家庭教師ヒットマンREBORN!
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※スクアーロ先生(英語教師)×生徒
※微裏
放課後、いつものように英語準備室の扉を開け中に入ればものすごく不機嫌そうな英語教師であるスクアーロが名無しの瞳に映った。
普段なら「ゔお゙ぉい名無し!!ノックもせずに勝手に入ってくるんじゃねえ!!!」と、けたたましい声が上がるはずなのに…今日はそんな声は全く聞こえない。
名無しが来た事に気付いて居ないのだろうかと…首を傾げるがそんな事は絶対に無いのだ。
今名無しの瞳に映っているスクアーロはサラサラの長い銀髪に、英語準備室に引きこもっているせいか服装も着崩している。
大人の色香を放っているせいか名無しは大人の色香にあてられてしまう。
首元をはだけさせ、緩められた青色のネクタイ。
オーバル型の縁の細い眼鏡からはじっと青い瞳が手に持っている紙へと向けられている。
名無しの位置からは見えないが…恐らく今日の4時間目にスクアーロの授業で行われた英語の小テストだろう。
いくらスクアーロと言えど、集中していようが名無しが入っていた事に気づかない反応しないと言うのはおかしいのだ。
一般の先生であれば集中し過ぎて気づかなかった…と言う人も中には居るだろう。
だがスクアーロは英語教師であるものの、それは仮の姿でしかない。
本来であればイタリアンマフィア・ボンゴレファミリー最強と謳われる独立暗殺部隊“ヴァリアー”のNo.2兼作戦隊長だ。
いくら作業に集中していると言えど、スクアーロが気付かないわけがない。
名無しが同じようにマフィアで凄腕の暗殺者であったなら、もしかしたら気づかれなかったかもしれないが…生憎名無しはただの一般人だ。
その上いつものように英語準備室の扉を勢いよく開けたのだ。
暗殺者には程遠い…寧ろ暗殺者であるならば相当間抜けな部類になってしまう。
不機嫌な時はそっとしておくに限ると名無しだって思っている…触らぬ神に祟りなしと言うことわざがある程だ。
分かってはいるものの、名無しは扉をそっと締め恐る恐るスクアーロが座って居る椅子の方へと近づく。
なんせ今日、2月14日はバレンタイン。
女性が意中の男性に対して愛情告白をする日だ。
この日の為にバレンタインチョコだって手作りして学校に持って来た。
今名無しの持っているスクールバッグの中に可愛らしくラッピングした物を忍ばせている。
生チョコ故に日持ちするものでもなく、今日を逃せば明日から土日だ。
土日に学校に来る事も無ければ土日に会うのだって教師と生徒だ、難しいに決まっている。
だからこそどれだけ不機嫌な表情をしているといえど、せめてバレンタインチョコを渡してから帰ろうと思っているのだ。
だが何故スクアーロが不機嫌なのか、その理由は分からない。
普段からよく眉間に皺を寄せていたり、粗暴な話し方だったり声の大きさが大きい故か勘違いされがちではあるもののスクアーロは面倒見が良く気配りだって出来る事を名無しはよく知っている。
英語が苦手な故に何度も怒られては放課後によく補習と称して勉強を見てもらって居るのだ。
間違えた時は相当怒るが、それでもちゃんと答えが合っていたらスクアーロは名無しを褒める。
名無しの頭を不器用に撫でてはまるで自分の事のかのように褒めてくれるスクアーロに惹かれるまでそう時間はかからなかった。
教師と生徒、ましてやマフィアと一般人だ。
それでもスクアーロが好きだと想いを告げて今は学校では隠してはいるものの、名無しとスクアーロは恋人になった。
一向に名無しの方を見向きもしないスクアーロに、名無しはほんの少しだけ不安になる。
もしかしてスクアーロが不機嫌な理由は名無し自身にあるのではないかと…ふと考えながらスクアーロに近づく足を止めなかった。
(怒られるような事はしてないはず…?今日の小テストだってちゃんと名前書いたし、解答だって間違ってないと思うし…)
何故スクアーロが不機嫌なのか、その理由を思い浮かべては名無しは首を傾げる。
前回のテストは名前を記入していなかったせいか0点だった。
