家庭教師ヒットマンREBORN!
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『………どうしてこうなった…』
自室にあるキッチンで一人、自分の目の前の物を見ては名無しは首を傾げた。
キッチンテーブルの上には鉄板が一つ置かれており、その上には黒い焦げた炭のような臭いを漂わせる“何か”が置かれている。
平べったく伸ばされている“何か”の上にはさらに焦げ過ぎて何がなにやら分からない何かが乗っていた。
『うーん、おっかしーなぁ…ピザ作ったはずなのに…』
その“何か”を見て名無しは再度首を傾げる。
“何か”は、名無しが言うように本来であればピザと呼ばれる代物だ。
名無しの中ではきっと一目見ただけで涎が出てしまう程いい出来映えのピザが出来ているはずなのに…目の前にあるそれは名無しが思っていたのと全く違うピザではない“何か”でしかなかった。
だがどこからどう見てもそれはピザと呼べるようなものではなく、ただただ黒く焦げた炭のようなものにしか見えない。
プスプスと音を立ててはキッチンの中は悪臭が漂う。
『バジル乗せたら…ワンチャンいけそう…かな?』
諦めまいとピザの仕上げにあらかじめ用意しておいたバジルをピザの上に散らすが…焦げた物体の上にただただ緑色のバジルが乗っている“何か”にしか見えず、それは誰がどう見てもピザとは呼ばれる代物ではなかった。
『…ルッス姉に作り方教えてもらったのに…何で上手く出来なかったんだろう…』
目の前にあるピザではない“何か”を見ながら、名無しは何度も瞬きを繰り返すが何度見ても現実は変わらずただの炭がそこにあるだけだ。
1月中旬辺りから名無しはルッスーリアにピザの作り方を教わり何度も練習に練習を重ねて来た。
ピザを作る事自体は難易度は極めて低いが、美味しく作ろうと拘り始めると途端に難易度が跳ね上がる。
だがそれ以前に料理初心者である名無しにとって、ピザ一つ作るのだってもの凄く苦労する事だった。
ピザ生地が上手く発酵出来なかったり、オーブンの温度設定を間違えたり、たまにオーブン自体を爆発させていた事もしばしばあったのは言うまでもない。
剣やナイフと言った武器は使い慣れているものの、そうではなくただ料理するための包丁を扱う事は初めてだったため幾度となく名無しは自分の指を包丁で切っては絆創膏をあちらこちらに巻ている。
材料を切る包丁の手捌きすら「名無しちゃん!包丁はこうやって持つの!何でそんな包丁握りしめて持ってるのよ?!」と、ルッス姉に言われるほど名無しは料理初心者だった。
それなのに何故名無しが料理に手を出したかと言うと…それも全て今日と言う日の為だった。
―――2月4日。
一般人からしたら今日はただの平日ではあるが、名無しにとってはただの平日ではないのだ。
名無しの彼氏であるディーノの誕生日。
イタリアでは誕生日である主役本人が誕生会を主催する。
“誕生日には主役の自分が周りの人に祝ってもらうものと言うもの”ではなく、“誕生日には主役の自分が周りの人に楽しんでもらう場を提供するもの”と言う考え方がされているからだ。
ディーノの場合誕生会と言うよりは誕生パーティーをする事になっており、その誕生パーティーに名無しもお呼ばれされていた。
勿論、彼氏の誕生日…参加しない理由はなく寧ろ参加したいがために今日は休暇届を出している。
念のため明日も休暇届を出しているのだからそこに関しては抜かりはない。
だが問題はディーノの誕生日に食べてもらおうと思って作ったピザではない“何か”…否、ピザの慣れの果てに名無しは頭を悩ませる。
どう考えても黒く焦げたそれは炭でしかない。
味見なんてしなくても見れば人目で美味しくない事位容易に想像が付く。
『いや、もしかしたら味くらいは…』
諦めきれず淡い期待を胸に、名無しは一切れ切り取り何の躊躇もなく口の中へと運んだ。
