった稲葉の意外な一面も、緒形の闇も優しさも…
「選べません…私には…私にはどちらか一人を選ぶことなんて…出来ませんっつ…!」
そう叫ぶと同時に、名無しの瞳からは大粒の涙が零れる。
稲葉を想えば緒形を想う胸が痛み、緒形を想えば稲葉を想う胸が痛む。
ずっと自分の想いから目を背けてこの半月過ごしてきたのだから…この痛みはきっと別の何かだと…。
だが実際は名無しにとってどちらも大切で、どちらも同じくらい“好き”だった思い知らされてしまった。
(最低だ…私…稲葉も緒形さんも…同じくらい好きで…愛してしまったんだ…)
春日局との約束でもある「大奥の男達を決して好きになるな」という約束を破った挙句、名無しは人として最低な過ちを犯してしまった。
―――…一度に二人の人を愛してしまった事
いくら此処が江戸城で、大奥という場であっても…決して許されることのない過ち。
頭では分かっているはずなのに…二人を想う気持ちは溢れ出るばかりだった。
「わた…しっ、…稲葉も、緒形…さんもっ、大好きなんです…ひっく、同じくらい愛して…しまったんです…っつ!!」
胸に秘めていた想いを、たかが外れたように名無しは語り始めた。
泣きじゃくりながら…それでも溢れんばかりの想いを…
「…最低…ですね、…私、稲葉も…緒形さんも好きで…どちらか一人を選べないなんて…」
着物の裾で溢れ出る涙を拭うものの、次から次へと涙は頬を伝い流れ落ちる。
名無しの胸に秘めていた想いを聞いた稲葉と緒形は、互いに顔を見合わせ何かを悟ったかのように微笑みながら頷いた。
俯き泣きじゃくる名無しには、そんな二人の表情は見えておらず、ただただ「…ごめ…んなさ…いっつ…」と許しを請うように謝り続けた。
「…名無し様」
そんな名無しに最初に言の葉を紡いだのは稲葉だった。
名無しの名を呼ぶ声は怒っているわけでも呆れているわけでも悲しんでいるわけでもなく、いつも通りの優しい声色。
「名無し様、無理に私たちのうちのどちからを選ぶ必要なんてないんですよ」
「……えっ…?」
着物の裾で涙を拭っていた名無しは稲葉の言葉に思わず俯いていた顔をあげた。
「名無しさんが私たちを好きな事は分かっていました。勿論私たちも名無しさんの事が好きですし…愛しているんですよ?」
まるで最初から名無しの気持ちなど知っていたかのように緒形は名無しに微笑む。
「ですから緒形殿と以前から話していたんです…もし、名無し様がどちらも選べずにどちらも愛していると言った時は…三人で幸せにならないかと…」
「三人…で?」
稲葉の言葉に、名無しは思わず首を傾げた。
「ええ…三人で…ですよ、名無しさん」
「私たちは、名無し様を悲しませたくも苦しませたくもないのです」
「ただ名無しさんには…笑顔で居て欲しいんです」
しゃがんだままの名無しの左右に稲葉と緒形は座り、そっと名無しの頬に口付けを落とした。
「幸せになりましょう、名無し様」
「三人ででしたら…名無しさんを苦しませることなく幸せになれますよ」
三人で幸せになればいいと…苦しまずに、ただ幸せだけを感じていればいいと…それは魅力的な甘美な誘惑。
耳元で二人は名無しの名を囁き再度口づけを落とす。
そんな二人の行動に、名無しはくしゃりと顔を瞳に沢山の涙を浮かべて笑った。
嗚呼、なんて素敵な物語の結末なんだろう―――――…
24/44ページ