家庭教師ヒットマンREBORN!
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※仔ディーノ
※学パロ(高校生設定)
『ねぇディーノ、ここ分かんないんだけど…』
「ん、何処だよ?」
通り過ぎる風に冷たさと寂しさを感じるようになった10月の放課後。
2人で勉強するには十分すぎる広さのロテーブルに向かい合い、名無しとディーノはディーノの家でテスト勉強をしていた。
まだ中間テストの時期ではないが、2人はそれぞれ黙々と向かい合い名無しが英語の教科書とノートを開き、ディーノはルーズリーフに教科書を見ながら漢字を書いている。
だが名無しの声にディーノはシャープペンシルを持ったまま漢字を書くのを止めては、名無しの手元を覗き込んだ。
『ここなんだけど…to不定詞と動名詞ってどっち使えばいいの?』
「あー…そこはな…」
名無しが分からないところを口にすれば、英語が得意なディーノが名無しに分かりやすく説明しようと言葉を紡ぐ。
「例えばだけど“I want to eat”は食べたい。でも“I enjoy eating”は食べるのが楽しいってなる。楽しむってやってる最中にしか出ないから、“to eat”じゃなくて“eating”になるんだよ。今名無しがやってる問題だと…」
心地いいテノールの声色。
下手をしたら教師よりも教えるのが上手いのでは?と名無しは思いながらも丁寧に教えるディーノの顔を見てはほんの少しだけ頬を緩めた。
名無しとディーノは恋人同士でもあるのだ。
普段はへなちょこで頼りなかったりするが、英語はディーノにとって大得意の教科。
名無しは英語が苦手だが、ディーノの説明があればすんなりと頭に入る。
真剣な表情で説明するディーノをじっと見ては、名無しの知らないうちに頬がほんのりと赤く染まる。
(こうして見るとやっぱりディーノってかっこいいなぁ)
外見だけで言えば、ディーノはかなりのイケメンの部類に入るのだ。
クラスの女子も他クラスの女子生徒さえもディーノを見ては黄色い声を上げるのだから。
そんな事を考えていると不意にディーノが顔を上げては「…って、おい聞いてんのか名無し?」と名無しに問いかける。
『え、聞いてるよ~…つまり“to study”だとこれからするで、“studying”の方だとしてる最中だから“to study”の方で良いんだよね?』
「……そうだけど…名無しお前上の空だったじゃねぇか?」
『エー、ソンナコトナイヨ』
名無しは思わずカタコトで言葉を返してしまったがディーノにバレないように言葉を紡ぐ。
『やっぱディーノの説明が一番分かりやすいもん!』
そう笑みを浮かべては、名無しはすぐさま正解の単語を書き教科書に載っている次の練習問題に視線を移した。
ディーノもそんな名無しを見ては怪訝そうな表情を浮かべるもののまたすぐに自分の書きかけのルーズリーフに視線を落としては漢字を書いていく。
カチッ、カチッと時計の秒針が進む音と、カリカリとシャープペンシルで書く音だけが心地よく室内に広がる。
そんな中「あー…もう無理、休憩…」っとディーノがシャープペンシルを置けば名無しはちらりと時計を見た。
丁度時刻は17時。
学校が終わり、ディーノの家に来て勉強を始めては気づかないうちに1時間半立っていたようだ。
「っつか、何でこんな時期に小テストなんてやらねえといけねえんだよ…」
ぶすっとした表情で頬杖をついてはディーノが呟き、名無しもディーノに同意するように『本当だよ…』とシャープペンシルをローテーブルの上に置く。
休憩を挟まずに1時間半も勉強したのだ、流石に疲れを感じてはうんと背伸びをする。
『そりゃあさ、夏休みが終わって文化祭に体育祭…イベント盛りだくさんだったからって言うのは分かるけど急に小テストなんてやってらんないよね…』
