短編
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『うわぁー…すっごく寒い』
目の前の風景の感想よりも先に体感で感じた感想を、名無しはポツリと呟いた。
名無しの目の前にはどこまでも限りなく続く海が広がり、夜空は満天の星空だった。
冷たい風がただただ吹き荒れる中、名無しはぼーっと海を眺めた。
「それにしても何でいきなり海なんだよ?」
隣にいた恋人であるディーノは、カタカタと小刻みに震えながら名無しに問う。
いつものラフな格好で、ジャケットまで羽織っているというのにディーノは寒そうに震えている。
イタリア出身である彼からしたら日本の冬の寒さなんて取るに足りないだろうと名無しは思っていたが…どうやら違ったらしい。
ディーノの問いかけに『なんとなく?』と名無しは言葉を返した。
年明け二日目。
言わば正月真っただ中だと言うのに、名無しとディーノは冬空の下海に来ていた。
久々にまとまった休みが取れたディーノは名無しに対して何処に行きたいのかと訊ねた。
普段忙しい彼が珍しくまとまった休みを取るのは珍しい、そしてその休みの使い方も普段寂しい思いをさせている名無しに対して何処に行きたいかと彼女との時間を作ろうとしてくれている。
そんなディーノの言葉に、名無しはパッと頭の中に思い浮かんだ言葉をそのまま口にしたのだ。
『海が見たい』…と。
普通は夏に行くはずの海。
無論冬の海もまた一興だと思うが好き好んで寒さが身に染みる時期に行こうとは思わないはずだ。
だがディーノは断る事もなくただただ名無しが行きたいと言った場所に連れて来てくれたのだ。
海に行く途中迷子になったせいか、辿り着いたのはつい先程。
だからこそ辺りはすっかり暗くなり、月明かりがなければ何かに躓いて転んでもしまうだろう。
海から波が寄せて引いてとする微かなさざ波の音が聞こえる。
「悪いな名無し、道に迷ったりして」
『ううん、いいの。ディーノと二人で海見るのが目的だったしね』
すまなさそうにしょげているディーノに、名無しは笑いかけた。
名無しにとって海に着く時間が遅れたから、道に迷ったからなんて出来事は怒る理由にもならない。
何故なら道に迷っている間も、ずっと名無しの手をディーノがひいてくれたのだ。
彼の真剣な表情を見れて、二人で長い時間を過ごせた…ただそれだけで良かった。
当たり前に過ごす時間が、名無しにとっては少なかったから。
だからこそ二人で迷子になった時間も、暗い夜の海を見た時間も、どちらも名無しにとっては幸せな時間でしかない。
ビューッと、風が吹き荒れ、冷たい空気が2人の頬に触れる。
幸いにも月明かりが照らしてくれるおかげか、お互いの顔ははっきりと見える。
『風冷たくなって来たね』
「あぁ、これからが冬本番だからな」
ディーノはそう言いながら苦笑を浮かべ海を見た。
一月の寒さなんてまだまだ序盤にしか過ぎない。
一月よりも二月の方がもっと寒くなり、冷え込むのだから。
「名無しお前手冷たくなって来てるぞ?」
『あ、本当だ』
ディーノに言われ初めて名無しは自分の指先が冷たくなっていることに気づく。
触って見るとひんやりと冷たく、寒さのせいで小刻みに震えていた。
海を見る、満天の星空を見る…ディーノとの二人の時間を過ごす。
夢中になり過ぎていたせいか自分自身では全く気付く事が出来なかった。
そんな名無しの手を取り、ディーノははぁーっと息をかけ名無しの手を両手で包み込む。
同じように歩いて同じ空間に居るはずなのに、名無しの手と違い名無しの手は不思議なくらい温かい。
『ディーノの手温かいね』
「あぁ、…なんか知らねぇ―けどな」
『子供体温なんじゃないの?』
「なっ?!俺はもう子供じゃねぇ―ぞ!!」
名無しがからかえば、すぐにディーノは反論する。
その反論が、まるで子供が返す言葉みたいに思え名無しはクスクスと笑う。
