短編
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「あの、ディーノ様!ディーノ様!」
「今度ご一緒にお食事なんていかがですか?」
「ちょっと私が先よ!」
「何よ、私まだ話の途中ですのに!」
「はは…」
じっと、女性に囲まれ対応するキャバッローネ・ファミリーのボスであり自分の上司でもあるディーノを見ながら名無しはポツリと隣に居るロマーリオに声をかけた。
『ロマーリオさん』
「どうした名無し?」
何時もの様にディーノの少し後ろに控えている名無しとロマーリオ。
ロマーリオにだけ聞こえる声量で、周りにバレる事はないだろう。
恐らくディーノにすら聞こえていない。
否、仮に聞こえていたとしてもディーノの周りには群がるように女性が居て声をかけているのだ、聞こえるはずはない。
『今日のボスなんかモテてません?』
「そりゃあ我らがボスだからな。キャバッローネ・ファミリー10代目ボスにして経営センス抜群、顔良し見た目良し、面倒見も人柄も良いとなりゃな」
流石ボスと言いたそうな表情でロマーリオはにやりと口角を上げる。
ある意味親ばか…否、ボスバカかと言いたくなるが彼が言っている事は部下目線からして最もな意見だ。
ロマーリオの言葉は無論ディーノの部下である名無しだって理解している。
22歳だと言う若さにも関わらずキャバッローネ・ファミリーの財務状況を立て直し、書類仕事だって本気を出せば山積みの書類でも午前中に終わらせられる力を兼ね備えている。
人柄も面倒見も良く、部下からだけでなく街の住人からも慕われている。
そして何よりあの外見だ。
誰が見てもイケメンで異性はそりゃ黄色い声を上げたくもなるし、独身が故に妻の座を狙ってお近づきになりたい人も多いだろう。
『ロマーリオさんのボスバカ発言は十分理解しているし私も同感なので省きますが…今日は特にモテてません?って言う意味合いですよ』
「言われてみりゃそうだな」
名無しの言葉に、ロマーリオは顎に手を当てる。
名無し自身度々パーティーの護衛に同行する事はあれど、今日ほど異性に囲まれている姿を見た事が無いのだ。
ロマーリオも言われて気づいた姿を見れば、やはり今日のモテ具合は尋常じゃない。
「まぁボスもそろそろ良い歳だからな、身を固めてなきゃそりゃそう言うの狙ってくる奴なんざいくらでも現れるだろ」
ちらりと名無しを見ながらロマーリオが棘のある発言をする。
案にとっととばらしてしまえと言っているのだろうとも読み取れるが、名無しは視線を逸らす。
ボスであり部下でもあるディーノと名無し。
だが最近その関係に付加する言葉は恋人でもあると言う事だ。
別に公にする事もなく、身内にすら話していない。
ディーノの右腕であり、腹心の部下であるロマーリオにも言った事はないのだが…彼は察しているのだろう。
自分のボスと部下がそう言う関係である事を―――…
まだまだ修行不足だなと思いながら名無しはこっそりとため息をつく。
そんな名無しにロマーリオは「名無しちょっと外の風にでも当たって来い」と声をかけた。
『何でですか?』
「お前このままだと目だけで人殺しそうな勢いだからな」
『……』
苦笑するロマーリオの言葉に、名無しは黙る。
ロマーリオの発言からして表情だけは平静を装う事は出来ていたがどうやら目だけは違ったらしい。
目は口ほどに物を言うという言葉がある通り、今の名無しの状態はまさしくそれなのだろう。
ロマーリオの気遣いにありがたく甘え、名無しは『…ちょっと行ってきます』と言いながら会場を後にした。
『情けないな~』
バルコニーに出ればひんやりとした冷たい風が名無しの頬を撫で、名無しの気持ちを落ち着かせてくれる。
平静を装う事は出来ても、やはり内心に浮かぶ嫉妬の感情は隠せなかった自分が情けない。
恋人関係になりパーティーの護衛役として後ろに控える機会なんて度々あった。
だがその時は確かに自然のままで居られたのだ。
ロマーリオにこれまで言われたことは無かったが…今日は特に人数も多くある意味で奪い合いのような光景を目の前で見せられたのだ。
知らぬうちに嫉妬していたのだろう、『ディーノは私のだから!』なんて今の名無しの立場では言う事は難しい。
