短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※花屋主人公
「よぉ名無し」
『あ、ディーノさん』
店先に並ぶ花に水やりをしている名無しの姿を見かければ、ディーノは何時ものように声をかけた。
ラフな格好で「今日は暑いな」と言いながらディーノは首元のTシャツを扇ぐ。
この街に住む人なら誰でも知っている、キャバッローネ・ファミリーの、マフィアのボスだ。
『最近暑くなってきましたね』
「イタリアの…特にここらじゃ蒸し暑いからな。ちゃんと名無しも水分補給しろよ?」
『はーい、お気遣いありがとうございます』
マフィアにしては珍しく、身内を大事にしているのでこの街の住民もマフィアのボスだからと言って彼を毛嫌いする事もなく、家族のように慕っている。
「まーた花買いに来たのか10代目」
「なんだい、なんだい…なっさけないねぇ」
「ディーノ兄ちゃんまだ告れてないの?」
「う、うるせーぞ、お前ら!」
行き交う人がディーノを見ればそんな言葉の野次を飛ばす。
そんな会話に今日も今日とてディーノはこの街の住人に慕われているな~と、名無しはほのぼのと思った。
キャバッローネ・ファミリーは五千のファミリーを抱える一家だと以前街の人やこの花屋の店長にも言われた事が有るのだが、日本から来て1年も経っていない名無しにはあんまりピンとこない。
何故ならそう言うマフィア関連の場面を見ていたいのもあるのだが…もう一つの理由に名無しの中では週に2,3度花を買いに来るお客さんと位置付けられているからだ。
『今日はお一人ですか?』
「ん…あぁ、ロマーリオはあっちで待ってるんだ」
『あっち…?』
そう言われディーノが指す方へと視線を移せば、彼の部下であるロマーリオの姿が見えた。
黒いスーツを身に纏い、珍しく手には煙草を持っている。
何時もならディーノが花を選んでいる間も傍にいるのにと少し気になってしまう。
『珍しいですね…?何時もはディーノさんの側に居るのに』
「ちょっとな…」
『あ、今日はどの花にされますか?』
あまり触れて欲しくなさそうな言葉の切り出しに、名無しは深入りしすぎたと思いながらも花屋の店員として言葉を紡いだ。
「んー…そうだな…」
その言葉に思いだしたかのようにディーノは店先に並ぶ花へと視線を向ける。
特にこれと言って決まった花を買うわけではなく、いつも目について気に入った花をディーノは購入している。
時には1輪だけだったり、時には花束だったりと。
勿論こうした店先に来て選ぶ場合もあれば事前に決まった花と本数で、どうラッピングして欲しい等の注文も稀にあった。
だがそれは本当に稀で…基本的にはこうして自ら店に訪れて自分で決めて、購入する。
週に数回と言えど1ヶ月やそこらの話ではない。
名無しが此処で働き始めてから軽く1年が経とうとしているが、それと同じくらい花を買いに来る。
もしかしたら名無しが知らないだけで、それ以前からも買いに来ていたかもしれないが…名無しには以前の事など分からなかった。
否、聞こうと思えば店長にでも聞けば答えてくれるだろう。
だが名無しはそれをしなかった、したくなかったのだ。
(ディーノさんに想われてる人は、羨ましいなぁ…)
自分ではない誰かのために買う花に、想い人のために買われる花が名無しには羨ましかった。
名無し自身も分かっている、ディーノにとって名無しは花屋の店員で、ディーノはただのお客だ。
毎週のようにディーノと話すのが嬉しくて、待ち遠しくなってそして…
いつの間にか名無しはディーノに惹かれて好きになっていた。
好きになってしまっても、手が届く存在ではない。
お客さんである前にディーノはマフィアのボスだ。
密かに想う位ならいいかなと思っていたはずなのに、その想いは名無しの中だけで留めておくのが苦しくなる。
ちくり、と胸が痛むが名無しは気づかないふりをする。
先程野次を飛ばした会話の中に合ったように、きっとディーノは想い人に告白出来ずにいるのだ。
(分かっていても、きついなぁ…)
きっと美人でスタイルのいい女性へと想いを馳せているのだろうと思えば思うほど、ちくちくと胸が痛む。
もし名無しが一般人じゃなかったら、花屋の店員じゃなければ…ディーノへと想いを告げられただろうか…?
