短編
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『エンツィオキャベツ美味しい?』
キャベツをパリパリ食べているディーノのペット、スポンジスッポンのエンツィオに話しかけながら名無しは顔をほころばせる。
一生懸命名無しが持っているキャベツにがっつく姿はとても可愛く、癒しでしかない。
本日、8月29日はエンツィオの誕生日だ。
エンツィオと目線を合わせるために床に寝そべり両足を交互に上下させる。
床にはふわふわの絨毯が敷かれているため、寝そべっていても痛みはなく、寧ろこのまま絨毯の上で眠れそうなほど触り心地がいい。
『いっぱいお食べ~、今日はエンツィオの誕生日なんだから遠慮はいらないよ』
そう言いながら名無しはエンツィオを甘やかす。
するとガチャっと音が鳴り、名無しは音のする方へと顔を上げた。
そこにはこの部屋の主であり、名無しの恋人であるディーノが部屋の中へと入って来た。
「誰か居るのか…って、名無し!?」
『勝手にお邪魔してまーす、ディーノ』
床に寝そべりエンツィオにキャベツをあげている名無しの姿を見れば、ディーノは流石に驚く。
今日来ると言う連絡も、来ていると言う話も全く聞いてないのだ。
自身の部屋の扉を開けて恋人がそこに居れば誰だって驚く。
「……名無しお前どっから入ってきたんだ?」
『え?普通に窓からだけど?』
ディーノの問いかけにきょとんとしながら、名無しは答える。
一応キャバッローネ・ファミリーが拠点とする屋敷だ。
警備だって他のマフィアに比べれば万全の対策はしている。
それなのに部下達は誰一人気づかずに名無しの侵入を許してしまっているのは、彼女が同盟ファミリーであるボンゴレ最強と謳われる独立暗殺部隊ヴァリアー所属だからだ。
人間業では到底クリアできないような任務をいかなる状況でも完璧に遂行するのがヴァリアーだ。
いくらキャバッローネ・ファミリーの警備が万全だと言えど、名無しの手にかかれば赤子の手をひねるようなもの。
名無しの言葉の意味を理解し、ディーノはため息を一つ零す。
「…要するに不法侵入してきたって事か」
『んー…言い方的にはそうだけど彼女なんだからそこは多目に見てよ〜?』
ぶーぶーっと、唇を尖らせる名無し。
ディーノよりも2つ年上の筈なのに名無しを見ているとまるで同い年か、はたまた年下の様にさえ思ってしまう。
よく表情がころころ変わる彼女のそんな所に惹かれ付き合っては居るが、名無しを知れば知るほど彼女に沼って行く。
フリーの時は来るもの拒まず、去るもの追わず精神で一夜限りの関係で相手を取っ替え引っ替えしていた名無しだが、特別な相手が出来ればその相手だけに彼女の愛は注がれる。
甘い言葉を囁き尽くし、特別な相手を最も優先する。
仕事だろうがほんの少しの時間さえも特別な相手と会う時間に回すのだ。
それが異性だけでなく同性に対しても…老若男女問わずなのだから末恐ろしい。
まるで底なし沼の様に堕ちて行くのだから自分も大概重症だなとディーノは思う。
最近仕事の都合で全く名無しに会えて居なかったのだから、こうして少しの時間でも彼女に会えることがそこはかとなくディーノは嬉しく感じる。
今回はディーノのためでは無く、ペットであるエンツィオに会うために来ているのが少し不満ではあるが…エンツィオに感謝するしかない。
でなければ今日名無しに会うことすら出来なかったのだろうと流石にディーノは理解する。
黒色のヴァリアーの隊服に身を包んでいるのだ、恐らく仕事前の空いた時間にこうしてエンツィオの誕生日を祝いに来ているのだろう。
そんな事をディーノが思っていると、名無しはふと『あ、そうそう…』と言いながら立ち上がりディーノの方へと歩み寄る。
『ディーノはい、これ』
「ん?これは?」
『ディーノへのプレゼント』
そう言いながら名無しは懐から長方形の箱を取り出し、ディーノの目の前に差し出した。
長方形の箱は綺麗にラッピングされており、黄色のリボンで斜めがけ蝶々結びされている。
「俺別に誕生日じゃなねぇーぞ名無し」
『分かってるよ〜、流石に彼氏の誕生日間違えたりしないよ』