だが…
『…うぇ…美味しくない』
予想通りの味に名無しは顔を顰めた。、
ガリガリと咀嚼し味わうものの、やはり見た目通りの炭の味が名無しの口内に広がる。
そもそもガリガリと音が出る時点でそれはもはやピザと呼ぶには失礼すぎる“何か”…否、炭でしかない。
流石にこんな粗末なものはディーノに食べさせようと、いくら名無しでも思わなかった。
『うぅ…やっぱり見た目通りの味じゃんこれ…』
ディーノへの誕生日プレゼントへと、ディーノの好物であるピザを作っているがこんなものは流石に渡す事は出来ない。
念のためヴィンテージワインも用意しているが、今日までピザ作りを頑張って来たのだ。
なんとか食べてもらいたいと言う気持ちが名無しの中にはあった。
『材料はまだあるし…もう一回作り直して参加しても、時間的には大丈夫だよね』
ちらりと時計を見れば、今からもう一度作り直してもパーティーまでには時間がある。
作り直し服を着替え化粧の時間を考えれば誕生日パーティーを少し遅れての参加にはなるが然程問題ないだろうと計算すれば『よし、もっかい作ろう!』と、名無しが意気込んだその時だった。
「ゔお゙ぉい!!!名無し!!!!」
バンっと名無しの自室の扉が勢いよく開かれるとともに、聞き慣れたけたたましい声が名無しの耳にうるさい位響き渡る。
一体何事だと思いながらも、名無しは聞き慣れたけたたましい声が誰のものか直ぐの分かり勢いよく扉の方へと振り向く。
『ちょっとスクアーロ!何うら若き乙女の部屋に断りもなくズカズカと入って来てるのよ?!』
「誰がうら若きだ、誰が!!」
『む…此処に居るじゃない!スクアーロの目は節穴か!』
「あ゙ぁ゙!?二十歳超えてる奴はうら若き乙女の部類に入らねえぞぉ!!!」
扉の方へ振り向けば、名無しが思っていた人物がズカズカと音を立てて室内に入ってくる。
名無しが属する暗殺部隊ヴァリアーのNo.2兼作戦隊長であるスクアーロだ。
銀色の長髪に青い瞳。
暗殺部隊ヴァリアーのボスであるXANXSU同様に、今日のスクアーロは機嫌が悪そうだった。
大方此処に来るまでにXANXSUにテキーラの入ったグラスをぶん投げられたのだろう。
スクアーロの髪にはグラスの破片や、ほんの少しテキーラの匂いが入り交じっている。
『で、スクアーロどうしたの?私今物凄く忙しいから用があるなら明後日にしてくれない?』
「悪いが明後日じゃなく今すぐ名無し、とっとと隊服に着替えて着いてこい」
『は?私今日明日とお休みなんですけど!』
スクアーロの言葉に名無しは眉を顰めてはスクアーロをじっと睨む。
もともとヴァリアーは不定休、シフト制だ。
一応シフトはあるものの、シフト自体スクアーロが作っている。
部下のシフト位把握しとけと思うが、「俺だって名無しが休みなのは分かってんだよ」とスクアーロは叫ぶ。
分かっていてなら何故隊服に着替えて来いなんて抜かすのか…名無しはじっとスクアーロを睨んだままスクアーロの言葉を待つ。
「…ゔお゙ぉい゙名無し、悪いが早急に片付けねえといけねえ任務がある。…ようするに仕事だ」
『は?私休みだから関係ないもん』
「うるせえぞ…ボスからの命令だ」
言いたくなかったのか思い溜息を吐きながら、スクアーロの言葉に名無しは口を噤むしかなかった。
スクアーロ曰く、早急に片付けなければいけない任務が5つ同時に来たらしい。
普通早急に片付けなければいけない任務が来たとしても、それは今日のシフトメンバーが片付けられる数しか来ない。
だが今日に限っては5つも重なり、その上人員不足が発生しているようだった。
そのせいか「屋敷に居る休みの奴らも引っ張り出せ」…と、暗殺部隊ヴァリアーの我らがボスであるXANXSUの命令ならば名無しだって逆らう事は出来ない。
何故よりによって“今日”なのかと…名無しは唇を噛み締める。
