家庭教師ヒットマンREBORN!
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―――コンコン
「どうぞ」
春の陽気が訪れ、過ごしやすくなった4月1日。
書斎で書類仕事をこなしていたディーノはふと扉がノックされた音に気づき書類から目を離した。
ゆっくりと書類から目を離された顔には、普段かけていない眼鏡がかけられている。
知的な眼差しを向け書類を読んでいた時と違い、ディーノの瞳は穏やかな眼差しで扉の方を気にかける。
ディーノの座る椅子の目の前にある机の上には黒いノートパソコンが1台。
そしてその周辺には大量…ではないが、それなりに書類が置かれていた。
ディーノにとっては珍しくもない光景であり、日本から帰ってきた際にはもれなくこの倍の量が普段積み上げられているため今日の書類の量は少ない方だと思ってしまうほどだ。
書斎内には珍しくディーノ1人。
普段であればディーノの右腕であるはずのロマーリオや書類仕事の際は必ずと言っていい程側に控えているリコの姿すらない。
ロマーリオもリコも、他の部下に呼ばれてしまった
二人のうちどちらかが帰ってきたのだろうと、ディーノは顔を上げた。
『失礼します、ボス』
凛とした声が聞こえると、ディーノの胸はわずかに高鳴る。
ガチャリと音を立て扉が開かれれば、ディーノの鳶色の瞳には見慣れた口髭の男ロマーリオでも細身で小柄な目付きの悪い男リコでもない。
華奢で小柄な女性、名無しの姿がディーノの瞳に映り込む。
コツコツとヒールの音を立てながら、名無しはディーノが座る椅子の前まで歩み寄る。
キャバッローネ・ファミリーでは数少なく在籍している女性だ。
ロングボブの長さの髪には大きくてシンプルな形のバレッタを広がりがちな右耳の下につけられている。
華奢な体躯には珍しくパンツスタイルが似合っているなと、ディーノは常日頃から思うほどだ。
ディーノ自身の部下であり…ディーノは淡い想いを名無しに寄せていた。
(珍しいな…こんな時間に)
書斎に入ってきた名無しを見ながら、ディーノはふとそんな事を思っていた。
普段であればこの時間、名無しはディーノの大まかなスケジュール調整をしている。
書類仕事などと言ったスケジュールはリコの仕事だが、それ以外の外でのスケジュールを組み立て調整するのがこの時間の名無しの役割だ。
イレギュラーと言った細かいスケジュール調整はロマーリオが普段しているが、元になる基盤を作っているのは名無しだった。
「どうかしたか名無し?ロマーリオなら今他の部下に呼ばれてて居ねえんだが…」
『あ、ロマーリオ先輩じゃなくてボスに用事が合って…』
「俺に…か?」
名無しの言葉に、ディーノは首を傾げる。
大まかなスケジュール調整をこの時間帯にしている名無しは、主にこの時間ディーノの元を訪ねる理由は決まって細かいスケジュール調整をしているロマーリオ目当てなのだ。
だからこそロマーリオではなくディーノ自身に用事があると言われてしまえばどうしたのだろうと首を傾げるしかなかった。
『実は急なんですけど、明日午後からお休みをもらえないかなと思いまして…』
「それは別に構わねえが…」
名無し普段自分から休みの事について口に出すことが無い。
仮に何かある場合はそれこそ自分が休みの日に調整しているのをディーノだって知っていた。
自分の事は後回しにし、仕事や他人を優先する。
名無しの良い所でもあり…悪い所の1つだとディーノは思っていた。
勿論その事について何回か言っているが…名無しは『大丈夫ですよ、無理のない範囲で調整しているので』と軽く流されてしまう。
そんな名無しが珍しく自分から休みを取ろうとしているのだ。
ディーノに取って駄目だと言う理由は思い浮かばない上に、別に今は繁忙期でもなければ仕事自体立て込んでいない。
5千人の部下が居るのだ。
急な申し出ではあるが、たった1日欠員が出たとしても痛手ではない。
名無しに関しては有休だってそれなりに溜まっているのだ。
他の部下ですら思う存分に使えと言いたくなる程…名無しは働き過ぎだった。
マフィアと言えど、他の所に比べキャバッローネ・ファミリーは福利厚生だってしっかりしている。
休みたい時に休ませる事は申し出あれば十分可能だ。
だが、その休みは本当に名無し自身の休みなのかと…今までの経験上問わずにはいられなかった。
