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「名無し様、失礼いたします」
公務が終わり部屋に戻って休んでいると、稲葉は何時ものようにお茶と茶菓子を持って部屋へ入って来た。
「お茶とお茶菓子を持ってまいりました」
「ありがとう、稲葉」
そう言って、稲葉は持って来たお茶と茶菓子を名無しの前に出してくる。
(あ、今日の茶菓子は芋羊羹だ)
名無しの目の前に出された大好きな芋羊羹に、思わず顔が自然と綻ぶ。
「いただきます」と呟き、名無しは黒文字を手に取り芋羊羹を切り分けて口の中へと運ぶ。
芋羊羹の甘い味が口いっぱいに広がり、名無しはますます笑顔になる。
「おいしい」
「喜んでいただけて何よりです、名無し様」
名無しの感想を聞いて、つられて稲葉も笑みを浮かべる。
芋羊羹を食べているとやっぱり喉が渇いてくるので、名無しは稲葉が用意してくれた湯呑へと手を伸ばす。
が、湯呑の中を見れば、桃色の花弁が一枚ぷかぷかと浮かんでいた。
「ねぇ、稲葉…これってなんの花弁かな?」
「花弁…ですか?」
花弁の浮かぶ湯呑を稲葉に見せると、稲葉は「桜の花弁ですね」とすぐに答えてくれた。
「え、もう桜咲いてるの…?」
「はい…と言いましても、まだほんの少しですけどね。きっと此方へ来る途中入ってしまったんだと思います」
苦笑を浮かべ稲葉は「淹れ直して参りますね」と言ってくれたけど、名無しは首を横に振りながら「大丈夫だよ」と、答えた。
湯呑の中にあるお茶の上で揺れ動く桜の花弁に、名無しは風情を感じたからだ。
桜の花弁を飲まないように気をつけながらお茶を一口飲み、名無しはほっと息をつく。
桜の花弁は右へ、左へとゆらゆら揺れる。
するとふと、何かを思いついたのか、稲葉の方へ顔を向けた。
「ねぇ、稲葉」
「はい」
「もう少しして桜が綺麗に咲いたら…一緒にお花見に行かない?」
「お花見に…ですか?」
「うん、私と稲葉と二人で…お部屋でお茶するのもいいけど、桜を見ながらのんびり稲葉と過ごしたいなって…。駄目かな?」
少し不安そうに尋ねる名無しに、稲葉を笑顔で首を横に振りそっと名無しの両手を握り締める。
暖かい稲葉の温もりが、名無しの両手に伝わる。
「いいえ、私も名無し様とご一緒にお花見をしたかったので」
「じゃあ約束だよ、稲葉」
「はい、名無し様」
顔を見合わせ笑いながら、二人はどちからともなく小指を出し、指切りを交わした。
桜が咲く少し前の、とある休憩中の出来事―――…
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