「だよなー…寧ろ体育祭なんて一昨日終わったばっかだしな。んなすぐ勉強モードになれるかっての…」
はぁっと溜息を零すディーノに、名無しも頷くことしかできなかった。
夏休みが明けてからの2学期は、1学期と比べて学校行事が盛りだくさんだったのだ。
文化祭に体育祭、クラスが一致団結となる時間が結構続いたせいもあり勉強に身が入らないのも自然の道理である。
だからこそ先生達もそんな学生達を学生の本分である勉強モードに戻すのに必死なのだ。
「行事で浮かれモードだったお前らを勉強モードに戻すための小テストだからな」と言っては中間テスト期間になる前に早々に手を打つべく小テストを挟んでくる。
勿論名無しやディーノだって先生が言わんとしている事は頭では分かっているのだが、如何せん同じ日に英語と現代文の小テストをすると言い出したのだ。
英語は文法問題と単語、現代文に至っては漢字の読み書きを提示した範囲からの出題。
これがまだ別の日だったら文句も少ないのだが、2教科とも示し合わせたかのように同じ日に行われるのだ。
故に名無しもディーノも放課後こうして勉強をする羽目になったのは言うまでもない。
だがいくら嘆いた所で、小テストは無くなりはしないのだ。
(あー…後単語の勉強もしなきゃだ…)
後少し休憩をしてから英語の勉強の続きをしようと、名無しはスクールバッグの中を見ては英単語帳を探す。
文法問題が出される教科書の問題は、先ほど一通り解き終わったのだ。
次は単語の勉強を…そう思いスクールバッグの中を見るが英単語帳は見当たらなかった。
(…そうだった。英単語帳使わないから家におきっぱだったの忘れてた…)
ふとその事を思い出しては名無しはディーノの方へと改めて視線を向ける。
『ねぇディーノ、英単語帳持ってくるの忘れたから貸して欲しいんだけど…』
「ん、あぁ…それなら本棚に入ってるから勝手に取ってくれていいぜ?」
ディーノはそう言って立ち上がり「悪い、名無し。ちょっとトイレ」と自室を出ては音を立て階段を下りて行く。
1時間半も勉強し我慢していたのか、その足音は何処か慌ただしかった。
そんな音を聞いては名無しは立ち上がり本棚の方へと歩み寄る。
ディーノの部屋にある本棚は名無しの背よりも少し高い棚になっていた。
中学の教科書から高校の教科書、英語の辞書や国語辞典が綺麗に整頓されて並べられている。
イタリア人でもあるディーノにとって日本語の勉強の為に国語辞典や漢字辞典は普通の日本人の家に比べれば数も多かった。
下から上へと視線を上げていき、ようやく英単語帳を見つければ名無しは困ったように眉を潜めた。
『…何でディーノそんな所に英単語帳しまってんのよ…』
何故名無しが眉を潜めそう呟いたかと言えば、英単語帳は本棚の一番上にしまわれていた。
普通なら高校の教科書を置いているスペースにしまうものだろうと思うけれど、恐らくディーノの事だ。
間違って自分の取りやすい位置に置いてそのままにしているのだろうと名無しは思う。
本棚に近づいてはぐっと背伸びをし、つま先立ちをするものの英単語帳にはなかなか手が届かない。
『くそぅ…これだから身長高い奴は…』
そんな悪態をついては名無しは再び伸びる様に全力で足を伸ばす。
日本人女性の平均身長よりも低い名無しは必死に背伸びをし本棚の最段に手を伸ばそうとするが、あと少しと言う所で名無しの身長ではやはり届かなかった。
せめて台があれば…と思ったが、この部屋の主であるディーノからすれば名無しが取ろうとしている本棚の最段は特に何も考えずに届く位置にある。
都合よく台なんてあるはずもなく、普段ならディーノが取ってくれるのだが今現在ディーノは自室に居ない。
ディーノが帰ってくるのを待てばよかったのだが、名無しは意地になっては必死に英単語帳を取ろうとする。
後1㎝で届きそうな距離なのだ。
必死につま先立ちを限界までし、腕を伸ばして英単語帳に手が振触れ…
(…届いた…!)
