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※本編終了後のお話し
「どうだい名無しちゃん?」
「あ、お美代さん。此処の所がよく分からなくて…」
「ああ、そこはね…」
4月も下旬に差し掛かろうとする中、名無しは佐吉と美代の住まう長屋へと訪れていた。
江戸城に居た際、何かの書物で日向の誕生日を知った千影はこうして4月に入るとほぼ毎日鈴成茶屋の仕事終了後に佐吉と美代の住まう長屋を訪ね、少しずつではあるが日向への贈り物を作っていた。
今まで着物のほつれを直すくらいでしか裁縫をした事がなかったため、こうして裁縫上手な美代に作り方や縫い方を教わりながら縫い進めていたのだ。
初めは一枚の淡い黄色の布だった物も、今となっては完成にほぼ近く整ってきている。
「この調子だと今日中に出来上がりそうだね」
「はい、誕生日までに間に合いそうでよかったです」
美代の縫い方を見ながら、名無しは頬を緩め微笑む。
出会って初めてお慕いしている人の誕生日だ、喜んでくださればと思いながら明日の誕生日に向けて菓子を作ったり料理の腕を磨いたりなど日向にバレないように名無しはここひと月隠し通してきた。
その事を思い出しながら、名無しは先ほど縫い方を見せてくれた美代と同じようにまた縫い始める。
「それにしても、日向さんはこんなにも出来た嫁さんが居て幸せ者だな」
「そうだねぇ、名無しちゃん見たいな子が娘だったら私も嬉しいのに」
「そ、そんな事ないですよ、お美代さん」
「あるわよ。名無しちゃんみたいな娘が居たらお嫁に出すのにもた躊躇いそうだわ」
「確かに俺も嫁になんか行かせるか!!って言ってそうだな。」
「あんたの場合相手を一発殴ろうとして逆に殴られるのがおちね」
「おいおい、そりゃないだろ…」
くすくすと仲良く笑いながら話す佐吉と美代。
そんな楽しそうな会話を聞きながら名無しもつられて笑い、縫っていた糸に玉どめをして淡い黄色の布を広げた。
淡い黄色の布はもう既に布ではなく、着物へと姿をかけていた。
名無しの体よりもだいぶ大きいが、日向が着るに至ってはこれくらいの大きさが丁度いいものだった。
「お美代さん、出来ました!」
「お疲れ様、名無しちゃん。ちょっと見せてくれるかい?」
「はい!」
出来上がったことが嬉しいのか、元気よく返事をし着物を美代へと渡す。
渡された美代はほつれや不十分なところはないかと念入りに確認し「うん、大丈夫だよ」っと言って着物を名無しに返した。
着物を受け取りぎゅっと抱きしめ、名無しは笑顔を向ける。
「ありがとうございます、お美代さん。」
「いいんだよ。それに私も楽しかったからね」
そう言って「お茶淹れ直してきましょうかね」と美代は立ち上がる。
が、美代が立ち上がったと同時に…
こんこんっと、戸を叩く音がし「佐吉殿お美代殿、名無しを迎に来たんだが…」と聞きなれた声が聞こえてきた。
「あんたちょっと出てちょうだい」
「はいよ」
立ち上がった美代はそう佐吉に良い、お茶を淹れにはいかず先程まで使っていた裁縫道具をしまう。
名無しも着物を綺麗に畳んで急いで持って来た風呂敷の中に皺にならないように着物を置き包む。
あたかも先程まで裁縫をしていた等とわからないように…。
「いらっしゃい、日向さん」
「夜分遅くに邪魔する、佐吉殿、お美代殿」
「いいんだよ、日向さんならいつでも大歓迎だしね」
何時ものように日向を迎える佐吉と美代。
名無しは静かにほっと息をついた。
4月に入り頻繁に夜出かける名無しを夜道は一人では危ないからと心配して送り迎えを日向は自分から進んでしていた。
勿論、日向には誕生日の贈り物を作っているなどとは言えず、作れる食事を増やしたいからという嘘を付き佐吉と美代の家に通っていた。
作れる食事を増やしたいというの嘘ではないが…本命が着物だったため、料理も習ったには習ったがそこまで本格的なものではなく簡単に作れるものだけを習っているが…。
「今からお茶を淹れようと思ってたんだけど、日向さんも飲んでいきます?」
「お美代殿、ありがたいが…流石に子の刻も近いからな…」
「まぁ、…もうそんな時間だったのかい?今日はやけに迎えに来るのが遅かったんだね?」
「…今日は少々ここに来る途中に所用を思い出して来るのが遅くなってしまってな…」
苦笑を浮かべながら日向はそう言って名無しの方へ手を差し出す。
照れくさそうに視線を逸らしながら「帰るぞ、名無し」っと呟く。