前々回のテストは勉強するページを間違えてしまった為ほとんど点数が取れず、いくら成績に関係ないと言えど点数は2桁すら行かなかった。
それを踏まえ今日行われた小テストはばっちり名前を記入し、普段はやらない見直しだった3度はしたのだ。
小テストのテスト範囲だって間違えていない、スペルミスだって解答をずらして書いた事もしていないと3度も見直したのだから自信だってある。
それとも悪戯をした事に対して怒っているのだろうか…?と、名無しは思うものの悪戯に関しては身に覚えがありすぎる為一体どれに対して機嫌が悪いのか皆目見当もつかない。
スクアーロが座る椅子の隣で足を止め、名無しはスクアーロを見る。
相変わらず何の反応もせずただ手に持っている紙を眺めている。
小テストと思い込んでいたその紙、何も書かれていないただの真っ白な白紙の用紙だった。
不機嫌そうな表情のままのスクアーロ。
そんなスクアーロに何かがおかしいと思い、名無しは恐る恐る声をかける。
『ねぇ、スクアーロ先生?』
「………」
1度目は何の反応も示さない。
『…スクアーロ先生?』
「……」
2度目も同じようになんの反応も示されなかった。
それどころかこんなにも近い距離に居るのに見向きもされないのだ。
ほんの少しだけむすっとしてしまい3度目の時には『…スクアーロ?』と、わざと“先生”と付けるのを止めた。
その瞬間ピクリとスクアーロの身体が動くのを見ればようやく反応してもらえたことに名無しはほっとする。
名無しが居る事にすら気付かない程だったのだろう。
ゆっくりと名無しの方を向くスクアーロに名無しはもう1度『スクアーロ』とスクアーロの名前を呼ぼうとしたその瞬間。
『ん…っ…、んっ…ぁ』
一瞬何が起こったか分からないほどに、名無しはスクアーロの膝の上に抱き寄せられては無理やり唇をスクアーロに奪われた。
手に持っていたスクールバッグはその場に音を立てては落ちてしまうが、そんな些細な事を気にする余裕は今の名無しにはない。
普段される優しい口付けでもなければ触れて離れるだけの口付けではなかった。
貪るように名無しの唇を覆い、舌を無理やり絡めては呼吸も、意識さえも奪うような支配するような口付け。
そっと目を開けるとそこにはスクアーロの青い瞳が名無しの事を射抜いている。
青い瞳には何処か熱を帯び、そして怒りの色すら見えてしまう。
『ふぁ…んっ…スク…ア…ロ…』
塞がれる唇から逃れようと距離を取ろうとするが、許さないと言わんばかりにスクアーロ唇は名無しの唇を追いかけ逃がさない。
息が出来ない、苦しい―――…
そんな事を思っていると次第に酸欠不足になっているせいか思考がぼんやりとする。
名無しの手首を強く握りしめたまま、ただただスクアーロはそんな名無しの事すら気にとめず名無しの口内を犯かす。
『っつ…はぁ…ぁ…っ、はぁ…』
どれくらい長い時間が経っただろうか?
ようやく唇を離されれば、名無しはスクアーロの胸板に寄り掛かっては酸素を取り込むように呼吸する。
乱れた息はなかなか整う事はない。
小刻みに肩で息をしているせいか普段通り呼吸は出来ず、上手く酸素を取り入れる事すら出来なかった。
そんな名無しを見下ろしてはスクアーロは「…悪い」と言葉にしてはぎゅっと自分の胸板にもたれかかる名無しを優しく抱きしめ背中を撫でる。
先程の荒々しい物とは違う、まるで壊れ物を扱うかのように名無しを優しく腕の中に包み込む。
数十秒…否、数分してようやく息が整えば名無しはスクアーロを見上げては言葉を紡ぐ。
『…ど、…したの…っ、スクアーロ…?』
「……悪い名無し」
問いかけた所でスクアーロは謝罪の言葉しか述べなかった。
『私…スクアーロが不機嫌になるような事…した…?』
「別に…」
『今日の小テストの点数…悪かった?』
「ちげぇ…採点したがちゃんと点数取れてたから安心しろ」
小テストの事ではないようだ。
その事にほっと胸を撫で下ろしては次に思い浮かぶ事を名無しはおずおずと述べる。
『じゃあ…昨日スクアーロがここで寝てたから先に帰った事に怒ってる…?それとも黙ってスクアーロの額に“鮫”って書いた事に対して怒ってる…?』
「ちげぇ、別に名無しが先に帰ろうが構わねえが…って、ゔお゙ぉぉおおおい?!あれお前だったのか名無し??!!」