普段であれば名無しだって文句を言わず『え、任務に出てくれって?いいよー、でもその代わりどっかで代休頂戴ね』と、自ら任務に出向いていた。
だが今日は、今日だけは勘弁して欲しいと直談判しに行きたい気持ちではあるが…XANXSUの命令ならば仕方ない。
名無し自身仕方ないと分かっていても、名無しは言葉を発さずにはいられなかった。
『嫌だ行きたくない!私の休暇が!!私の予定がぁぁぁあああ!』
「ゔお゙ぉぉぉおおおい!うるせえぞ名無し!大人しくとっとと隊服に着替えて来やがれ!!!」
『スクアーロの方がうるさいよ?!嫌だぁぁぁああああああ!!!!』
ボンゴレの独立暗殺部隊ヴァリアーの屋敷で、ただただ名無しの断末魔に似た叫びが屋敷内に響き渡ったのは言うまでも無かった―――…
『ごめんね、ディーノ…誕生日パーティーめちゃくちゃ遅刻して…』
数時間後、名無しはようやく任務を終えてはキャバッローネ・ファミリーの広大な屋敷へと訪れていた。
思ったよりも任務に手間取り挙句の果てには報告書もきちんと書けと言われる始末。
時間がなかったせいでヴァリアーの隊服から着替える事も、化粧をする事も…ましてや新しくピザを作る時間すらなかった名無しはヴィンテージワインの入っている紙袋だけを持参し綺麗に腰を45度に曲げては最敬礼をし、しゅんっと名無しは申し訳なさそうに項垂れる。
日付はまだ変わっていないが、それでも誕生パーティーに出席する事は出来なかったのだ。
参加すると約束したのに、何故自分は仕事を優先せざるおえなかったのだろうと…名無しはヴァリアーの黒い隊服の裾を握りしめては唇を噛む。
そんな名無しに普段のラフな格好ではなく、黒いスーツをきっちりと着こなしたディーノは笑いかける。
「別に名無しのせいじゃねえんだから気にすんなよ?仕事入っちまったらしょうがねえって、だからな?そんな泣きそうな顔するなよ」
そう言ってディーノは何でもないような笑みを浮かべてはくしゃりと名無しの頭を撫でる。
事前にディーノはメールで“急な仕事が入って遅れるか…もしかしたらパーティーに参加できないかもしれない”と知らされていた。
連絡がなかったらもしかしたらモヤモヤしていたかもしれないが、名無しはちゃんと連絡をディーノによこしこうしてパーティーは終わってしまったと言えどディーノに会いに来てくれたのだ。
ディーノだってまだまだ年若い部類にくくられるが、それでもキャバッローネ・ファミリーのボスである。
仕事を優先せざる負えない状況が時としては起こりうる可能性もある事くらい十分理解していた。
名無しもディーノも、子供ではなく大人だ。
聞き分けがいいとまではいかないが、事情を知っていれば理解せざる負えない場合があっても仕方がない。
それでも申し訳なさそうに項垂れる名無しを見て、ディーノは言葉を紡ぐ。
「それに名無しは遅れてもちゃんと俺に会いに来るってメールで言ってただろ?俺はそれだけで充分嬉しいからさ」
勿論、ディーノが発した言葉は本心である。
急に仕事が入っても、こうして名無しがディーノに会いに来てくれた。
それだけでディーノにとっては何よりも嬉しい事である事に違いはない。
ディーノのそんな言葉に、名無しはようやく項垂れていた頭を上げては『ありがとう、ディーノ』っと、笑みを浮かべては笑いかける。
名無しの表情に、ディーノも嬉しくて仕方がないのか同じように笑う。
『あのね、これディーノへの誕生日プレゼント』
そう言って名無しは手に持っていたヴィンテージワインの入った紙袋をディーノに差し出した。
紙袋に入っているヴィンテージワインは、勿論ディーノが生まれた年の年代がラベルに刻み込まれている。
「ありがとな、名無し」
差し出された紙袋を受け取る際に、ディーノはふと名無しの指先に目が行く。
白魚のような手にはあちらこちらに絆創膏が巻かれていた。
普段名無しは剣やナイフと言った刃物を好んで武器として使うが、正直それで怪我をしている所は見た事が無い。