「はい、日向様」
差し出された手に手を置き、着物の入った風呂敷を忘れずに持ち名無しはもう一度美代
と佐吉に「ありがとうございました」っと言って二人の住まう長屋を後にした。
「ふふ、この時間だと家に着いた頃にはもう渡してるかしらね?」
「日向さんだったら嬉しそうに着てそうだもんな」
「明日にでも見に行ってみようかしら?」
「なんなら町の皆集めて祝いに行くか?」
「それいいじゃない!あんたもたまにはいいこと言うわね」
「…たまにはかよ」
名無しと日向が立ち去った後、こんな会話が佐吉と美代の間でされていたことを…名無しと日向達は巳の刻に知る羽目になる。
「すまなかったな…今日は何時もより遅くなってしまって…」
「大丈夫ですよ、日向様。それより所用の方はもういいんですか?」
手を繋ぎ、きらきらと瞬く星空の下名無しと日向は二人で歩いていた。
流石に時間が時間なだけ有り、二人以外の人の姿は何処にもなかった。
「あー…、名無しを迎に行こうとしたら城から脱走してきた家光と出くわしてな…」
「家光様にですか?」
「ああ、近頃公務が忙しすぎて死ぬなどと愚痴をこぼした挙句にお前とまた変わって茶屋で働きたいと言い出してな」
眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな表情でぎゅっと握りしめていた手をさらに強く握り締める。
名無しが家光の代わりに影武者として上様を演じればまた江戸城の問題や大奥関係で名無しに迷惑がかかってしまう。
それにいくら家光の兄とは言えもう亡くなった事になっている日向は名無しを助けることすらできない。
(いくら家光でも俺と名無しとの時間を奪うようであれば許せそうにないからな…)
「日向様?」
「あー…何でもない、兎に角火影や春日局が家光を迎に来たから大丈夫なはずだ」
一瞬実の妹にすら殺意を湧いてしまった日向は頭を左右に振り、殺意をかき消す。
きっともし家光と名無しが再び入れ替わってしまったら名無し以外自分を止められないだろうし、江戸城の方へ殴り込みにいってしまうだろう…。
(我ながら名無しの事になると自分を見失ってしまうな)
苦笑を浮かべたたまま、日向と名無しは今日の出来事を話しながら家路についた。
「すっかり真っ暗ですね…」
「ああ、もう子の刻も過ぎてしまったようだからな」
家に着いた名無しと日向は寝る準備をし終えた後、二人して同じ褥に横になる。
ぎゅっと名無しを抱き寄せて寝る体勢に入った日向に、名無しは慌てて「あ、あの日向様っつ!」っと声を上げる。
「ん…どうかしたのか名無し?」
「あ、あのですね…」
言葉につまりながら、名無しは抱き寄せられていた日向から離れ、近くに置いてある風呂敷へと歩み寄る。
風呂敷を開き完成したばかりの淡い黄色の着物を日向の前に差し出した。
差し出された日向は首を傾げながら着物を受け取り、「俺に…か?」と名無しに問う。
「は、はい…。今日が日向様の誕生日だって江戸城にいたときに何かの書物に書いてありましたので何か贈り物をと思って美代さんに作り方を教わって作ったんです…」
はにかむような笑顔で日向の方を見れば、日向は何も言わずに着物をじっと眺めていた。
何時もなら何かしら反応してくれるはずなのに、日向は無表情のまま目を瞬かせじっと着物を見ているだけだった。
「あ、あの…お気に召しませんでした…か…?」
恐る恐る日向に問うと、はっと我に返り「違うんだ!」と声を張り上げた。
思わずびくっと肩を揺らし日向の方を見れば、申し訳なさそうに肩を落とす。
「す、すまない…その…こう言った心のこもった物を今まで貰ったことがなくてな…後俺の誕生日だったことを俺自身も忘れていて…その…吃驚してしまってな」
素直に日向は思ったことを告げた。
療養する以前は確かに江戸城で4月21日に日向の誕生日を祝う宴が催されていた。
だがそれは上辺だけの行事ごと。
本当の意味で祝われたことがない誕生日を、日向は嫌っていた。
そのせいか自分の誕生日でさえも忘れてしまった。
誕生日など来なければいいと…本当の意味で祝われてみたい…と。
「本当に…俺がもらってもいいのか?」
再度確かめるかのように日向は名無しに問う。
そんな日向に、名無しは微笑み「はい」っと精一杯頷いた。
「その…日向様のために作りましたから」
「…ありがとう、名無し」
淡い黄色の着物を抱きしめて、日向は笑顔を名無しに向けた。