勿論名無しだってディーノが子供だなんて思わないが、それくらいディーノの手は温かいのだ。
名無しの表情を見れば、バツが悪そうな表情を浮かべ、そのまま名無しの手を自分のジャケットのポケットに突っ込む。
ポケットの中は温かく、またディーノの大きな手が触れているからか名無しの体温が少し上がったのが自分でも分かる。
「はいはい、俺は名無しからしたら子供体温ですよ」
『あはは、ごめんて…でもそれ位温かいから吃驚しちゃったんだよ』
不貞腐れた表情でディーノはそっぽを向く。
そんな彼が可愛くて(あ、拗ねちゃった…)と思いながらも、名無しは『ごめんて、ディーノ』と再び謝るのだ。
「…本当にごめんて思ってんのか?」
『勿論だよ!ディーノはちゃんと大人だもんね』
「嘘くせぇ…」
疑いの眼差しを向けるディーノに、『嘘じゃないよ』と言葉を紡ごうとしたがその刹那。
ディーノの唇が名無しの唇と重なった。
突然された口づけに、名無しは思わず苺の様に頬を染めた。
誰も居ないとは言えど一応外だ。
室内でする口づけならまだしも、屋外でされた事は無いせいか名無しは『っつ、ディーノ?!』
「ん、イヤか?」
先程のお返しだと言わんばかりに、ディーノは悪戯が成功したかのように笑う。
問いかけられた名無しはただただ心の中で(ずるい)と何度も思ってしまう。
彼の言葉を拒否する権利も、拒否しようなんて思考も…名無しは持ち合わせていないのだから…。
『イヤな訳ないじゃん…』
ポツリと呟き、名無しはディーノを見上げる。
『もっとしてくれないの?』
身長差もあるせいか、ディーノからすれば上目遣いでおねだりをする彼女が嬉しくついつい名無しの言葉に従いたくなる。
笑みを浮かべ「名無しの仰せのままに」と答えれば、ディーノは再び名無しに口づけを落とした。
もっととおねだりをしてくれたその唇に、名無しが満足するまで何度も何度も―――…
capriccio
2024/07/27
『うわぁー…すっごく寒い』
目の前の風景の感想よりも先に体感で感じた感想を、名無しはポツリと呟いた。
名無しの目の前にはどこまでも限りなく続く海が広がり、夜空は満天の星空だった。
冷たい風がただただ吹き荒れる中、名無しはぼーっと海を眺めた。
「それにしても何でいきなり海なんだよ?」
隣にいた恋人であるディーノは、カタカタと小刻みに震えながら名無しに問う。
いつものラフな格好で、ジャケットまで羽織っているというのにディーノは寒そうに震えている。
イタリア出身である彼からしたら日本の冬の寒さなんて取るに足りないだろうと名無しは思っていたが…どうやら違ったらしい。
ディーノの問いかけに『なんとなく?』と名無しは言葉を返した。
年明け二日目。
言わば正月真っただ中だと言うのに、名無しとディーノは冬空の下海に来ていた。
久々にまとまった休みが取れたディーノは名無しに対して何処に行きたいのかと訊ねた。
普段忙しい彼が珍しくまとまった休みを取るのは珍しい、そしてその休みの使い方も普段寂しい思いをさせている名無しに対して何処に行きたいかと彼女との時間を作ろうとしてくれている。
そんなディーノの言葉に、名無しはパッと頭の中に思い浮かんだ言葉をそのまま口にしたのだ。
『海が見たい』…と。
普通は夏に行くはずの海。
無論冬の海もまた一興だと思うが好き好んで寒さが身に染みる時期に行こうとは思わないはずだ。
だがディーノは断る事もなくただただ名無しが行きたいと言った場所に連れて来てくれたのだ。
海に行く途中迷子になったせいか、辿り着いたのはつい先程。
だからこそ辺りはすっかり暗くなり、月明かりがなければ何かに躓いて転んでもしまうだろう。
海から波が寄せて引いてとする微かなさざ波の音が聞こえる。
「悪いな名無し、道に迷ったりして」
『ううん、いいの。ディーノと二人で海見るのが目的だったしね』
すまなさそうにしょげているディーノに、名無しは笑いかけた。
