短編
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心地よい秋日和。
名無しはキャバッローネ・ファミリーの屋敷を訪れていた。
手には紙袋をぶら下げ彼氏であるディーノが居るであろう書斎に向かう最中に彼の部下であるロマーリオと出会い、一緒に屋敷内を歩く。
『それにしてもディーノが書類仕事って珍しいね?』
「あー…一昨日までボス日本に居てな…その兼ね合いで書類を溜め込んでたんだよ」
苦笑を浮かべながら、ロマーリオは名無しに言う。
ディーノは頼まれたら断れない性格故か、師であるリボーンや同盟ファミリーであるボンゴレファミリー九代目の頼み事をよくされイタリアから日本間をよく往復している。
日本に滞在する事も多く、勿論その間に書類が山のように溜まる。
その度に日本からイタリアに帰国すれば書類の山と格闘しているとロマーリオは名無しに告げる。
だが書類仕事も本気を出せば山積みの書類を午前中には終わらせられるとロマーリオは誇らしげ言っていたが、今どうやら今がその真っ最中の様だ。
時刻は後三十分程で十二時になる。
後少し待てばディーノの書類仕事が終わると告げられ、ロマーリオに書斎に案内している最中である。
他愛のない会話をしていればあっという間に書斎の前に辿り着く。
静かにロマーリオが書斎の扉を開け、名無しは書斎の中へと入っていった。
書斎部屋にはこの屋敷の主であるディーノが真剣な眼差しで書類仕事をしている。
(あ…眼鏡かけてる)
普段かけない眼鏡をかけている姿に、名無しはときめく。
ディーノが書類仕事をしている時に訪れた事がなかったため、名無しは初めて彼の新しい一面を知った。
眼鏡姿の彼もかっこいいと心の中で惚気、ディーノの周りに目を向ける。
大量の書類が彼の周りには積まれているがほとんど終わっているのだろう。
終わった書類は右から左へと重ねられていく。
机の右側に積まれている書類はもう残り僅かなのだ。
黙々と書類を終わらせるディーノのすぐ後ろには、細身で小柄だが目つきの悪いディーノの部下であるリコが立っている。
何度か会った事があるが、目つきが悪いのは直っていないみたいだ。
こちらに気づくとリコはペコリと会釈をし、「ディーノ様」と、書類仕事をこなしている自分のボスであるディーノに声をかけた。
「どうした、リコ?」
「ロマーリオさんと…お客さんが来ましたよ」
「ロマーリオと…お客さん…?」
余程集中していたのだろう、リコに言われて初めてこの部屋に誰かが入って来た事をディーノは知る。
誰だ?と思いながら書類から目を離し、視線を向ければディーノの鳶色の瞳が大きく見開かれた。
部下であり右腕でもあるロマーリオと…その後ろでひょっこりと顔を出し『Ciao ディーノ』と、もう何か月も会っていない彼女である名無しの姿が目に映る。
何か月も会っていないが彼女の容姿は変わる事なく、屈託のない笑顔がディーノに向けられる。
「名無し?!」
ガタッと思わず立ち上がり、ディーノは名無しを見る。
「何で名無しが此処に…?」
『時間が出来たからディーノの様子見に…後、差し入れをね』
そう言って名無しは手に持っている紙袋を持ち上げた。
紙袋には店の名前が印字されているが、その店はディーノの行きつけの店の名前だ。
そして紙袋の中にはディーノの好物であるピザが入っている。
名無しがディーノの元を訪れる時は決まって、街のピザをテイクアウトしてくるのだ。
そんな名無しの気遣いがディーノにとっては嬉しくもあり癒しなのだ。
ディーノから会いに行く事が出来ず申し訳ないと思うものの、そんな事を口にすれば名無しは決まって『お互い様なんだし気にしないでよ』と笑いかけてくれる。
今すぐにでも名無しと過ごしたい…そうディーノは思うものの、ちらりと自分の机の上の書類を見る。
終わっていない書類を見れば、量からして残り四枚ほどだろう。
このまま残り僅かの書類を投げ出す事は出来ず、ディーノは冷静に一枚当たりどれくらいかかるか計算する。
先程から書類仕事をしているせいか脳が冴えているため、おおよその時間を導き出せばもう一度椅子に座り直した。
「悪い名無し…後十分待っててくれねえか?」
たかが四枚、されど四枚の書類。
さっさと終わらせて名無しとの時間を作ろうと書類に取り掛かるディーノに、『Bene ディーノ』と名無しは“いいよ”と答えた。
ディーノの意図が分かったのだろう、名無しは紙袋をテーブルの上に置けば、書斎の中に設置されているソファーに深く座り込んだ。
その間もディーノはただ黙々と書類を進めていく、真剣な眼差しで、一枚一枚終わらせていく姿。
そんなディーノの姿を名無しはただ笑顔で見守っていた。