名無しが述べた言葉に驚くものの、そこまで怒っていないようだ。
不機嫌そうな表情ではあれど「落とすの大変だったんだぞぉ!!!!」と言う割に、声色は何時ものツッコミを入れる時と何ら変わらない。
(じゃあ何に対してスクアーロはそんな不機嫌そうにしてるんだろ…)
名無しが起こした中でスクアーロが不機嫌になる理由を述べるが…そのどれも違う用だった。
此処最近となると本当にそれくらいしか思い浮かばなかった名無しは『ねぇ、何でそんな不機嫌そうにしてるの…?』と、本人に聞く意外どうする事も出来なかった。
どれだけ思い出してもスクアーロの口から“違う”と言われるのだ。
それならば聞く方が早いと、名無しは意を決する。
どの道怒られるのだ、怒られるならばスクアーロの口からその理由を知りたいと名無しは思う。
じっとスクアーロの青い瞳を見上げスクアーロを見つめた。
普段鋭いスクアーロの目じりはどこか寂しそうで…けれども決して名無しから視線をそらす事はない。
長い長い沈黙の後、ようやく重い唇を開きスクアーロは言葉を紡いだ。
「…さっき…お前沢田達に…クラスの奴らにチョコあげてただろ…」
『あ…うん、それがどうしたの?』
「それがどうしたの…だぁ?」
名無しの言葉が気に入らなかったのかスクアーロの眉間には深く皺が寄る。
許さないと言わんばかりに目を細めてはもう1度奪う様に名無しの唇に自身の唇を重ねた。
甘い口付けなんて存在しないのではないかと言う程に。
喰らいつき全てを奪うような荒々しい口付けに名無しはま息を奪われる。
だが先程と違い直ぐに離されてはぎゅっと名無しの手首を掴み名無しを見下ろす。
苦しいと言わんばかりの表情に、名無しは思わず魅入ってしまう。
「お前は…名無しは俺が好きなんじゃねえのかよ?!」
『…?うん好きだよ?好きだから放課後毎日来るし、今日だってスクアーロにバレンタインのチョコ渡しに来たんだもん』
思わずスクアーロは何を言ってるのだろう?と言いたげな目で名無しはスクアーロを見る。
スクアーロの言うように、さっき確かに名無しは幼馴染である沢田綱吉に…否、沢田綱吉を含むクラスの男子にチョコを渡した。
それは毎年名無しが幼馴染だからこそ、同じクラスである男子に渡す所謂“義理チョコ”と言う代物だが…それが不機嫌な原因ではないかと憶測される。
現に名無しの目の前でその話題に対して不機嫌そうに怒っているのだ。
名無しの中で“もしかして”と思っても何らおかしくない。
『…ねぇスクアーロ…もしかして…ツナやクラスの男子にチョコあげた事怒ってるの…?』
名無しの言葉に、スクアーロの身体が一瞬反応する。
一般人である名無しが見て分かる程に動揺していたのが目に見えて分かる程だ。
無言は肯定でありじっとスクアーロを見ていると、スクアーロが珍しく名無しから視線をそらした。
どうやら正解の様だ。
裏付けするように「何だよ…悪いかよ…」とスクアーロはばつが悪そうな、苦虫を嚙み潰したような表情をしては気まずそうにしている。
「お前は…名無しは俺のもんだろ。何で名無しがクラスの野郎にチョコなんて渡してんだよ」
『確かに私はスクアーロのものぢゃお?それにツナ達にも渡したけど…でもあれ義理チョコだよ?』
「…義理チョコ?」
名無しの言葉にスクアーロは首を傾げる。
まるで義理チョコと言うものが分からないのか、初めて聞くその言葉にスクアーロの青い瞳は何度か瞬く。
間違いない、スクアーロは義理チョコを知らないらしい。
今も「義理…チョコ…義理?」と、スクアーロは1人理解に苦しむように名無しの言った言葉を反芻している。
名無しよりも8つも年上の癖に義理チョコを知らないとは…名無しも思わず目を見開いてはスクアーロを見つめてしまう。
『…スクアーロ、義理チョコって知らないの?』
「ゔお゙ぉい…何だ義理チョコって…」
怪訝そうな表情を浮かべては、スクアーロは首を傾げた。
『んと…簡単に言えば日頃の感謝を伝えるために渡す物…みたいな?好きな人じゃなくて、お世話になってるから渡すとか、大人だったらコミュニケーションを円滑にするために渡したりもあるみたいだけど』
「お、おう…?」
あまりピンと来ていないのかスクアーロの反応は鈍い。