そう、名無しが思った瞬間―――…
ギシリ…と、微かに床板が軋む音が名無しの耳に聞こえる。
「何やってんだよ、名無し?」
床板が軋む音から数秒もせず、急に声をかけたディーノの声がやけに近くで聞こえた。
名無しは気づかなかったが、恐らく戻ってきたディーノが丁度名無しの背後に居たのだ。
英単語帳を取るのに必死になり、名無しはその事に全く気付いていなかった。
故にあまりにも近距離で聞こえたディーノの声に驚き、名無しはバランスを崩しては足元がふらつき、身体が後ろに傾く。
『え、きゃっ…?!』
「ちょ、おい名無しっつ…!」
咄嗟にディーノが腕を伸ばし名無しを支えようとするが、あまりにも突然の出来事に上手くいかず…そのまま二人は床に倒れ込んだ。
ドシンと豪快な音が名無しの耳に聞こえたはずなのに…痛みは何処にもなかった。
『…っいったぁ…くない…?』
そう問いかけるディーノの声がやけに近く、名無しはゆっくりと咄嗟に瞑っていた目を開けた。
瞳を開ければ、名無しはディーノの腕の中に守られるように包まれていた。
「いってぇ…」
顔を上げればディーノの顔が近くに映り込む。
ほんの少し表情をゆがめているが、それは名無しを庇った際に背中を打ったからだろう。
しっかりと名無しを抱きしめているその腕の温もりが、服越しにもかかわらず伝わってくる。
「…大丈夫か、名無し?」
ディーノの問いかけに名無しは小さな声で『だ、大丈夫…』と発しては、思わずぎゅっとディーノの服を握り締めた。
まだ吃驚しているからか、はたまた恋人ではあるもののこんなにも至近距離に居ることが少ないせいか名無しはディーノの腕の中から動けずにいる。
ドクン、ドクンと、…心臓の音だけがやけにうるさく名無しの中に響き渡るのが、名無し自身分かってしまう。
そんな名無しとは裏腹に、ディーノは「名無しに怪我がねえなら良かった…」とほっと息をついては名無しを抱きしめる腕に力を込めた。
まるで名無しを離したくなと言葉にはしないが、行動が物語っていた。
「んで、何で名無しは一生懸命つま先立ちしてたんだよ?」
『…だって英単語帳上の方に合ったから…』
「あー…そうか、悪ぃ。丁度その位置に置いとくと取りやすいんだよな…」
名無しの言葉にようやく名無しの行動を理解すればディーノは名無しを抱きしめたままゆっくりと身体を起こした。
つられて名無しの身体も同様に起こされるが、ディーノが名無しを離す気配は一向にない。
『あ、あのディーノ…近いんだけど…』
「別に近くてもいいだろ?」
そう言って離れるどころか寧ろ顔を近づけて、ディーノはじっと名無しの顔を覗き込む。
先ほどの痛みに歪んだ表情とは違い、今は何処か悪戯をする子供のような笑みを浮かべている。
普段よりも近く、息がふれ合う程の距離。
ほんの少し動けばお互いの唇がすぐ重なりそうな距離に名無し思わず頬を染める。
付き合っていると言っても、お互いまだキスの1つもしたことがないのだ。
手を繋いだり、抱き着いたりは良くするけれど…こんなにも近距離で、ましてやキスをしたこともまだ一度たりともない。
ディーノの温かな手が名無しの身体から離れ、ゆっくりと名無しの頬を包み込む。
「…名無し」
『っつ…ディー…ノっ…』
見慣れたディーノの鳶色の瞳には名無しの顔以外何も映らない。
ゆっくりと、まるでスローモーションのように近づくディーノの顔に名無しはぎゅっと目を閉じる。
が、その瞬間―――…
「…言われた飲み物持って来たんだが…邪魔だったか…?」
「ろ、ロマーリオっ…!!?」
タイミングよくディーノの世話係であるロマーリオが開けっ放しのドアを軽くノックしながら立っていた。
黒いスーツにきっちりと結ばれたネクタイに、口髭がよく似合っている。
