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「重くないか名無し?」
「私は大丈夫ですよ、日向様。それよりも日向様の方が重くないですか?」
「いや、これくらい平気だ」
鈴成茶屋での仕事を少し早めに切り上げ、買い出しに出ていた名無しと日向は、黄昏時の城下町を歩いていた。
手には大きな紙袋を持っており、中には先ほど買ったばかりの材料がたくさん入っている。
何時もの城下町の風景を眺めながら、二人はのんびりと家路に足を運ぶ。
行き交う馴染み深い城下町の人々には二人の仲は知れ渡っており、二人の姿を微笑ましく見守っている。
中には勿論「お熱いわね」、「本当に仲睦まじいわね」と口にする人たちも居るが、その言葉を聞くたびに名無しも日向も照れくさそうに視線を逸らしたり俯く。
「あー…すっかり知れ渡ってしまっているな…」
「…そのよう…ですね」
抱えている紙袋に顔を埋めながら、ぎゅっと紙袋を抱く。
そんな可愛い仕草をする名無しを見ながら、日向の口元は自然と緩む。
「…日向様…?」
「名無しが可愛いと思ってな」
「……っつ、か、からかわないでください、日向様!」
「からかってなどいない…本当の事を言ったまでだ」
自信満々に応える日向に、名無しは頬を赤く染めた。
(そういうところが可愛いんだがな…)
頬を染める名無しを見ながら、日向はくすりっと笑う。
「あれ、日向さん達じゃないか」
「ん?」
何処かで日向達を呼ぶ声が聞こえ、日向も名無しの足も自然と止まる。
声がする方へと視線を向けると、そこには名無しと日向と同じように紙袋を抱えている佐吉と美代の姿があった。
「佐吉殿にお美代殿」
「買い出しの帰りかい?」
「はい、明日の仕込みの材料を買いに」
そう言って抱えている紙袋を見せると、美代も同じように「うちもさっき買い出しに言ってたんだよ」と紙袋を見せる。
紙袋の上が少しあいているせいか、菜の花や卵、生姜等の姿が見えた。
「ところで日向さんが来てひと月以上経つが…まだ婚儀は行わないのかい?」
「…っつ」
「こ、婚儀…ですかっ…?!」
思わず佐吉の一言に、名無しも日向も息をのむ。
日向が城下町へ来て確かにひと月以上の時が流れた。
だが鈴成茶屋が盛況だったり、何かと忙しかったため婚儀の事など考えたこともなかった。
「そうよ、あんた達二人の仲は町の皆公認なんだし…そろそろ婚儀を挙げてもいいんじゃないかい?」
「あ、あのでもまだ私達には…」
早すぎますし、と言葉を出そうとする名無しの声を遮るかのように「何言ってんだい、町の皆もまだかまだかってそわそわしてるんだよ」美代は笑いながら名無しの背中を軽くたたく。
「仕立て屋の大旦那なんて名無しちゃんの為に白無垢作りたくて名無しちゃんがお店の来るの待ってたりしてるわよ」
「うちの息子なんて名無しちゃんが日向さんと一緒に居るところ見て泣いてたわね…ありゃ勝目なんてないもの」
「えー、そうだったのかい?うちの息子もやけ酒していろいろ大変だったわよ」
「そう言えば八百屋ん所の―――…」
美代の話を聞きつけてか、周りに居た町の人々も混ざり話がどんどん進んでいく。
名無しも日向も話に入れず置いてけぼり状態ではある反面、まるで自分たちのように話してくれる町の人々の優しさに笑みをこぼした。
「しかし…話を聞く限り妬けてしまうな…」
町の人々の話を聞く中、日向はぽつりと呟いた。
何人かの男が名無しに好意を持っていた話など聞いては日向自身面白くないようだ。
そんな日向に対し、名無しは「わ、私には日向様しかいませんから…!」と、普段は出さないような大きな声でつい言葉を発した。
無論、名無しの声は先程まで話していた人々の声よりも大きかったため、周りは皆名無しと日向に視線を向けていた。
まるで我が子を見守るような…微笑ましい表情を浮かべて…。
はっと我に返った名無しは耳まで真っ赤になり、顔を隠すために俯いた。
「俺もお前しか…名無ししかいないからな」
俯いている名無しにはっきりと聞こえるように、凛とした声色で日向は答える。
「おお!見せつけてくれるね、お二人さん!」
「こりゃあ二人の婚儀を挙げる日が待ち遠しいな」
「二人の婚儀を挙げる日が来る思うと、今から涙が出てくるね…」
「おいおい早いだろ…」
「兎に角、婚儀挙げるときゃちゃんと俺たちに知らせてくれよ日向さん」
「ああ、心得た佐吉殿」
恥ずかしそうに俯く名無しの傍で、日向は薄い笑みを浮かべ答えた。
その日、城下町はいつもより遅い時刻まで賑わい続けた―――
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