日本ではあまりにも浸透しきっている為義理チョコすら一般常識だと思っていたが…スクアーロの反応からするにどうやら違うらしい。
『イタリアじゃあバレンタイン義理チョコ贈らないの?』
「…そもそもイタリアじゃあ好きでもねえ奴にチョコ渡す文化なんざねえよ。バレンタイン自体恋人と過ごす日だ。どうでもいい奴なんざまず眼中にねえし優先されるのは恋人だけだ」
スクアーロの言葉に名無しは『そうなんだ…』と改めて日本のバレンタインとの違いを知る。
スクアーロ曰く、先ほども挙げたようにイタリアのバレンタインは恋人同士がお互いの気持ちを深める日のようだ。
故に日本の様に義理チョコや友チョコと言ったものをあげる習慣はない。
バレンタインは全国共通と言うはずなのに、国が違えば習慣さえ変わる事に名無しは思わず驚く。
自分の当たり前が、必ずしも当たり前じゃないと…改めて認識してしまった。
だからだろう。
スクアーロは未だ眉を顰めている。
納得がいかないと言わんばかりに口を開いては名無しの瞳を覗き込む。
「義理だからつったって…勘違いする野郎は何人か居るだろ…?」
『え、ないないない。誰も私が渡したチョコ本命だなんて受け取ってないよ?」
「そう…なのか?」
『うん。だって一目で義理だと分かるチョコだからね』
言い切る名無しの言葉にスクアーロは首を傾げる。
バレンタインにチョコを貰うのだ。
義理だろうが少なからず好意があるのではと思ってしまうのではないのだろうか考えるが、名無しは絶対にないと言い切っている。
『私がツナ達に渡したのは市販の大袋に入ってるちっちゃいチョコだし、お菓子会社の陰謀でちゃんと“義理チョコ”って認識されるほど定番な義理チョコだからね』
そう、名無しが言うようにお菓子会社直々に“このチョコは義理チョコです”と言わんばかりにCMで宣伝されているチョコだ。
なんならキャッチコピーですら“一目で義理だと分かるチョコ”と言われているし、個包装にも容赦なく“義理です”と書かれている。
そんなチョコを受け取って誰が本命だと勘違いするのだろうかと名無しも、受け取ったクラスの男子ですら思ってしまうだろう。
だがその事をしらないイタリア人であるスクアーロはやはり訳が分からないとでも言いたげな視線を名無しに向けている。
『だからね、好意なんてものは何1つないし…もしあるとすれば同情だよ、同情。誰からももらえないのは可愛そうだからね』
「……同情…」
『そう、同情。もしくはノート貸してくれてありがとう~!とか、いつも仲良くしてくれてありがとうとか…社交辞令かな?だからスクアーロが思うような恋愛感情は一切ない、悪く言えば同情だよ』
反芻するスクアーロの言葉に、名無しはくすくすと笑っては言い切った。
だがやはり自分が思っているイタリアのバレンタインとは違い、異国のバレンタインだ。
あまりの違いにスクアーロはやはりまだ上手く理解できていないようだった。
『もしかしてスクアーロ…焼きもちやいてたの?』
「悪いかよ…」
むすっと眉間に皺を寄せたまま呟くスクアーロ。
そんなスクアーロが可愛くて仕方がなく、名無しの頬は自然と緩む。
きっとスクアーロに対して『可愛い』なんて言ってしまえば…それこそ怒りを買いかねないが…。
『あのね、私が本命であげるのはスクアーロだけだしスクアーロ以外にそんな気持ちはないってちゃんと理解してよね?』
「同情でやってるだけでも俺は嫉妬するぞぉ?」
『あれ、スクアーロってそんなキャラだっけ?!』
「あ゙ぁ゙!!!うるせぇアホ…お前だけにだ」
口は悪いがなんだかんだスクアーロの言葉には愛が溢れていた。
ばつが悪そうな表情のまま名無しから視線をそらすスクアーロに、名無しはただただ愛おしい気持ちが込み上げ自分からそっと…触れるだけの口付けを交わした―――…
義理チョコにすら嫉妬する
(っつ…おい名無し何やって…)
(いや~、スクアーロ好きだなって思って。…所で本命チョコを渡しに来たんだけど受け取ってくれる?)
(…そりゃあ名無しがくれるなら何だって受け取るぞぉ)
(一応甘さ控えめにしてるから…大丈夫なはず)
(ゔお゙ぉぉおい?!味見してねえのか?!)
(味見なんてする必要ない位愛情は詰まってるよ?)