見た目とは裏腹に陽気で気さくなディーノのお世話係であるロマーリオとは、名無しも顔なじみだった。
付き合う前からディーノの家にはよくテスト勉強をしたり、普通に遊びに来た事も何度もある。
手には銀のお盆の上に美味しそうなクッキーが乗ったお皿ととマグカップが2つ。
名無し用の甘ったるい香りのココアと、ディーノ用に用意された大人な香りがするコーヒーだ。
テスト勉強の息抜きがてらにと、どうやらトイレに行った際にディーノがロマーリオに用意するように頼んだのだろう。
ゆっくりと近づいてはローテーブルの上にお盆事置き、「邪魔者は退散するから後は若いもん同士ごゆっくりな」とニヤついた笑みを浮かべては部屋から出ようとする。
そんなロマーリオに弁解しようとディーノは言葉を紡ごうとするが、「ち、ちげぇから?!勘違いすんなよロマーリオ?!」と上手い言葉が見つからずあたふたとしている。
一応ロマーリオは名無しとディーノが付き合っている事を知っているのだ。
まるで分かってると言わんばかりに「はははっ、隠すなよディーノ坊ちゃん。青春だな」と言葉にしてはまるでディーノの言葉など聞く耳を持つ気もないのかいそいそと部屋から出て行った。
「ち、ちげえから!…ち、違うんだってロマーリオ!」
ディーノがロマーリオの出て行った扉に向かって「だからちげえって!!!人の話を聞けよロマーリオ!!!!」っと、叫ぶが、ディーノの耳は耳先まで赤くなっていた。
そんなディーノの背中を見ては、名無しはただただ…
「…もう、心臓が持たないよ…」
と、小さく呟き未だ鳴りやまない心臓の音に顔を真っ赤にするはめになったのだ―――…
心臓が持たない午後
2025/10/14
※学パロ(高校生設定)
『ねぇディーノ、ここ分かんないんだけど…』
「ん、何処だよ?」
通り過ぎる風に冷たさと寂しさを感じるようになった10月の放課後。
2人で勉強するには十分すぎる広さのロテーブルに向かい合い、名無しとディーノはディーノの家でテスト勉強をしていた。
まだ中間テストの時期ではないが、2人はそれぞれ黙々と向かい合い名無しが英語の教科書とノートを開き、ディーノはルーズリーフに教科書を見ながら漢字を書いている。
だが名無しの声にディーノはシャープペンシルを持ったまま漢字を書くのを止めては、名無しの手元を覗き込んだ。
『ここなんだけど…to不定詞と動名詞ってどっち使えばいいの?』
「あー…そこはな…」
名無しが分からないところを口にすれば、英語が得意なディーノが名無しに分かりやすく説明しようと言葉を紡ぐ。
「例えばだけど“I want to eat”は食べたい。でも“I enjoy eating”は食べるのが楽しいってなる。楽しむってやってる最中にしか出ないから、“to eat”じゃなくて“eating”になるんだよ。今名無しがやってる問題だと…」
心地いいテノールの声色。
下手をしたら教師よりも教えるのが上手いのでは?と名無しは思いながらも丁寧に教えるディーノの顔を見てはほんの少しだけ頬を緩めた。
名無しとディーノは恋人同士でもあるのだ。
普段はへなちょこで頼りなかったりするが、英語はディーノにとって大得意の教科。
名無しは英語が苦手だが、ディーノの説明があればすんなりと頭に入る。
真剣な表情で説明するディーノをじっと見ては、名無しの知らないうちに頬がほんのりと赤く染まる。
(こうして見るとやっぱりディーノってかっこいいなぁ)
外見だけで言えば、ディーノはかなりのイケメンの部類に入るのだ。
クラスの女子も他クラスの女子生徒さえもディーノを見ては黄色い声を上げるのだから。
そんな事を考えていると不意にディーノが顔を上げては「…って、おい聞いてんのか名無し?」と名無しに問いかける。