「どうだい名無しちゃん?」
「あ、お美代さん。此処の所がよく分からなくて…」
「ああ、そこはね…」
4月も下旬に差し掛かろうとする中、名無しは佐吉と美代の住まう長屋へと訪れていた。
江戸城に居た際、何かの書物で日向の誕生日を知った千影はこうして4月に入るとほぼ毎日鈴成茶屋の仕事終了後に佐吉と美代の住まう長屋を訪ね、少しずつではあるが日向への贈り物を作っていた。
今まで着物のほつれを直すくらいでしか裁縫をした事がなかったため、こうして裁縫上手な美代に作り方や縫い方を教わりながら縫い進めていたのだ。
初めは一枚の淡い黄色の布だった物も、今となっては完成にほぼ近く整ってきている。
「この調子だと今日中に出来上がりそうだね」
「はい、誕生日までに間に合いそうでよかったです」
美代の縫い方を見ながら、名無しは頬を緩め微笑む。
出会って初めてお慕いしている人の誕生日だ、喜んでくださればと思いながら明日の誕生日に向けて菓子を作ったり料理の腕を磨いたりなど日向にバレないように名無しはここひと月隠し通してきた。
その事を思い出しながら、名無しは先ほど縫い方を見せてくれた美代と同じようにまた縫い始める。
「それにしても、日向さんはこんなにも出来た嫁さんが居て幸せ者だな」
「そうだねぇ、名無しちゃん見たいな子が娘だったら私も嬉しいのに」
「そ、そんな事ないですよ、お美代さん」
「あるわよ。名無しちゃんみたいな娘が居たらお嫁に出すのにもた躊躇いそうだわ」
「確かに俺も嫁になんか行かせるか!!って言ってそうだな。」
「あんたの場合相手を一発殴ろうとして逆に殴られるのがおちね」
「おいおい、そりゃないだろ…」
くすくすと仲良く笑いながら話す佐吉と美代。
そんな楽しそうな会話を聞きながら名無しもつられて笑い、縫っていた糸に玉どめをして淡い黄色の布を広げた。
淡い黄色の布はもう既に布ではなく、着物へと姿をかけていた。
名無しの体よりもだいぶ大きいが、日向が着るに至ってはこれくらいの大きさが丁度いいものだった。
「お美代さん、出来ました!」
「お疲れ様、名無しちゃん。ちょっと見せてくれるかい?」
「はい!」
出来上がったことが嬉しいのか、元気よく返事をし着物を美代へと渡す。
渡された美代はほつれや不十分なところはないかと念入りに確認し「うん、大丈夫だよ」っと言って着物を名無しに返した。
着物を受け取りぎゅっと抱きしめ、名無しは笑顔を向ける。
「ありがとうございます、お美代さん。」
「いいんだよ。それに私も楽しかったからね」
そう言って「お茶淹れ直してきましょうかね」と美代は立ち上がる。
が、美代が立ち上がったと同時に…
こんこんっと、戸を叩く音がし「佐吉殿お美代殿、名無しを迎に来たんだが…」と聞きなれた声が聞こえてきた。
「あんたちょっと出てちょうだい」
「はいよ」
立ち上がった美代はそう佐吉に良い、お茶を淹れにはいかず先程まで使っていた裁縫道具をしまう。
名無しも着物を綺麗に畳んで急いで持って来た風呂敷の中に皺にならないように着物を置き包む。
あたかも先程まで裁縫をしていた等とわからないように…。
「いらっしゃい、日向さん」
「夜分遅くに邪魔する、佐吉殿、お美代殿」
「いいんだよ、日向さんならいつでも大歓迎だしね」
何時ものように日向を迎える佐吉と美代。
名無しは静かにほっと息をついた。
4月に入り頻繁に夜出かける名無しを夜道は一人では危ないからと心配して送り迎えを日向は自分から進んでしていた。
勿論、日向には誕生日の贈り物を作っているなどとは言えず、作れる食事を増やしたいからという嘘を付き佐吉と美代の家に通っていた。
作れる食事を増やしたいというの嘘ではないが…本命が着物だったため、料理も習ったには習ったがそこまで本格的なものではなく簡単に作れるものだけを習っているが…。
「今からお茶を淹れようと思ってたんだけど、日向さんも飲んでいきます?」
「お美代殿、ありがたいが…流石に子の刻も近いからな…」
「まぁ、…もうそんな時間だったのかい?今日はやけに迎えに来るのが遅かったんだね?」
「…今日は少々ここに来る途中に所用を思い出して来るのが遅くなってしまってな…」
苦笑を浮かべながら日向はそう言って名無しの方へ手を差し出す。
照れくさそうに視線を逸らしながら「帰るぞ、名無し」っと呟く。
「はい、日向様」
差し出された手に手を置き、着物の入った風呂敷を忘れずに持ち名無しはもう一度美代
