過去LOG
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※【甘くけだるい恋の夢】設定(敵方貴族)となっております
シンと辺りが静まり返ったバルコニーに、名無しは一人夜風に当たっていた。
星がキラキラと瞬き、時折夜風のひんやりとした冷たさだけが名無しの頬を撫でる。
(今日はずっと寝てたから、風が気持ちいいなぁ)
夜空に輝く星を見ながら、名無しは今日一日の事を思い出した。
今日一日、名無しはずっと部屋の中で休んでいた。
ここ数日夜会が続き、昼夜問わず忙しかったため名無しは熱を出し体調を崩してしまったのだ。
偽りの令嬢としての生活に慣れて気が緩んでしまったのも原因の1つかもしれない。
(熱も下がったし、明日からまた頑張らなくちゃ)
改めて気を引き締め直し名無しはまた星空を見上げようとするが、ガサリっ、と葉が擦れる音に思わず身体を強張らせる。
(何だろう?)
鳥か夜行性の動物でも居るのだろうかと、音のした方へと視線を向ければ…そこにはリングランドを二分し、義兄であるローガンと敵対しているラッド=クロムウェルの姿があった。
「え…ら、ラッドさ…んぐっ」
ラッドの姿に思わず叫びそうになった名無しの口を、ラッドはすかさず左手で塞ぐ。
「しーっ、静かに」
ラッドは自分の唇に右手の人差し指を当て、小声で名無しに告げた。
義兄であるローガンと敵対していると言えど、彼は名無しの恋人だ。
誰にも知られてはいけない、誰にも許される事のない秘密の関係。
社交界シーズン中はラッドと会って話す事を控えていたのもあり、嬉しい気持ちが昂ってしまったが…今ここで大声を出されては非常にまずい事になるだろう。
その事に気づきこくりと名無しが頷くと、ラッドはようやく名無しの口を塞いでいた左手をどけ笑った。
「ラッド様どうしてここに?」
「んー、ちょっと名無しの様子を見にかな」
問われた問いにラッドは小さな子供が悪戯に成功したような表情で答える。
「私の様子…ですか?」
「ああ、その調子だと熱は下がったみたいだな」
「な、何で知って…」
ラッドの言葉に思わず名無しは目を大きくする。
名無しが熱を出し体調を崩していたことは、極わずかな人間しか知らない事だ。
幸いにも連日続いた夜会は終わっているし、ブラッドレイ家の人間が敵対するクロムウェル家にそんな情報を漏らすはずもない。
それなのに何故敵対しているはずのラッドが知っているのか、名無しは驚きを隠す事が出来ない。
そんな名無しにラッドは「何でって言われるとそうだなー」と一瞬考えるそぶりを見せるものの答えはすぐに紡ぎ出された。
「昨日の夜会で名無しを見かけた時顔色が悪かったからかな」
「え、でも見かけたのってほんの数分じゃあ…」
昨夜の夜会の事を思い出し、名無しは不思議そうなラッドを見つめた。
昨夜参加した夜会で確かに名無しは偶然ラッドを見かけた。
だが敵対する貴族である以上話す事もずっと見続ける事も出来ないだろう。
義兄であるローガンならまだ腹の探り合い…否、嫌味の1つや2つでも言うかもしれないが。
「それだけあれば俺には十分すぎる時間だ」
そう言いながら微笑んだラッドに、名無しの胸の鼓動は高鳴る。
義兄であるローガンやユアンですら気づいたのは今朝方だったと言うのに、あの夜会でほんの数分で気づかれると名無しは思ってもみなかった。
「あんまり無理するなよ、名無し」