『え、聞いてるよ~…つまり“to study”だとこれからするで、“studying”の方だとしてる最中だから“to study”の方で良いんだよね?』
「……そうだけど…名無しお前上の空だったじゃねぇか?」
『エー、ソンナコトナイヨ』
名無しは思わずカタコトで言葉を返してしまったがディーノにバレないように言葉を紡ぐ。
『やっぱディーノの説明が一番分かりやすいもん!』
そう笑みを浮かべては、名無しはすぐさま正解の単語を書き教科書に載っている次の練習問題に視線を移した。
ディーノもそんな名無しを見ては怪訝そうな表情を浮かべるもののまたすぐに自分の書きかけのルーズリーフに視線を落としては漢字を書いていく。
カチッ、カチッと時計の秒針が進む音と、カリカリとシャープペンシルで書く音だけが心地よく室内に広がる。
そんな中「あー…もう無理、休憩…」っとディーノがシャープペンシルを置けば名無しはちらりと時計を見た。
丁度時刻は17時。
学校が終わり、ディーノの家に来て勉強を始めては気づかないうちに1時間半立っていたようだ。
「っつか、何でこんな時期に小テストなんてやらねえといけねえんだよ…」
ぶすっとした表情で頬杖をついてはディーノが呟き、名無しもディーノに同意するように『本当だよ…』とシャープペンシルをローテーブルの上に置く。
休憩を挟まずに1時間半も勉強したのだ、流石に疲れを感じてはうんと背伸びをする。
『そりゃあさ、夏休みが終わって文化祭に体育祭…イベント盛りだくさんだったからって言うのは分かるけど急に小テストなんてやってらんないよね…』
「だよなー…寧ろ体育祭なんて一昨日終わったばっかだしな。んなすぐ勉強モードになれるかっての…」
はぁっと溜息を零すディーノに、名無しも頷くことしかできなかった。
夏休みが明けてからの2学期は、1学期と比べて学校行事が盛りだくさんだったのだ。
文化祭に体育祭、クラスが一致団結となる時間が結構続いたせいもあり勉強に身が入らないのも自然の道理である。
だからこそ先生達もそんな学生達を学生の本分である勉強モードに戻すのに必死なのだ。
「行事で浮かれモードだったお前らを勉強モードに戻すための小テストだからな」と言っては中間テスト期間になる前に早々に手を打つべく小テストを挟んでくる。
勿論名無しやディーノだって先生が言わんとしている事は頭では分かっているのだが、如何せん同じ日に英語と現代文の小テストをすると言い出したのだ。
英語は文法問題と単語、現代文に至っては漢字の読み書きを提示した範囲からの出題。
これがまだ別の日だったら文句も少ないのだが、2教科とも示し合わせたかのように同じ日に行われるのだ。
故に名無しもディーノも放課後こうして勉強をする羽目になったのは言うまでもない。
だがいくら嘆いた所で、小テストは無くなりはしないのだ。
(あー…後単語の勉強もしなきゃだ…)
後少し休憩をしてから英語の勉強の続きをしようと、名無しはスクールバッグの中を見ては英単語帳を探す。
文法問題が出される教科書の問題は、先ほど一通り解き終わったのだ。
次は単語の勉強を…そう思いスクールバッグの中を見るが英単語帳は見当たらなかった。
(…そうだった。英単語帳使わないから家におきっぱだったの忘れてた…)
ふとその事を思い出しては名無しはディーノの方へと改めて視線を向ける。
『ねぇディーノ、英単語帳持ってくるの忘れたから貸して欲しいんだけど…』
「ん、あぁ…それなら本棚に入ってるから勝手に取ってくれていいぜ?」
ディーノはそう言って立ち上がり「悪い、名無し。ちょっとトイレ」と自室を出ては音を立て階段を下りて行く。