(あのな…せめて味見位はしてくれ)
2025/02/12
※微裏
放課後、いつものように英語準備室の扉を開け中に入ればものすごく不機嫌そうな英語教師であるスクアーロが名無しの瞳に映った。
普段なら「ゔお゙ぉい名無し!!ノックもせずに勝手に入ってくるんじゃねえ!!!」と、けたたましい声が上がるはずなのに…今日はそんな声は全く聞こえない。
名無しが来た事に気付いて居ないのだろうかと…首を傾げるがそんな事は絶対に無いのだ。
今名無しの瞳に映っているスクアーロはサラサラの長い銀髪に、英語準備室に引きこもっているせいか服装も着崩している。
大人の色香を放っているせいか名無しは大人の色香にあてられてしまう。
首元をはだけさせ、緩められた青色のネクタイ。
オーバル型の縁の細い眼鏡からはじっと青い瞳が手に持っている紙へと向けられている。
名無しの位置からは見えないが…恐らく今日の4時間目にスクアーロの授業で行われた英語の小テストだろう。
いくらスクアーロと言えど、集中していようが名無しが入っていた事に気づかない反応しないと言うのはおかしいのだ。
一般の先生であれば集中し過ぎて気づかなかった…と言う人も中には居るだろう。
だがスクアーロは英語教師であるものの、それは仮の姿でしかない。
本来であればイタリアンマフィア・ボンゴレファミリー最強と謳われる独立暗殺部隊“ヴァリアー”のNo.2兼作戦隊長だ。
いくら作業に集中していると言えど、スクアーロが気付かないわけがない。
名無しが同じようにマフィアで凄腕の暗殺者であったなら、もしかしたら気づかれなかったかもしれないが…生憎名無しはただの一般人だ。
その上いつものように英語準備室の扉を勢いよく開けたのだ。
暗殺者には程遠い…寧ろ暗殺者であるならば相当間抜けな部類になってしまう。
不機嫌な時はそっとしておくに限ると名無しだって思っている…触らぬ神に祟りなしと言うことわざがある程だ。
分かってはいるものの、名無しは扉をそっと締め恐る恐るスクアーロが座って居る椅子の方へと近づく。
なんせ今日、2月14日はバレンタイン。
女性が意中の男性に対して愛情告白をする日だ。
この日の為にバレンタインチョコだって手作りして学校に持って来た。
今名無しの持っているスクールバッグの中に可愛らしくラッピングした物を忍ばせている。
生チョコ故に日持ちするものでもなく、今日を逃せば明日から土日だ。
土日に学校に来る事も無ければ土日に会うのだって教師と生徒だ、難しいに決まっている。
だからこそどれだけ不機嫌な表情をしているといえど、せめてバレンタインチョコを渡してから帰ろうと思っているのだ。
だが何故スクアーロが不機嫌なのか、その理由は分からない。
普段からよく眉間に皺を寄せていたり、粗暴な話し方だったり声の大きさが大きい故か勘違いされがちではあるもののスクアーロは面倒見が良く気配りだって出来る事を名無しはよく知っている。
英語が苦手な故に何度も怒られては放課後によく補習と称して勉強を見てもらって居るのだ。
間違えた時は相当怒るが、それでもちゃんと答えが合っていたらスクアーロは名無しを褒める。
名無しの頭を不器用に撫でてはまるで自分の事のかのように褒めてくれるスクアーロに惹かれるまでそう時間はかからなかった。
教師と生徒、ましてやマフィアと一般人だ。
それでもスクアーロが好きだと想いを告げて今は学校では隠してはいるものの、名無しとスクアーロは恋人になった。
一向に名無しの方を見向きもしないスクアーロに、名無しはほんの少しだけ不安になる。
もしかしてスクアーロが不機嫌な理由は名無し自身にあるのではないかと…ふと考えながらスクアーロに近づく足を止めなかった。
(怒られるような事はしてないはず…?今日の小テストだってちゃんと名前書いたし、解答だって間違ってないと思うし…)
何故スクアーロが不機嫌なのか、その理由を思い浮かべては名無しは首を傾げる。
前回のテストは名前を記入していなかったせいか0点だった。
前々回のテストは勉強するページを間違えてしまった為ほとんど点数が取れず、いくら成績に関係ないと言えど点数は2桁すら行かなかった。
それを踏まえ今日行われた小テストはばっちり名前を記入し、普段はやらない見直しだった3度はしたのだ。