また名無し自身の事ではなく誰かの事を優先しているんじゃないのかと、ディーノは何気なく探りを入れる。
「また急だな、どうしたんだよ?」
そうディーノが問いかければ、名無しは眉を八の字に下げては言い辛いのか口をもごもごと動かす。
珍しく両手を合わせてぎゅっと握りしめては自分の親指をもう一つの親指で撫でていた。
『あの…実は母から連絡がありまして…』
名無しの母と言うのは同じくボンゴレファミリーの傘下であり、キャバッローネファミリーとも同盟を組んでいる。
ディーノも名無しの母親には同盟ファミリー故に合った事があるが、名無しと違い豪放磊落な人物だった。
それと同時に周りを振り回す気質もあり、今回名無しはそんな母親から無茶振りを言われたのではないだろうかとディーノは想像してしまう。
「何かあったのか?」
『……どうやら私お見合い…させられちゃうみたいで…』
「お見合い…」
名無しの言葉に、ディーノは眉間に眉を寄せる。
イタリアでは基本恋愛に対しては情熱的なため、お見合いのような婚活のやり方は一般的ではない。
だが名無しの母親はファミリーのボスの妻だ。
故にお見合い…もとい政略結婚の可能性も立場上少なくはない。
ディーノだってキャバッローネ・ファミリーと言うファミリーのボスだ。
人事ではないにしろ、今のところはそう言った話は出ていない。
名無しの上に年の離れた兄や姉が4人いると以前聞いていたが…末っ子と言えどファミリーのための結婚を強いられる可能性はないとも言い切れなかった。
だが、名無しの様子を見る限り、名無しは乗り気ではなさそうだった。
『私はまだボスの元で働きたいんです。直ぐどうこうなる話じゃないとは思うけど…それに…』
(それに私には…好きな人が目の前に居るんです…)
名無しがそう言葉の続きを紡ごうとしたが、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
言いたいけど言えない…そんな雰囲気を漂わせながら名無しがディーノの鳶色の瞳を見ては俯いた。
ディーノは名無しの言葉の続きが気になったが…言葉を紡げない名無しを見ては深く聞くのを止めた。
言いたくないのか、はたまた言えないのかはディーノには分からない。それでも乗り気ではない名無しの表情を見ればディーノはどうにかしたい気持ちに駆られてしまう。
当たり前だ、好きな女がお見合いさせられそうになっているのだから。
「…断れないのか?」
『えっと…母から持ち出したお話しみたいなので…絶対に帰って来いと言われてしまったので…』
その言い方はお見合いと言うよりは政略結婚に近いのではないだろうかとディーノは感じた。
名無しもそう感じているのだろう。
苦笑を浮かべては名無しは先程かかって来た電話の事を思い出した。
一方的な会話ではあったが、名無しにとって母親からの電話はそう言うものだと常に思っている。
良く振り回されている兄や姉の姿を見て育って、自分もよく振り回されて来たのだ。
なるべく回避したいと名無しは思い、自分の親のファミリーには所属せずキャバッローネ・ファミリーにお世話になっているのだから。
『なので…出来れば明日の午後はお休みをいただきたいなと思いまして』
名無しがそう言葉にすれば俯いたまま言葉を紡ぐ。
嫌だと声を荒げたいが、名無しだってそこまで子供ではない。
自分の立場を、これでも分かっているつもりなのだ。
仕方がないと割り切るしかない。
仕方がないと…この想いに蓋をするしかないと、自分を抑えこめては言い聞かせる。
「名無しは…それでいいのか?」
『それでいいのか…とは?』
「お見合いしたいって…本気で、本音で思ってるのか?」
『…それは…』
ディーノの言葉に名無しはぐっと両手を握りしめる手に力を込める。
名無しの本音はお見合いしたいなんて思っていない。
だがそれを言葉にする事も、自分の立場上どうする事も出来ない事は名無し自身理解していた。
だからこそ名無しはディーノの問いかけに応える事は出来なかった。
本音を言いたいのに言えない、どうする事も抗う事も出来ないのだとぐっと耐えるしかなかった。
名無しも、ディーノも何もい言葉を発しない。
長い長い沈黙の後…ディーノはようやく重たく閉ざした唇を開いた。
まるで何かを決意したように―――…
「行くな、名無し」
『…ボス?』
ゆっくりと名無しの座って居た椅子から立ち上がり、ディーノは名無しの手首を掴んだ。
力いっぱい掴んでいるわけではない。