周りから見ればファミリーのボスとその部下でしかないのだからそこは弁えているつもりだ。
感情が上手く隠せてない所は改善しなければいけないと思えど、なかなかに難しいだろうが…。
(人間らしくなって来たから…ある意味良い方向なんだろうけど)
ふと昔の自分を思い出しながら、名無しは目を閉じた。
その頃の自分に比べれば今の自分は比べるのがおこがましいほどまともで、自分の意思で生きたいと思えているのだ。
言われるがまま動いて居たあの頃には死んでも戻りたくないと名無しは思う。
『…よし』
冷たい風のおかげか、はたまた過去を思い出したせいか名無しの気持ちは落ち着いた。
気合を入れるかのようにパンと自分の頬を両手で叩き、名無しは改めて気を引き締める。
今は仕事中なのだ、きちんと自分の仕事をこなそうと自分に言い聞かせながら。
「名無し」
『ボス…!』
そんな事をしていると名前を呼ばれ振り返れば、そこにはディーノが居た。
ロマーリオの姿が見えないせいか名無しは慌ててディーノに近寄る。
そんな名無しの姿を見れば、ディーノは心配そうに名無しの頬に触れた。
「おいおい、どんだけ強く自分の頬叩いたんだよ名無し」
『痛くないですよ?』
「そう言う問題じゃねえんだけどな」
普段から気合を入れる時、気を引き締める時に名無しはよく自分の頬を両手で叩いていた。
だからこそ痛いとも思わないものの、客観的に見れば赤くなっているのだからそれだけ強く叩いたのだろうと思わず心配してしまう。
『ボス、ロマーリオさんは?』
「ロマーリオなら外で煙草吸ってるぜ…その間俺は名無しのご機嫌伺いに、な」
『ご機嫌伺い?』
「だって名無し俺の事すっげー目で見てただろ」
ディーノの言葉に、まさかディーノにもバレていたことを知り名無しは口を噤む。
一切名無しとロマーリオの方を見ていないはずのディーノでさえ気付いて居たのだ。
いくらマフィアのボスだからと言えど名無しにとって失態でしかない。
これは修行のし直しだなと心底思う。
『修行不足で申し訳ないです…』
「まぁ、部下としては直したほうがいいとは思うが…俺自身は嬉しいからあんま直せとも言いたくねえけど」
『それはそれで矛盾してますよ?』
「仕方ないだろ?好きな奴が大っぴらにその感情むき出して嫉妬してるんだぜ?嬉しいに決まってんだろ」
言葉にされれば恥ずかしくなり、名無しは俯く。
普段キャバッローネの番犬なんて謳われている名無しだ。
仕事面は完璧にこなし戦闘力で言えばボンゴレの暗殺部隊であるヴァリアーに匹敵するだろう。
そんな彼女が色恋沙汰で嫉妬する、仕事中にも関わらず感情を露にする…ディーノにとってそれは嬉しいのだ。
『~~っ、もうその話はいいからロマーリオさんと合流しますよ!』
ディーノの背中を無理やり押し、名無しは慌てて冷静さを取り戻そうとするものの上手く取り返す事が出来ず子供みたいに言い訳をしながらディーノの背中をさらに押した。
可愛いなとディーノは思いながら自然と頬が緩む。
「照れんなよ、名無し」
『別に照れてません!!!』
「そういう事にしといてやるけど…ちゃんと帰ったら名無しに教えてやるよ」
『何をですか…?』
言われた言葉にピンと来ず、名無しは不思議そうに首を傾げる。
平常心を保つ心構えや嫉妬しない方法でも教えてくれるのだろうか?と思いながら居ると、ディーノはそのどれでもない言葉を名無しに言い放つ。
「嫉妬なんてしなくていい位、俺が名無ししか眼中にないって事をな」
ディーノが艶めいた声で名無しに言えば、ボンっと爆発したかのように名無しの頬は赤く染まった。
そしてその日の夜、名無しは身をもってディーノに教えられたのだ。
ディーノの言った言葉の意味を、“名無ししか眼中にない”と発した彼の言葉を―――…
初めからお前しか見えてねえよ
(ちゃんと理解できたか名無し?)
(…身をもって十分理解しました…)
(いい子だな。じゃあ理解できた名無しにはご褒美あげなきゃな)
(…もう十分お腹いっぱいです)
2024/07/31
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