小テストのテスト範囲だって間違えていない、スペルミスだって解答をずらして書いた事もしていないと3度も見直したのだから自信だってある。
それとも悪戯をした事に対して怒っているのだろうか…?と、名無しは思うものの悪戯に関しては身に覚えがありすぎる為一体どれに対して機嫌が悪いのか皆目見当もつかない。
スクアーロが座る椅子の隣で足を止め、名無しはスクアーロを見る。
相変わらず何の反応もせずただ手に持っている紙を眺めている。
小テストと思い込んでいたその紙、何も書かれていないただの真っ白な白紙の用紙だった。
不機嫌そうな表情のままのスクアーロ。
そんなスクアーロに何かがおかしいと思い、名無しは恐る恐る声をかける。
『ねぇ、スクアーロ先生?』
「………」
1度目は何の反応も示さない。
『…スクアーロ先生?』
「……」
2度目も同じようになんの反応も示されなかった。
それどころかこんなにも近い距離に居るのに見向きもされないのだ。
ほんの少しだけむすっとしてしまい3度目の時には『…スクアーロ?』と、わざと“先生”と付けるのを止めた。
その瞬間ピクリとスクアーロの身体が動くのを見ればようやく反応してもらえたことに名無しはほっとする。
名無しが居る事にすら気付かない程だったのだろう。
ゆっくりと名無しの方を向くスクアーロに名無しはもう1度『スクアーロ』とスクアーロの名前を呼ぼうとしたその瞬間。
『ん…っ…、んっ…ぁ』
一瞬何が起こったか分からないほどに、名無しはスクアーロの膝の上に抱き寄せられては無理やり唇をスクアーロに奪われた。
手に持っていたスクールバッグはその場に音を立てては落ちてしまうが、そんな些細な事を気にする余裕は今の名無しにはない。
普段される優しい口付けでもなければ触れて離れるだけの口付けではなかった。
貪るように名無しの唇を覆い、舌を無理やり絡めては呼吸も、意識さえも奪うような支配するような口付け。
そっと目を開けるとそこにはスクアーロの青い瞳が名無しの事を射抜いている。
青い瞳には何処か熱を帯び、そして怒りの色すら見えてしまう。
『ふぁ…んっ…スク…ア…ロ…』
塞がれる唇から逃れようと距離を取ろうとするが、許さないと言わんばかりにスクアーロ唇は名無しの唇を追いかけ逃がさない。
息が出来ない、苦しい―――…
そんな事を思っていると次第に酸欠不足になっているせいか思考がぼんやりとする。
名無しの手首を強く握りしめたまま、ただただスクアーロはそんな名無しの事すら気にとめず名無しの口内を犯かす。
『っつ…はぁ…ぁ…っ、はぁ…』
どれくらい長い時間が経っただろうか?
ようやく唇を離されれば、名無しはスクアーロの胸板に寄り掛かっては酸素を取り込むように呼吸する。
乱れた息はなかなか整う事はない。
小刻みに肩で息をしているせいか普段通り呼吸は出来ず、上手く酸素を取り入れる事すら出来なかった。
そんな名無しを見下ろしてはスクアーロは「…悪い」と言葉にしてはぎゅっと自分の胸板にもたれかかる名無しを優しく抱きしめ背中を撫でる。
先程の荒々しい物とは違う、まるで壊れ物を扱うかのように名無しを優しく腕の中に包み込む。
数十秒…否、数分してようやく息が整えば名無しはスクアーロを見上げては言葉を紡ぐ。
『…ど、…したの…っ、スクアーロ…?』
「……悪い名無し」
問いかけた所でスクアーロは謝罪の言葉しか述べなかった。
『私…スクアーロが不機嫌になるような事…した…?』
「別に…」
『今日の小テストの点数…悪かった?』
「ちげぇ…採点したがちゃんと点数取れてたから安心しろ」
小テストの事ではないようだ。
その事にほっと胸を撫で下ろしては次に思い浮かぶ事を名無しはおずおずと述べる。
『じゃあ…昨日スクアーロがここで寝てたから先に帰った事に怒ってる…?それとも黙ってスクアーロの額に“鮫”って書いた事に対して怒ってる…?』
「ちげぇ、別に名無しが先に帰ろうが構わねえが…って、ゔお゙ぉぉおおおい?!あれお前だったのか名無し??!!」
名無しが述べた言葉に驚くものの、そこまで怒っていないようだ。
不機嫌そうな表情ではあれど「落とすの大変だったんだぞぉ!!!!」と言う割に、声色は何時ものツッコミを入れる時と何ら変わらない。