ぽんぽんっと名無しの頭を撫でるその手に、恥ずかしそうに名無しは俯く。
義兄に撫でられるものとはまた違う優しくて大きな手。
(ふふ、ラッド様の手相変わらず温かいな~)
久しぶりにラッドに触れられた喜びをかみ締めながら、名無しは「ありがとうございます、ラッド様」と言葉を紡ぐ。
「でも、ラッド様も無理はなさらないでくださいね?」
「ああ、可愛い恋人にそんな風に言われたら無理も無茶も出来ないしな」
「もう、ラッド様ったら」
茶化すような口調に、思わず笑みがこぼれる。
数ヶ月ラッドとまともに会話すら出来ていなかった時間さえ、ラッドと居ればすぐに埋まってしまう。
「…病み上がりで無理もさせられないから、今夜はこれまでだな」
だがぽつりとラッドがそう呟けば、はっと名無しは現実に戻される。
幸せな時間は何時だって、あっという間に過ぎていくものなのだから。
何よりクロムウェル家の当主であるラッドは社交シーズンが終わっても通常の仕事が忙しいのだから仕方のない事である。
「そう、ですね…気を付けておかえりくださいねラッド様」
「ああ、ありがとうな名無し」
そう言いながら名無しの手を取り名残惜しそうにそっと手を取る。
名無しの体調を気遣って、いつも唇にするはずの口づけは今日は指先へと落とされた。
(指先だけじゃ物足りないなんて…我儘言えないよね)
ひっそりと胸の奥で思っただけのはずなのに、「今度はちゃんと“此処”にするから…覚悟しとけよ?」っと、まるで見透かしたようにラッドは言葉を続けた。
トントンっと優しく指で名無しの唇に触れ、ラッドの言う“此処”が何処なのかを示すように。
「…っつ!」
「それじゃあおやすみ、名無し」
「おやすみなさい、ラッド様っ…」
やっとの想いで紡ぎ出された言葉をラッドは満足そうに聞くと「じゃあまたな」と言葉を残しバルコニーから立ち去った。
ラッドが居なくなったバルコニーで名無しは彼の姿が見えなくなるまでその場から動けずにいた。
静寂なバルコニーにドクン、ドクンとうるさい位に鼓動が波打つ音が名無し自身はっきりと分かる。
早く部屋に戻らなければと思うものの、思考回路はそれどころではない。
―――今度はちゃんと“此処”にするから…覚悟しとけよ?
先ほどラッドに言われた言葉を思い返せば、身体は熱く火照る。
(どうしよう…)
バルコニーから動けずにいる名無しの頬を、ひんやりとした夜風が優しくなでる。
(下がったはずの熱が、またぶり返しちゃいそう…)
口元を両手で隠しその場にしゃがみ込み、耳まで赤くなっている名無し。
そんな彼女を知るのは満天に光る星々のみだけだった――――
ぶり返す微熱
2020/04/20
シンと辺りが静まり返ったバルコニーに、名無しは一人夜風に当たっていた。
星がキラキラと瞬き、時折夜風のひんやりとした冷たさだけが名無しの頬を撫でる。
(今日はずっと寝てたから、風が気持ちいいなぁ)
夜空に輝く星を見ながら、名無しは今日一日の事を思い出した。
今日一日、名無しはずっと部屋の中で休んでいた。
ここ数日夜会が続き、昼夜問わず忙しかったため名無しは熱を出し体調を崩してしまったのだ。
偽りの令嬢としての生活に慣れて気が緩んでしまったのも原因の1つかもしれない。
(熱も下がったし、明日からまた頑張らなくちゃ)
改めて気を引き締め直し名無しはまた星空を見上げようとするが、ガサリっ、と葉が擦れる音に思わず身体を強張らせる。
(何だろう?)