そんなあり得ない“もしも”に縋る位なら何も考えずにディーノにこの想いを伝えようか…
「よし、決めた!」
『決まりましたか?』
ディーノの言葉にふと現実に引き戻され、名無しは慌ててディーノの方へと近寄る。
目の前には今日入荷したばかりの薔薇がバケツの中に入っている。
赤、黄、白、ピンク、オレンジにベージュ。
王道の赤、白、ピンクだけでなく、今日は他の色も珍しく入っている。
「この赤色の薔薇で頼んで良いか?」
『かしこまりました!本数はどうされますか?』
「1…いや、12本で」
『12本…』
ディーノの言葉に、一瞬名無しの手が止まる。
(ダメだ、ダメだ…仕事中だよ…私…)
『12本ですね、ラッピングはどうされますか?』
「いつも通りで頼めるか?」
『かしこまりました、では少々お待ちくださいディーノさん』
「おう!」
ディーノに指定された本数分赤い薔薇の花を取り、名無しは店の奥へと入って行った。
上手く笑えただろうか?とそんな事を思いながら名無しは花を作業台にあるバケツの中へ一旦置く。
“いつも通り”と言った言葉は“いつものように名無しのお任せで”と言う意味合いだ。
花束にする場合はある程度お客のこういう風にしたいなどの意見を踏まえてラッピングに入るのだが、ディーノは基本的に名無しの思うままにラッピングして欲しいと頼む。
だからこそどのように包むか等のイメージを頭の中ですぐ考え作業へ移す。
花束用の淡いピンク色のラッピングペーパーを手に取り、名無しは手際よく包んでいく。
最初の頃は時間をかけて丁寧にしていたが、時間をかけずに丁寧にとスピードを求められるようになってからはここ1年で店長のお墨付きで上達した。
『あーあ…今日が終わったら、ディーノさんもう来てくれないかなぁ…』
ポツリとそう零しながら、手は作業を進める。
花屋で働いている故に、従業員も花言葉の意味はもちろん知っている。
赤い薔薇の花言葉は「あなたを愛してます」。
他にも花言葉はいろいろあるけど、一般的にはこの言葉がメジャーだ。
だが、薔薇には色だけでなく本数によっても意味合いがまた変わってくる。
1本なら「一目惚れ」
2本なら「あなたを深く愛しています」
3本なら「愛しています」
そして薔薇の花12本の意味を、勿論名無しは知っている。
知っているからこそこんなにも苦しくて悲しいのだ。
『さよなら、私の初恋…』
ポツリと漏れた言葉に、誰からの返答もなくその言葉は消えて行った。
仕上げのリボン巻く音だけが、いやに大きく名無しの耳に響いた―――…
『お待たせしました、ディーノさん』
数十分後、名無しはディーノが選んだ薔薇の花束を抱え、ディーノの方へと姿を見せた。
抱えられた花束は先ほどディーノが選んだ赤い12本の薔薇が綺麗に包まれラッピングされている。
赤色に合うように選ばれたピンクのラッピングペーパーとリボン。
その存在がより一層包まれている薔薇を美しく飾る。
「おぉ!やっぱ名無しのラッピングはいつ見てもすげぇな!」
『あはは、ありがとうございます』
ディーノの方へ花束を差し出せば、ディーノはすんなりと受け取った。
愛おしそうに受け取り薔薇の花を見るディーノに、ほんの少し名無しの胸がちくりとまた痛む。
『頑張ってくださいね!陰ながらですが応援していますよ!』
無理に笑顔を作り、名無しはガッツポーズをする。
ちくりと痛む痛みよりも、ディーノが幸せになってくれればと思う気持ちが少なからず名無し自身にあった。
だからこそこの応援は…嘘偽りない応援で合って欲しいと名無しは自分へ問いかけた。
きっと今日は今までと違って告白だって出来るはずだ。
12本も薔薇を選んだのだから…ディーノ自身も本気で今日想いを告げるのだろうと、名無しは思う。
そんな名無しにディーノは「なぁ、名無し」と声をかける。
名前を呼ばれ名無しは『どうかしましたか?ディーノさん?』と声をかければ、ディーノは急に名無しの前で片足を立ててしゃがみ込んだ。
『え、…え、ディーノさん?!』