ディーノが宣言した言葉通り、ディーノは残りの書類仕事を十分で終わらせた。
ロマーリオとリコが終わった書類を書斎から運び出せば書斎には名無しとディーノの二人の姿しかない。
『お疲れ様~、ディーノ!』
「あぁ、ありがとな名無し」
そう言いながら先ほどまで腰掛けていた椅子から立ち上がり名無しの座っているソファーにに座り名無しを抱きしめた。
待たせてしまったが数ヶ月振りの名無しとの時間、これほど幸せな物は無い。
無論名無しも抱きしめているディーノに対し同じように抱きしめ、同じことを思っている。
お互いファミリーのボスであるが故に多忙なのだ。
名無しもディーノも、イタリア最大手マフィアグループであるボンゴレファミリーの同盟ファミリーである。
その繋がりでディーノと知り合い交際にまで至った。
お互い多忙なのは承知の上だ、現に数ヶ月会えない時もあれば半年ほど会っていない時もざらにある。
傍から見ればそれは交際しているのか?と言われ兼ねないが、周りがどう言おうが名無しとディーノが想い合っていればそれでいい。
離れていても、一緒に過ごしていなくても、寂しくても…お互いを想う気持ちは変わらないのだ。
抱きしめていた手をそっと離し、ディーノは触れるだけの口付けを名無しに落とす。
久々の口付けに名無しの頬は緩み、今度は名無しからディーノの唇に口付けを交わした。
お互いがお互いの顔を見て、どちらからと言うわけでなく二人は笑った。
たかが触れるだけの口付けを交わしたと言うだけなのに、お互いその口付けで心が満たされる。
『所でディーノ』
「どうした名無し?」
先に口を開いた名無しがじっとディーノを見る。
少し言い辛いのか『その…えっと…』っともごもごと口ごもり中々言葉を紡ごうとしない。
そんな名無しを見ながらディーノは内心可愛いなと思いながらも、名無しがはっきり言葉にするまで待つ。
『迷惑じゃなかったらなんだけど…』
「聞いてみねえと分かんねえけどどうかしたか?」
『あのね…』
「おう?」
『…今日…泊って行っても良い?』
頬を赤く染めながらようやく紡ぎ出した言葉。
名無しの問いかけに、一瞬ディーノはきょとんとしてしまったが紡ぎ出された言葉を理解するとディーノは勿論「大歓迎だぜ」と、即答した。
ディーノの言葉に、思わず名無しは安堵する。
「それにしても珍しいな?泊るなんて滅多にないだろ?」
『んー…私も泊るまでは流石にファミリーの事もあるからって思ったんだけど…』
その言葉に、名無しは少し言い辛そうに頬を掻く。
『お兄ちゃんが…そろそろディーノんとこ行かないとお前愛想つかされるぞって言ってきて…』
そう言いながら、名無しはどこか遠くを見ながら呟いた。
兄でありファミリーの幹部である名無しの兄は妹を心配しているからこそこの言葉を名無しに言ったのだろう。
ディーノが初めての彼氏と言うわけではなく、これまで名無しの人生の中にだって彼氏の一人や二人は居た。
だが歴代の彼氏は名無しの多忙さ故になかなか時間が取れず皆口を揃えて「俺とファミリーどっちが大事なんだよ!」と名無しに問いかける。
名無しからしたらどっちも大事だ。
自分のファミリーも、彼氏の存在も…どちらも大事、決してどちらか優位なものはなく天秤にかけても平等だ。
だがその事を理解してもらえるわけもなく、皆名無しの前から去って行く。
時には浮気をする者も居たが名無しは仕方ないで終わらせていた。
自分が相手に時間を割けないのが悪いのだと。
もしかしたら名無し自身そう言った誰かと付き合う等と言う事は不向きなのではないかとすら思ってしまう程だ。
遠い過去の記憶を思い出す名無しに、ディーノは再び口づけをし抱き寄せる。
「寧ろ俺の方が名無しに愛想つかされないかと思うけどな…」
『お互いファミリーのボスだもん、仕方ないよ』
「百歩譲ってそこは仕方ないとしてだな…俺が名無しに愛想つかすは絶対ねぇからな」
『どうして?』
不思議に思いディーノを見上げれば、彼は不敵な笑みを浮かべそっと名無しをソファーに押し倒す。
熱を帯びた鳶色の瞳が、名無しの姿をはっきりと映し出し捕らえる。
「俺が名無しを好きって気持ちは、どんなに離れててもずっと変わらないからに決まってるだろ」
『っつ…』
「愛想つかされないように…今から名無しの事いっぱい愛していいか?」
名無しの耳元でそうディーノが囁けば、名無しの身体はビクッと跳ねる。
ディーノの言葉に拒否する理由もなければ断る理由もない。
静かに頷き、名無しとディーノは再び口付けを交わした―――…
あっためて、溶かして、ふやけるまで愛してね
2024/09/07
お題提供:「しのぐ式」様
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