と佐吉に「ありがとうございました」っと言って二人の住まう長屋を後にした。
「ふふ、この時間だと家に着いた頃にはもう渡してるかしらね?」
「日向さんだったら嬉しそうに着てそうだもんな」
「明日にでも見に行ってみようかしら?」
「なんなら町の皆集めて祝いに行くか?」
「それいいじゃない!あんたもたまにはいいこと言うわね」
「…たまにはかよ」
名無しと日向が立ち去った後、こんな会話が佐吉と美代の間でされていたことを…名無しと日向達は巳の刻に知る羽目になる。
「すまなかったな…今日は何時もより遅くなってしまって…」
「大丈夫ですよ、日向様。それより所用の方はもういいんですか?」
手を繋ぎ、きらきらと瞬く星空の下名無しと日向は二人で歩いていた。
流石に時間が時間なだけ有り、二人以外の人の姿は何処にもなかった。
「あー…、名無しを迎に行こうとしたら城から脱走してきた家光と出くわしてな…」
「家光様にですか?」
「ああ、近頃公務が忙しすぎて死ぬなどと愚痴をこぼした挙句にお前とまた変わって茶屋で働きたいと言い出してな」
眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな表情でぎゅっと握りしめていた手をさらに強く握り締める。
名無しが家光の代わりに影武者として上様を演じればまた江戸城の問題や大奥関係で名無しに迷惑がかかってしまう。
それにいくら家光の兄とは言えもう亡くなった事になっている日向は名無しを助けることすらできない。
(いくら家光でも俺と名無しとの時間を奪うようであれば許せそうにないからな…)
「日向様?」
「あー…何でもない、兎に角火影や春日局が家光を迎に来たから大丈夫なはずだ」
一瞬実の妹にすら殺意を湧いてしまった日向は頭を左右に振り、殺意をかき消す。
きっともし家光と名無しが再び入れ替わってしまったら名無し以外自分を止められないだろうし、江戸城の方へ殴り込みにいってしまうだろう…。
(我ながら名無しの事になると自分を見失ってしまうな)
苦笑を浮かべたたまま、日向と名無しは今日の出来事を話しながら家路についた。
「すっかり真っ暗ですね…」
「ああ、もう子の刻も過ぎてしまったようだからな」
家に着いた名無しと日向は寝る準備をし終えた後、二人して同じ褥に横になる。
ぎゅっと名無しを抱き寄せて寝る体勢に入った日向に、名無しは慌てて「あ、あの日向様っつ!」っと声を上げる。
「ん…どうかしたのか名無し?」
「あ、あのですね…」
言葉につまりながら、名無しは抱き寄せられていた日向から離れ、近くに置いてある風呂敷へと歩み寄る。
風呂敷を開き完成したばかりの淡い黄色の着物を日向の前に差し出した。
差し出された日向は首を傾げながら着物を受け取り、「俺に…か?」と名無しに問う。
「は、はい…。今日が日向様の誕生日だって江戸城にいたときに何かの書物に書いてありましたので何か贈り物をと思って美代さんに作り方を教わって作ったんです…」
はにかむような笑顔で日向の方を見れば、日向は何も言わずに着物をじっと眺めていた。
何時もなら何かしら反応してくれるはずなのに、日向は無表情のまま目を瞬かせじっと着物を見ているだけだった。
「あ、あの…お気に召しませんでした…か…?」
恐る恐る日向に問うと、はっと我に返り「違うんだ!」と声を張り上げた。
思わずびくっと肩を揺らし日向の方を見れば、申し訳なさそうに肩を落とす。
「す、すまない…その…こう言った心のこもった物を今まで貰ったことがなくてな…後俺の誕生日だったことを俺自身も忘れていて…その…吃驚してしまってな」
素直に日向は思ったことを告げた。
療養する以前は確かに江戸城で4月21日に日向の誕生日を祝う宴が催されていた。
だがそれは上辺だけの行事ごと。
本当の意味で祝われたことがない誕生日を、日向は嫌っていた。
そのせいか自分の誕生日でさえも忘れてしまった。
誕生日など来なければいいと…本当の意味で祝われてみたい…と。
「本当に…俺がもらってもいいのか?」
再度確かめるかのように日向は名無しに問う。
そんな日向に、名無しは微笑み「はい」っと精一杯頷いた。
「その…日向様のために作りましたから」
「…ありがとう、名無し」
淡い黄色の着物を抱きしめて、日向は笑顔を名無しに向けた。
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