鳥か夜行性の動物でも居るのだろうかと、音のした方へと視線を向ければ…そこにはリングランドを二分し、義兄であるローガンと敵対しているラッド=クロムウェルの姿があった。
「え…ら、ラッドさ…んぐっ」
ラッドの姿に思わず叫びそうになった名無しの口を、ラッドはすかさず左手で塞ぐ。
「しーっ、静かに」
ラッドは自分の唇に右手の人差し指を当て、小声で名無しに告げた。
義兄であるローガンと敵対していると言えど、彼は名無しの恋人だ。
誰にも知られてはいけない、誰にも許される事のない秘密の関係。
社交界シーズン中はラッドと会って話す事を控えていたのもあり、嬉しい気持ちが昂ってしまったが…今ここで大声を出されては非常にまずい事になるだろう。
その事に気づきこくりと名無しが頷くと、ラッドはようやく名無しの口を塞いでいた左手をどけ笑った。
「ラッド様どうしてここに?」
「んー、ちょっと名無しの様子を見にかな」
問われた問いにラッドは小さな子供が悪戯に成功したような表情で答える。
「私の様子…ですか?」
「ああ、その調子だと熱は下がったみたいだな」
「な、何で知って…」
ラッドの言葉に思わず名無しは目を大きくする。
名無しが熱を出し体調を崩していたことは、極わずかな人間しか知らない事だ。
幸いにも連日続いた夜会は終わっているし、ブラッドレイ家の人間が敵対するクロムウェル家にそんな情報を漏らすはずもない。
それなのに何故敵対しているはずのラッドが知っているのか、名無しは驚きを隠す事が出来ない。
そんな名無しにラッドは「何でって言われるとそうだなー」と一瞬考えるそぶりを見せるものの答えはすぐに紡ぎ出された。
「昨日の夜会で名無しを見かけた時顔色が悪かったからかな」
「え、でも見かけたのってほんの数分じゃあ…」
昨夜の夜会の事を思い出し、名無しは不思議そうなラッドを見つめた。
昨夜参加した夜会で確かに名無しは偶然ラッドを見かけた。
だが敵対する貴族である以上話す事もずっと見続ける事も出来ないだろう。
義兄であるローガンならまだ腹の探り合い…否、嫌味の1つや2つでも言うかもしれないが。
「それだけあれば俺には十分すぎる時間だ」
そう言いながら微笑んだラッドに、名無しの胸の鼓動は高鳴る。
義兄であるローガンやユアンですら気づいたのは今朝方だったと言うのに、あの夜会でほんの数分で気づかれると名無しは思ってもみなかった。
「あんまり無理するなよ、名無し」
ぽんぽんっと名無しの頭を撫でるその手に、恥ずかしそうに名無しは俯く。
義兄に撫でられるものとはまた違う優しくて大きな手。
(ふふ、ラッド様の手相変わらず温かいな~)
久しぶりにラッドに触れられた喜びをかみ締めながら、名無しは「ありがとうございます、ラッド様」と言葉を紡ぐ。
「でも、ラッド様も無理はなさらないでくださいね?」
「ああ、可愛い恋人にそんな風に言われたら無理も無茶も出来ないしな」
「もう、ラッド様ったら」
茶化すような口調に、思わず笑みがこぼれる。
数ヶ月ラッドとまともに会話すら出来ていなかった時間さえ、ラッドと居ればすぐに埋まってしまう。
「…病み上がりで無理もさせられないから、今夜はこれまでだな」
だがぽつりとラッドがそう呟けば、はっと名無しは現実に戻される。
幸せな時間は何時だって、あっという間に過ぎていくものなのだから。
何よりクロムウェル家の当主であるラッドは社交シーズンが終わっても通常の仕事が忙しいのだから仕方のない事である。
「そう、ですね…気を付けておかえりくださいねラッド様」
「ああ、ありがとうな名無し」
そう言いながら名無しの手を取り名残惜しそうにそっと手を取る。
名無しの体調を気遣って、いつも唇にするはずの口づけは今日は指先へと落とされた。
(指先だけじゃ物足りないなんて…我儘言えないよね)
ひっそりと胸の奥で思っただけのはずなのに、「今度はちゃんと“此処”にするから…覚悟しとけよ?」っと、まるで見透かしたようにラッドは言葉を続けた。
トントンっと優しく指で名無しの唇に触れ、ラッドの言う“此処”が何処なのかを示すように。
「…っつ!」
「それじゃあおやすみ、名無し」
「おやすみなさい、ラッド様っ…」
やっとの想いで紡ぎ出された言葉をラッドは満足そうに聞くと「じゃあまたな」と言葉を残しバルコニーから立ち去った。
ラッドが居なくなったバルコニーで名無しは彼の姿が見えなくなるまでその場から動けずにいた。
静寂なバルコニーにドクン、ドクンとうるさい位に鼓動が波打つ音が名無し自身はっきりと分かる。
早く部屋に戻らなければと思うものの、思考回路はそれどころではない。
―――今度はちゃんと“此処”にするから…覚悟しとけよ?
先ほどラッドに言われた言葉を思い返せば、身体は熱く火照る。
(どうしよう…)
バルコニーから動けずにいる名無しの頬を、ひんやりとした夜風が優しくなでる。
(下がったはずの熱が、またぶり返しちゃいそう…)
口元を両手で隠しその場にしゃがみ込み、耳まで赤くなっている名無し。
そんな彼女を知るのは満天に光る星々のみだけだった――――
ぶり返す微熱
2020/04/20
15/44ページ