1時間半も勉強し我慢していたのか、その足音は何処か慌ただしかった。
そんな音を聞いては名無しは立ち上がり本棚の方へと歩み寄る。
ディーノの部屋にある本棚は名無しの背よりも少し高い棚になっていた。
中学の教科書から高校の教科書、英語の辞書や国語辞典が綺麗に整頓されて並べられている。
イタリア人でもあるディーノにとって日本語の勉強の為に国語辞典や漢字辞典は普通の日本人の家に比べれば数も多かった。
下から上へと視線を上げていき、ようやく英単語帳を見つければ名無しは困ったように眉を潜めた。
『…何でディーノそんな所に英単語帳しまってんのよ…』
何故名無しが眉を潜めそう呟いたかと言えば、英単語帳は本棚の一番上にしまわれていた。
普通なら高校の教科書を置いているスペースにしまうものだろうと思うけれど、恐らくディーノの事だ。
間違って自分の取りやすい位置に置いてそのままにしているのだろうと名無しは思う。
本棚に近づいてはぐっと背伸びをし、つま先立ちをするものの英単語帳にはなかなか手が届かない。
『くそぅ…これだから身長高い奴は…』
そんな悪態をついては名無しは再び伸びる様に全力で足を伸ばす。
日本人女性の平均身長よりも低い名無しは必死に背伸びをし本棚の最段に手を伸ばそうとするが、あと少しと言う所で名無しの身長ではやはり届かなかった。
せめて台があれば…と思ったが、この部屋の主であるディーノからすれば名無しが取ろうとしている本棚の最段は特に何も考えずに届く位置にある。
都合よく台なんてあるはずもなく、普段ならディーノが取ってくれるのだが今現在ディーノは自室に居ない。
ディーノが帰ってくるのを待てばよかったのだが、名無しは意地になっては必死に英単語帳を取ろうとする。
後1㎝で届きそうな距離なのだ。
必死につま先立ちを限界までし、腕を伸ばして英単語帳に手が振触れ…
(…届いた…!)
そう、名無しが思った瞬間―――…
ギシリ…と、微かに床板が軋む音が名無しの耳に聞こえる。
「何やってんだよ、名無し?」
床板が軋む音から数秒もせず、急に声をかけたディーノの声がやけに近くで聞こえた。
名無しは気づかなかったが、恐らく戻ってきたディーノが丁度名無しの背後に居たのだ。
英単語帳を取るのに必死になり、名無しはその事に全く気付いていなかった。
故にあまりにも近距離で聞こえたディーノの声に驚き、名無しはバランスを崩しては足元がふらつき、身体が後ろに傾く。
『え、きゃっ…?!』
「ちょ、おい名無しっつ…!」
咄嗟にディーノが腕を伸ばし名無しを支えようとするが、あまりにも突然の出来事に上手くいかず…そのまま二人は床に倒れ込んだ。
ドシンと豪快な音が名無しの耳に聞こえたはずなのに…痛みは何処にもなかった。
『…っいったぁ…くない…?』
そう問いかけるディーノの声がやけに近く、名無しはゆっくりと咄嗟に瞑っていた目を開けた。
瞳を開ければ、名無しはディーノの腕の中に守られるように包まれていた。
「いってぇ…」
顔を上げればディーノの顔が近くに映り込む。
ほんの少し表情をゆがめているが、それは名無しを庇った際に背中を打ったからだろう。
しっかりと名無しを抱きしめているその腕の温もりが、服越しにもかかわらず伝わってくる。
「…大丈夫か、名無し?」
ディーノの問いかけに名無しは小さな声で『だ、大丈夫…』と発しては、思わずぎゅっとディーノの服を握り締めた。
まだ吃驚しているからか、はたまた恋人ではあるもののこんなにも至近距離に居ることが少ないせいか名無しはディーノの腕の中から動けずにいる。
ドクン、ドクンと、…心臓の音だけがやけにうるさく名無しの中に響き渡るのが、名無し自身分かってしまう。