「受け取ってくれねぇーか?」
そう言いながらディーノは先ほどラッピングしてもらったばかりの薔薇の花束を名無しに渡す。
一体何が起こっているのだろうとパニックになりながら、名無しはじっとディーノを見た。
普段から見せる笑顔とは打って変わって、真剣な表情で名無しを見上げる。
「俺は…名無しが好きだ」
『で、でも私ただの一般人だし…』
「一般人だとかマフィアだとか、そんなこと俺は聞いてるんじゃねぇんだ。そんなの抜きにして…名無しの気持ちを聞いてるんだ」
優しく、諭すような声色…だが凛とした声でディーノは話す。
そんなディーノの言葉に、段々と頬が赤く色づいていくのが名無し自身にも分かった。
だがそんな事よりも、意思の強いディーノの鳶色の瞳から…名無しは目を逸らせずにいた。
「名無しの事は俺が守る、他のマフィアからも名無しを狙う奴全員から俺が命をかけて守ってやる。だから俺の…俺の妻になってくれねぇか」
ディーノのその言葉に、マフィアだとか一般人だとか、目に見える用で見えない柵に囚われ諦めて身を引こうとした自分が馬鹿みたいだと名無しは思ってしまう。
イタリア人は愛情表現が豊かだと、以前テレビでやってたり実際現地で生活するようになって幾度も目のあたりにした。
愛するのも、好きになるのにも周りや立場がどうこうじゃない、気持ちで動くものだと。
気持ちで決めて良いのだとそんな単純な事に、諦めなくていいんだと言ってくれるその言葉に――――…
『いいんですか?私で…?』
「お前じゃなきゃ…名無しじゃないと俺は嫌だ」
子供のように無邪気に、純粋に紡がれた言葉に…名無しはただただ頷いた。
Dozen rose
(12本の薔薇の花言葉は『私の妻になってください』)
(愛情・情熱・感謝・希望・幸福・永遠・尊敬・努力・栄光・誠実・信頼・真実)
(このすべてを…あなたに誓います)
2024/06/20
「よぉ名無し」
『あ、ディーノさん』
店先に並ぶ花に水やりをしている名無しの姿を見かければ、ディーノは何時ものように声をかけた。
ラフな格好で「今日は暑いな」と言いながらディーノは首元のTシャツを扇ぐ。
この街に住む人なら誰でも知っている、キャバッローネ・ファミリーの、マフィアのボスだ。
『最近暑くなってきましたね』
「イタリアの…特にここらじゃ蒸し暑いからな。ちゃんと名無しも水分補給しろよ?」
『はーい、お気遣いありがとうございます』
マフィアにしては珍しく、身内を大事にしているのでこの街の住民もマフィアのボスだからと言って彼を毛嫌いする事もなく、家族のように慕っている。
「まーた花買いに来たのか10代目」
「なんだい、なんだい…なっさけないねぇ」
「ディーノ兄ちゃんまだ告れてないの?」
「う、うるせーぞ、お前ら!」
行き交う人がディーノを見ればそんな言葉の野次を飛ばす。
そんな会話に今日も今日とてディーノはこの街の住人に慕われているな~と、名無しはほのぼのと思った。
キャバッローネ・ファミリーは五千のファミリーを抱える一家だと以前街の人やこの花屋の店長にも言われた事が有るのだが、日本から来て1年も経っていない名無しにはあんまりピンとこない。
何故ならそう言うマフィア関連の場面を見ていたいのもあるのだが…もう一つの理由に名無しの中では週に2,3度花を買いに来るお客さんと位置付けられているからだ。
『今日はお一人ですか?』
「ん…あぁ、ロマーリオはあっちで待ってるんだ」
『あっち…?』
そう言われディーノが指す方へと視線を移せば、彼の部下であるロマーリオの姿が見えた。
黒いスーツを身に纏い、珍しく手には煙草を持っている。
何時もならディーノが花を選んでいる間も傍にいるのにと少し気になってしまう。
『珍しいですね…?何時もはディーノさんの側に居るのに』
「ちょっとな…」
『あ、今日はどの花にされますか?』
あまり触れて欲しくなさそうな言葉の切り出しに、名無しは深入りしすぎたと思いながらも花屋の店員として言葉を紡いだ。
