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卯の刻もまだ来ていない朝方。
名無しは褥から起き上がり身支度を整えてすぐに緒形が居る部屋へと向かっていた。
昨夜から喉が少し痛く、それでも寝れば大丈夫だろうと思っていた名無しであったが起きてみれば痛みは引くどころか酷くなっていた。
声を出してみれば掠れ掠れに言葉が出る上に、唾を飲み込む事すら苦でしかなかった。
(緒形さん起きてるかな…)
流石に卯の刻もまだ来ていない朝方から緒形の元を訪ねるのは失礼だと思ったが…
喉の痛みに負け、名無しは緒形の元を訪ねることにした。
歩きながらため息をつき、まだ訪ねてはいないが緒形に対する申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだった。
ここ数日、緒形は寝ずに大奥中を走り回っていたのを何度も見かけた。
手には薬やら診療用具をたくさん抱え、何時もの微笑ではなく医者の顔だった。
春日局に尋ねればどうやら大奥中の男が季節はずれの風邪にかかったのだと零していた。
勿論鷹司や永光、蔵之丞も例外ではなく風邪にかかったらしい…。
お見舞いに行こうとした名無しであったが、風邪が移ってしまうと言われ春日局様に止められていたのに…
(お見舞いに行ってないのにな何でこんな事になっちゃったんだろ…)
また一つため息をつき、俯きながら歩いているととんっと誰かにぶつかってしまった。
「す、すみませっ…」
「おや、名無しさん?」
「あ…緒形…さんっ…」
聞きなれた声に顔を上げれば、そこには少しびっくりした表情の緒形が居た。
が、緒形は名無しの顔を見て何時もの微笑に表情を変える。
「あの…緒形さん?」
「名無しさん、ちょっと此方へ…」
名無しの手を引き、緒形は自分の部屋へと足を運んだ。
「さて…何処が悪いのか教えていただけますか名無しさん?」
緒形の部屋へ連れてこられたと同時に、緒形は名無しと向き合う用にして目の前に腰を下ろす。
先ほどから微笑んだまま表情は変えていないものの、目は医者が患者に向けるものだった。
「え、どうして…分かったんですか…?」
「名無しさんの事は見ていれば分かりますよ。それに声も掠れ掠れで…時折苦しそうな表情もしていますしね。…ちょっと失礼しますね」
そう名無しに言い、緒形は名無しとの距離を縮めそっと手を伸ばす。
緒形の柔らかく、温かい指が名無しの首に触れる。
「…っつ」
首に触れた指に、思わず名無しは顔を赤く染める。
「くすぐったいかもしれませんが…我慢してくださいね」
そう言いながら緒形は指の腹で名無しの首を少しずつ押していく。
緒形の指が千影の首に優しく触れる度、くすぐったいのか名無しはびくりと肩を揺らす。
そんな名無しを知ってか知らずか、緒形は気づかないまま「もう少し顎を引いてください名無しさん」と首に触れたまま呟く。
「…緒形さ…っつ」
「はい?」
「離して…くだ…さいっ…」
「どうしてです?私はただ診ているだけですよ?」
妖笑を浮かべ、緒形は名無しの耳元に顔を近づける。
「それとも名無しさんは…何か期待してらっしゃるんですか?」
「そ、そんな事はっ…」
「例えばこんなこととか…」
名無しを抱き寄せて、緒形は千影の帯を緩める。
何時もは稲葉に着付けを頼んでいるものの、今朝は名無し自身が着付けたため、着付け慣れていないせいか帯が解けただけで肩まで着物が落ちる。
あらわとなった白い肌に緒形はそっと指を滑らせた。
「んっ…」
「最近は忙しくて名無しさんに構うことが出来ませんでしたからね…私はこうして貴女に触れたくて…仕方ありませんでしたよ?」
「あっ…緒形…さんっ…」
触れられた肌が熱をおび、無意識のうちに瞳が潤む。
潤んだ瞳に緒形は思わずそれ以上の行為をしてしまいたくなったが…はにかんだ笑みを向けて緒形は残念そうに呟いた。
「ですがお預けですね…」
「…え?」
「弱っている名無しさんが辛くなると思いますしね」
肩まで落ちた着物をきちんと直し、緩んだ帯を何事もなかったのように結び直す
「少し喉が腫れていますね…喉に効く薬を調合しますので、待っていてくださいね名無しさん」
「…っつ」
緒形は名無しを離しそう言い残して、薬を調合するために立ち上がり部屋の奥へと姿を消した。
残された名無しは耳まで顔を赤くし、俯く事しか出来なかった。
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