(じゃあ何に対してスクアーロはそんな不機嫌そうにしてるんだろ…)
名無しが起こした中でスクアーロが不機嫌になる理由を述べるが…そのどれも違う用だった。
此処最近となると本当にそれくらいしか思い浮かばなかった名無しは『ねぇ、何でそんな不機嫌そうにしてるの…?』と、本人に聞く意外どうする事も出来なかった。
どれだけ思い出してもスクアーロの口から“違う”と言われるのだ。
それならば聞く方が早いと、名無しは意を決する。
どの道怒られるのだ、怒られるならばスクアーロの口からその理由を知りたいと名無しは思う。
じっとスクアーロの青い瞳を見上げスクアーロを見つめた。
普段鋭いスクアーロの目じりはどこか寂しそうで…けれども決して名無しから視線をそらす事はない。
長い長い沈黙の後、ようやく重い唇を開きスクアーロは言葉を紡いだ。
「…さっき…お前沢田達に…クラスの奴らにチョコあげてただろ…」
『あ…うん、それがどうしたの?』
「それがどうしたの…だぁ?」
名無しの言葉が気に入らなかったのかスクアーロの眉間には深く皺が寄る。
許さないと言わんばかりに目を細めてはもう1度奪う様に名無しの唇に自身の唇を重ねた。
甘い口付けなんて存在しないのではないかと言う程に。
喰らいつき全てを奪うような荒々しい口付けに名無しはま息を奪われる。
だが先程と違い直ぐに離されてはぎゅっと名無しの手首を掴み名無しを見下ろす。
苦しいと言わんばかりの表情に、名無しは思わず魅入ってしまう。
「お前は…名無しは俺が好きなんじゃねえのかよ?!」
『…?うん好きだよ?好きだから放課後毎日来るし、今日だってスクアーロにバレンタインのチョコ渡しに来たんだもん』
思わずスクアーロは何を言ってるのだろう?と言いたげな目で名無しはスクアーロを見る。
スクアーロの言うように、さっき確かに名無しは幼馴染である沢田綱吉に…否、沢田綱吉を含むクラスの男子にチョコを渡した。
それは毎年名無しが幼馴染だからこそ、同じクラスである男子に渡す所謂“義理チョコ”と言う代物だが…それが不機嫌な原因ではないかと憶測される。
現に名無しの目の前でその話題に対して不機嫌そうに怒っているのだ。
名無しの中で“もしかして”と思っても何らおかしくない。
『…ねぇスクアーロ…もしかして…ツナやクラスの男子にチョコあげた事怒ってるの…?』
名無しの言葉に、スクアーロの身体が一瞬反応する。
一般人である名無しが見て分かる程に動揺していたのが目に見えて分かる程だ。
無言は肯定でありじっとスクアーロを見ていると、スクアーロが珍しく名無しから視線をそらした。
どうやら正解の様だ。
裏付けするように「何だよ…悪いかよ…」とスクアーロはばつが悪そうな、苦虫を嚙み潰したような表情をしては気まずそうにしている。
「お前は…名無しは俺のもんだろ。何で名無しがクラスの野郎にチョコなんて渡してんだよ」
『確かに私はスクアーロのものぢゃお?それにツナ達にも渡したけど…でもあれ義理チョコだよ?』
「…義理チョコ?」
名無しの言葉にスクアーロは首を傾げる。
まるで義理チョコと言うものが分からないのか、初めて聞くその言葉にスクアーロの青い瞳は何度か瞬く。
間違いない、スクアーロは義理チョコを知らないらしい。
今も「義理…チョコ…義理?」と、スクアーロは1人理解に苦しむように名無しの言った言葉を反芻している。
名無しよりも8つも年上の癖に義理チョコを知らないとは…名無しも思わず目を見開いてはスクアーロを見つめてしまう。
『…スクアーロ、義理チョコって知らないの?』
「ゔお゙ぉい…何だ義理チョコって…」
怪訝そうな表情を浮かべては、スクアーロは首を傾げた。
『んと…簡単に言えば日頃の感謝を伝えるために渡す物…みたいな?好きな人じゃなくて、お世話になってるから渡すとか、大人だったらコミュニケーションを円滑にするために渡したりもあるみたいだけど』
「お、おう…?」
あまりピンと来ていないのかスクアーロの反応は鈍い。
日本ではあまりにも浸透しきっている為義理チョコすら一般常識だと思っていたが…スクアーロの反応からするにどうやら違うらしい。
『イタリアじゃあバレンタイン義理チョコ贈らないの?』