「んー…そうだな…」
その言葉に思いだしたかのようにディーノは店先に並ぶ花へと視線を向ける。
特にこれと言って決まった花を買うわけではなく、いつも目について気に入った花をディーノは購入している。
時には1輪だけだったり、時には花束だったりと。
勿論こうした店先に来て選ぶ場合もあれば事前に決まった花と本数で、どうラッピングして欲しい等の注文も稀にあった。
だがそれは本当に稀で…基本的にはこうして自ら店に訪れて自分で決めて、購入する。
週に数回と言えど1ヶ月やそこらの話ではない。
名無しが此処で働き始めてから軽く1年が経とうとしているが、それと同じくらい花を買いに来る。
もしかしたら名無しが知らないだけで、それ以前からも買いに来ていたかもしれないが…名無しには以前の事など分からなかった。
否、聞こうと思えば店長にでも聞けば答えてくれるだろう。
だが名無しはそれをしなかった、したくなかったのだ。
(ディーノさんに想われてる人は、羨ましいなぁ…)
自分ではない誰かのために買う花に、想い人のために買われる花が名無しには羨ましかった。
名無し自身も分かっている、ディーノにとって名無しは花屋の店員で、ディーノはただのお客だ。
毎週のようにディーノと話すのが嬉しくて、待ち遠しくなってそして…
いつの間にか名無しはディーノに惹かれて好きになっていた。
好きになってしまっても、手が届く存在ではない。
お客さんである前にディーノはマフィアのボスだ。
密かに想う位ならいいかなと思っていたはずなのに、その想いは名無しの中だけで留めておくのが苦しくなる。
ちくり、と胸が痛むが名無しは気づかないふりをする。
先程野次を飛ばした会話の中に合ったように、きっとディーノは想い人に告白出来ずにいるのだ。
(分かっていても、きついなぁ…)
きっと美人でスタイルのいい女性へと想いを馳せているのだろうと思えば思うほど、ちくちくと胸が痛む。
もし名無しが一般人じゃなかったら、花屋の店員じゃなければ…ディーノへと想いを告げられただろうか…?
そんなあり得ない“もしも”に縋る位なら何も考えずにディーノにこの想いを伝えようか…
「よし、決めた!」
『決まりましたか?』
ディーノの言葉にふと現実に引き戻され、名無しは慌ててディーノの方へと近寄る。
目の前には今日入荷したばかりの薔薇がバケツの中に入っている。
赤、黄、白、ピンク、オレンジにベージュ。
王道の赤、白、ピンクだけでなく、今日は他の色も珍しく入っている。
「この赤色の薔薇で頼んで良いか?」
『かしこまりました!本数はどうされますか?』
「1…いや、12本で」
『12本…』
ディーノの言葉に、一瞬名無しの手が止まる。
(ダメだ、ダメだ…仕事中だよ…私…)
『12本ですね、ラッピングはどうされますか?』
「いつも通りで頼めるか?」
『かしこまりました、では少々お待ちくださいディーノさん』
「おう!」
ディーノに指定された本数分赤い薔薇の花を取り、名無しは店の奥へと入って行った。
上手く笑えただろうか?とそんな事を思いながら名無しは花を作業台にあるバケツの中へ一旦置く。
“いつも通り”と言った言葉は“いつものように名無しのお任せで”と言う意味合いだ。
花束にする場合はある程度お客のこういう風にしたいなどの意見を踏まえてラッピングに入るのだが、ディーノは基本的に名無しの思うままにラッピングして欲しいと頼む。
だからこそどのように包むか等のイメージを頭の中ですぐ考え作業へ移す。
花束用の淡いピンク色のラッピングペーパーを手に取り、名無しは手際よく包んでいく。
最初の頃は時間をかけて丁寧にしていたが、時間をかけずに丁寧にとスピードを求められるようになってからはここ1年で店長のお墨付きで上達した。
『あーあ…今日が終わったら、ディーノさんもう来てくれないかなぁ…』
ポツリとそう零しながら、手は作業を進める。
花屋で働いている故に、従業員も花言葉の意味はもちろん知っている。