ディーノの言葉に名無しは思わず苦笑する。
いくら忙しくて日付感覚や曜日感覚がおかしくなっていようが流石に彼氏の誕生日を間違える事なんて名無しはしない。
かと言って記念日かと言われたら答えはノーだ。
サプライズでプレゼントをする事はあれど、一体何のプレゼントなのかディーノは分からずに名無しに問う。
「じゃあ何のプレゼントだよ?」
『だって今日はディーノが跳ね馬になった日でしょ?』
名無しの言葉に、ディーノは思わず目を見開く。
そう言われてみれば確かに今日はエンツィオの誕生日…そしてディーノが“跳ね馬”と呼ばれるようになった日だった。
『前エンツィオが生まれた日に跳ね馬って呼ばれるようになったって言ってたじゃん?じゃあエンツィオの誕生日がディーノにとっても特別な日なんだなって思ったから』
だからプレゼントと、照れ臭そうに名無しははにかむ。
そうやってほんの些細な事でも覚えている名無しにまたディーノは沼っていくのが自身でも分かる。
差し出された箱を受け取り「開けていいか?」とディーノが問えば、『どうぞどうぞ〜、だってディーノにあげたやつだし』とニコッと笑う。
名無しの了承を得たディーノはゆっくりとリボンを解き、ラッピングを丁寧に剥がせば中には黄色のネクタイと、アメジストの宝石が埋め込まれたシルバーのネクタイピンが入っている。
「ネクタイに、ネクタイピン?」
『ディーノに似合うかなって思って…って言うのは建前で、この間ボンゴレ主催のパーティーに参加してたでしょ?あの時にディーノのネクタイにクソガキ…ゴホッ、女の人のワインかかっちゃったでしょ?』
「そう言えばそんな事もあったな…」
名無しの言葉に、ディーノは先日のパーティーの事を思い出す。
流石に同盟ファミリーであるボンゴレ主催のパーティーだ、参加しない選択肢はなくディーノは参加していた。
その時によろけた女性がおり、ディーノのネクタイに
お詫びにとディナーに誘われた事を思い出したが勿論それは丁寧に断った。
まさかあの場に名無しが居たとは知らず、ディーノは「名無しもあの場に居たのか?」と、問う。
『んーん、任務中だったから居ても声かけられなくて見てるだけだったけどね~』
そう言いながら名無しは笑った。
『だから新しいネクタイと…ネクタイピン!ディーノが私のだって事周りに見せつけておかないと…ディーノ誰かに取られちゃうもん』
名無しの言葉にディーノはまた知らずうちに沼っていく。
ポツリと呟くように呟かれた言葉は、ディーノの心をくすぐる。
ぎゅっと名無しを抱きしめながら「誰かに取られるわけねぇーだろ、名無し」とニヤけながら答えた。
(俺はとっくに名無しの沼に堕ちてるっていうのによ)
抱きしめられた名無しも同じように抱きしめ返しながら自分があげたプレゼントの意味が頭をよぎる。
首元に付ける贈り物全般に“所有欲”や“支配欲”と言った意味が込められている。
“あなたに首ったけ”と言う意味合いもあるが、名無しの場合“既に貴方は私の物”と言った独占欲を示す意味合いでディーノにプレゼントを贈ったのだ。
無論この意味合いを名無しは口が裂けてもディーノに言うつもりはない、そうでなければ重たいと言われてしまうに決まっているからだ。
『じゃあ私これから仕事だから、また会いに来るね、ディーノ』
背伸びをし、ちゅっとリップ音を立てれば、名無しはディーノの腕の中から抜け出し来た時と同じように窓から出て行った。
その場に残されたディーノはただただ顔を赤らめ、そんな飼い主の事など気にせずにエンツィオはキャベツを食べるだけだった。
sei mio
(ゔお゙ぉい!!任務前に何処行ってやがったんだ名無し!!)
(ちょっと彼氏に会いにね…あ、ねーねー、この間のクソガキの暗殺依頼とか来てないのー?)
(来るわけねぇーだろ、どんだけ根に持ってやがんだお前は…)
(チッ、私の彼氏に色目なんて使う人間は女だろうが男だろうがこの世から消すしかないんだよ)
(はぁ…跳ね馬もヤベーな奴に好かれちまったもんだな…)
2024/08/29
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