「…そもそもイタリアじゃあ好きでもねえ奴にチョコ渡す文化なんざねえよ。バレンタイン自体恋人と過ごす日だ。どうでもいい奴なんざまず眼中にねえし優先されるのは恋人だけだ」
スクアーロの言葉に名無しは『そうなんだ…』と改めて日本のバレンタインとの違いを知る。
スクアーロ曰く、先ほども挙げたようにイタリアのバレンタインは恋人同士がお互いの気持ちを深める日のようだ。
故に日本の様に義理チョコや友チョコと言ったものをあげる習慣はない。
バレンタインは全国共通と言うはずなのに、国が違えば習慣さえ変わる事に名無しは思わず驚く。
自分の当たり前が、必ずしも当たり前じゃないと…改めて認識してしまった。
だからだろう。
スクアーロは未だ眉を顰めている。
納得がいかないと言わんばかりに口を開いては名無しの瞳を覗き込む。
「義理だからつったって…勘違いする野郎は何人か居るだろ…?」
『え、ないないない。誰も私が渡したチョコ本命だなんて受け取ってないよ?」
「そう…なのか?」
『うん。だって一目で義理だと分かるチョコだからね』
言い切る名無しの言葉にスクアーロは首を傾げる。
バレンタインにチョコを貰うのだ。
義理だろうが少なからず好意があるのではと思ってしまうのではないのだろうか考えるが、名無しは絶対にないと言い切っている。
『私がツナ達に渡したのは市販の大袋に入ってるちっちゃいチョコだし、お菓子会社の陰謀でちゃんと“義理チョコ”って認識されるほど定番な義理チョコだからね』
そう、名無しが言うようにお菓子会社直々に“このチョコは義理チョコです”と言わんばかりにCMで宣伝されているチョコだ。
なんならキャッチコピーですら“一目で義理だと分かるチョコ”と言われているし、個包装にも容赦なく“義理です”と書かれている。
そんなチョコを受け取って誰が本命だと勘違いするのだろうかと名無しも、受け取ったクラスの男子ですら思ってしまうだろう。
だがその事をしらないイタリア人であるスクアーロはやはり訳が分からないとでも言いたげな視線を名無しに向けている。
『だからね、好意なんてものは何1つないし…もしあるとすれば同情だよ、同情。誰からももらえないのは可愛そうだからね』
「……同情…」
『そう、同情。もしくはノート貸してくれてありがとう~!とか、いつも仲良くしてくれてありがとうとか…社交辞令かな?だからスクアーロが思うような恋愛感情は一切ない、悪く言えば同情だよ』
反芻するスクアーロの言葉に、名無しはくすくすと笑っては言い切った。
だがやはり自分が思っているイタリアのバレンタインとは違い、異国のバレンタインだ。
あまりの違いにスクアーロはやはりまだ上手く理解できていないようだった。
『もしかしてスクアーロ…焼きもちやいてたの?』
「悪いかよ…」
むすっと眉間に皺を寄せたまま呟くスクアーロ。
そんなスクアーロが可愛くて仕方がなく、名無しの頬は自然と緩む。
きっとスクアーロに対して『可愛い』なんて言ってしまえば…それこそ怒りを買いかねないが…。
『あのね、私が本命であげるのはスクアーロだけだしスクアーロ以外にそんな気持ちはないってちゃんと理解してよね?』
「同情でやってるだけでも俺は嫉妬するぞぉ?」
『あれ、スクアーロってそんなキャラだっけ?!』
「あ゙ぁ゙!!!うるせぇアホ…お前だけにだ」
口は悪いがなんだかんだスクアーロの言葉には愛が溢れていた。
ばつが悪そうな表情のまま名無しから視線をそらすスクアーロに、名無しはただただ愛おしい気持ちが込み上げ自分からそっと…触れるだけの口付けを交わした―――…
義理チョコにすら嫉妬する
(っつ…おい名無し何やって…)
(いや~、スクアーロ好きだなって思って。…所で本命チョコを渡しに来たんだけど受け取ってくれる?)
(…そりゃあ名無しがくれるなら何だって受け取るぞぉ)
(一応甘さ控えめにしてるから…大丈夫なはず)
(ゔお゙ぉぉおい?!味見してねえのか?!)
(味見なんてする必要ない位愛情は詰まってるよ?)
(あのな…せめて味見位はしてくれ)
2025/02/12
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