家庭教師ヒットマンREBORN!
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『ふっ…我ながら良い感じに巻けた』
そう名無しは1人キッチンにて、ポツリと呟いた。
時刻は朝9時30分。
平日であり学生であれば学業に勤しみ、社会人であれば仕事に出ている時刻に、名無しは満足そうに頬を緩めていた。
名無し自身仕事がシフト制の為、本日の出勤時刻は12時からだ。
故に出勤前と言えど時間には十分な余裕があるため、名無しはこうしてせっせと丁寧に少し遅めの朝ごはんを作っている。
豆腐とわかめのお味噌汁に炊き立てのご飯で作った海苔を巻いた三角おにぎり。
切れ込みを入れたウィンナーに…そして先程玉子焼き器で焼いた卵焼きがまだ切られていない状態で名無しの目の前にあるまな板の上に乗せられていた。
『さてさて、断面はどうなってるかな~?』
包丁をお湯で温めキッチンペーパーで拭きとればすっと、卵焼きを切り分けて行く。
端っこを切り落としてから、1つ1つ丁寧に包丁で切り分ける。
切り分けられた卵焼きの断面はまだらに黄身と白身が入り交じっていた。
見た目だけで言うのであれば、黄身も白身も均一に混ざっていないが故に白身の部分が目立つ。
だが名無しは市販の卵焼きの様に色が均一になった美しい綺麗な卵焼きを作ろうとは微塵も思っていなかった。
名無し自身確かに色が均一の方が見目も美しいのは重々承知している。
だが名無しにとっての卵焼きと言えばこれなのだ。
黄身と白身が入り交じっている、慣れ親しんだ両親がよく作ってくれた卵焼き。
切り分ける度にふんわりと香る出汁醤油の卵焼きの香りが名無しの鼻孔を擽る。
名無しは切り落とした端っこをひょいっと口の中に入れては卵焼きを味わう。
行儀が悪いかもしれないが、一人暮らしで味見として食べるのだ。
誰かが見ていないのだから大目に見て欲しいと思いながら、名無しは咀嚼する。
出汁醤油だけではなく、砂糖を入れて焼き上げたのだから白いお米に合う甘じょっぱいタイプの卵焼きとなっており、目を輝かせながら卵焼きの味を噛み締めた。
きちんとお皿に盛り付けなければと思っていると、
「んんっ…良い匂いがする」
と、不意に声が聞こえては名無しの動きがピタリと止まる。
寝起きのせいかほんの少し掠れた低い声。
この家には名無ししか住んでいないので基本的に名無し以外の声がする事は滅多にない。
だが、時折イタリアから日本に来ては名無しの家に泊まる人物が1人居るのだ。
名無しが好きな人物であり、それは相手にも言える言葉である。
否、この場合好きな人物と言うよりも恋人と言った方がいいだろう。
『おはようディーノ』
振り返らなくても分かる声色に、名無しはゆっくりと振り返る。
先程まで眠っていたせいか髪のあちらこちらが跳ねている眩しいくらいの金色の髪。
鳶色の瞳は何時もは良く見えるはずなのに、眠たそうに目を擦っている。
『…って、それどんな状況…?』
「ん…何が…」
名無しの言葉に眠たそうに目を擦りながらディーノは聞き返す。
寝起きのせいでまだ頭が回っていないせいか、ディーノの言葉は少し言葉足らずでどこかたどたどしかった。
だが名無しにとっての問題はそこではない。
なんせ名無しにとっての問題は…ディーノの恰好なのだから。
髪はくせ毛のせいか寝ぐせがついておりあちらこちら無造作に跳ねている。
Tシャツは…まぁ問題ない、いつも通り模様の入った黒い半袖のTシャツをディーノは着用している。
Tシャツから覗くすらりとした左半身には"BARACCA"や馬などをあしらった刺青が入っているがこれも問題はない。
問題があると言えば主に下半身だろう。
ベルトは止められているには止められているものの、ベルト紐がだらりと垂れ下がっているのを見ればきちんと巻けていないのではないかと思ってしまうがTシャツの裾に隠れていてそこまでは確認できない。
名無しが一番気になったのはディーノの足元だ。
片方は素足なくせに、反対側の足にはかろうじて靴下を履いているものの中途半端な位置に靴下を履いているせいか今にも脱げ落ちそうだった。
(一応マフィアのボス…だよね…?)
名無しの恋人はイタリアンマフィアであり、5千人もの部下を持つファミリーのボスだ。
22歳にして女性であれば誰もが見惚れてしまうほどの容貌。
面倒見も人柄も良く、誰彼ともわず好かれる人物だ。
経営センスも抜群らしく、若くして傾いていたファミリーの財政難を立て直し、書類仕事はお手の物。
山積みになった書類すら本気を出せば午前中に全て仕上げるほどの腕を持っていると、ディーノの部下であるロマーリオから名無しは聞いた事がある。
だが今のディーノの姿を見て本当に彼がそうなのか?と思う上にこれが5千人の部下を従えるマフィアのボスだと誰が思うだろう?