任務中に怪我でもしたのだろうかとも一瞬考えたが、怪我をするにしても精々2、3カ所までだ。
そんなあちらこちらに…ましてや重荷指先を中心に怪我をするなんてそうそうないだろう。
何かを察したディーノはじっと名無しの手を愛おしそうに見つめては名無しの手からヴィンテージワインの紙袋を受け取り、そのまま空いている手で名無しの手の指先を自分の指先で触れ絡める様に握りしめる。
急に指先を絡めるように握りしめられれば、名無しはきょとんとディーノを見上げた。
見上げると名無しの視線の先には愛おしそうに頬を緩めながら微笑むディーノの姿が目に映る。
『…ディーノ急にどうしたの…?』
「ん、…名無しが愛おしいなって思っちまってな」
『…もう、何でこのタイミングでそう言う事言うかな…』
訳が分からず発せられたディーノの言葉に、名無しはどういう事だろうと思いながらもそれでもふにゃりと照れたようにはにかんだ。
先程とは打って変わって照れたようにはにかむ表情に、ディーノもつられてはにかむ。
「そういや名無しの分のケーキとか料理取ってあるから一緒に食おうぜ?」
『え…でも…』
「でもじゃねえーよ!パーティーは終わっちまったが、今年も無事に誕生日が迎えられたことへの感謝する相手に…俺の中では一番に名無しが居るんだからな」
握っていた手をゆっくりとディーノの顔の方まで持ち上げられれば、ディーノは愛おしそうに名無しの手の甲にちゅっと音を立てては口付けを落とす。
自分の彼氏ではあるものの、女性であれば誰もが黄色い声を上げてしまう美貌の持ち主だ。
そんなディーノの行動に名無しは思わず見惚れてしまう。
所作一つ一つに無駄がなく、熱い眼差しを名無しに向けているのだ。
思わず目が離せない状況に、名無しの頬はほんのりと赤く染まる。
「なぁ名無し、明日も休みなんだろ?なら泊まっいくか?」
『うん』
断る理由も無ければもともとそのつもりで明日も休暇届を出していたのだ。
ゆっくりと手を降ろせば、ディーノは促すようにキャバッローネ・ファミリーの屋敷の中へと名無しを招く。
『あのね、ディーノ』
「どうした名無し?」
手を繋いだまま歩くディーノに、名無しは声をかけた。
長い長い廊下にはディーノの部下は誰も居らず、ただただ名無しとディーノの2人の姿があるだけだった。
声をかけられればディーノは歩くのを止め名無しの方へと身体を向ける。
ディーノの鳶色の瞳には名無しの姿が映っており、何処か恥ずかしそうに…けれども意を決したように名無しは言葉を紡ぐ。
『お誕生日、おめでとうディーノ!』
満面の笑みで名無しはディーノにそう告げれば、ディーノは嬉しそうに目を細める。
誕生パーティーで散々“おめでとう”と言葉にされたが、誰に言われた者よりも名無しに言われた“おめでとう”と言う言葉がディーノの中で深く溶けていく。
ディーノ自身がもっとも聞きたい相手から言われたお祝いの言葉。
その言葉だけでディーノの心の中は温かい、優しい気持ちに支配される。
「ありがとな、名無し」
応える様にディーノも笑いかけては…屋敷の廊下に居る事すら気にせず名無しの唇にそっと自身の唇を重ねた―――…
Buon compleanno!
(なぁ、名無し)
(どうしたの、ディーノ?)
(今度は…名無しが作った飯食わせてくれよな?)
(え…えっ、何で…)
(そりゃあ…名無しの手見たら分かるかからさ。だから今度は俺に食わせてくれよ?失敗しても…ちゃんと食うからさ)
(……それは…やめておいたほうがいいと思うよ…)
(何でだよ?!名無しが作ったもんなら俺なんだって食うぞ?)
(……流石に、私…ディーノに炭は食べさせられないもん)
(…炭……?)
(……うん、炭…)
2025/02/04
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