そんな事をしてしまえば名無しの華奢な手首は折れてしまうんじゃないかと思う程細いのだから。
だがそれでも離さないと言わんばかりには手首を掴んでいる。
「行くな…んなもん行かなくていい…」
『で、でも…』
「でもじゃねえ。名無しが行きたくないなら行かなくていい…ってか、俺が名無しを行かせたくねえ」
『え、っと…ボス…?』
ディーノの言葉に、名無しはほんのわずかに目を見開く。
どういう事だろうと、名無しの頭は理解が追い付いていない。
そんな名無しをディーノは一旦深呼吸をしてはじっと名無しを見つめた。
鳶色の瞳が全てを見透かすように、射抜く様に名無しを目をじっと見つめる。
「順序が逆になっちまったが…名無し。俺はお前の事が好きだ。だから名無しからお見合いに行くなんて言われちまったら…はいそうですかなんて易々行かせられるわけねえだろ」
そっとディーノは自分の方へと名無しを引き寄せる。
名無しの後頭部に片手を、腰にもう片方の手を添えてはぎゅっと名無しを包み込む。
されるがまま、軽くポスンと音を立てては名無しはディーノの胸元に顔を埋めた。
ドクン、ドクンと…ディーノの何時もよりも少し早く心臓が脈打つ音が名無しの耳に聞こえる。
嘘ではないのだろう。
『え、ど、ドッキリ…です、か?それとも…エイプリルフール…?』
目を大きく見開いては、その瞳にディーノの姿を映し出す。
ディーノが名無しの事を好きだなんて…名無し自身微塵も思っていなかった。
だがそれを否定するようにディーノは言葉を紡ぐ。
「ドッキリでもエイプリルフールでもねえよ…俺はずっと前から名無しの事が好きだ」
真剣な眼差しで、そっとディーノの唇が名無しの額に落とされる。
触れるだけの口付けのはずなのに、その口付けは甘く、ディーノの唇の温もりが名無しの額に押し付けられる。
じんわりと名無しの額から広がっていくのを感じてはじっとディーノの鳶色の瞳を見つめた。
(…これは…夢?)
まるで自分は起きていないのだろうかと、名無しは右手で自分の頬を抓り確認するが、痛みがある。
これが夢でない事を名無しはようやく理解した。
「おい、何やってんだよ名無し」
『夢かと思って…』
「俺の一世一代の告白を夢落ちになんてするなよな…。そりゃあ本当はもっとかっこよく…言いたかったけどよ」
困ったように笑うディーノに、名無しはフルフルと首を横に振る。
名無し自身も、ディーノ同様に惹かれていたのだ。
だが部下であり、名無し自身ファミリーのボスの子供と言う点では諦めていた。
叶わない恋なのだと、ディーノ自身からよく構ってもらえる事はあれど…仕事の関係でよく話す事もあり、歳も近く何かと気にかけてくれていると名無し自身思っていたからだ。
否、そう言う風に考えていたのだ。
己惚れるなと…自分に言い聞かせては叶わない恋とだ諦める様に自分に言い聞かせていた。
『わ、私もボスの事…好き、です。エイプリルフールとかドッキリとかじゃなくて…本当に、本当にずっと前から好き、です!』
「じゃあ俺達は両想い…だな」
名無しの両頬をそっとディーノ自身の手で包み込み、額をこつんと重ねては再び距離を縮めた。
距離が近いせいか、互いの息がかかる程の近距離ではあるものの、ディーノは気にせず甘く優しい声で言葉を紡ぐ。
「好きだ名無し、俺がいるんだから断る理由は十分にあるだろ?」
『っつ…はい、ボス』
ふにゃりと幸せそうに笑う名無しを見てはディーノのは照れくさそうにはにかみ、お互い顔を見合わせて笑った。
名無しとディーノ、どちらからともなくお互いの唇を重ねてはお互いの気持ちを何度も、何度も確かめ合った―――…
エイプリルフールの嘘
(名無しちゃんお帰りなさい。…って、あらディーノ君?)
(お世話になってます)
(あらあら、何々?ようやく貴方達くっついたの?)
((え…?))
(貴方達お互いの事好きな事傍から見たら丸わかりなのになかなかくっつかないんだもの。お母さん痺れを切らしちゃって名無しちゃんにお見合いするから帰って来なさいって言ったけど…あれエイプリルフールの嘘なのよ)
(え??!お、おおおお、お母さん??!!)
(うふふ、きっかけになればいいかな~?って思ってたんだけどまさかとんとん拍子に事が運ぶとは思わなかったわ~)
2025/04/01
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