普段は部下が付き従っている為、こんななさけない姿を晒す事はない。
だがディーノの場合部下が居なければ極度の運動音痴であり…言葉は悪いがへなちょこになってしまう。
名無しからしてみれば部下の居ない状態で転ぶ事もせずにキッチンに辿り着いただけ十分褒めるべきだろうかと思ってしまえば、おかしくてクスリと笑ってしまった。
(私の年下彼氏は相変わらず可愛いな)
誰もが見惚れてしまう程の容貌なのに、中身は部下が居なければへなちょこ。
ある意味残念なイケメンと言えるかもしれないが、そんな残念な姿すら名無しにとっては可愛らしくて仕方ないのだ。
『ほら、洗面所で顔洗ってきてシャキッとしないさいよ。今日はリボーン君とツナ君の所行くんでしょ?』
「それは…そうだけど、折角日本に来たんだから俺は名無しと居たいんだけど…」
『残念ながら私は今日仕事なの!しかも遅番!だから仕事前まではちゃんと一緒に居るから…ほら、顔洗ってきてよ』
眠たそうに目を擦るディーノの背中を押しては、名無しはディーノを洗面所の方へと導き顔を洗わせに行かせた。
途中ドテっと、転ぶ音がしたが…恐らく履きかけの靴下に躓いてこけたんだろうなと思いながらもある意味何時もの事なのでスルーして準備をする。
テーブルの上に置かれているウィンナーの乗った小皿の空いたスペースに卵焼きを均等に分けては盛り付ける。
ついでにディーノが起きてきたタイミングでお茶碗にお味噌汁を注いで小皿と同じようにテーブルの上に置いていく。
これで朝食の準備は完成した。
だがまな板の上に先ほど切り落とした卵焼きの端っこがまだある事を思い出し、名無しは証拠隠滅と言わんばかりに手でつまんではディーノが戻ってくる間に食べようとする。
どうせ残していても仕方がないのだ。
捨てるなんてもったいない事はせず、さっさと食べてしまおうとするものの「なぁ、それ名無しが食うのか?」と、洗面所から戻って来たディーノは名無しに声をかけた。
『…ぁ、ディーノ戻って来てたの…?』
ビクリと肩を震わせては、名無しはディーノの方へと目をやる。
そこには先ほどの眠たそうに目を擦るディーノの姿はなく、顔を洗いさっぱりと目を覚ましたディーノの姿が名無しの瞳に映り込む。
ほんの少しむすっとした子供の様な表情をしてはじっと名無しを見つめていた。
「ずりぃ…俺も食いてえ」
『食べたいって…朝ご飯並べてるテーブルの上にあるでしょうが?』
「ちげぇーよ名無し。俺も名無しみたいに端っこが食いたいんだよ」
『…何で知ってんのよ…』
「だって端っこなんて決まって2つあるもんだろ?」
にやりと笑ってはゆっくりとした足取りで、ディーノは名無しの方へと歩み寄る。
確かに端っこがあるとしたらそれは奇数ではなく偶数だ。
2つ…あるいは4つあるのが基本で、1つなんて言う奇数は余程のことがない限りあり得ない。
『で、でもほら私が触っちゃってるし…』
「んなもん俺は気にしねえぜ?」
ディーノは名無しの言葉に答えるものの、気にせずに名無しの前で少しだけ屈みこむ。
優しく、けれどほんの少しだけ強引に名無しの手首を掴んでは自分の口元へと引き寄せ、卵焼きを摘まんで持っている名無しの指先事、ディーノはぱくりと食べる。
『っつ?!で、ディーノ?!』
指先事食べられるとは思っていなかった名無しは思わず裏返った声を上げては顔を真っ赤にした。
名無しの目の前でディーノは味わう様に卵焼きを食べる。
否、卵焼きを食べているのか名無しの指先を味わっているのか分からない。
ディーノの舌が名無しの指先に絡みついてはちゅっ…ちゅっと音を立てる。
生温かい舌が名無しの指先を這い、指先に残った味すらも堪能する。
『で、でででで、ディーノ?!は、離して…っつ』
まだ寝ぼけているのだろうか?と問いたいほど、ディーノ唇が、舌が名無しの指先を刺激する。
甘噛みしながら、何度も何度も舌と唇が名無しの指先に触れる。
「…ん…」
ちゅっと名無しの指先まで味わう様に堪能すれば「美味いな、名無しの作る卵焼き」と言いながらゆっくりとディーノの唇からようやく解放された。
唇が離れる際にディーノの唾液がツーっと名無しの指先に糸を引いてはプツリと切れる。
舌なめずりをしながらもう一度「やっぱ名無しの手料理うめえな」なんて、顔を真っ赤にした名無しに悪びれもなく言葉に紡いだ。
「胃袋を掴むってこういう事いうんだろうな」
にかっと太陽の様に眩しい笑みを名無しに向けては、満足そうに微笑む。
名無しを魅了するには眩しすぎるほどの笑みに、名無しは見る見るうちにさらに顔を赤く染めて行く。
ようやく名無しの表情に気づいたディーノは首を傾げながら「あれ、名無しなんか顔赤くないか…?」と問いかけた。
『っつ~~~~~~…あ、赤くない!気のせいだもん…!』
「気のせいじゃねえだろ…ほらほっぺもすっげえ熱いし、熱じゃあ…」
『違う!断じて違うんだから!!!!』
ディーノの言葉を否定するように、名無しは「ほら、早くご飯食べて!!!」と話を逸らしては事なきを得ようとした―――…
もぐもぐするほど好きになる
(なぁ今日は遅番って何時に終わるんだ?)
(ん~、出るのが遅いだけで21時には上がるよ)
(じゃあそのタイミングで名無しの事迎えに行くな。折角日本に来てるんだ、俺が名無しを迎えに行っても良いだろ?)
(…迷子にならないでね?)
(なっ?!おまっ…俺を何だと思って…?!)
(ふふ…冗談だよ、1割は)
(…1割はって残り9割本気じゃねえか?!!!)
2025/05/11
お題提供:子猫恋様
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