そんな名無しとは裏腹に、ディーノは「名無しに怪我がねえなら良かった…」とほっと息をついては名無しを抱きしめる腕に力を込めた。
まるで名無しを離したくなと言葉にはしないが、行動が物語っていた。
「んで、何で名無しは一生懸命つま先立ちしてたんだよ?」
『…だって英単語帳上の方に合ったから…』
「あー…そうか、悪ぃ。丁度その位置に置いとくと取りやすいんだよな…」
名無しの言葉にようやく名無しの行動を理解すればディーノは名無しを抱きしめたままゆっくりと身体を起こした。
つられて名無しの身体も同様に起こされるが、ディーノが名無しを離す気配は一向にない。
『あ、あのディーノ…近いんだけど…』
「別に近くてもいいだろ?」
そう言って離れるどころか寧ろ顔を近づけて、ディーノはじっと名無しの顔を覗き込む。
先ほどの痛みに歪んだ表情とは違い、今は何処か悪戯をする子供のような笑みを浮かべている。
普段よりも近く、息がふれ合う程の距離。
ほんの少し動けばお互いの唇がすぐ重なりそうな距離に名無し思わず頬を染める。
付き合っていると言っても、お互いまだキスの1つもしたことがないのだ。
手を繋いだり、抱き着いたりは良くするけれど…こんなにも近距離で、ましてやキスをしたこともまだ一度たりともない。
ディーノの温かな手が名無しの身体から離れ、ゆっくりと名無しの頬を包み込む。
「…名無し」
『っつ…ディー…ノっ…』
見慣れたディーノの鳶色の瞳には名無しの顔以外何も映らない。
ゆっくりと、まるでスローモーションのように近づくディーノの顔に名無しはぎゅっと目を閉じる。
が、その瞬間―――…
「…言われた飲み物持って来たんだが…邪魔だったか…?」
「ろ、ロマーリオっ…!!?」
タイミングよくディーノの世話係であるロマーリオが開けっ放しのドアを軽くノックしながら立っていた。
黒いスーツにきっちりと結ばれたネクタイに、口髭がよく似合っている。
見た目とは裏腹に陽気で気さくなディーノのお世話係であるロマーリオとは、名無しも顔なじみだった。
付き合う前からディーノの家にはよくテスト勉強をしたり、普通に遊びに来た事も何度もある。
手には銀のお盆の上に美味しそうなクッキーが乗ったお皿ととマグカップが2つ。
名無し用の甘ったるい香りのココアと、ディーノ用に用意された大人な香りがするコーヒーだ。
テスト勉強の息抜きがてらにと、どうやらトイレに行った際にディーノがロマーリオに用意するように頼んだのだろう。
ゆっくりと近づいてはローテーブルの上にお盆事置き、「邪魔者は退散するから後は若いもん同士ごゆっくりな」とニヤついた笑みを浮かべては部屋から出ようとする。
そんなロマーリオに弁解しようとディーノは言葉を紡ごうとするが、「ち、ちげぇから?!勘違いすんなよロマーリオ?!」と上手い言葉が見つからずあたふたとしている。
一応ロマーリオは名無しとディーノが付き合っている事を知っているのだ。
まるで分かってると言わんばかりに「はははっ、隠すなよディーノ坊ちゃん。青春だな」と言葉にしてはまるでディーノの言葉など聞く耳を持つ気もないのかいそいそと部屋から出て行った。
「ち、ちげえから!…ち、違うんだってロマーリオ!」
ディーノがロマーリオの出て行った扉に向かって「だからちげえって!!!人の話を聞けよロマーリオ!!!!」っと、叫ぶが、ディーノの耳は耳先まで赤くなっていた。
そんなディーノの背中を見ては、名無しはただただ…
「…もう、心臓が持たないよ…」
と、小さく呟き未だ鳴りやまない心臓の音に顔を真っ赤にするはめになったのだ―――…
心臓が持たない午後
2025/10/14
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