短編
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『ディーノ』
「どうした名無し?」
『…す、…す…』
「す?」
『…ごめん、やっぱり何でもない』
そう言って名無しは抱きしめていたクッションをぎゅっと抱きしめては隣に座るディーノから視線を逸らした。
「なぁ、さっきからどうしたんだよ名無し」
『え、何が?』
「何がって…言いたい事あるならちゃんと言えよ」
痺れを切らしたディーノはそう言って隣に座っている名無しの方へと向く。
先程から冒頭のような会話をかれこれ十回程、名無しはディーノにしている。
最初は何か言いたい事があるのだろうとディーノ自身思っていた。
だがなかなか言えず名前を呼んでは迷ったような、意を決して言葉にしようとしながら顔を赤くしては何でもないと抱きしめているクッションに顔を埋める。
名無しの行動がおかしいと思いながらも、言い出しづらい事なのだろうかとディーノは思い名無しが話すのを待つつもりでいた。
だが一向に本題に移る事なくかれこれ十回程その会話をすれば、流石のディーノも黙ってはいられない。
何かあるのなら言葉にしてくれなければディーノだって分からないのだ。
どんなに名無しの事が好きでも、エスパーでもなければ心だって読めない。
表情を読み取る位ならかろうじて出来るだろうが…それも結局憶測にしか過ぎないのだ。
ディーノの言葉に、観念したかのように名無しは言葉を紡ぐ。
『…この前友達と飲みに行くって話したじゃん?』
「ん、あぁ…そう言えば合ったなそんな事も」
名無しの突然の話題に、ディーノはそう言えばそんな事もあったなとつい一週間前の事を思い出す。
基本イタリアに居るディーノと日本に居る名無しとの連絡手段はメールか通話だ。
時差やお互い仕事もあるためそう頻繁には連絡が取れないものの、それでもお互い時間を見つけてはやり取りをする。
一週間前も名無しが飲みに行く前の少しの時間だが電話をし『この後学生時代の女友達と飲みに行くんだ~』と話していたのも記憶にまだ新しい。
名無しがザルな事も知っていたディーノは「一緒に飲みに行く友達酔い潰すなよ?」とその時苦笑交じりに名無しに言った事を思い出す。
その飲みに行った時に何かあったのだろうかとディーノは名無しを見ながら言葉の続きを待った。
『その時にさ、友達が“好き”って言われたいのに!って酔っぱらいながら言ってて』
「友達って…確か彼氏が居なかったか?」
『そうそう。彼氏さんの方があんまりそういう事言ってくれないタイプの人みたいでさ、そう言う言葉言われたいとかちゃんと言って欲しいって言ってたんだよね』
名無しはその時の事を思い出しながら、見事酔い潰れ泣き上戸の友達の話を聞いていた。
「好きって言って欲しいのに何でよぉぉおおおおお!!!」とテーブルにうつ伏せになって友達はダンダンと右手でテーブルを叩く。
慰めようにも結局酔っ払い自分が言いたい事を泣きながら言う友達に対し、名無しは『うんうん、言って欲しいよね』と聞き相槌を打つ事しか出来ない。
真面目に返しても同じ事しか言わないのだ、相槌を打つだけで許して欲しい。
だがその話を聞いて名無しは思った、“あれ、私ディーノにそう言えば好きって言わないな”…と。
思い返せば思い返すほど吃驚する位名無しはディーノに対し“好き”と言葉にしていない。
告白をしたその時は確かに好きと言ったのだが、それ以降名無しからディーノに対し好きと言葉にする事がなかった。
『私も何だかんだ…ディーノにストレートに“好き”って言えてないなぁ…って思って、だから久々に会ったし私からディーノに言ってみようかなって思ってたんだけど…』
なかなか言い出せなくて…と、恥ずかしそうに顔を赤くしながら言う名無しにディーノはようやく名無しの行動が読め納得した。
確かにディーノから見ても名無し自身あまりディーノに対して“好き”と言葉にされることは滅多にない。
ディーノ自身はよく言葉にするが、名無しから“好き”と言われる事は本当に片手で数えられる程度だ。
言葉にして欲しいかと問われれば、無論ディーノだって好きと言葉にされて言われたい。
好きと言う言葉は裏表なく、本来の意味のまま受け止められる。
曖昧な言葉で濁され、都合のいい解釈を相手がすると言う勘違いも疑う必要もない。
言葉の意味を、そのままで受け止められる…それが好きと言う言葉だ。
(まぁ、名無しの場合言葉に出来なくても行動で好きって言ってくれてるからなぁ…)
顔を赤らめた名無しを見ながら、ディーノは内心そう思う。
言葉として言われたいと思う反面、目に見えて分かるほど名無しはディーノに対して行動で好きと言っている。
言葉で言われなくても表情が、態度が、名無しの空気がディーノを好きと言っているのだ。
もし名無しが犬だったら、それこそちぎれんばかりに尻尾を振り、笑顔で突進してくる。
瞳いっぱいにディーノを写し、好きと言う言葉はないがスキンシップをし全身でディーノの事を好きと言ってくれているのが目に見えて分かる。
だからこそディーノ自身名無しが言葉として好きと言わなくても(まぁ、いいか)と思っていた。
その分自分が言葉にし、名無しに伝えればいいかと。
「無理して言わなくてもいいんじゃないか?」
『それは違うの!無理して言いたいわけじゃなくてディーノにちゃんと…ちゃんと私も同じ気持ちだよって知ってもらいたいって言うか…』
名無しの言葉に思わず愛されてるなと思いながら、ディーノは口元を緩める。
「じゃあほら名無し、言ってみてくれよ?」
そう言いながら名無しを抱き寄せ自分の方へと顔を向けさせる。
ディーノの瞳に名無しの顔が映り、同じように名無しの瞳にはディーノの顔が映る。
顔を赤らめたまま、先ほどと同じように『す…す…すっ』と言葉にしてはその続きであるたった一文字が言えずに何度も繰り返す。
『ディーノっ…』
「ん?」
『…す…すっ、す…好きっ』
「俺も名無しが好きだぜ」
何時間とかかってようやく紡ぎだせた名無しの言葉に、ディーノは何の躊躇いもなく名無しに伝え口付けた―――…
好きの伝え方
(何でディーノはそんなあっさり言えるのよ…)
(何でって言われてもな?)
(悔しいから練習して絶対ディーノにあっさり言えるようにしてやるんだから!!!)
(それはそれで楽しみにしとくな、名無し)
2024/09/10
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