赤い薔薇の花言葉は「あなたを愛してます」。
他にも花言葉はいろいろあるけど、一般的にはこの言葉がメジャーだ。
だが、薔薇には色だけでなく本数によっても意味合いがまた変わってくる。
1本なら「一目惚れ」
2本なら「あなたを深く愛しています」
3本なら「愛しています」
そして薔薇の花12本の意味を、勿論名無しは知っている。
知っているからこそこんなにも苦しくて悲しいのだ。
『さよなら、私の初恋…』
ポツリと漏れた言葉に、誰からの返答もなくその言葉は消えて行った。
仕上げのリボン巻く音だけが、いやに大きく名無しの耳に響いた―――…
『お待たせしました、ディーノさん』
数十分後、名無しはディーノが選んだ薔薇の花束を抱え、ディーノの方へと姿を見せた。
抱えられた花束は先ほどディーノが選んだ赤い12本の薔薇が綺麗に包まれラッピングされている。
赤色に合うように選ばれたピンクのラッピングペーパーとリボン。
その存在がより一層包まれている薔薇を美しく飾る。
「おぉ!やっぱ名無しのラッピングはいつ見てもすげぇな!」
『あはは、ありがとうございます』
ディーノの方へ花束を差し出せば、ディーノはすんなりと受け取った。
愛おしそうに受け取り薔薇の花を見るディーノに、ほんの少し名無しの胸がちくりとまた痛む。
『頑張ってくださいね!陰ながらですが応援していますよ!』
無理に笑顔を作り、名無しはガッツポーズをする。
ちくりと痛む痛みよりも、ディーノが幸せになってくれればと思う気持ちが少なからず名無し自身にあった。
だからこそこの応援は…嘘偽りない応援で合って欲しいと名無しは自分へ問いかけた。
きっと今日は今までと違って告白だって出来るはずだ。
12本も薔薇を選んだのだから…ディーノ自身も本気で今日想いを告げるのだろうと、名無しは思う。
そんな名無しにディーノは「なぁ、名無し」と声をかける。
名前を呼ばれ名無しは『どうかしましたか?ディーノさん?』と声をかければ、ディーノは急に名無しの前で片足を立ててしゃがみ込んだ。
『え、…え、ディーノさん?!』
「受け取ってくれねぇーか?」
そう言いながらディーノは先ほどラッピングしてもらったばかりの薔薇の花束を名無しに渡す。
一体何が起こっているのだろうとパニックになりながら、名無しはじっとディーノを見た。
普段から見せる笑顔とは打って変わって、真剣な表情で名無しを見上げる。
「俺は…名無しが好きだ」
『で、でも私ただの一般人だし…』
「一般人だとかマフィアだとか、そんなこと俺は聞いてるんじゃねぇんだ。そんなの抜きにして…名無しの気持ちを聞いてるんだ」
優しく、諭すような声色…だが凛とした声でディーノは話す。
そんなディーノの言葉に、段々と頬が赤く色づいていくのが名無し自身にも分かった。
だがそんな事よりも、意思の強いディーノの鳶色の瞳から…名無しは目を逸らせずにいた。
「名無しの事は俺が守る、他のマフィアからも名無しを狙う奴全員から俺が命をかけて守ってやる。だから俺の…俺の妻になってくれねぇか」
ディーノのその言葉に、マフィアだとか一般人だとか、目に見える用で見えない柵に囚われ諦めて身を引こうとした自分が馬鹿みたいだと名無しは思ってしまう。
イタリア人は愛情表現が豊かだと、以前テレビでやってたり実際現地で生活するようになって幾度も目のあたりにした。
愛するのも、好きになるのにも周りや立場がどうこうじゃない、気持ちで動くものだと。
気持ちで決めて良いのだとそんな単純な事に、諦めなくていいんだと言ってくれるその言葉に――――…
『いいんですか?私で…?』
「お前じゃなきゃ…名無しじゃないと俺は嫌だ」
子供のように無邪気に、純粋に紡がれた言葉に…名無しはただただ頷いた。
Dozen rose
(12本の薔薇の花言葉は『私の妻になってください』)
(愛情・情熱・感謝・希望・幸福・永遠・尊敬・努力・栄光・誠実・信頼・真実)
(このすべてを…あなたに誓います)
2024/06/20
2/25ページ