短編
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カラン、コロンと音を立て下駄が鳴る。
並盛神社の鳥居から少し離れた場所で、名無しは普段とは違う光景を見ながら待ち人を待っていた。
いくつも飾り付けられた提灯には火が灯り、暖かな色合いが暗い夜道を照らしている。
その光景はどこか幻想的で、思うわず見惚れてしまう程に美しかった。
辺りには屋台が並び、焼きそばにお好み焼き、りんご飴や射的等普段とは違った並盛り神社の光景が広がっている。
本日並盛神社では夏祭りが行われていた、年に一度の夏祭り。
予定がなければ一緒に夏祭りに行きませんか?と、初めて名無しからディーノをデートに誘ったのだ。
(ディーノさんまだかなぁ)
楽しみすぎて約束の時間よりも早く来てしまった名無しだが、それすらも名無しにとっては待ち遠しい時間だった。
普段の私服姿とは違い、名無しは浴衣を着ている。
年に一度着るか着ないかの浴衣だ。
お祭りの時位は…と言う建前の元、母に頼み着付けてもらったのだ。
紺の生地に青色の牡丹と紫色の蝶の柄、水色の帯が浴衣の生地色と良いアクセントになっている。
黒色の髪は緩く巻かれ、頭部には蝶の形をしたヘアクリップが付けられており、光が当たればキラリと輝く。
薄っすらと施された化粧のせいか、何時もの名無しとは違い大人っぽさを感じさせる。
浴衣に合うようにと、同じ生地で作られた巾着ポーチを手首から下げ名無しはディーノが来るのを待った。
すると数分後に、黄色い声が聞こえるとともに誰かが名無しに近づいてくる。
カラン、カランと言う音と共に、「名無し!」っと…名無しが待ちに待った人の声が名無しの耳に届く。
『ディーノさん…!』
名無しは声のする方を振り返れば、そこには恋人であるディーノが居た。
名無しと同じ紺色の生地に、カスリ柄の模様。
首筋の刺青がほんの少しだけ見えるが、そこまでガッツリと見えているわけではないため見られても大丈夫と判断したのだろう。
普段と違うディーノの浴衣姿に、名無しは見惚れながらディーノの方へと歩む。
カラン、コロンと下駄を鳴らしながら歩み寄れば嬉しそうにディーノは微笑む。
「悪い名無し、待たせたな」
『私も今来た所なので大丈夫ですよ?…それよりこけたりしませんでしたか?』
「それは大丈夫なんだが…ちょっと道に迷ってな」
そう言いながらディーノは苦笑しながら名無しを見る。
するとディーノは一瞬目を大きく見開き、ディーノはただただ見惚れてしまう。
普段とは違う名無しの浴衣姿、それに化粧をしているせいか大人っぽく見えた名無しにディーノは不意打ちを喰らってしまった。
スマートに普段通り「可愛いな」、「似合ってるな」なんて言葉が出てこず、言葉に詰まる。
「あー…」っと頬を赤く染めながら何かを言おうとするが、ディーノはなかなか言葉にできずに名無しから目を逸らす。
そんなディーノにどうしたのだろう?と顔を覗き込めば、照れくさそうに「名無しすっげぇー綺麗だな」とようやく呟いた。
「普段の名無しは可愛いけど…今日の名無しは一段と綺麗だな」
『っつ…ありがとうございます、ディーノさん』
ディーノの言葉に、思わず名無しの頬も赤く染まる。
普段から「可愛いな」と言われていたが、今日は「綺麗だな」と言われたのだ。
嬉しい反面そう言われる事がなかったため、その言葉が名無しにとってはくすぐったい。
チークをしているせいで気づかれることはないだろうが、それでも自分の頬が赤くなっていく事が名無し自身分かってしまう。
『ディーノさんもかっこいいですね、浴衣凄く似合ってますもん』
「ははっ、ありがとな名無し!…でも名無しが綺麗だから皆名無しの事見てるな」
『あはは…』
それはない…と言葉にする事も出来ず、名無しは乾いた声で返した。
行き交う人や歩いている人たちに見られているのは確かに見られている。
だがしかしそれは名無しに向けられるものではなく、名無しと一緒に居るディーノに向けられている物だと十二分に分かっていた。
(私じゃなくて名無しさんだよ、見られているのは)
そう思いながら周りに視線を向ければ、男性からではなく女性達がディーノに釘付けで見惚れている。