名無しにとって海に着く時間が遅れたから、道に迷ったからなんて出来事は怒る理由にもならない。
何故なら道に迷っている間も、ずっと名無しの手をディーノがひいてくれたのだ。
彼の真剣な表情を見れて、二人で長い時間を過ごせた…ただそれだけで良かった。
当たり前に過ごす時間が、名無しにとっては少なかったから。
だからこそ二人で迷子になった時間も、暗い夜の海を見た時間も、どちらも名無しにとっては幸せな時間でしかない。
ビューッと、風が吹き荒れ、冷たい空気が2人の頬に触れる。
幸いにも月明かりが照らしてくれるおかげか、お互いの顔ははっきりと見える。
『風冷たくなって来たね』
「あぁ、これからが冬本番だからな」
ディーノはそう言いながら苦笑を浮かべ海を見た。
一月の寒さなんてまだまだ序盤にしか過ぎない。
一月よりも二月の方がもっと寒くなり、冷え込むのだから。
「名無しお前手冷たくなって来てるぞ?」
『あ、本当だ』
ディーノに言われ初めて名無しは自分の指先が冷たくなっていることに気づく。
触って見るとひんやりと冷たく、寒さのせいで小刻みに震えていた。
海を見る、満天の星空を見る…ディーノとの二人の時間を過ごす。
夢中になり過ぎていたせいか自分自身では全く気付く事が出来なかった。
そんな名無しの手を取り、ディーノははぁーっと息をかけ名無しの手を両手で包み込む。
同じように歩いて同じ空間に居るはずなのに、名無しの手と違い名無しの手は不思議なくらい温かい。
『ディーノの手温かいね』
「あぁ、…なんか知らねぇ―けどな」
『子供体温なんじゃないの?』
「なっ?!俺はもう子供じゃねぇ―ぞ!!」
名無しがからかえば、すぐにディーノは反論する。
その反論が、まるで子供が返す言葉みたいに思え名無しはクスクスと笑う。
勿論名無しだってディーノが子供だなんて思わないが、それくらいディーノの手は温かいのだ。
名無しの表情を見れば、バツが悪そうな表情を浮かべ、そのまま名無しの手を自分のジャケットのポケットに突っ込む。
ポケットの中は温かく、またディーノの大きな手が触れているからか名無しの体温が少し上がったのが自分でも分かる。
「はいはい、俺は名無しからしたら子供体温ですよ」
『あはは、ごめんて…でもそれ位温かいから吃驚しちゃったんだよ』
不貞腐れた表情でディーノはそっぽを向く。
そんな彼が可愛くて(あ、拗ねちゃった…)と思いながらも、名無しは『ごめんて、ディーノ』と再び謝るのだ。
「…本当にごめんて思ってんのか?」
『勿論だよ!ディーノはちゃんと大人だもんね』
「嘘くせぇ…」
疑いの眼差しを向けるディーノに、『嘘じゃないよ』と言葉を紡ごうとしたがその刹那。
ディーノの唇が名無しの唇と重なった。
突然された口づけに、名無しは思わず苺の様に頬を染めた。
誰も居ないとは言えど一応外だ。
室内でする口づけならまだしも、屋外でされた事は無いせいか名無しは『っつ、ディーノ?!』
「ん、イヤか?」
先程のお返しだと言わんばかりに、ディーノは悪戯が成功したかのように笑う。
問いかけられた名無しはただただ心の中で(ずるい)と何度も思ってしまう。
彼の言葉を拒否する権利も、拒否しようなんて思考も…名無しは持ち合わせていないのだから…。
『イヤな訳ないじゃん…』
ポツリと呟き、名無しはディーノを見上げる。
『もっとしてくれないの?』
身長差もあるせいか、ディーノからすれば上目遣いでおねだりをする彼女が嬉しくついつい名無しの言葉に従いたくなる。
笑みを浮かべ「名無しの仰せのままに」と答えれば、ディーノは再び名無しに口づけを落とした。
もっととおねだりをしてくれたその唇に、名無しが満足するまで何度も何度も―――…
capriccio
2024/07/27
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