黄色い声も耳をすませば名無しの耳には聞こ、名無しが居ようがお構いなしに「声かけてみる?」なんて言ってる声も聞こえた。
見慣れてしまったわけではないのだが、ディーノがイケメンで相当な美貌を持っている事をついつい名無しは忘れていた。
お祭りなんてある意味いいナンパスポットになるだろう。
しかも自分の恋人に逆ナンしようとしているのだ。
腹が立つし目に見えて嫉妬している自分が嫌という程名無しは分かる。
子供のように感情を露にしてしまうが、今の名無しにはどう足掻いても抑える事は出来ず顔に出てしまう。
普段ならまだそういう事もあると自分に言い聞かせられるのだが、この時の名無しは流石にむっとなりディーノの手を取った。
「名無し?」
突然名無しからディーノの手を取れば、ディーノは不思議そうに名無しの名を呼ぶ。
それもそのはずだ。
ディーノから名無しの手を取る事はあれどその逆は今までにない。
だからこそどうしたのだろうと不思議に思いながら名無しを見れば頬を膨らませむっとした表情でディーノを見る。
『…此処に居たらディーノさん取られちゃうから…行きましょう…』
ぎゅっと名無しはディーノの手を握りしめ、ポツリと呟いた。
無論名無しの言葉にディーノはそんな事はないと言おうとしたが、あまりにも名無しがぎゅっと力を入れて手を握りしめるため、「じゃあ行くか」とディーノは名無しを連れ歩く。
名無しが握りしめ行こうと言ったはずなのに、ディーノが先導を切って名無しを連れていく。
お祭りが始まっている鳥居の方に連れ歩く…わけではなく、ディーノは神社とは反対方向に歩いた。
『ディーノさん…?お祭り反対方向ですよ?』
「分かってるけど…ちょっとだけ、な」
手を引かれるまま歩き、丁度神社から見えない死角部分に連れてこられるとディーノは振り向く。
優しい眼差しで、名無しの頬に手を添える。
「名無し」
『ん…っ』
ちゅっっと、音を立て名無しの唇にディーノは自身の唇を重ねた。
触れるだけの優しい口付け。
名無しの唇には紅が引かれていたせいか、その色がディーノの唇にも移る。
一瞬何が起こったのか訳が分からずぽかんと開いた口が塞がらないまま名無しはディーノを見た。
『で、ディーノさん…?』
「俺は誰にも取られねぇーよ。仮に誰かが言い寄って来たとしても、俺には名無しが居るしな」
宥めるようにディーノは名無しを抱きしめながら言う。
名無しが言った『ディーノさん取られちゃうから』と言った言葉はディーノ自身嬉しかった。
そんなにも想ってくれてはっきりと言葉にした名無しが、ディーノにとってはどうしようもないほど可愛くて仕方がない。
「…それとも、このまま名無しの事攫って誰の目にも触れずに俺と名無しだけだったら…名無しも嫉妬しないか?」
『っつ…』
艶めく声で名無しの耳元でそう囁く。
それはあまりにも甘美で、名無しを誘うような言葉だった。
「…なーんてな、冗談だよ」
“半分は”と言う言葉を飲み込み、ディーノは名無しに笑いかける。
折角名無しが誘ってくれたお祭りなのだ、今日ばかりはそんなディーノの独占染みた考えを薙ぎ払いディーノは名無しにそっと手を差し出す。
「じゃ、行こうか名無し。はぐれたら大変だし、手でも繋いで…な」
『はいっ!』
おずおずとディーノの手に自分の手を重ね、名無しもつられてディーノに笑いかけた。
嫉妬してむくれていた自分が馬鹿みたいだと思いながら…名無しは笑顔でディーノの隣を歩く。
カラン、コロンと音を立てながら、二人は神社の方へと歩いて行った―――…
隣で笑って、指を重ねて
(さて、手始めにどうすっかな?)
(ディーノさんは見たい所とか、食べたい物ってあります?)
(俺は名無しが見たい物とか食べたい物があればそこに…だな。正直ジャポーネのお祭りは初めてだから何があるのか分かんねぇーってのもあるけど)
(ふふ、じゃあ今日は私がディーノさんの事エスコートしますね!これでも毎年お祭りには参加してるので!)
(お、そいつは頼もしいな)
2024/08/14
お題提供:「しのぐ式」様
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